9 / 203
3・到着せぬ依頼人
第9話 半グレアジトで大立ち回り
しおりを挟む
大変不本意だが、僕は拷問が得意である。
誰が何をされたら嫌なのか、何をされたら気分がいいのかをよく理解している。
だからこそ、油使いの力を使って効果的に拷問できるのだ。
下町では、喧嘩は日常茶飯事。
僕は喧嘩を装い、半グレ君を路地裏に連れ込んだ。
彼の下に油を敷けば、力を使わずにつるりと滑らせられる。
「ひいい、なんだよお前、お前ぇ! くそっ、いてえーっ! 腰がいてええーっ!!」
「残念ながら僕は治癒の魔法を使うことができない。怪我は君が無事であったなら、自己治癒させてくれ。それで聞きたいんだが……。奪った依頼書はどこだ? 君たちのアジトかい?」
「だっ、誰がお前に話すか!」
半グレ君は粋がって見せた。
だろうねえ……。
では拷問をしよう。
ああ、辛いなあ。
拷問なんかしたくないんだが。
とろとろと油を垂らし、彼の顔の表面を覆う。
「がばばっ! がっ! いぎ、でぎなっ」
油を回収する。
「どう?」
「ひゅーっひゅーっひゅーっ、な、なんのことだか分からな……」
「油タラー」
「がばばばばばば」
「どう?」
「や、やめでえ……! めちゃくちゃ苦しい……! 喋る喋るからあ」
「油タラー」
「ウグワワワワワーッ!!」
「嘘をついたらまたやるからね」
「もう嘘吐きません! 本当です!! 何もかも話します!!」
素直でよろしい。
僕は彼から、詳しい事情を聞いた。
知っている限りでは、やはりギルドのシルバー級冒険者に内通者がいる。
彼は半グレを使い、盗賊ギルド内での発言力を高めようとしている、と。
依頼書は奪われ、現在は半グレのアジトに保管されている。
半グレたちはゆるい組織でまとまっており、アジトも何箇所かある。
だが、依頼書に関してはこの近くにある、というわけだ。
ここからは荒事。
素早く行こう。
依頼書を取り戻せれば、まだ今日中に受注が間に合う仕事だってあるはずだ。
進行先に油を張って、高速で進行する。
半グレの数はそれなりにいるだろうから、まともにやり合っていたら命がいくらあっても足りない。
僕の得意なやり方をするまでだ。
つまり、奇襲だね。
「な、なんだお前はガブファッ」
「近づくんじゃねゲボアッ」
口に油の玉を叩き込んで黙らせる。
これ、魔力と引き換えだから回数制限がある。
やりすぎると高速移動もできなくなるからね。
廃屋を発見。
あれが下町にある半グレのアジト。
僕は扉の蝶番に油を染み込ませ、ヌルッヌルにしてスパーンと開けた。
「誰だっ!?」
振り返った半グレの足元に油を張って、その動きで転ばせるようにする。
「ウグワーッ!!」
テーブルの上に、依頼書の束を発見!
確保!
「てめえ、何者だ!! させるかよ!」
「会話に答える時間が惜しいから黙らせるね」
油玉を顔に叩きつける。
「ガババーッ!?」
「いけないいけない。このままでは油の量が足りなくなる……!! やっぱり一人で突撃は無茶だったかあ……!? 魔晶石くらいは確保してきたほうが……いやいや、それじゃあ赤字になるし……」
ぶつぶつ言いながら依頼書を抱えて外に飛び出す。
幸い、半グレの組織力はお粗末。
無力化した数人以外に集まってくる気配はない。
油断しきってるだろ、君ら。
気を緩めたところからミスは生まれてくるものだ。
そして僕も、今後は仲間を募って活動することも考えに入れないとな。
廃屋を飛び出して、裏路地を走る。
背後から怒号と足音。
やばいやばいやばい。
だが、好都合だ。
騒ぎが大きくなってきている。
こうなれば、下町のあちこちに存在している盗賊ギルドのメンバーが黙ってはいまい。
「半グレだーっ!!」
僕が叫んだら、明らかに裏路地にたむろしていた人たちの目の色が変わった。
立ち上がり、僕の後ろから来る連中に向かって走っていく。
ギルドの構成員らしき人が、僕と並走した。
緑のバンダナを被った、のっぺりした顔の男性だ。
「詳しく」
「依頼書関係なんで、機密があるんですけど」
「ああ、ギルド絡みか。了解だ。そんな事が起こってたんだな。よく取り戻してくれた」
「ええ、盗賊ギルドによろしくとお伝え下さい!」
「伝えておくよ、油使いナザル」
あっ、僕の名前をご存知でしたかあ。
「お前がどういう人間かはよく知っている。後ろの連中は任せろ。ああ、俺はアーガイルだ。何かあったらお前に声を掛けさせてもらうよ、ご同輩」
アーガイルと名乗ったバンダナの彼は、懐からギルドカードを見せた。
あっ、ゴールド級の盗賊!
