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32・パスタにそのまま
第95話 刀削麺タイプのパスタはなかなか美味い
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ついにパルメディアに誕生した、もちもち食感の主食……!!
それがこのパスタ……いや、形は刀削麺だ。
これにオブリーオイルをたっぷりと掛け、ハーブとピーカラで味を整えたものは果たして、この世界の住人に受け入れられるのか!
「まあ、美味しそう! 私、ナザルさんが作るものならなんでも美味しいと思っているのよね。なんていうか美味しさへの嗅覚が私よりもずっと鋭いみたいな気がするし」
「いやいや、そんなことは……」
あるかも知れない。
僕が前世で暮らしていた日本は、美食の都だったからな……。
「じゃあいただくわね。あ、ナザルさんのところの言葉だと、イタダキマスって言うんだったわよね? イタダキマス」
おおーっ!
ドロテアさんがいただきますを!
彼女は僕をリスペクトしてくれていて、僕からすると師匠なのに大変いい人だなあと思うのだ。
人なのかどうかは分からないのだけど。
オブリーオイルに浸かったパスタをスプーンで掬ったドロテアさんは、オブリーの香りを楽しんだ後でぱくりと口に放り込んだ。
もぐもぐっと食べた後、目をぱちくりとさせてからごくりと飲み込む。
「あら! 美味しい! それに食感が楽しい! 思った以上にこれ、パスタ? はシンプルな味なのねえ。あまり自己主張してこなくて、オブリーオイルとハーブの味が効いてて……。あっ、後からピーカラの辛味が……!」
冷やしたお茶を用意してあるのだが、これをドロテアさんがごくごく飲んだ。
「あー、でも辛いのも美味しい」
「めちゃくちゃ食事を楽しんでおられる」
「あら、食事は楽しいものよ? ただ、それはぺこぺこなところに食べ物を詰め込む安心感みたいなものが大きかったの。でもナザルさんのお料理は不思議ね。これは娯楽だわ」
そうか。
この世界、食事そのものを娯楽として楽しんでいるのなんて、数少ない大金持ちくらいなのかも知れない。
地位がある人間は暗殺を恐れて毒見役を置くから、冷えたものしか食べていないし。
あっ、ファイブショーナンも食は娯楽だったな。
あそこは進歩の可能性を捨てることで、日々の豊かさに全振りしてる国だったが。
僕もパスタをもりもりと食べてみた。
あー、わかりやすい。
オブリーオイルの美味しさに全振りした、潔いパスタだ。
ピーカラのマイルドな辛さが心地良い。
美味しい美味しい。
そしてやはりここには……。
「にんにくが欲しいよな、やっぱにんにくだ……! 頼む、頼むぞシズマ……!!」
遠き地でにんにくを求めて冒険しているであろう魂の兄弟に、願いを託す僕だった。
その後、僕らはパクパクとパスタを食べきった。
「粉を茹でているおかげで、パスタは水分が多いのね。お水が無くてもパクパク食べられるし、満足感があるわ。これ、広めたほうがいいんじゃないかしら……」
「やはり、そう思われますか」
「そう思うわ。それに料理方法だってシンプルなのに、どうしてみんなこれに気付かなかったのかしら」
「食の冒険をする余裕が今まで無かったからじゃないですかねえ……」
粉はパンにする。
そういう常識に固まっていたということだ。
なお、パスタはコゲタにも好評だった。
「もちもちー!」
「美味しいかー」
「おいしー。コゲタこれすき!」
良かった良かった。
コゲタの好きなものが世の中にまた一つ増えてしまったな。
では、パスタを売り込むとしよう。
僕とドロテアさんは食休みの後、近くの食堂にパスタを売り込みに行った。
油も何もいらない料理である。
僕は刀削麺にする程度の料理の腕だが、粉を茹でればいいだけのこの料理。
広めればきっと、多くの人々が改良を重ねてくれることだろう!
「ほう、粉を練ったものを茹でる? 焼くわけではなく? パンにしたほうが美味いんじゃないのか?」
食堂の主人が訝(いぶか)しげである。
「論より証拠だ。食べてみてくれ」
その場で沸かした湯に、練った粉を放り込んだ。
茹で上がってツルンツルンになるパスタ。
これに、シンプルに塩とハーブを振って食ってもらう。
「どれどれ……? ほう? おぉ? おぉぉぉ? 妙な食感だが、悪くないな。癖がねえ。これ、スープに入れると美味い……いや、スープを煮込む時仕上げで放り込んで一緒に作っちまえばいいな。スープだけで腹が膨れる料理になるじゃねえか!」
「いきなりスープパスタが生まれてしまったな……。恐るべし、料理人」
「おい。この料理、他に教えるなよ? 調理方法を盗まれるまで、うちで独占して売るんだ」
「どうぞどうぞご自由に」
こうして、パスタが広まっていくための種は撒いた。
パンにせずに茹でることで、器一つで完結する料理になるのだ。
食堂としては、願ったりかなったりだろう。
「ナザルさん、良かったの? これじゃあ広まらないんじゃない?」
「パスタが美味いのは食べたやつなら分かるでしょうし、そうなれば評判になるでしょ? 料理人なら、その味を盗むために潜入してくるから大丈夫ですよ。あの主人だってそれ前提で一時的に独占させてくれって言ってたでしょ」
「あ、そういう……! 商売の世界って奥深いのねえ」
感心するドロテアさんなのだった。
そしてパスタは……。
一週間ほどで、商業地区中の食堂で出るようになったのだった。
それがこのパスタ……いや、形は刀削麺だ。
これにオブリーオイルをたっぷりと掛け、ハーブとピーカラで味を整えたものは果たして、この世界の住人に受け入れられるのか!
