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16・来たぞ、地下の討伐依頼だ

第41話 ありがたくないお呼び出し

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 シルバー級冒険者の呼び出しが掛かった。
 これは……あれか。
 年に三回くらいあるという強制任務というやつだな。

 宿で油とうどんの親和性について思索を巡らせつつ、新メニューを考えていた僕は、呼びに来たカッパー級冒険者にいやーな顔をしてしまった。

「いやあ、頼みますよナザルさん。今仕事を受けてないシルバー級の人たちで、遺跡の第三層に出現したモンスターを倒せるのあなたとあと数人だけなんですから」

「ああ、君に罪が無いことは分かっている。だが、やはり任務があるのは嫌なものだなあ……。何者にも縛られぬ生活が懐かしい……」

「ご主人?」

 僕の近くで玉を転がして遊んでいたコゲタが、こちらを見てきた。
 うむ、養う犬がいる。
 戦わねばなるまい。

「コゲタ、ちょっと僕は出かけてくる。宿の主人とおかみさんのとこでご飯を食べてくれ」

「コゲタ行く」

「今回は危険な任務なんだ。分かるだろう。コゲタは危ない」

「くーん」

 コゲタが悲しそうな顔になり、耳をぺたんと折って尻尾を垂らした。
 くそー、かわいそうだが仕方ない。
 僕は心を鬼にして、コゲタを宿のおかみさんに預けた。

「あらコゲタちゃんを預けてくれるの? コゲタちゃんはうちの子にならないかい?」

「きゃうーん」

 よしよし。
 宿経営者の夫妻は、息子が山の手の大きい宿屋に修行に行っており、娘はもう嫁に行っている。
 夫婦二人きりなので、ちょこちょこ寂しい時もあるらしい。
 なのでコゲタは二人が孫のようにかわいがっている。

「いい子にしているんだぞコゲタ。お土産持ってくるからな」

「お土産! コゲタ、楽しみ。待ってる」

 コゲタが尻尾をぶんぶん振ってお見送りしてくれた。
 言葉が通じるのが犬と違うところだな。
 ありがたい。

 お土産は遺跡で、ちょうどいい長さの棒なんかを探しておこう。
 帰ってきたら外で遊んでやるぞ。

 冒険者ギルドにやって来た僕。
 何人かのシルバー級冒険者がいる。

「バンキン、また残ってたのか」

「おう。ちょっと前の仕事で金が入ってな。なくなるまでギルドハウスで飲んだくれてた」

「しょうもない生活を……」

 ギルドハウスというのは、ギルドが用意した寮みたいなものだ。
 格安の家賃で住むことができるが、その代わりに相当な数の強制参加依頼を常にこなさねばならない。
 カッパー級から住めるが、シルバー級になれば大体ここから出ていくものだ。

 みんな自由になりたいもんな……。
 なお、僕はずっと宿だ。
 ランニングコストは掛かるが、一番自由な場所だからな。

 バンキンは、そんなギルドハウスに好き好んで住み着いている男だ。
 ギルドとしても便利ではあるんだろうな。

 他には、女子向けのギルドハウスで引きこもっていたらしい魔法使い。
 ウサギの耳とウサギのような足の小柄な種族、ラビットフットのキャロティだ。
 彼女もシルバー級。

「ほんと、宿代が超やすいのはいいけど、呼び出しが多いのは困ったもんよね!」

 キャロティが苛立たしげに床板をバンバン踏んでいる。
 ウサギだ。

「えー、では皆さん、今回の割当ですが第三層のこの辺りで……。目撃情報はこちらの板に書いてありますんで覚えていってください」

「はいはい」

「へいへい」

「ふーん」

 お下げの受付嬢が見せた板を、三人で覗き込む。
 キャロティは板の位置が高かったらしく、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
 彼女は僕の腰くらいの背丈しか無いからなあ。

「ちょっとバンキン! 背中貸しなさいよ!」

「えー、俺を踏み台にするのかあ? まあいいけど」

 バンキンは基本的に人がいい。
 キャロティがよじ登ってくるのを、そのままにしている。

「ふーん。第三層で建築やってた連中がモンスターを見かけたのね。見た目は肉食獣? なに? ひとり食べられたの? 触手が生えてる!? クァールね。厄介よー」

 クァールというのは、別世界から召喚されたという肉食獣型モンスターだ。
 ヒグマほどの巨体の黒豹で、肩から太い触手を二本ほど生やして、これを自在に操る。
 さらに、対面した相手を精神攻撃……マインドブラストで麻痺させたりしてくる。

 どれくらい強いかと言うと、まあシルバー級のパーティでも普通に全滅させられたりするレベルだな。
 なるほど、僕ら三人が名指しで集められたわけだ。

「めんどくせえが、ゴールド級は忙しそうだしな。行くかあ」

「仕方ないわね!」

「さっさとやっちゃおう、さっさと」

「お気をつけてー!」

 ということで、受付嬢に見送られながら遺跡へ向かう僕らなのだった。
 依頼を受けているから、無料で行ける。
 これはかなりいい感じだ。

 仕事にかこつければ、第一層の見物をし放題じゃないか。
 僕はあちこちよそ見しながら歩いた。

 キャロティも新鮮な野菜の匂いに惹かれるようで、あっちにふらふら、こっちにふらふら。

「お前ら、寄り道し過ぎだぞ! 俺はさっさと済ませて酒をかっくらいたいんだ!!」

 おお、バンキンが怒った。

「あんた声がでかいんだから怒鳴らないでしょ! あたし耳がいいからうっさいんだけど!!」

 ぴょんぴょん跳ねて怒鳴り返すキャロティ。
 君もなかなか賑やかである。

「帰りにじっくり見るとしようか。じゃあ第二層へ……」

 二人を促す僕だ。
 ここは一番大人になれる僕がこのパーティを引っ張らねばな、ふふふ。
 まさに潤滑油というやつだ。

「いや、お前があっちこっち見て回ろうとするからキャロティも気が惹かれたのでは?」

「細かいことは気にするなバンキン!」

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