96 / 152
33・食人植物の果実はまるで
第96話 仕事でも受けて頭を冷やそう
しおりを挟む
「うーむ、詰まってしまった」
僕が自室で頭を抱えていると、コゲタが心配そうに足をなでなでしてくる。
「ご主人~? お散歩いく、げんきになる」
「ありがとうな、コゲタ。パスタを作ったはいいものの、やはりソースを作る意味でも、アヒージョの味の広がり的にも、どうしても一味足りないんだ」
「うーん?」
コゲタには難しかったなー。
だが、散歩に行けば気が晴れるというのは同感だ。
ちょっと金に余裕があったから、部屋に引きこもってレシピのことばかり考えていたが、これは良くなかった。
僕はコゲタを連れて散歩に出ることにした。
ついでに冒険者ギルドを冷やかしていこう。
アーランは一年を通して温暖だが、今頃は地球で言うなら夏のような季節。
日がカッと照っており、日向はなかなか暑い。
だが、海沿いだから一年中風が吹いており、それに湿気も多くない。
日陰に入ると過ごしやすいのだ。
下町のあちこちには屋台が出来ており、長く伸びた庇(ひさし)が日陰を提供してくれていた。
その下でちょっと休んでいると、井戸水で冷やされた飲み物なんかが差し出されるわけだ。
小銭を払ってそれを飲んで、ついでに何か食べ物を摘んで……。
なかなか良くできているシステムだ。
毎年の風物詩なんだが、今年の屋台はちょっと雰囲気が違った。
どうも、出ているものの毛色が違うぞ……?
つるつるとしたものが茹で上がり、それに塩やハーブを掛けてみんな食べている。
あるいは、暑くても食欲の出る辛いスープにつるつるを浸して食べている。
あっ!
あれは僕が広めた刀削麺パスタじゃないか!
あっという間にアーランに広がってしまったな……。
作るの本当に簡単だもんな。
僕とコゲタも、パスタを食べていった。
なんと、味が薄くないといけない犬用まであるではないか!
「ご主人! コゲタ、ぱすたすきー」
「そうかそうか! 美味しくてよかったなあ」
尻尾をぶんぶん振って喜ぶコゲタを前に、僕も嬉しくなってしまった。
いやあ、本当に犬っていいものですね。
明らかに人生の幸福度が上がっている。
冷たくて甘いお茶もいただき、気分が上がった僕。
なんだ、僕がやったことは確実にアーランに美味いものを広めているじゃないか。
見ろ、あのパスタを食べる親子の顔を。
もちもちつるつるの食感に驚き、そして笑みを浮かべているではないか。
思わぬ美味しいものを食べてしまうと、人は笑ってしまうものだ。
甘味系を積極的に食べない人が多いこの世界では、パスタみたいなプレーンな食べ物が流行るのかも知れない。
だが、僕はパスタの開発をことさらに喧伝するつもりはない。
所詮、僕の前世から借りてきた知識でしか無いし、何よりもみんなが喜んで食べている姿が何よりの報酬だからだ。
ただまあ。
「今度はちゃんとした細長いパスタを作るぞ……! あ、いや、マカロニみたいなのでもいいか。あれ? 向こうでは平たいパスタを食べてて……ラ、ラザニアのパスタが生まれてる!!」
そうか!
平たく伸ばしたものをそのまま茹でたらラザニアのパスタだ!
いやあ、パスタの可能性は無限大だな……。
新しい材料を一切使わないで作れるっていうのも大きい。
「ご主人、元気になった! コゲタうれしいー!」
「ああ! 元気になったぞ。コゲタ、ありがとうな! 僕のために散歩に連れ出してくれたんだなあ」
ニコニコになって、二人でパスタを串焼きにしたやつをかじりながら歩く。
おっ、ギルドが見えてきた。
ちょっと顔を出してやるか。
「どうもどうも」
昼過ぎという時間なので、当然ながら仕事なんか残っているわけがない。
いい仕事は早いもの勝ちなのだ。
案の定、お下げの受付嬢エリィがこんな時間に何をしに来たのだとでもいいたげな視線で僕を……。
「あっ、ナザルさん! いいところに来ました! 実はですね、大森林に外来種のマンイーターが出まして」
「マンイーターだってぇ!?」
マンイーターというのは、様々な人間を喰らうモンスターの総称だ。
で、ここで言う外来種というのは、植物タイプのモンスターだと思われる。
自ら移動し、生物を捕食するタイプの植物型マンイーター。
「恐らくクリーピングツリーだと思われます。職人の方が一人やられまして、全員が森の外に避難しています」
「そこまでの大事なの!? それってつまり、危険度ならヴォーパルバニー以上ってことじゃないか」
「はい。アーラン周辺に出現するのが、ここ数年は一切記録がないモンスターで。対策が分からないんです。例によって、本部のゴールド級冒険者は全員出払っておりまして。帰ってきたばかりのはずのグローリーホビーズも何故かすぐに出立して」
そのグローリーホビーズって、シズマたちじゃない?
