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45・春の風物詩ラストが来た
第134話 出た! バカが!
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フォーゼフにて、正式な依頼を受けた。
畑で魔法陣を作って、フリーダスを召喚しようとするバカが発生しているので退治してくれということだった。
それは確かにバカであろう。
「サルシュ、神様ってそんな簡単に呼び出されるの?」
「神を召喚という時点で罰当たり過ぎます。天罰を受けて死ねばよろしい。ですがフリーダスなのでその辺りはノリで降臨しそうなところもあり、見過ごしてはおけません。なお、神を降臨させた時点でその儀式に参加した者は全員代償として死にます」
「死ぬの!?」
「死にます。回避の手段はありません」
とんでもない話を聞いてしまったなあ。
「私の昔の仲間は体に神を降ろしたけどまあまあ生きてたよ」
「英雄パーティの神官はそりゃあね」
例外中の例外の話をしないでいただきたい。
リップルのお話は流しておく。
「じゃあ現場検証と行くか。僕の予想では、奴らは夜に出てくる」
「ほう! その理由は」
「自由神にかぶれる若者はだいたい昼過ぎまで惰眠を貪り、夕方から本格的に活動し、深夜になったら遊ぶところも無くなるからつまらなくなって遊ぶんだ」
「なんとしょうもない精神性でしょうか。神のもとへ送ってやりたい」
無表情なサルシュだが、わなわなと拳を震わせている。
激怒してるじゃないか。
なお、リップルはいつもどおり大変リラックスをしている。
まあフリーダスの信者が複数人程度じゃな。
ドラゴンを単身で倒した大魔法使いにとっては、レクリエーションみたいなものだろう。
「いや、畑の中を牧歌的な感じで歩くのちょっと憧れてたんだ。楽しみ」
「そうでしたか」
ノスタルジックを愛する人だ。
こうして僕らは畑の中を歩き回った。
麦畑なら絵になったのだろうが、大豆畑だ。
大変背が低い草が茂っている中を、トコトコ歩き回ることになる。
「なんか違う!」
「面倒くさいなあこの安楽椅子冒険者は!」
「それで儀式の跡はまだですか? 私の霊的嗅覚に薄汚い邪神の信者たちの薄汚れた信仰の臭いが漂ってきますよ」
「落ち着けサルシュ、今にもジェノサイドしそうな目の色をしている。いつもの自分を取り戻すんだ」
どうして僕が二人をなだめることになっているんだ……?
さて、儀式が行われたという場所に到着すると、なるほど。
ミステリーサークルになっている。
貴重な大豆が!
ミステリーサークルに!!
「許さん!! 一人残らずすりつぶしてくれる!!」
「やりましょうナザルさん! 我々で信仰のなんたるかを思い知らせてやりましょう! 浅はかな邪神の信徒は滅ぼさねばならぬのです!」
「ああ。サルシュはバルガイヤー、僕は大豆という名の神のために戦おう!!」
うおおーっと吠える僕らだった。
なお、その横でリップルがずっと調査をしているのだ。
「ふんふん、歩き回った跡があるね。普通の靴で、足跡を隠そうともしてない。来た方向はあちら……。フォーゼフの中じゃないか。犯人は現地に住んでいるぞ」
「そりゃあね、夜に地元の畑で暴れるのは地元の若者でしょうよ……」
「討伐依頼を出されるとは、よほど鼻つまみ者だったんだなあ」
リップルがしみじみ呟いた。
それに自由神フリーダスの声が聞こえると、自然と神の魔法……神聖魔法を行使できるようになったり、フリーダスの眷属と言われる異界の魔神を従えられるようになったりするのだ。
どうしてフリーダスはそんな大盤振る舞いをするのか。
もっと地道に育てて、司祭なんかを輩出した方がいいのではないのか。
僕が抱いた疑問には、サルシュが答えてくれた。
「フリーダスは自由を司り、自由が生み出す混乱と阿鼻叫喚を何よりも愛する神です。邪神です」
「間違いなく邪神だ」
「ですので、魔神を貸出しした方がより信者は自由を行使でき、混乱も広がると考えているのでしょう。無論、未熟な神官などに魔神を行使することは不可能ですから、致命的なところで裏切られて神官も死にます」
