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10・サトウキビ畑を見に行こう

第28話 サトウキビ畑と農業体験

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 お目当てのサトウキビ畑の場所を、そのへんの農夫の人に聞く。
 聞いただけだと悪いので、彼のとれたて野菜を一個買った。
 キャベツに似た葉野菜だ。
 名前も似てたような。

 これはギルドに戻ったらかき揚げにして食べよう。
 かき揚げにソースを掛けてパンに載せるのもいいな……。

 新たな野望を胸に秘め、キャベツ風葉野菜はリュックに放り込んだ。
 パンパンになってる。
 葉野菜一個持ち歩くものじゃないな。

 そしてとうとうサトウキビ畑に到着だ。
 この世界、キャベツやレタスと言った葉野菜が存在しないのに、じゃがいもとサトウキビが存在しているのだ。
 不思議……。

 青々と茂る背の高いサトウキビ。
 空には、この遺跡が映し出す幻の太陽が照り輝いている。
 それを受けて、サトウキビはぐんぐんと育ち、どんどん甘くなっていくのだ。

「壮観だ……」

 畑の入口に立って、この光景を見つめている。
 そう言えば、このすぐ近くにドロテアさんが眠っていた休眠ポッドみたいなものがあるんだったっけ。
 もう通過してしまったか……?

「おう、兄ちゃん観光かい? 第一階層には畑しかねえってのに物好きだねえ」

 新たな農夫の人が通りかかった。
 ずっと遺跡の中で暮らしているのだろうが、幻の太陽の日差しでこんがりと日焼けした人だ。
 ま、僕もごま油色の美しい肌の色をしているけどね!

「ええ、実は知り合いにここのことを教えてもらって、初めて遺跡に潜ったんですよ。いやあ……凄いですねえ、サトウキビ。こんなにたくさん、青々と実って」

「だろう? この遺跡はさ、上にある街の人達の活気を魔力にして吸い取ってるんだ。で、それが巡り巡って作物の栄養になる。作物は収穫されて、街の連中に元気を与える。みんなこう、巡ってるのよ。巡って」

 農夫の人が、ぐるぐるとろくろを回すような手つきをする。
 なるほどなあ。
 人の活気が作物を育て、作物の供給が人に活気を与える。
 完璧な循環なのだ。

「そうなんですねえ。あ、なんか収穫とかするなら手伝っていいですか? 実は畑仕事とか全くやったことなくて」

「観光なのに手伝うのかい! 物好きだねえほんと!」

 ということで、農夫の人に無理を言って手伝わせてもらうことになった。
 鎌で一本一本切断していくのかと思ったが……。

「そんなもん、幾ら時間があっても足りないよ! これよ、これを使うのよ」

 農夫の人が連れてきたのは、牛だ。
 そして牛が引いているのは、横に何本も鎌が突き出した機械。

「遺跡で発掘された道具でね。どうもこの遺跡が遺跡じゃなかった時代にも、第一階層は野菜を育ててたって言うじゃないか。で、これがこういう作物を刈り取るための道具で、なんと魔力を使ってないんだ」

「へえー! そいつは凄い!」

 僕は感心してみせたが、むしろこの世界の一般的な魔法より、こういう機械仕掛けの道具の方が馴染みが深い。
 これはきっと、魔力を余すこと無く作物に伝え、刈り取りは可能な限り魔力を使わないで行うために作られたのだ。

 農夫の人にやり方を教わり、僕は牛の鼻にくっついたロープを引っ張った。

「ぶもー」

 牛がのんびりついてくる。
 引っ張られた機械は、横についた鎌をジャカジャカと動かす。
 この距離を農夫の人がいい塩梅に弄り……。

 おおっ、歩くだけでサトウキビ畑が刈り取られていく。
 こりゃあ楽しい。

「刈り取り器の横に回るなよー! 大怪我じゃ済まないからな」

「了解でーす」

 牛を引っ張りながら、この畑の端まで歩く。
 この機械、ターンするのが難しいな。

「回らねえんだ。こいつはゆっくりと畑を取り囲むようにぐるっと巡って動いて、だんだん内側に入っていくの」

「ああ、四角い螺旋を描くように!」

 外側から内側に向けて刈り込んでいくのだ。
 牛が回ってくるまでの間に、刈り取られたサトウキビは農夫の家族の人たちがわーっとやって来て、脇に除けていく。
 万一、刈り取られた作物の上で牛がフンなんかしたら目も当てられないからだ。

 半分人力、半分牛力+機械。
 少々大変だが、牧歌的で大変よろしい。

「兄ちゃん、筋がいいなあ! どうだ? うちの下の娘と結婚して畑をやんねえか?」

「ははあ、僕もちょっとサトウキビ畑に魅力を感じてきたところです。ですけど今のところ奥さんをもらう気はなくて」

「ああそうなのかい、残念だ。ま、下の娘はまだ5つだけどよ」

 がっはっは、と農夫の人が笑った。
 そりゃああまりにも若すぎる。

 こうして僕はサトウキビの収穫を手伝った。
 このあと、砂糖の精製作業なんかがあるらしい。

 こちらの区画の畑は、彼ら農夫の一家というか一族が取り仕切ってる。
 他にも数か所サトウキビ畑と野菜畑があり、遺跡第一階層はアーランという大きな都市をまさしく支えているのだった。

「いや、堪能しました。ありがとうございます」

「おう! またいつでも来なよ! って言っても、よそもんは入場で金を取られるんだもんな。おいそれとやってこれねえよなあ」

 金を取ることは大事だと思う。
 何せ、作物の種を盗む泥棒が入り込めなくなる。
 タダだと、良からぬ輩がどんどんやってくることになるしね。

 お土産にサトウキビを一房もらった。
 皮を剥いた茎を噛みしめると甘い。
 だけどほんのりとってレベルだ。

「これを煮詰めて、濃厚な砂糖にするんだなあ……」

 この世界の砂糖は白くはない。
 琥珀色だ。
 国王のもとには真っ白な砂糖が出るというが……。
 僕はこの色付きの砂糖が好きだな。

 雑味がある感じが、料理や菓子に使うといい塩梅で映える。
 ただ……お茶に入れると雑味の主張が強い。
 僕はお茶はプレーン派だ……。

 こうして、第一階層観光を終えた。
 後で聞いたのだが、ドロテアさんのいた休眠ポッドは既に運び出され、魔法使いたちの学院というところに保管されているのだとか。
 今度はそっちを見に行きたいものだ。

「さて、第一階層で得た知見を安楽椅子冒険者殿に自慢しに行くとしようかな。ついでにかき揚げをマスターに提案したい……」

 休日一日目はこうして過ぎていくのだった。


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