41 / 152
16・来たぞ、地下の討伐依頼だ
第41話 ありがたくないお呼び出し
しおりを挟む
シルバー級冒険者の呼び出しが掛かった。
これは……あれか。
年に三回くらいあるという強制任務というやつだな。
宿で油とうどんの親和性について思索を巡らせつつ、新メニューを考えていた僕は、呼びに来たカッパー級冒険者にいやーな顔をしてしまった。
「いやあ、頼みますよナザルさん。今仕事を受けてないシルバー級の人たちで、遺跡の第三層に出現したモンスターを倒せるのあなたとあと数人だけなんですから」
「ああ、君に罪が無いことは分かっている。だが、やはり任務があるのは嫌なものだなあ……。何者にも縛られぬ生活が懐かしい……」
「ご主人?」
僕の近くで玉を転がして遊んでいたコゲタが、こちらを見てきた。
うむ、養う犬がいる。
戦わねばなるまい。
「コゲタ、ちょっと僕は出かけてくる。宿の主人とおかみさんのとこでご飯を食べてくれ」
「コゲタ行く」
「今回は危険な任務なんだ。分かるだろう。コゲタは危ない」
「くーん」
コゲタが悲しそうな顔になり、耳をぺたんと折って尻尾を垂らした。
くそー、かわいそうだが仕方ない。
僕は心を鬼にして、コゲタを宿のおかみさんに預けた。
「あらコゲタちゃんを預けてくれるの? コゲタちゃんはうちの子にならないかい?」
「きゃうーん」
よしよし。
宿経営者の夫妻は、息子が山の手の大きい宿屋に修行に行っており、娘はもう嫁に行っている。
夫婦二人きりなので、ちょこちょこ寂しい時もあるらしい。
なのでコゲタは二人が孫のようにかわいがっている。
「いい子にしているんだぞコゲタ。お土産持ってくるからな」
「お土産! コゲタ、楽しみ。待ってる」
コゲタが尻尾をぶんぶん振ってお見送りしてくれた。
言葉が通じるのが犬と違うところだな。
ありがたい。
お土産は遺跡で、ちょうどいい長さの棒なんかを探しておこう。
帰ってきたら外で遊んでやるぞ。
冒険者ギルドにやって来た僕。
何人かのシルバー級冒険者がいる。
「バンキン、また残ってたのか」
「おう。ちょっと前の仕事で金が入ってな。なくなるまでギルドハウスで飲んだくれてた」
「しょうもない生活を……」
ギルドハウスというのは、ギルドが用意した寮みたいなものだ。
格安の家賃で住むことができるが、その代わりに相当な数の強制参加依頼を常にこなさねばならない。
カッパー級から住めるが、シルバー級になれば大体ここから出ていくものだ。
みんな自由になりたいもんな……。
なお、僕はずっと宿だ。
ランニングコストは掛かるが、一番自由な場所だからな。
バンキンは、そんなギルドハウスに好き好んで住み着いている男だ。
ギルドとしても便利ではあるんだろうな。
他には、女子向けのギルドハウスで引きこもっていたらしい魔法使い。
ウサギの耳とウサギのような足の小柄な種族、ラビットフットのキャロティだ。
彼女もシルバー級。
「ほんと、宿代が超やすいのはいいけど、呼び出しが多いのは困ったもんよね!」
キャロティが苛立たしげに床板をバンバン踏んでいる。
ウサギだ。
「えー、では皆さん、今回の割当ですが第三層のこの辺りで……。目撃情報はこちらの板に書いてありますんで覚えていってください」
「はいはい」
「へいへい」
「ふーん」
お下げの受付嬢が見せた板を、三人で覗き込む。
キャロティは板の位置が高かったらしく、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
彼女は僕の腰くらいの背丈しか無いからなあ。
「ちょっとバンキン! 背中貸しなさいよ!」
「えー、俺を踏み台にするのかあ? まあいいけど」
バンキンは基本的に人がいい。
キャロティがよじ登ってくるのを、そのままにしている。
「ふーん。第三層で建築やってた連中がモンスターを見かけたのね。見た目は肉食獣? なに? ひとり食べられたの? 触手が生えてる!? クァールね。厄介よー」
クァールというのは、別世界から召喚されたという肉食獣型モンスターだ。
ヒグマほどの巨体の黒豹で、肩から太い触手を二本ほど生やして、これを自在に操る。
さらに、対面した相手を精神攻撃……マインドブラストで麻痺させたりしてくる。
どれくらい強いかと言うと、まあシルバー級のパーティでも普通に全滅させられたりするレベルだな。
なるほど、僕ら三人が名指しで集められたわけだ。
「めんどくせえが、ゴールド級は忙しそうだしな。行くかあ」
「仕方ないわね!」
「さっさとやっちゃおう、さっさと」
「お気をつけてー!」
ということで、受付嬢に見送られながら遺跡へ向かう僕らなのだった。
依頼を受けているから、無料で行ける。
これはかなりいい感じだ。
仕事にかこつければ、第一層の見物をし放題じゃないか。
僕はあちこちよそ見しながら歩いた。
キャロティも新鮮な野菜の匂いに惹かれるようで、あっちにふらふら、こっちにふらふら。
「お前ら、寄り道し過ぎだぞ! 俺はさっさと済ませて酒をかっくらいたいんだ!!」
おお、バンキンが怒った。
「あんた声がでかいんだから怒鳴らないでしょ! あたし耳がいいからうっさいんだけど!!」
ぴょんぴょん跳ねて怒鳴り返すキャロティ。
君もなかなか賑やかである。
「帰りにじっくり見るとしようか。じゃあ第二層へ……」
二人を促す僕だ。
ここは一番大人になれる僕がこのパーティを引っ張らねばな、ふふふ。
まさに潤滑油というやつだ。
「いや、お前があっちこっち見て回ろうとするからキャロティも気が惹かれたのでは?」
「細かいことは気にするなバンキン!」
これは……あれか。
年に三回くらいあるという強制任務というやつだな。
宿で油とうどんの親和性について思索を巡らせつつ、新メニューを考えていた僕は、呼びに来たカッパー級冒険者にいやーな顔をしてしまった。
「いやあ、頼みますよナザルさん。今仕事を受けてないシルバー級の人たちで、遺跡の第三層に出現したモンスターを倒せるのあなたとあと数人だけなんですから」
「ああ、君に罪が無いことは分かっている。だが、やはり任務があるのは嫌なものだなあ……。何者にも縛られぬ生活が懐かしい……」
「ご主人?」
僕の近くで玉を転がして遊んでいたコゲタが、こちらを見てきた。
うむ、養う犬がいる。
戦わねばなるまい。
「コゲタ、ちょっと僕は出かけてくる。宿の主人とおかみさんのとこでご飯を食べてくれ」
「コゲタ行く」
「今回は危険な任務なんだ。分かるだろう。コゲタは危ない」
「くーん」
コゲタが悲しそうな顔になり、耳をぺたんと折って尻尾を垂らした。
くそー、かわいそうだが仕方ない。
僕は心を鬼にして、コゲタを宿のおかみさんに預けた。
「あらコゲタちゃんを預けてくれるの? コゲタちゃんはうちの子にならないかい?」
「きゃうーん」
よしよし。
宿経営者の夫妻は、息子が山の手の大きい宿屋に修行に行っており、娘はもう嫁に行っている。
夫婦二人きりなので、ちょこちょこ寂しい時もあるらしい。
なのでコゲタは二人が孫のようにかわいがっている。
「いい子にしているんだぞコゲタ。お土産持ってくるからな」
「お土産! コゲタ、楽しみ。待ってる」
コゲタが尻尾をぶんぶん振ってお見送りしてくれた。
言葉が通じるのが犬と違うところだな。
ありがたい。
お土産は遺跡で、ちょうどいい長さの棒なんかを探しておこう。
帰ってきたら外で遊んでやるぞ。
冒険者ギルドにやって来た僕。
何人かのシルバー級冒険者がいる。
「バンキン、また残ってたのか」
「おう。ちょっと前の仕事で金が入ってな。なくなるまでギルドハウスで飲んだくれてた」
「しょうもない生活を……」
ギルドハウスというのは、ギルドが用意した寮みたいなものだ。
格安の家賃で住むことができるが、その代わりに相当な数の強制参加依頼を常にこなさねばならない。
カッパー級から住めるが、シルバー級になれば大体ここから出ていくものだ。
みんな自由になりたいもんな……。
なお、僕はずっと宿だ。
ランニングコストは掛かるが、一番自由な場所だからな。
バンキンは、そんなギルドハウスに好き好んで住み着いている男だ。
ギルドとしても便利ではあるんだろうな。
他には、女子向けのギルドハウスで引きこもっていたらしい魔法使い。
ウサギの耳とウサギのような足の小柄な種族、ラビットフットのキャロティだ。
彼女もシルバー級。
「ほんと、宿代が超やすいのはいいけど、呼び出しが多いのは困ったもんよね!」
キャロティが苛立たしげに床板をバンバン踏んでいる。
ウサギだ。
「えー、では皆さん、今回の割当ですが第三層のこの辺りで……。目撃情報はこちらの板に書いてありますんで覚えていってください」
「はいはい」
「へいへい」
「ふーん」
お下げの受付嬢が見せた板を、三人で覗き込む。
キャロティは板の位置が高かったらしく、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
彼女は僕の腰くらいの背丈しか無いからなあ。
「ちょっとバンキン! 背中貸しなさいよ!」
「えー、俺を踏み台にするのかあ? まあいいけど」
バンキンは基本的に人がいい。
キャロティがよじ登ってくるのを、そのままにしている。
「ふーん。第三層で建築やってた連中がモンスターを見かけたのね。見た目は肉食獣? なに? ひとり食べられたの? 触手が生えてる!? クァールね。厄介よー」
クァールというのは、別世界から召喚されたという肉食獣型モンスターだ。
ヒグマほどの巨体の黒豹で、肩から太い触手を二本ほど生やして、これを自在に操る。
さらに、対面した相手を精神攻撃……マインドブラストで麻痺させたりしてくる。
どれくらい強いかと言うと、まあシルバー級のパーティでも普通に全滅させられたりするレベルだな。
なるほど、僕ら三人が名指しで集められたわけだ。
「めんどくせえが、ゴールド級は忙しそうだしな。行くかあ」
「仕方ないわね!」
「さっさとやっちゃおう、さっさと」
「お気をつけてー!」
ということで、受付嬢に見送られながら遺跡へ向かう僕らなのだった。
依頼を受けているから、無料で行ける。
これはかなりいい感じだ。
仕事にかこつければ、第一層の見物をし放題じゃないか。
僕はあちこちよそ見しながら歩いた。
キャロティも新鮮な野菜の匂いに惹かれるようで、あっちにふらふら、こっちにふらふら。
「お前ら、寄り道し過ぎだぞ! 俺はさっさと済ませて酒をかっくらいたいんだ!!」
おお、バンキンが怒った。
「あんた声がでかいんだから怒鳴らないでしょ! あたし耳がいいからうっさいんだけど!!」
ぴょんぴょん跳ねて怒鳴り返すキャロティ。
君もなかなか賑やかである。
「帰りにじっくり見るとしようか。じゃあ第二層へ……」
二人を促す僕だ。
ここは一番大人になれる僕がこのパーティを引っ張らねばな、ふふふ。
まさに潤滑油というやつだ。
「いや、お前があっちこっち見て回ろうとするからキャロティも気が惹かれたのでは?」
「細かいことは気にするなバンキン!」
23
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺若葉
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活
破滅
ファンタジー
総合ランキング3位
ファンタジー2位
HOT1位になりました!
そして、お気に入りが4000を突破致しました!
表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓
https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055
みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。
そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。
そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。
そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる!
おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる