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28・覚醒のナザル
第84話 色々油煮
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スナネズミを煮込んだやつが出てきた。
ウサギによく似ているという生き物で、肉には脂身が少なく淡白。
そのまま食べると、ややスカスカして感じるらしい……。
だが、これがオブリーオイルによって煮込まれると……。
「おほー! 肉のジューシーなこと! 中にまでオブリーオイルの香りが染み込んでる!」
「こっちの肉も美味いぜ! こりゃあ酒が進む味だなあ……。あとはパンが欲しい」
バンキンが主食を欲したら、おかみさんがスッと平たいパンを出してきた。
商売上手だ。
無発酵パンというやつだろう。
これに、オブリーで煮込まれた肉を包み、なんなら具材の出汁と混ざりあったオブリーオイルを載せて食べる。
たまらん……!!
悪魔的旨さ!
「これいけるわねー! 野菜がこんな面白い味になると思わなかったわ!」
キャロティも気に入ったようで、もりもり食べている。
彼女は、油煮とさっぱりしたお茶を組み合わせる方針のようだ。
「おかみさん、そのお茶はなんですか」
「オブリーの葉っぱで淹れたお茶だよ。油を全て果実に詰め込むオブリーは、葉っぱはあっさりしてて油で重くなったお腹をスッキリさせてくれるのさ」
「なるほどー! 吐き出した分をお茶になって取り戻そうとするのか! 面白いなあ……」
そしてこの中で一番犬に近いコゲタはと言うと。
おかみさんも気を遣って、ちょっと油少なめにしてくれていた。
うんうん、コゲタにはちょうどいい量だね。
むしゃむしゃ食べて、ニコニコするコゲタ。
この油煮は刺激が少なめな味だから、小動物みたいな人達にはいい感じかも知れないな。
素晴らしい香りとコク、確かに美味しい。
だが、僕は食べ続けながら思うのだ。
「ここに香辛料を加えるととんでもないことになるだろうな……。油煮は優しい風味だが、まだまだ潜在能力を眠らせている……。おかみさん、辛いものを入れたりは?」
「ああ、ピーカラを入れる人もいるけどね。でも、辛すぎるんだよねえ」
ピーカラ!
ヒートスにもあったのか!
だが、どうやらファイブショーナンのそれとは性質が違うようだ。
後で食べてみないとな……。
それに、辛すぎるというならば対処方法はある。
寒天でジュレみたいにして徐々に溶けるようにしたらどうだ……?
味変にならないか?
あとはにんにく。
油煮はアヒージョに似ているんだから、にんにくが欲しいなあ!!
とにかく、僕は油煮を全部食べた。
実に美味しいエキサイティングな体験だった。
そして同時に、前世の記憶で足りないものを幾つもピックアップできたのだった。
おかみさんに礼を言い、外に出る。
食べ終わっていたコゲタも後をついてきた。
おお、完全に日が沈んでいる。
あちこちに明かりが灯り、夜だと言うのにヒートスの街は明るいのだ。
賑やかさは少しも衰えていない。
寒くなってくる夜だが、そんな今こそが過ごしやすい時間なのだろう。
確かに、これならばアツアツの油煮が愛されるのも分かる。
「ご主人、なにするの?」
「オブリーオイルをな。かなり解像度が高まったから、今ならたくさん出せそうだと思ってな」
そーっとその辺りの店で安い壺を買って、「オブリーオイル生成!」
僕は宣言した。
だばーっと琥珀色の油が飛び出してくる。
おお! この油の解像度!!
どうやら定期的に油を摂取しないといけないみたいだな。
だが、その条件すら満たしておけば、オブリーオイルを大量に生み出すことができる。
「いいにおい~」
「そうだろうそうだろう。そう言えば、それぞれの国には独特の匂いがあると言うが……。ファイブショーナンは魚醤の匂いだったし、アーランはハーブの香りだ。で……ヒートスはオブリーの匂いに満ちた国なんだな。面白い」
屋台の兄ちゃんは、オブリーオイルを出すことができればヒートスを手中に収められると言っていたが……。
ヒートスを象徴するそのものであるオブリーを支配できるなら、確かにできそうな気がしてくるなあ。
「あー、食った食った。だが、こっちの酒はあれだな。癖が強い。甘い酒だ」
ぶらぶら出てきたバンキンが、腹を撫でている。
満腹ではあるようだが、満足度はそこそこらしい。
「俺は甘くない酒が好きなんだよな」
「お野菜の種類ももっと多いといいわね! 豆とか干からびた野菜みたいなのばっかりなんだもの! もっともっと美味しくなると思うな!」
おお、二人の感想も油煮やら、ヒートスの料理に改善の余地ありということか。
だよなだよな。
「幸い、僕はオブリーオイルを出せるようになった。これと、オブリーの苗木をちょっと買って行ってアーランでの生産を始めてみようと思う。その上で油煮をもっと美味くできないかの創意工夫をだね」
「いいんじゃねえの? 俺、エールと合わせて油煮食いたいわ。アーランの食材とあわせるとさらに美味くなるよあれ」
「あたしも賛成だわ! アーランのお野菜だったらバッチリ合うし!!」
夢が膨らんでいくな。
どうせ、この国からオブリーオイルをアーランに輸出するのは困難なのだ。
僕が漬物ロードと名付けた、ここに至るまでの道はあまりにも危険が多すぎる。
まとまった量のオブリーオイルを持って移動することは現実的ではあるまい。
アーランでオブリーを育てる。
これだ。
さらに、育成の指南役として現地の人を一人連れていけないものか。
この辺りは、まずは誰かに声を掛けて連れ出し、アーランでデュオス殿下にお願いして手回ししてもらうとしよう。
よしよし。
何もかも上手く回っているぞ。
「ご主人わらってる!」
「コゲタ、これは悪人みたいな笑いって言うのよ! やーねー!」
キャロティは何を人聞きの悪いことを言っているんだね!!
ウサギによく似ているという生き物で、肉には脂身が少なく淡白。
そのまま食べると、ややスカスカして感じるらしい……。
だが、これがオブリーオイルによって煮込まれると……。
「おほー! 肉のジューシーなこと! 中にまでオブリーオイルの香りが染み込んでる!」
「こっちの肉も美味いぜ! こりゃあ酒が進む味だなあ……。あとはパンが欲しい」
バンキンが主食を欲したら、おかみさんがスッと平たいパンを出してきた。
商売上手だ。
無発酵パンというやつだろう。
これに、オブリーで煮込まれた肉を包み、なんなら具材の出汁と混ざりあったオブリーオイルを載せて食べる。
たまらん……!!
悪魔的旨さ!
「これいけるわねー! 野菜がこんな面白い味になると思わなかったわ!」
キャロティも気に入ったようで、もりもり食べている。
彼女は、油煮とさっぱりしたお茶を組み合わせる方針のようだ。
「おかみさん、そのお茶はなんですか」
「オブリーの葉っぱで淹れたお茶だよ。油を全て果実に詰め込むオブリーは、葉っぱはあっさりしてて油で重くなったお腹をスッキリさせてくれるのさ」
「なるほどー! 吐き出した分をお茶になって取り戻そうとするのか! 面白いなあ……」
そしてこの中で一番犬に近いコゲタはと言うと。
おかみさんも気を遣って、ちょっと油少なめにしてくれていた。
うんうん、コゲタにはちょうどいい量だね。
むしゃむしゃ食べて、ニコニコするコゲタ。
この油煮は刺激が少なめな味だから、小動物みたいな人達にはいい感じかも知れないな。
素晴らしい香りとコク、確かに美味しい。
だが、僕は食べ続けながら思うのだ。
「ここに香辛料を加えるととんでもないことになるだろうな……。油煮は優しい風味だが、まだまだ潜在能力を眠らせている……。おかみさん、辛いものを入れたりは?」
「ああ、ピーカラを入れる人もいるけどね。でも、辛すぎるんだよねえ」
ピーカラ!
ヒートスにもあったのか!
だが、どうやらファイブショーナンのそれとは性質が違うようだ。
後で食べてみないとな……。
それに、辛すぎるというならば対処方法はある。
寒天でジュレみたいにして徐々に溶けるようにしたらどうだ……?
味変にならないか?
あとはにんにく。
油煮はアヒージョに似ているんだから、にんにくが欲しいなあ!!
とにかく、僕は油煮を全部食べた。
実に美味しいエキサイティングな体験だった。
そして同時に、前世の記憶で足りないものを幾つもピックアップできたのだった。
おかみさんに礼を言い、外に出る。
食べ終わっていたコゲタも後をついてきた。
おお、完全に日が沈んでいる。
あちこちに明かりが灯り、夜だと言うのにヒートスの街は明るいのだ。
賑やかさは少しも衰えていない。
寒くなってくる夜だが、そんな今こそが過ごしやすい時間なのだろう。
確かに、これならばアツアツの油煮が愛されるのも分かる。
「ご主人、なにするの?」
「オブリーオイルをな。かなり解像度が高まったから、今ならたくさん出せそうだと思ってな」
そーっとその辺りの店で安い壺を買って、「オブリーオイル生成!」
僕は宣言した。
だばーっと琥珀色の油が飛び出してくる。
おお! この油の解像度!!
どうやら定期的に油を摂取しないといけないみたいだな。
だが、その条件すら満たしておけば、オブリーオイルを大量に生み出すことができる。
「いいにおい~」
「そうだろうそうだろう。そう言えば、それぞれの国には独特の匂いがあると言うが……。ファイブショーナンは魚醤の匂いだったし、アーランはハーブの香りだ。で……ヒートスはオブリーの匂いに満ちた国なんだな。面白い」
屋台の兄ちゃんは、オブリーオイルを出すことができればヒートスを手中に収められると言っていたが……。
ヒートスを象徴するそのものであるオブリーを支配できるなら、確かにできそうな気がしてくるなあ。
「あー、食った食った。だが、こっちの酒はあれだな。癖が強い。甘い酒だ」
ぶらぶら出てきたバンキンが、腹を撫でている。
満腹ではあるようだが、満足度はそこそこらしい。
「俺は甘くない酒が好きなんだよな」
「お野菜の種類ももっと多いといいわね! 豆とか干からびた野菜みたいなのばっかりなんだもの! もっともっと美味しくなると思うな!」
おお、二人の感想も油煮やら、ヒートスの料理に改善の余地ありということか。
だよなだよな。
「幸い、僕はオブリーオイルを出せるようになった。これと、オブリーの苗木をちょっと買って行ってアーランでの生産を始めてみようと思う。その上で油煮をもっと美味くできないかの創意工夫をだね」
「いいんじゃねえの? 俺、エールと合わせて油煮食いたいわ。アーランの食材とあわせるとさらに美味くなるよあれ」
「あたしも賛成だわ! アーランのお野菜だったらバッチリ合うし!!」
夢が膨らんでいくな。
どうせ、この国からオブリーオイルをアーランに輸出するのは困難なのだ。
僕が漬物ロードと名付けた、ここに至るまでの道はあまりにも危険が多すぎる。
まとまった量のオブリーオイルを持って移動することは現実的ではあるまい。
アーランでオブリーを育てる。
これだ。
さらに、育成の指南役として現地の人を一人連れていけないものか。
この辺りは、まずは誰かに声を掛けて連れ出し、アーランでデュオス殿下にお願いして手回ししてもらうとしよう。
よしよし。
何もかも上手く回っているぞ。
「ご主人わらってる!」
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