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37・プロジェクト・チーズ

第111話 器を作ってもらうためには

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 紹介されたドワーフのところにやって来たぞ。
 今日はオフで暇らしい使者殿も一緒だ。
 この人、付き合いいいなあ……。

「こんにちは。あそこの店主から紹介されて来たんですが」

「おうなんでい」

 どうやら仕事が無くてゴロゴロしていたらしく、すぐにドワーフの人が出てきた。
 年齢が良く分からない。
 粉職人の親方ドワーフよりは年下だろう。

「作ってもらいたいものがあるんですが」

「ほう?」

 彼は僕の姿を上から下まで睨みつけるように見回して……。

「お前、何の仕事やってるんだかさっぱり分からんな……。先に作ってほしい物を言い当てようと思ったが無理だ。何を作ってほしいか言ってくれ」

「やはりわからないだろうねえ」

 うんうん頷く使者殿。
 そんな、人を正体不明の人物みたいに。

「実はですね。僕は殺菌した牛乳が悪くならないよう、密閉して持ち運べる金属製の容器を必要としていまして」

「牛乳を殺菌して持ち運ぶだあ!? 聞いたことがねえ話だぞ。そんな訳が分からないもの、イメージも浮かばねえから作れるわけねえだろ」

「そう言うと思っていましたよ。じゃあ行きましょうか、遺跡の第二層へ」

「な、なにぃっ!?」

 ということで。
 ドワーフ職人を連れ出し、遺跡の第二層まで一気に移動したのだった。
 彼は調理器具を作る仕事が一段落し、完全に手持ち無沙汰になっていたところだ。
 だから、僕の誘いにホイホイ乗ってついてきたのである。

 どうやら、見たことも聞いたことも無いから作れないというのは、断る意味の言葉ではなかったらしい。
 本当に作りようがないよそれ、っていう意味だったのね。

「遺跡潜ったの初めてだわ」

「そうかそうか」

「牛乳とやらを飲ませてくれるんだよな。楽しみだぜ」

 ドワーフ職人が凄くウキウキしている。

「実は私も牛乳は初めてなんだ。殿下によると、コクと甘みのある優しい味わいらしい」

「ほうほうほう! そりゃあなんつうか滋養がありそうだな」

「おや? ドワーフは酒ばかり飲んでるもんだと思ってたが」

 僕の言葉に、職人氏はふん、と鼻を鳴らした。

「酒ばかりだと腹が膨れないだろう……? それにありゃ、仕事終わりにみんなでワイワイ騒ぐ時に、辛いツマミと一緒に引っ掛けるのが美味いんだ。俺みたいに個人で仕事してる職人は、水代わりのエールとガッツリ腹に溜まる飯のほうがありがたい。だが、できればエールよりも腹にたまる飲み物があるなら、そっちがありがたい……」

 ドワーフの本音が!!
 彼の事情も切実なのだろう。

「おっ、畑が二段重ねだぜ」

「それはこの間殿下と見たから、今回は目的地に直行しような」

 寄り道しそうになる職人氏を引っ張って連れて行く。
 乳牛がいるところに来たぞ。

 野菜を育てている関係で、草の類が山程出てくる遺跡だから育てられている乳牛。
 今日もたっぷりと牛乳を絞られていた。

「イヨー」

「イヤア」

 農夫の人と挨拶を交わす。

「今独特な挨拶しなかった?」

「最近立て続けに顔出しに来てるから、完全に顔見知りなんですよ。じゃあこのドワーフに、例の牛乳を」

「ほいほい」

 農夫がサッと用意してくれた。
 殺菌された牛乳ですな。
 一度熱されたことで、深いコクと甘みが出ている。

 これをぐびっと飲んだドワーフ氏。
 ヒゲを真っ白にしながら、「おほぉ!!」とか吠えた。

「こりゃ、なんつーか、ちょっと変わってるが美味いな! それになんつうか……栄養がありそうな味がするぜ……! そうか、お前、こいつを保管して運べる容れ物を作りたいんだな? こりゃあ、栄養がたっぷりあるから、すぐに悪くなっちまうだろうな。容器に入れて密閉して、それごと熱で殺菌して運べるようにした方がいいだろ」

「話が早い!」

 実際に牛乳に触れ、イメージが湧いてきたらしい。
 
 地面に伏せたドワーフ氏、その辺りに転がっていた棒で土に絵を描き始めた。

「これをな、こういう瓶を金物で作るんだ。瓶だとデカさに限界があるし、重くなりすぎる。だが金物ならば薄くしても強度を保てるし、熱の伝わりもいいだろう。隙間をなくすのは俺等ドワーフに任せておけ。入れ口をこう、ネジのように回す形にしてだな」

 農夫たちが集まってきて、覗き込んでくる。

「おおー」「なるほどなあ」「大したもんだ」「牛乳はうめえからよ。これで世の中に広めてくれや」

 うんうん。正しくそうすべきなのだ。
 そして、牛乳が広まれば、そこから作り出されるチーズもまたアーランに広まることだろう。
 何せ、牛乳だけでは日持ちがしない。
 日持ちさせるには加工するしかない。
 バターかチーズにするしかない。

 グフフフフ……。
 僕の食生活がどんどんと豊かになっていくぞ。

「ナザル殿、なんという邪悪な笑みを浮かべているんだ。だがこの人の場合、笑みが邪悪そうなだけで望みと行いは極めて善良なんだよなあ」

「僕は見た目からして清廉潔白ですよ……」

「ハハハ」

 使者殿、笑って流したな。
 かくして、牛乳流通計画がスタートした。

 どう料理していくかのテストは店主の家で。
 流通させるための容器はドワーフ職人氏の手で。
 それらに掛かる金は殿下から!

 完璧じゃないか……。
 僕の野望は今、着実に動き始めているのだった。

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