大物だなあ。
アーガイルさんは僕を護衛するように路地の入口まで送った後、
「じゃあな」
とだけ言って姿を消した。
いやあ、怖い怖い。
敵には回したくないものだ。
僕はどこにでもいるカッパー級だから、万全の状況で一対一でなければやり合いたくないね。
おっと、ここで下町の冒険者ギルドに到着。
僕は堂々と凱旋し、依頼書の束を高らかに掲げた。
大歓声を上げる冒険者たち。
依頼書を受け取り、いつもの受付嬢がニッコリ微笑んだ。
「さすがです、ナザルさん! 信じてました! どこにあったんです?」
「それを聞くと、君も大変ヤバイ状況に巻き込まれるけどそれでも聞く?」
「や、やめておきます」
受付嬢は笑みを引きつらせた。
そして僕は……見慣れた安楽椅子冒険者をじっと見る。
「なんだなんだ、どうしたんだい我が助手よ。私が美しいのは今に始まったことじゃないとは思うが、荒事のあとで見とれてしまうのは仕方ないなあ」
今日も戯言を抜かしている。
この人、さっきのアーガイルより上なんだよなあ。
世の中、分からないものだ。
誰が何をされたら嫌なのか、何をされたら気分がいいのかをよく理解している。
だからこそ、油使いの力を使って効果的に拷問できるのだ。
下町では、喧嘩は日常茶飯事。
僕は喧嘩を装い、半グレ君を路地裏に連れ込んだ。
彼の下に油を敷けば、力を使わずにつるりと滑らせられる。
「ひいい、なんだよお前、お前ぇ! くそっ、いてえーっ! 腰がいてええーっ!!」
「残念ながら僕は治癒の魔法を使うことができない。怪我は君が無事であったなら、自己治癒させてくれ。それで聞きたいんだが……。奪った依頼書はどこだ? 君たちのアジトかい?」
「だっ、誰がお前に話すか!」
半グレ君は粋がって見せた。
だろうねえ……。
では拷問をしよう。
ああ、辛いなあ。
拷問なんかしたくないんだが。
とろとろと油を垂らし、彼の顔の表面を覆う。
「がばばっ! がっ! いぎ、でぎなっ」
油を回収する。
「どう?」
「ひゅーっひゅーっひゅーっ、な、なんのことだか分からな……」
「油タラー」
「がばばばばばば」
「どう?」
「や、やめでえ……! めちゃくちゃ苦しい……! 喋る喋るからあ」
「油タラー」
「ウグワワワワワーッ!!」
「嘘をついたらまたやるからね」
「もう嘘吐きません! 本当です!! 何もかも話します!!」
素直でよろしい。
僕は彼から、詳しい事情を聞いた。
知っている限りでは、やはりギルドのシルバー級冒険者に内通者がいる。
彼は半グレを使い、盗賊ギルド内での発言力を高めようとしている、と。
依頼書は奪われ、現在は半グレのアジトに保管されている。
半グレたちはゆるい組織でまとまっており、アジトも何箇所かある。
だが、依頼書に関してはこの近くにある、というわけだ。
ここからは荒事。
素早く行こう。
依頼書を取り戻せれば、まだ今日中に受注が間に合う仕事だってあるはずだ。
進行先に油を張って、高速で進行する。
半グレの数はそれなりにいるだろうから、まともにやり合っていたら命がいくらあっても足りない。
僕の得意なやり方をするまでだ。
つまり、奇襲だね。
「な、なんだお前はガブファッ」
「近づくんじゃねゲボアッ」
口に油の玉を叩き込んで黙らせる。
これ、魔力と引き換えだから回数制限がある。
やりすぎると高速移動もできなくなるからね。
廃屋を発見。
あれが下町にある半グレのアジト。
僕は扉の蝶番に油を染み込ませ、ヌルッヌルにしてスパーンと開けた。
「誰だっ!?」
振り返った半グレの足元に油を張って、その動きで転ばせるようにする。
「ウグワーッ!!」
テーブルの上に、依頼書の束を発見!