「まあ、美味しそう! 私、ナザルさんが作るものならなんでも美味しいと思っているのよね。なんていうか美味しさへの嗅覚が私よりもずっと鋭いみたいな気がするし」
「いやいや、そんなことは……」
あるかも知れない。
僕が前世で暮らしていた日本は、美食の都だったからな……。
「じゃあいただくわね。あ、ナザルさんのところの言葉だと、イタダキマスって言うんだったわよね? イタダキマス」
おおーっ!
ドロテアさんがいただきますを!
彼女は僕をリスペクトしてくれていて、僕からすると師匠なのに大変いい人だなあと思うのだ。
人なのかどうかは分からないのだけど。
オブリーオイルに浸かったパスタをスプーンで掬ったドロテアさんは、オブリーの香りを楽しんだ後でぱくりと口に放り込んだ。
もぐもぐっと食べた後、目をぱちくりとさせてからごくりと飲み込む。
「あら! 美味しい! それに食感が楽しい! 思った以上にこれ、パスタ? はシンプルな味なのねえ。あまり自己主張してこなくて、オブリーオイルとハーブの味が効いてて……。あっ、後からピーカラの辛味が……!」
冷やしたお茶を用意してあるのだが、これをドロテアさんがごくごく飲んだ。
「あー、でも辛いのも美味しい」
「めちゃくちゃ食事を楽しんでおられる」
「あら、食事は楽しいものよ? ただ、それはぺこぺこなところに食べ物を詰め込む安心感みたいなものが大きかったの。でもナザルさんのお料理は不思議ね。これは娯楽だわ」
そうか。
この世界、食事そのものを娯楽として楽しんでいるのなんて、数少ない大金持ちくらいなのかも知れない。
地位がある人間は暗殺を恐れて毒見役を置くから、冷えたものしか食べていないし。
あっ、ファイブショーナンも食は娯楽だったな。
あそこは進歩の可能性を捨てることで、日々の豊かさに全振りしてる国だったが。
僕もパスタをもりもりと食べてみた。
あー、わかりやすい。
オブリーオイルの美味しさに全振りした、潔いパスタだ。
ピーカラのマイルドな辛さが心地良い。
美味しい美味しい。
そしてやはりここには……。
「にんにくが欲しいよな、やっぱにんにくだ……! 頼む、頼むぞシズマ……!!」
遠き地でにんにくを求めて冒険しているであろう魂の兄弟に、願いを託す僕だった。
その後、僕らはパクパクとパスタを食べきった。
「粉を茹でているおかげで、パスタは水分が多いのね。お水が無くてもパクパク食べられるし、満足感があるわ。これ、広めたほうがいいんじゃないかしら……」
「やはり、そう思われますか」
「そう思うわ。それに料理方法だってシンプルなのに、どうしてみんなこれに気付かなかったのかしら」
「食の冒険をする余裕が今まで無かったからじゃないですかねえ……」
粉はパンにする。
そういう常識に固まっていたということだ。
なお、パスタはコゲタにも好評だった。
「もちもちー!」
「美味しいかー」
「おいしー。コゲタこれすき!」
良かった良かった。
コゲタの好きなものが世の中にまた一つ増えてしまったな。
では、パスタを売り込むとしよう。
僕とドロテアさんは食休みの後、近くの食堂にパスタを売り込みに行った。
油も何もいらない料理である。
僕は刀削麺にする程度の料理の腕だが、粉を茹でればいいだけのこの料理。
広めればきっと、多くの人々が改良を重ねてくれることだろう!
「ほう、粉を練ったものを茹でる? 焼くわけではなく? パンにしたほうが美味いんじゃないのか?」
食堂の主人が訝(いぶか)しげである。
「論より証拠だ。食べてみてくれ」
その場で沸かした湯に、練った粉を放り込んだ。
茹で上がってツルンツルンになるパスタ。
これに、シンプルに塩とハーブを振って食ってもらう。
「どれどれ……? ほう? おぉ? おぉぉぉ? 妙な食感だが、悪くないな。癖がねえ。これ、スープに入れると美味い……いや、スープを煮込む時仕上げで放り込んで一緒に作っちまえばいいな。スープだけで腹が膨れる料理になるじゃねえか!」
「いきなりスープパスタが生まれてしまったな……。恐るべし、料理人」
「おい。この料理、他に教えるなよ? 調理方法を盗まれるまで、うちで独占して売るんだ」
「どうぞどうぞご自由に」
こうして、パスタが広まっていくための種は撒いた。
パンにせずに茹でることで、器一つで完結する料理になるのだ。
食堂としては、願ったりかなったりだろう。
「ナザルさん、良かったの? これじゃあ広まらないんじゃない?」
「パスタが美味いのは食べたやつなら分かるでしょうし、そうなれば評判になるでしょ? 料理人なら、その味を盗むために潜入してくるから大丈夫ですよ。あの主人だってそれ前提で一時的に独占させてくれって言ってたでしょ」
「あ、そういう……! 商売の世界って奥深いのねえ」
感心するドロテアさんなのだった。
そしてパスタは……。
一週間ほどで、商業地区中の食堂で出るようになったのだった。
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