「これはひどい」
フリーダスは信者が増えることを考えてすらいないんだな。
その瞬間、その瞬間の面白さに全振りしている。
若者は全能感を持つものだから、そういうちょうどいい感じの若者をそそのかし、邪神の神官に変えてしまうのだ。
己の力……その実、借り物の力に酔った若者は傲慢になり、人間が変わってしまう。
躊躇なく力を振るって、人様に迷惑を掛ける存在になるわけだ。
では、その迷惑な邪神の信者を待つとしよう。
僕ら畑の奥に用意してもらった、仮眠用のテントに潜り込むのだった。
ここで夕方まで寝る。
僕らは冒険者として鍛えられているから、どんな場所でも眠ることができるのだ。
おやすみなさい……。
すやすやと寝ていて、程よい頃合いにパッと目覚めた。
辺りは薄暗くなっている。
夕刻だ。
フォーゼフから街の灯りが見える。
都市国家の一日は終わろうとしているのだが、僕らの仕事はこれからだ。
「ナザル、夜目の魔法をかけてあげよう。サルシュはいらないだろう?」
「ええ。ワタクシめは温度で相手を判断できますから」
僕らはこの場で、携帯食をもそもそ食べた。
見つかるわけにはいかないので、火を使えない。
そのまま食べられる、炒った穀物をはちみつで固めたやつと、干し肉。
あとは蒸留水を飲む。
うう、最近美食が続いていたから粗食が辛い。
冷えた飯はいやだよう。
こんな目に遭うのも、全てはフリーダス信者のせいだ。
許せん。
そんな僕らの前に、鼻歌などうたいながら若者の一団がやってきた。
フシュルフシュル言う生き物も連れている。
「おっしゃ! 今日こそフリーダス様召喚すんべ!」
「うほほー! 俺たちゃ特別な存在だあー! 世界にそれを分からせてやらねーと!」
出たな、バカどもが!!
チャンスを伺い、総攻撃だ……!
奴らが大豆になにかする前に決着をつけるのだ!
畑で魔法陣を作って、フリーダスを召喚しようとするバカが発生しているので退治してくれということだった。
それは確かにバカであろう。
「サルシュ、神様ってそんな簡単に呼び出されるの?」
「神を召喚という時点で罰当たり過ぎます。天罰を受けて死ねばよろしい。ですがフリーダスなのでその辺りはノリで降臨しそうなところもあり、見過ごしてはおけません。なお、神を降臨させた時点でその儀式に参加した者は全員代償として死にます」
「死ぬの!?」
「死にます。回避の手段はありません」
とんでもない話を聞いてしまったなあ。
「私の昔の仲間は体に神を降ろしたけどまあまあ生きてたよ」
「英雄パーティの神官はそりゃあね」
例外中の例外の話をしないでいただきたい。
リップルのお話は流しておく。
「じゃあ現場検証と行くか。僕の予想では、奴らは夜に出てくる」
「ほう! その理由は」
「自由神にかぶれる若者はだいたい昼過ぎまで惰眠を貪り、夕方から本格的に活動し、深夜になったら遊ぶところも無くなるからつまらなくなって遊ぶんだ」
「なんとしょうもない精神性でしょうか。神のもとへ送ってやりたい」
無表情なサルシュだが、わなわなと拳を震わせている。
激怒してるじゃないか。
なお、リップルはいつもどおり大変リラックスをしている。
まあフリーダスの信者が複数人程度じゃな。
ドラゴンを単身で倒した大魔法使いにとっては、レクリエーションみたいなものだろう。
「いや、畑の中を牧歌的な感じで歩くのちょっと憧れてたんだ。楽しみ」
「そうでしたか」
ノスタルジックを愛する人だ。
こうして僕らは畑の中を歩き回った。
麦畑なら絵になったのだろうが、大豆畑だ。
大変背が低い草が茂っている中を、トコトコ歩き回ることになる。
「なんか違う!」
「面倒くさいなあこの安楽椅子冒険者は!」
「それで儀式の跡はまだですか? 私の霊的嗅覚に薄汚い邪神の信者たちの薄汚れた信仰の臭いが漂ってきますよ」
「落ち着けサルシュ、今にもジェノサイドしそうな目の色をしている。いつもの自分を取り戻すんだ」
どうして僕が二人をなだめることになっているんだ……?
さて、儀式が行われたという場所に到着すると、なるほど。
ミステリーサークルになっている。
貴重な大豆が!
ミステリーサークルに!!
「許さん!! 一人残らずすりつぶしてくれる!!」
「やりましょうナザルさん! 我々で信仰のなんたるかを思い知らせてやりましょう! 浅はかな邪神の信徒は滅ぼさねばならぬのです!」
「ああ。サルシュはバルガイヤー、僕は大豆という名の神のために戦おう!!」
うおおーっと吠える僕らだった。
なお、その横でリップルがずっと調査をしているのだ。
「ふんふん、歩き回った跡があるね。普通の靴で、足跡を隠そうともしてない。来た方向はあちら……。フォーゼフの中じゃないか。犯人は現地に住んでいるぞ」
「そりゃあね、夜に地元の畑で暴れるのは地元の若者でしょうよ……」
「討伐依頼を出されるとは、よほど鼻つまみ者だったんだなあ」
リップルがしみじみ呟いた。
それに自由神フリーダスの声が聞こえると、自然と神の魔法……神聖魔法を行使できるようになったり、フリーダスの眷属と言われる異界の魔神を従えられるようになったりするのだ。
どうしてフリーダスはそんな大盤振る舞いをするのか。
もっと地道に育てて、司祭なんかを輩出した方がいいのではないのか。
僕が抱いた疑問には、サルシュが答えてくれた。
「フリーダスは自由を司り、自由が生み出す混乱と阿鼻叫喚を何よりも愛する神です。邪神です」
「間違いなく邪神だ」
「ですので、魔神を貸出しした方がより信者は自由を行使でき、混乱も広がると考えているのでしょう。無論、未熟な神官などに魔神を行使することは不可能ですから、致命的なところで裏切られて神官も死にます」
「これはひどい」
フリーダスは信者が増えることを考えてすらいないんだな。
その瞬間、その瞬間の面白さに全振りしている。
若者は全能感を持つものだから、そういうちょうどいい感じの若者をそそのかし、邪神の神官に変えてしまうのだ。
己の力……その実、借り物の力に酔った若者は傲慢になり、人間が変わってしまう。
躊躇なく力を振るって、人様に迷惑を掛ける存在になるわけだ。
では、その迷惑な邪神の信者を待つとしよう。
僕ら畑の奥に用意してもらった、仮眠用のテントに潜り込むのだった。
ここで夕方まで寝る。
僕らは冒険者として鍛えられているから、どんな場所でも眠ることができるのだ。
おやすみなさい……。
すやすやと寝ていて、程よい頃合いにパッと目覚めた。
辺りは薄暗くなっている。
夕刻だ。
フォーゼフから街の灯りが見える。
都市国家の一日は終わろうとしているのだが、僕らの仕事はこれからだ。
「ナザル、夜目の魔法をかけてあげよう。サルシュはいらないだろう?」
「ええ。ワタクシめは温度で相手を判断できますから」
僕らはこの場で、携帯食をもそもそ食べた。
見つかるわけにはいかないので、火を使えない。
そのまま食べられる、炒った穀物をはちみつで固めたやつと、干し肉。
あとは蒸留水を飲む。
うう、最近美食が続いていたから粗食が辛い。
冷えた飯はいやだよう。
こんな目に遭うのも、全てはフリーダス信者のせいだ。
許せん。
そんな僕らの前に、鼻歌などうたいながら若者の一団がやってきた。
フシュルフシュル言う生き物も連れている。
「おっしゃ! 今日こそフリーダス様召喚すんべ!」
「うほほー! 俺たちゃ特別な存在だあー! 世界にそれを分からせてやらねーと!」
出たな、バカどもが!!
チャンスを伺い、総攻撃だ……!
奴らが大豆になにかする前に決着をつけるのだ!
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