原因は僕だ!
いやあ、すまんかった!
「ということで……。いつもの三人でお願いします」
「あー」
展開が読めた!
ニヤニヤ笑いながら、バンキンが近づいてくる。
足元にはいつの間にかキャロティもいる。
「そういうこった。よろしく頼むぜ、ナザル」
「ナザル! あんたオブリーオイルの料理をさらに発展させたそうじゃない! あたしにごちそうしなさいよね!!」
賑やかになってきたぞ!
仕方ない。
ものついでだ。
クリーピングツリー退治を請け負うことにしよう。
「ところでナザル、コゲタをちょっと貸しなさいよ! 色々おしゃれさせてあげたいんだけど!」
「なにぃ、僕からコゲタを取り上げるつもりか!? ダメダメ、駄目ですー!」
「おお、お前ら常に余裕だなあ。俺は頼もしくて涙が出るぜ」
そんな三人と、今回もまたコゲタを連れて軽くひと仕事するとしよう。
僕が自室で頭を抱えていると、コゲタが心配そうに足をなでなでしてくる。
「ご主人~? お散歩いく、げんきになる」
「ありがとうな、コゲタ。パスタを作ったはいいものの、やはりソースを作る意味でも、アヒージョの味の広がり的にも、どうしても一味足りないんだ」
「うーん?」
コゲタには難しかったなー。
だが、散歩に行けば気が晴れるというのは同感だ。
ちょっと金に余裕があったから、部屋に引きこもってレシピのことばかり考えていたが、これは良くなかった。
僕はコゲタを連れて散歩に出ることにした。
ついでに冒険者ギルドを冷やかしていこう。
アーランは一年を通して温暖だが、今頃は地球で言うなら夏のような季節。
日がカッと照っており、日向はなかなか暑い。
だが、海沿いだから一年中風が吹いており、それに湿気も多くない。
日陰に入ると過ごしやすいのだ。
下町のあちこちには屋台が出来ており、長く伸びた庇(ひさし)が日陰を提供してくれていた。
その下でちょっと休んでいると、井戸水で冷やされた飲み物なんかが差し出されるわけだ。
小銭を払ってそれを飲んで、ついでに何か食べ物を摘んで……。
なかなか良くできているシステムだ。
毎年の風物詩なんだが、今年の屋台はちょっと雰囲気が違った。
どうも、出ているものの毛色が違うぞ……?
つるつるとしたものが茹で上がり、それに塩やハーブを掛けてみんな食べている。
あるいは、暑くても食欲の出る辛いスープにつるつるを浸して食べている。
あっ!
あれは僕が広めた刀削麺パスタじゃないか!
あっという間にアーランに広がってしまったな……。
作るの本当に簡単だもんな。
僕とコゲタも、パスタを食べていった。
なんと、味が薄くないといけない犬用まであるではないか!
「ご主人! コゲタ、ぱすたすきー」
「そうかそうか! 美味しくてよかったなあ」
尻尾をぶんぶん振って喜ぶコゲタを前に、僕も嬉しくなってしまった。
いやあ、本当に犬っていいものですね。
明らかに人生の幸福度が上がっている。
冷たくて甘いお茶もいただき、気分が上がった僕。
なんだ、僕がやったことは確実にアーランに美味いものを広めているじゃないか。
見ろ、あのパスタを食べる親子の顔を。
もちもちつるつるの食感に驚き、そして笑みを浮かべているではないか。
思わぬ美味しいものを食べてしまうと、人は笑ってしまうものだ。
甘味系を積極的に食べない人が多いこの世界では、パスタみたいなプレーンな食べ物が流行るのかも知れない。
だが、僕はパスタの開発をことさらに喧伝するつもりはない。
所詮、僕の前世から借りてきた知識でしか無いし、何よりもみんなが喜んで食べている姿が何よりの報酬だからだ。
ただまあ。
「今度はちゃんとした細長いパスタを作るぞ……! あ、いや、マカロニみたいなのでもいいか。あれ? 向こうでは平たいパスタを食べてて……ラ、ラザニアのパスタが生まれてる!!」
そうか!
平たく伸ばしたものをそのまま茹でたらラザニアのパスタだ!
いやあ、パスタの可能性は無限大だな……。
新しい材料を一切使わないで作れるっていうのも大きい。
「ご主人、元気になった! コゲタうれしいー!」
「ああ! 元気になったぞ。コゲタ、ありがとうな! 僕のために散歩に連れ出してくれたんだなあ」
ニコニコになって、二人でパスタを串焼きにしたやつをかじりながら歩く。
おっ、ギルドが見えてきた。
ちょっと顔を出してやるか。
「どうもどうも」
昼過ぎという時間なので、当然ながら仕事なんか残っているわけがない。
いい仕事は早いもの勝ちなのだ。
案の定、お下げの受付嬢エリィがこんな時間に何をしに来たのだとでもいいたげな視線で僕を……。
「あっ、ナザルさん! いいところに来ました! 実はですね、大森林に外来種のマンイーターが出まして」
「マンイーターだってぇ!?」
マンイーターというのは、様々な人間を喰らうモンスターの総称だ。
で、ここで言う外来種というのは、植物タイプのモンスターだと思われる。
自ら移動し、生物を捕食するタイプの植物型マンイーター。
「恐らくクリーピングツリーだと思われます。職人の方が一人やられまして、全員が森の外に避難しています」
「そこまでの大事なの!? それってつまり、危険度ならヴォーパルバニー以上ってことじゃないか」
「はい。アーラン周辺に出現するのが、ここ数年は一切記録がないモンスターで。対策が分からないんです。例によって、本部のゴールド級冒険者は全員出払っておりまして。帰ってきたばかりのはずのグローリーホビーズも何故かすぐに出立して」
そのグローリーホビーズって、シズマたちじゃない?
原因は僕だ!
いやあ、すまんかった!
「ということで……。いつもの三人でお願いします」
「あー」
展開が読めた!
ニヤニヤ笑いながら、バンキンが近づいてくる。
足元にはいつの間にかキャロティもいる。
「そういうこった。よろしく頼むぜ、ナザル」
「ナザル! あんたオブリーオイルの料理をさらに発展させたそうじゃない! あたしにごちそうしなさいよね!!」
賑やかになってきたぞ!
仕方ない。
ものついでだ。
クリーピングツリー退治を請け負うことにしよう。
「ところでナザル、コゲタをちょっと貸しなさいよ! 色々おしゃれさせてあげたいんだけど!」
「なにぃ、僕からコゲタを取り上げるつもりか!? ダメダメ、駄目ですー!」
「おお、お前ら常に余裕だなあ。俺は頼もしくて涙が出るぜ」
そんな三人と、今回もまたコゲタを連れて軽くひと仕事するとしよう。
22
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺若葉
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活
破滅
ファンタジー
総合ランキング3位
ファンタジー2位
HOT1位になりました!
そして、お気に入りが4000を突破致しました!
表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓
https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055
みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。
そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。
そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。
そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる!
おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
あなたのレベル買い取ります! 無能と罵られ最強ギルドを追放されたので、世界で唯一の店を出した ~俺だけの【レベル売買】スキルで稼ぎまくり~
桜井正宗
ファンタジー
異世界で暮らすただの商人・カイトは『レベル売買』という通常では絶対にありえない、世界で唯一のスキルを所持していた事に気付く。ゆえに最強ギルドに目をつけられ、直ぐにスカウトされ所属していた。
その万能スキルを使いギルドメンバーのレベルを底上げしていき、やがてギルドは世界最強に。しかし、そうなる一方でレベルの十分に上がったメンバーはカイトを必要としなくなった。もともと、カイトは戦闘には不向きなタイプ。やがてギルドマスターから『追放』を言い渡された。
途方に暮れたカイトは彷徨った。
そんな絶望的で理不尽な状況ではあったが、月光のように美しいメイド『ルナ』が救ってくれた。それから程なくし、共に世界で唯一の『レベル売買』店を展開。更に帝国の女騎士と魔法使いのエルフを迎える。
元から商売センスのあったカイトはその才能を遺憾なく発揮していく。すると驚くほど経営が上手くいき、一躍有名人となる。その風の噂を聞いた最強ギルドも「戻ってこい」と必死になるが、もう遅い。
見返すと心に決めたカイトは最強ギルドへの逆襲を開始する――。
【登場人物】(メインキャラ)
主人公 :カイト / 男 / 商人
ヒロイン:ルナ / 女 / メイド
ヒロイン:ソレイユ / 女 / 聖騎士
ヒロイン:ミーティア / 女 / ダークエルフ
***忙しい人向けの簡単な流れ***
◇ギルドを追放されますが、実は最強のスキル持ち
◇メイドと出会い、新しい仲間も増えます
◇自分たちだけのお店を開きます
◇みんな優しいです
◇大儲けしていきます
◇元ギルドへの反撃もしていきます
◇世界一の帝国へ移住します
◇もっと稼ぎまくります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる