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38・王家のプチ騒乱?

第115話 王家陥落

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 どういうことであろうか。
 良いお年になっている、アーランの国王オウザマス二世まで出てきてしまっている。

 ここは、国賓を招いてパーティなどをできる会場である。
 だだっ広いテーブルが用意されており、その上座にオウザマス二世、右手にソロス殿下、左手にデュオス殿下がいる。
 お妃様は早逝されたそうで、いない。

 なので、王子の左右にご家族が並んでいるのだった。
 ほう、ソロス王子の奥方はなんか大人しそうな人だな。
 権力欲とか全く無くて、家で刺繍とかしてるのが大好きな内向的な人らしいからな。

 で、ソロス王子の息子がいる。
 ははー、これはひと目でバカ王子……いや、バカ王孫というのが分かる。
 テーブルを指先でカタカタ叩いてて、足がぶらぶらしている。

 ソロス王子、これを守るためにデュオスの子であるツインを遠ざけたんだなあ。
 いやあ、それは適切な対処ですわ。
 ツインもここにいるが、全然役者が違う。

 明らかにツインは王の器で、バカ王孫は知力も体力も気品も外見も全てで負けてるもんな。
 第一王子の息子というところしか勝っているところがない。

「父上ー、なんで俺がここにいるんだ?」

「黙っていろウノ! お前が口を開くと色々具合が悪いことになるんだ」

「ほーん」

 あっ、鼻くそほじってる!!
 だが、それをポケットから取り出したハンカチにつけて、またしまった。
 お行儀だけはいいな……。

「ナザルとやら」

「あっはい!」

 いきなりオウザマス二世から声を掛けられたぞ!
 ひえー。
 僕はなんでこんな場所にいるんだ?

 今回の人生は変なことをせずに、好き勝手に生きるはずだったのに。
 僕が紹介したカルボナーラのせいで第二王子に謀反の疑いが掛かり、これを晴らすために動いたら王族勢揃いなのだ!

 オウザマス二世は、王座を賭けた弟王子との決闘に勝ち、血をもって王座を得た武闘派だ。
 なお、裏情報だがアーランを救った同時のリップルに惚れており、后になってくれと求婚したが振られたという過去があるらしい……。
 本当かなあ……?

「そなたがデュオスに食べさせたという、恐ろしく美味い料理……。それが王子の生活を変えたと言うのは真か」

「はっ、真にございます!」

 こんな場所で、そんなことあるわけ無いでしょーとか言えるか。

「良かろう。そなたがその料理……カルボナーラというのか? それを余とソロスに供するなら、王宮に混乱を巻き起こした罪を許す……。そなたがかの英雄と大変親しいという話も聞いているが、許す……」

 あっ、これ、リップルを好きだったの本当だわ!
 いい年して僕にちょっと嫉妬してるもん。

 命が危ないぞ!
 僕はペコペコと頭を下げて、厨房へ急いだ。
 そこでは、ギルボウとシャザクがせっせとパスタを作っているではないか。

「シャザクさんもすっかり料理が上手くなって」

「これをやらねばアーランが危ないのだ……! 私とて、そのためなら厨房に立つ……!!」

 かっこいいぞシャザクさん。

「くそっ、最高の調理環境だ! こんなん、どうやっても最高に美味いカルボナーラができちまうじゃねえか! こりゃあ……とんでもねえ……! 知らねえ、俺は知らねえぞ……!! 世界が変わっちまうぞ……!!」

 おお、今まさに手延べパスタは茹で上がり……。
 シャザクさんが作った最高に美味しいパスタソースが掛けられるのだ。

 今回のメニューは特別に、毒見をせずに食べることになる。
 安全のため、料理には僕とシャザクとギルボウ、それと第一王子派閥の貴族しかいない。
 その貴族は、ちょっと味見をさせてもらったら……。

「はわあぁぁぁぁぁぁぁ……! なんだこれ、なんだこれ、こんなものがあっていいのか……! ぐううう……。これは、国を傾ける美味だあ……」

 とか呟きながら腰を抜かして、あっちの壁際でへたり込んでいる。
 そんなに。

 だが、彼がいないと見張り役がおらず、毒が仕込まれたと疑われかねない。
 なので、僕は床に油を敷いて、彼を押しながら移動することにした。

「ちゃんと証言してくださいよ」

「ううう、わ、分かっている……。あれを一皿食べるのか……殿下羨ましいなあ」

「後で食べさせますから」

「ほ、本当か? 本当だな?」

 また一人、カルボナーラの魔力の前に……。

 こうして食卓に並んだカルボナーラ。
 王族のお歴々はごくりと唾を飲み……。

 デュオス殿下と奥方とお嬢さんは涼しい顔。
 勝手知ったるカルボナーラだからね。

「……これが。ふむ、なるほど。熱い料理などどれほどぶりか。これを口にし、余が命を落とした時は……分かっておろうな?」

 ギロリとオウザマス二世が僕を睨んだ。
 こえー。

 そして、フォークで止め、ナイフでパスタを切ってから食べる国王。
 食べ方のマナーが違うが、それを指摘できるほどの者はここには……。

「陛下ー、それ食べ方違いますよー」

 お嬢さんが行ったー!!

「なに、そうなのか?」

「こうですよ、こう」

 フォークを器用に使って、くるくるとカルボナーラを巻きつけるお嬢さん。
 どうやらオリジナルで食べ方を開発したようで、スプーンを受けにしてそこで巻き取っているのである。
 自らそこにたどり着くとは、天才か……?

「ふむ、この料理にもマナーというものがあるのだな。良かろう」

 陛下、ちょっと眉尻が落ちてるので、孫娘には弱いらしい。
 そしてパクっと一口。
 もぐもぐ咀嚼しながら、「むううううううう!! むううううううううう!!」とか唸り始めた。

「へ、陛下!?」

「大丈夫ですか陛下!?」

 大臣とか親衛隊とかがどかどか集まってくる。
 明らかに異常事態だもんな!

 だが、異常は続く。
 オウザマス二世は、ひたすらにカルボナーラを食べ続けたのだ!
 鼻息も粗く、目を血走らせ、パスタを巻き取っては口に運ぶ!

 王族皆カルボナーラ計画は、ついにクライマックスを迎えるのだ。

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