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12・冷戦が始まってるんです?

第31話 戦争が始まるんです?

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 ギルドの中がバタバタしている。
 見覚えのある眼力ある人がいた。

 盗賊ギルド幹部、ゴールドランク冒険者のアーガイルさんだ。

「どうしたんですか」

「おお、ナザル! お前、フォーエイブル男爵家の狩りを護衛した時に、刺客を殺ったそうじゃないか」

「不殺です不殺」

「その後、逃げられなくなった連中が毒を噛んで死んだんだから同じようなもんだ。でだ。奴らの裏が取れたんだ」

 そう言えば、パリスン男爵はコトを盗賊ギルドに委ねるみたいな話をしていたような……。

「それでつまり、裏に大物がいたとか」

「奴らの腸の内容物から、西方の都市国家群ファイブスターズの魚介類が出た」

「あっ、それはまた」

 これはつまり、ファイブスターズ側からの攻撃である可能性が出てきたわけだ。
 大変だ。

「戦争になりますかね? アーランとファイブスターズだと正面からじゃ勝負にもならないと思いますが」

「当然だ。だからこれからは、俺達盗賊ギルドが忙しくなる」

 アーランはここ半世紀足らずほどの歴史しか無い新興国家だが、恐らく大陸一の大国だ。
 遺跡からもたらされる資源と富はそれほどに凄まじい。
 だから僕はカッパー級としていつまでもダラダラ暮らしていられるのだ。

 外国だったらそうはいかない。
 それに対して、ファイブスターズは五つの都市国家のゆるい連合。
 都市一つが国なので、規模も極めて小さい。

 資源、動員できる兵士の数、それから地形。
 どれもこれもアーランに軍配が上がる。

 向こうの国々が拡大できなかったのは、地形が悪いからでもあるしね。
 だから、都市国家群ファイブスターズはアーランに直接戦争を仕掛けてくることはあるまい。

 もっと裏側から手を回し、目に見えない形の戦いを挑んでくるのではないだろうか。
 それに、都市国家群はそれぞれが異なる国家の集まりだから、一丸となるのも容易では無いだろうし。

 アーガイルさんが冒険者ギルドで忙しそうに、書類の山を交換し合ったりしているのは、この戦いに僕ら冒険者も巻き込まれることを表していた。
 つまり。

「冷たい戦争の下準備とか、細々とした国からの仕事が増えるってことだね」

 稼ぎ時だ。
 これは、国から名指しで与えられる責任の重いシルバー級以上の仕事ではない。
 あまり大きな責任が伴わない、カッパー級でも参加できる気軽なお仕事なのだ!

 行われるのは恐らく、冷戦だろう。
 直接的な人死の少ない、水面下の戦いだ。
 なので僕らカッパー級は気楽に稼ぐつもりで、この仕事が何を意味してるのか分からないみたいな作業をやればいい。

 僕は鼻歌交じりで、仕事の貼り出された掲示板を見た。

「おほー、あったあった。密林を第三伐採地点からまっすぐ抜けた場所に旗を立てるだけの謎の仕事!」

 第三伐採地点。
 林業の職人たちは、密林の中でもりもりと木々を伐採している。
 伐採したそばから、生命力旺盛な木々は生えてくる。
 放っておくとアーランに迫ってくるわけだ。

 で、幾つか伐採のための拠点が確保されており、僕がいつも行くところは第一伐採地点。
 第三はアーランからも遠いし危険が多いから、なかなか行かないな。

 どれ、これは僕が引き受けるとしよう。
 早速この依頼の用紙を手にして受付に向かった。

 いつものお下げの受付嬢が、僕の持ってきた依頼を見て目を丸くした。

「一人で密林の第三伐採地点まで行くつもりですか? ヴォーパルバニーが出る地点です! 危険ですよ! あ、でもナザルさんだから平気か……」

「高く買ってくれているのか、匙を投げられているのか……」

「両方です」

 すぐに仕事受理のサインをしてくれた。
 魔法のインクでサインされて、これによって契約の儀式が簡易的に行われることになる。

 アーガイルさんが後ろからこれを見て、

「お前、また面倒くさい仕事を一人で引き受けるやつだなあ……。襲撃されるかも知れんぞ。まあ、油使いなら平気か」

 みんなこの態度なんだが?
 なお、この仕事があふれる状況でもリップルはあくまでギルドの片隅に鎮座して動かない。
 そのうち困った冒険者が相談に行くだろうから、そこで手伝いの手間賃なんかをもらうことだろう。

 あっ、早速意味不明の依頼を受けた新人たちがリップルへ相談に行っている。
 あの安楽椅子冒険者、悪い笑みを浮かべながら依頼の内容を解説なんかせず、やっぱり一回聞くと意味不明なアドバイスをしているな……。

 そのアドバイス、聞いておいた方がいいよ。
 意味不明かも知れないけど、それを守ってると生存率が跳ね上がるから。

 さて。
 僕は指定された場所まで行って、折りたたみ式の旗を受け取った。
 一人でやって来たので、依頼人はかなりびっくりしていた。

「えっ、一人で!? 大丈夫かなあ……。あ、これに君の髪の毛を一本縫い込むから。で、君が死んだらこの旗が燃え尽きる。いい? それで旗を設置したらこの髪は引き抜いて」

「うーん。意味のわからない依頼だ。楽しくなってきた」

 僕は旗をリュックに突っ込んで旅立った。
 一人だからフットワークがとても軽い。
 持ち物は、袋に密閉した粉だけ。
 これを僕の油の力で覆い、しけるのを防いでいる。

 いつもの第一伐採地点で、職人たちに素揚げをごちそうする。
 油祭りで大歓声を浴びつつ、感謝されながら新鮮な獲物をもらったり、山菜が自生し始めたところを聞いたりした。

 素晴らしい見返りだ。
 山菜をばりばり採取して、これで第三伐採地点の職人たちに天ぷらを作ってやろう。
 今や天ぷらは、僕の中で最大のブームなのだ。


 
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