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3・到着せぬ依頼人

第9話 半グレアジトで大立ち回り

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 大変不本意だが、僕は拷問が得意である。
 誰が何をされたら嫌なのか、何をされたら気分がいいのかをよく理解している。
 だからこそ、油使いの力を使って効果的に拷問できるのだ。

 下町では、喧嘩は日常茶飯事。
 僕は喧嘩を装い、半グレ君を路地裏に連れ込んだ。

 彼の下に油を敷けば、力を使わずにつるりと滑らせられる。

「ひいい、なんだよお前、お前ぇ! くそっ、いてえーっ! 腰がいてええーっ!!」

「残念ながら僕は治癒の魔法を使うことができない。怪我は君が無事であったなら、自己治癒させてくれ。それで聞きたいんだが……。奪った依頼書はどこだ? 君たちのアジトかい?」

「だっ、誰がお前に話すか!」

 半グレ君は粋がって見せた。
 だろうねえ……。
 では拷問をしよう。

 ああ、辛いなあ。
 拷問なんかしたくないんだが。

 とろとろと油を垂らし、彼の顔の表面を覆う。

「がばばっ! がっ! いぎ、でぎなっ」

 油を回収する。

「どう?」

「ひゅーっひゅーっひゅーっ、な、なんのことだか分からな……」

「油タラー」

「がばばばばばば」

「どう?」

「や、やめでえ……! めちゃくちゃ苦しい……! 喋る喋るからあ」

「油タラー」

「ウグワワワワワーッ!!」

「嘘をついたらまたやるからね」

「もう嘘吐きません! 本当です!! 何もかも話します!!」

 素直でよろしい。
 僕は彼から、詳しい事情を聞いた。
 知っている限りでは、やはりギルドのシルバー級冒険者に内通者がいる。
 彼は半グレを使い、盗賊ギルド内での発言力を高めようとしている、と。

 依頼書は奪われ、現在は半グレのアジトに保管されている。
 半グレたちはゆるい組織でまとまっており、アジトも何箇所かある。

 だが、依頼書に関してはこの近くにある、というわけだ。
 ここからは荒事。

 素早く行こう。
 依頼書を取り戻せれば、まだ今日中に受注が間に合う仕事だってあるはずだ。

 進行先に油を張って、高速で進行する。
 半グレの数はそれなりにいるだろうから、まともにやり合っていたら命がいくらあっても足りない。
 僕の得意なやり方をするまでだ。

 つまり、奇襲だね。

「な、なんだお前はガブファッ」

「近づくんじゃねゲボアッ」

 口に油の玉を叩き込んで黙らせる。
 これ、魔力と引き換えだから回数制限がある。
 やりすぎると高速移動もできなくなるからね。

 廃屋を発見。
 あれが下町にある半グレのアジト。
 僕は扉の蝶番に油を染み込ませ、ヌルッヌルにしてスパーンと開けた。

「誰だっ!?」

 振り返った半グレの足元に油を張って、その動きで転ばせるようにする。

「ウグワーッ!!」

 テーブルの上に、依頼書の束を発見!
 確保!

「てめえ、何者だ!! させるかよ!」

「会話に答える時間が惜しいから黙らせるね」

 油玉を顔に叩きつける。

「ガババーッ!?」

「いけないいけない。このままでは油の量が足りなくなる……!! やっぱり一人で突撃は無茶だったかあ……!? 魔晶石くらいは確保してきたほうが……いやいや、それじゃあ赤字になるし……」

 ぶつぶつ言いながら依頼書を抱えて外に飛び出す。
 幸い、半グレの組織力はお粗末。
 無力化した数人以外に集まってくる気配はない。

 油断しきってるだろ、君ら。
 気を緩めたところからミスは生まれてくるものだ。

 そして僕も、今後は仲間を募って活動することも考えに入れないとな。
 廃屋を飛び出して、裏路地を走る。

 背後から怒号と足音。
 やばいやばいやばい。

 だが、好都合だ。
 騒ぎが大きくなってきている。
 こうなれば、下町のあちこちに存在している盗賊ギルドのメンバーが黙ってはいまい。

「半グレだーっ!!」

 僕が叫んだら、明らかに裏路地にたむろしていた人たちの目の色が変わった。
 立ち上がり、僕の後ろから来る連中に向かって走っていく。

 ギルドの構成員らしき人が、僕と並走した。
 緑のバンダナを被った、のっぺりした顔の男性だ。

「詳しく」

「依頼書関係なんで、機密があるんですけど」

「ああ、ギルド絡みか。了解だ。そんな事が起こってたんだな。よく取り戻してくれた」

「ええ、盗賊ギルドによろしくとお伝え下さい!」

「伝えておくよ、油使いナザル」

 あっ、僕の名前をご存知でしたかあ。

「お前がどういう人間かはよく知っている。後ろの連中は任せろ。ああ、俺はアーガイルだ。何かあったらお前に声を掛けさせてもらうよ、ご同輩」

 アーガイルと名乗ったバンダナの彼は、懐からギルドカードを見せた。
 あっ、ゴールド級の盗賊!
 大物だなあ。

 アーガイルさんは僕を護衛するように路地の入口まで送った後、

「じゃあな」

 とだけ言って姿を消した。
 いやあ、怖い怖い。
 敵には回したくないものだ。

 僕はどこにでもいるカッパー級だから、万全の状況で一対一でなければやり合いたくないね。
 おっと、ここで下町の冒険者ギルドに到着。

 僕は堂々と凱旋し、依頼書の束を高らかに掲げた。

 大歓声を上げる冒険者たち。
 依頼書を受け取り、いつもの受付嬢がニッコリ微笑んだ。

「さすがです、ナザルさん! 信じてました! どこにあったんです?」

「それを聞くと、君も大変ヤバイ状況に巻き込まれるけどそれでも聞く?」

「や、やめておきます」

 受付嬢は笑みを引きつらせた。
 そして僕は……見慣れた安楽椅子冒険者をじっと見る。

「なんだなんだ、どうしたんだい我が助手よ。私が美しいのは今に始まったことじゃないとは思うが、荒事のあとで見とれてしまうのは仕方ないなあ」

 今日も戯言を抜かしている。
 この人、さっきのアーガイルより上なんだよなあ。
 世の中、分からないものだ。

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