確保!
「てめえ、何者だ!! させるかよ!」
「会話に答える時間が惜しいから黙らせるね」
油玉を顔に叩きつける。
「ガババーッ!?」
「いけないいけない。このままでは油の量が足りなくなる……!! やっぱり一人で突撃は無茶だったかあ……!? 魔晶石くらいは確保してきたほうが……いやいや、それじゃあ赤字になるし……」
ぶつぶつ言いながら依頼書を抱えて外に飛び出す。
幸い、半グレの組織力はお粗末。
無力化した数人以外に集まってくる気配はない。
油断しきってるだろ、君ら。
気を緩めたところからミスは生まれてくるものだ。
そして僕も、今後は仲間を募って活動することも考えに入れないとな。
廃屋を飛び出して、裏路地を走る。
背後から怒号と足音。
やばいやばいやばい。
だが、好都合だ。
騒ぎが大きくなってきている。
こうなれば、下町のあちこちに存在している盗賊ギルドのメンバーが黙ってはいまい。
「半グレだーっ!!」
僕が叫んだら、明らかに裏路地にたむろしていた人たちの目の色が変わった。
立ち上がり、僕の後ろから来る連中に向かって走っていく。
ギルドの構成員らしき人が、僕と並走した。
緑のバンダナを被った、のっぺりした顔の男性だ。
「詳しく」
「依頼書関係なんで、機密があるんですけど」
「ああ、ギルド絡みか。了解だ。そんな事が起こってたんだな。よく取り戻してくれた」
「ええ、盗賊ギルドによろしくとお伝え下さい!」
「伝えておくよ、油使いナザル」
あっ、僕の名前をご存知でしたかあ。
「お前がどういう人間かはよく知っている。後ろの連中は任せろ。ああ、俺はアーガイルだ。何かあったらお前に声を掛けさせてもらうよ、ご同輩」
アーガイルと名乗ったバンダナの彼は、懐からギルドカードを見せた。
あっ、ゴールド級の盗賊!
大物だなあ。
アーガイルさんは僕を護衛するように路地の入口まで送った後、
「じゃあな」
とだけ言って姿を消した。
いやあ、怖い怖い。
敵には回したくないものだ。
僕はどこにでもいるカッパー級だから、万全の状況で一対一でなければやり合いたくないね。
おっと、ここで下町の冒険者ギルドに到着。
僕は堂々と凱旋し、依頼書の束を高らかに掲げた。
大歓声を上げる冒険者たち。
依頼書を受け取り、いつもの受付嬢がニッコリ微笑んだ。
「さすがです、ナザルさん! 信じてました! どこにあったんです?」
「それを聞くと、君も大変ヤバイ状況に巻き込まれるけどそれでも聞く?」
「や、やめておきます」
受付嬢は笑みを引きつらせた。
そして僕は……見慣れた安楽椅子冒険者をじっと見る。
「なんだなんだ、どうしたんだい我が助手よ。私が美しいのは今に始まったことじゃないとは思うが、荒事のあとで見とれてしまうのは仕方ないなあ」
今日も戯言を抜かしている。
この人、さっきのアーガイルより上なんだよなあ。
世の中、分からないものだ。
34
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺若葉
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~
フルーツパフェ
ファンタジー
エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。
前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。
死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。
先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。
弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。
――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!
中野莉央
ファンタジー
将来の夢はケーキ屋さん。そんな、どこにでもいるような学生は交通事故で死んだ後、異世界の子爵令嬢セリナとして生まれ変わっていた。学園卒業時に婚約者だった侯爵家の子息から婚約破棄を言い渡され、伯爵令嬢フローラに婚約者を奪われる形となったセリナはその後、諸事情で双子の猫耳メイドとパティスリー経営をはじめる事になり、不動産屋、魔道具屋、熊獣人、銀狼獣人の冒険者などと関わっていく。
※パティスリーの開店準備が始まるのが71話から。パティスリー開店が122話からになります。また、後宮、寵姫、国王などの要素も出てきます。(以前、書いた『婚約破棄された悪役令嬢は決意する「そうだ、パティシエになろう……!」』というチート系短編小説がきっかけで書きはじめた小説なので若干、かぶってる部分もありますが基本的に設定や展開は違う物になっています)※「小説家になろう」でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる