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第29話 光の街道:町の暴動
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驚くべきことに。
帝国の町には、城壁が無かった。
砦の外にある、俺が育った村や辺境の町には、必ず壁があった。
城壁と呼べるほど上等なものではなくても、モンスターの侵入を防ぐためのトゲを生やした、大きな柵で周囲を囲まれていた。
町や村から出ないで一生を過ごす人間も珍しくない。
そんな世界だ。
それが、帝国の中に入ると、壁がないのだ。
「ひえー。これ、モンスターが出たらどうするつもりだ?」
俺が驚いて呻くと、道行く人が不思議そうな顔をした。
「あんた、何を言ってるんだ? モンスターなんか出るわけが無いだろう。そんなもの、辺境にしかいないんだぞ」
とんでもない事を言う。
俺がびっくりしていたら、代わりにエレジアが話をしてくれた。
「それって、砦があるからモンスターが入ってこれなかったってこと?」
「あ、ああ」
「じゃあ……砦が壊れちゃったから、モンスターが入ってくるんじゃないの?」
「な……なんだって……!?」
町の人の顔が真っ青になった。
そして、慌ててバタバタと走り出す。
「た、大変だ! モンスターだ! モンスターが来るぞ!!」
「砦が壊れたからか!? 畜生、誰だ砦を壊したのは!」
「帝国が辺境にモンスターを追い払ってくれてたのに、余計なことをして!」
「今まで平和だったのに!」
町が騒がしくなってきた。
おばかのレンジは、「おっ、祭りか祭りか」なんて言ってるがそんな訳はない。
周囲を見回しながら、ストークがふん、と鼻を鳴らした。
「勝手なものだ。辺境にも多くの人が住み、モンスターと戦い続けてきたというのに。それを他人事だと思って、今までは平和だったのになどと言うのだ。結局、みんな自分ごとにならなければ何も理解しないのだろうな」
「世の中そんなもんでしょ」
マーチは達観している。
「あたしら、これからこういう世界をぶっ壊すことになるんだから、もっととんでもなことになるわよ」
「……ちょっと気の毒」
「まあねえ。気の毒だけど、そうじゃなきゃあたしらが殺されるでしょ? 殺される前にやる。これが生き残る鉄則。ま、世界が大混乱になるのはその余録みたいなもんだよね」
きしししし!とマーチが笑った。
ラプサはいつもの困ったような顔だが、あれはあれで、ちゃんと覚悟を決めてるのだ。
付き合いも長くなってきて分かるようになったぞ。
大混乱になりつつある町の中、適当な飯屋に入った。
「な、なんだあんたたち! 今日は店じまいだ! いつモンスターがやって来る分からないんだぞ! 食料を他人になんか出してられるか! これを持って家に立てこもるんだ!」
店の主人がとんでもない事を言った。
ああ、なるほど、そう来るかー!
モンスターが来る→家の中に立てこもる→そのための食料を確保する。
「なるほど、間違いのない考え方だ」
俺はうんうん頷いた。
だけど、それって他の町の連中も考えるだろ?
そいつら、この店を見逃してくれるわけ?
暴動でも起こったら、食料がありそうなところから略奪されるぞ。
町の様子は、徐々に殺気立ってきているのが分かる。
近くの店先に、町の人間が大勢で押し込んでいった。
そして、悲鳴が上がる。
食料や商品を持った町の人間が出てくる。
店先は破壊され、踏み潰され、散々な有様だ。
「俺たちがちょっと守ってやるし、なんなら巣ごもりの手伝いをするからさ。ちょっと飯を作ってくれない?」
「そ、そんなこと……」
店の主人は言いながらも、周囲の店が徐々に略奪され始めているのを見て理解したようだ。
町の人間が、暴動を起こし始めているぞ。
なんと言うか、どんどん彼らの殺気が強くなってきている気がする。
普段から、帝国に押しつぶされて、息を殺すように生きていたのかも知れないな。
で、そこに砦が失われ、モンスターが襲ってくるというストレスが降り掛かった。
彼らの中に溜まり込んでいたものが爆発した……とか?
「おい、こっちの店にも食料があるぞ!」
「奪え!」
「よこせ!」
「ほら来たぜ。どうする?」
店の主人が真っ青になる。
「ま、守ってくれえ! うちには妻と娘がいるんだ! 食料はあいつらのために取っておかにゃならん!」
「よし来た」
俺は店の外に出る。
「オービター、どうするの?」
「暴動を収めるには、正気に戻るくらいとんでもない恐怖を与えてやるのがいいんだって聞いたことがある。そう言うのは俺が専門じゃん」
俺の目の前には、丸太や包丁、ナイフで武装した民衆がいる。
みんな目を血走らせて、食料をよこせと叫んでいるな。
「落ち着け」
俺は両手を広げて前に突き出した。
「どけー!!」
「食料をよこせ!」
「店には食い物があるはずだ!」
「モンスターが来る前に、食料を集めなきゃ!」
「だから落ち着けと言うのに」
俺は一応、声を掛けた。
だが、誰も聞く素振りを見せない。
それどころか、彼らのうちの何人かが、俺に殴りかかってきた。
「どけ、小僧!」
「どかないなら殺すぞ!!」
「落ち着かないなら、落ち着かせてやろう!! ライトニングビーム!!」
広げた手の五指は、空を向いている。
それが一斉に、雷撃のビームを放った。
地から天へと、轟音を上げながら登っていく十本のビーム。
民衆の怒号が完全にかき消されるほどの音だ。
誰もが目を見開き、口を開け、光と音の衝撃の前で、さっきまで抱いていた殺気をどこかに吹き飛ばされた。
「ば……化け物!」
「ひいいい! モ、モンスター!」
「出たあー!!」
口々に叫びながら、彼らは逃げ出した。
ライトニングビームの轟音で、一時的に音は聞こえないだろう。
だが、だからこそ、周囲の人々が踵を返して逃げ出す様子に不安を覚えたらしい。
暴徒が、ただ逃げるだけの群れになる。
「あー、まあ、これは私にも責任があるよねえ。モンスターが来るなんて言わなきゃよかった」
エレジアが苦笑している。
「いやー、でもモンスターが入ってくるのは時間の問題だろ? 備えもなしにモンスターに襲われるのと、ここで聞かされてパニックになるの、どっちも同じだったんじゃないか?」
「そうかな? そうかも」
かくして俺たちは、約束通りの食事にありついた。
アザラシ魔王との戦い以降、何も食っていなかったので助かった。
キュウリとハムのサンドイッチ、美味いけどすぐ消化されてエネルギーになってしまったもんな!
あとはちょっとお弁当を作ってもらい、お礼に店の周りをラプサの魔法剣で囲んだ。
「……これ、一ヶ月くらい持つから。あと、ちょっと落ち着いたら、町の人で城壁を作るようにした方がいい。これからは、自分で自分の身を守る時代だから……」
ラプサが真剣な顔で言うのを、店の主人が呆然としながら聞いているのだった。
帝国の町には、城壁が無かった。
砦の外にある、俺が育った村や辺境の町には、必ず壁があった。
城壁と呼べるほど上等なものではなくても、モンスターの侵入を防ぐためのトゲを生やした、大きな柵で周囲を囲まれていた。
町や村から出ないで一生を過ごす人間も珍しくない。
そんな世界だ。
それが、帝国の中に入ると、壁がないのだ。
「ひえー。これ、モンスターが出たらどうするつもりだ?」
俺が驚いて呻くと、道行く人が不思議そうな顔をした。
「あんた、何を言ってるんだ? モンスターなんか出るわけが無いだろう。そんなもの、辺境にしかいないんだぞ」
とんでもない事を言う。
俺がびっくりしていたら、代わりにエレジアが話をしてくれた。
「それって、砦があるからモンスターが入ってこれなかったってこと?」
「あ、ああ」
「じゃあ……砦が壊れちゃったから、モンスターが入ってくるんじゃないの?」
「な……なんだって……!?」
町の人の顔が真っ青になった。
そして、慌ててバタバタと走り出す。
「た、大変だ! モンスターだ! モンスターが来るぞ!!」
「砦が壊れたからか!? 畜生、誰だ砦を壊したのは!」
「帝国が辺境にモンスターを追い払ってくれてたのに、余計なことをして!」
「今まで平和だったのに!」
町が騒がしくなってきた。
おばかのレンジは、「おっ、祭りか祭りか」なんて言ってるがそんな訳はない。
周囲を見回しながら、ストークがふん、と鼻を鳴らした。
「勝手なものだ。辺境にも多くの人が住み、モンスターと戦い続けてきたというのに。それを他人事だと思って、今までは平和だったのになどと言うのだ。結局、みんな自分ごとにならなければ何も理解しないのだろうな」
「世の中そんなもんでしょ」
マーチは達観している。
「あたしら、これからこういう世界をぶっ壊すことになるんだから、もっととんでもなことになるわよ」
「……ちょっと気の毒」
「まあねえ。気の毒だけど、そうじゃなきゃあたしらが殺されるでしょ? 殺される前にやる。これが生き残る鉄則。ま、世界が大混乱になるのはその余録みたいなもんだよね」
きしししし!とマーチが笑った。
ラプサはいつもの困ったような顔だが、あれはあれで、ちゃんと覚悟を決めてるのだ。
付き合いも長くなってきて分かるようになったぞ。
大混乱になりつつある町の中、適当な飯屋に入った。
「な、なんだあんたたち! 今日は店じまいだ! いつモンスターがやって来る分からないんだぞ! 食料を他人になんか出してられるか! これを持って家に立てこもるんだ!」
店の主人がとんでもない事を言った。
ああ、なるほど、そう来るかー!
モンスターが来る→家の中に立てこもる→そのための食料を確保する。
「なるほど、間違いのない考え方だ」
俺はうんうん頷いた。
だけど、それって他の町の連中も考えるだろ?
そいつら、この店を見逃してくれるわけ?
暴動でも起こったら、食料がありそうなところから略奪されるぞ。
町の様子は、徐々に殺気立ってきているのが分かる。
近くの店先に、町の人間が大勢で押し込んでいった。
そして、悲鳴が上がる。
食料や商品を持った町の人間が出てくる。
店先は破壊され、踏み潰され、散々な有様だ。
「俺たちがちょっと守ってやるし、なんなら巣ごもりの手伝いをするからさ。ちょっと飯を作ってくれない?」
「そ、そんなこと……」
店の主人は言いながらも、周囲の店が徐々に略奪され始めているのを見て理解したようだ。
町の人間が、暴動を起こし始めているぞ。
なんと言うか、どんどん彼らの殺気が強くなってきている気がする。
普段から、帝国に押しつぶされて、息を殺すように生きていたのかも知れないな。
で、そこに砦が失われ、モンスターが襲ってくるというストレスが降り掛かった。
彼らの中に溜まり込んでいたものが爆発した……とか?
「おい、こっちの店にも食料があるぞ!」
「奪え!」
「よこせ!」
「ほら来たぜ。どうする?」
店の主人が真っ青になる。
「ま、守ってくれえ! うちには妻と娘がいるんだ! 食料はあいつらのために取っておかにゃならん!」
「よし来た」
俺は店の外に出る。
「オービター、どうするの?」
「暴動を収めるには、正気に戻るくらいとんでもない恐怖を与えてやるのがいいんだって聞いたことがある。そう言うのは俺が専門じゃん」
俺の目の前には、丸太や包丁、ナイフで武装した民衆がいる。
みんな目を血走らせて、食料をよこせと叫んでいるな。
「落ち着け」
俺は両手を広げて前に突き出した。
「どけー!!」
「食料をよこせ!」
「店には食い物があるはずだ!」
「モンスターが来る前に、食料を集めなきゃ!」
「だから落ち着けと言うのに」
俺は一応、声を掛けた。
だが、誰も聞く素振りを見せない。
それどころか、彼らのうちの何人かが、俺に殴りかかってきた。
「どけ、小僧!」
「どかないなら殺すぞ!!」
「落ち着かないなら、落ち着かせてやろう!! ライトニングビーム!!」
広げた手の五指は、空を向いている。
それが一斉に、雷撃のビームを放った。
地から天へと、轟音を上げながら登っていく十本のビーム。
民衆の怒号が完全にかき消されるほどの音だ。
誰もが目を見開き、口を開け、光と音の衝撃の前で、さっきまで抱いていた殺気をどこかに吹き飛ばされた。
「ば……化け物!」
「ひいいい! モ、モンスター!」
「出たあー!!」
口々に叫びながら、彼らは逃げ出した。
ライトニングビームの轟音で、一時的に音は聞こえないだろう。
だが、だからこそ、周囲の人々が踵を返して逃げ出す様子に不安を覚えたらしい。
暴徒が、ただ逃げるだけの群れになる。
「あー、まあ、これは私にも責任があるよねえ。モンスターが来るなんて言わなきゃよかった」
エレジアが苦笑している。
「いやー、でもモンスターが入ってくるのは時間の問題だろ? 備えもなしにモンスターに襲われるのと、ここで聞かされてパニックになるの、どっちも同じだったんじゃないか?」
「そうかな? そうかも」
かくして俺たちは、約束通りの食事にありついた。
アザラシ魔王との戦い以降、何も食っていなかったので助かった。
キュウリとハムのサンドイッチ、美味いけどすぐ消化されてエネルギーになってしまったもんな!
あとはちょっとお弁当を作ってもらい、お礼に店の周りをラプサの魔法剣で囲んだ。
「……これ、一ヶ月くらい持つから。あと、ちょっと落ち着いたら、町の人で城壁を作るようにした方がいい。これからは、自分で自分の身を守る時代だから……」
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