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フィフスエレ帝国跡編

第143話 コンボと虎とお姉ちゃん

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 助手席にコンボの達人を配置した。
 運転席は、嫌そうな顔をしたルミイ。

「なんか知らない人を助手席に乗せて運転したくないんですけどー」

「ガーン」

「おいルミイ、コンボの達人がショック受けてるじゃないか。こいつ、精神は割りと繊細なんだな……」

「この世界に来てから最大のダメージを受けた……。俺のハートがKOされそうだ、別の意味で」

「ある意味ルミイがすげえな」

 後部座席にはナルカ、アカネル、カオルン。
 アカネルとカオルンが細いので、ギュッと詰め込んでも全く問題がない。

「この二人でルミイ一人分くらいかね……」

「そこまでわたし太くないですよー!! 腰回りちゃんと細いんですから!」

「出るところ出てるだろ? この間ルミイのお尻に弾かれて、あたいぶっ飛ばされたんだからね」

「ナルカを吹っ飛ばすの凄いなあ」

 思わず感心してしまう俺である。
 こんな感じで和気あいあいとしながら、Uターンしてフィフスエレ帝国跡を目指す。
 コンボの達人は思ったよりも静かで、あっ、こいつ人見知りしてる!? と俺は気付いたね。

 あれか?
 世界最強の異世界召喚者は陰キャしかいないのか?

 確かに陽キャは、こんな格ゲーキャラのごった煮みたいな格好して格ゲーキャラみたいな語録で会話しないよな。

「コンボの達人静かじゃん。女子が多くて緊張してる?」

「女は強くなるためには邪魔だし伸びしろがないから」

「こいつ凄い問題発言したぞ。おい黙れ」

 色々やばいやつだ。
 これ以上喋らせないようにしよう……。

 途中、ルミイがフィフスエレに向かうバーバリアンチームと連絡を取ったらしい。
 彼らは、アビサルワンズの神官を仲間に加え、上位眷属ヘプタゴンの召喚に成功。
 軍団になって森を目指しているらしい。

 傍から見ると、きっと魔物の群れみたいだよな。
 俺も見てみたいもんだが、きっとそんな余裕はないに違いない。

 何しろ、目の前にフィフスエレの森が迫ってきているからだ。
 決戦の時は近い。
 決戦するのはこの、借りてきた猫みたいになっているコンボの達人だが。

 こいつ、本当に女子に囲まれてると大人しくなるのな……。

「本当に大人しいねえ……。これがあの、ガガンを赤ん坊扱いで一蹴した男とは信じられないねえ……」

 ナルカもそう思うか。
 ルミイは別に以外そうでもなんでもなく。

「えー? だってこの人、近くに精霊が寄り付きませんよ? マナビさんやオクタゴンさんと一緒ですよう。精霊は世界の脅威を嫌うんですから」

 なにその新情報?

「じゃあもしかして、あのドラゴン……ルインマスターも精霊が近くにいなかった?」

「もちろんです! ドラゴンが現れたら、精霊が一気に逃げ出しましたもん」

 ルミイがいると、相手の強さチェッカーみたいなのをやってくれそうだ。

「ちなみにカオルンはコンボの達人を見てどう思う?」

「んー、見た目は強そうじゃないのだ。だけど、なんとなく感覚で、カオルンはこいつに勝てないと思うのだ。マナビやオクタゴンと同じ気配がするのだ」

 そうかー。
 じゃあ、正真正銘、コンボの達人は同類なんだな。

「だそうだぞ、コンボの達人よ」

「俺より強いやつに早く会いに行きたい……。女子が多いと居心地が悪い……」

「こいつ」

 濃いやつだ!
 自分に敵意や悪意を持ってない女が近くにいると、もじもじしてしまうタイプの男である。

 早くドラゴンにぶつけるのがこいつのためだろう。
 森に突っ込んだ俺たち。

「おい、ルインマスター!! いるだろ! 聞いてるだろ! 連れてきたぞ、お前の敵! こいつなら全力でぶん殴っても全部受け止めるぞ!」

 俺が叫ぶと、森がざわざわと揺れた。
 空に暗雲が出現し、闇に飲まれた木々が凄まじい速度で枯れ始める。

 ルインマスターが現れる場所には、等しく死と滅びが降り注ぐのだ。
 黒い翼が、暗雲を断ち割って出現した。

 木々を引き裂きながら降り立つのは、巨大な漆黒のドラゴン。
 赤く輝く目が、俺たちを豪然と見下ろした。

『見事なり。約束を違えぬとは、見上げた男だ』

 実にカッコいいルインマスターの出現。これを受けて、借りてきた猫は虎になった。 
 さっきまで静かだったコンボの達人が、別人のような覇気を放って立ち上がる。

「俺より強いやつに……会いに来た!! チェイサーッ!!」

 謎の叫びを上げながら跳躍する。
 くるりと宙返りし、ルインマスターの眼前に着地した。

 挨拶代わりに放たれる、ルインマスターの滅びのドラゴンブレス!
 巻き込まれた草花が一瞬で萎れ、風化し、崩れ去っていった。

 これを、コンボの達人は拳で受ける。
 弱パンチ連打だ!
 打撃の数でブレスを相殺する。

「あ、あれは何をやってるのだ!? カオルンには理解できないのだ!」

「別次元の戦いだぞ。相手の攻撃をヒット数に換算して、必要分のヒット数を叩き込むことで相殺するんだあいつは。ドラゴンはコンボの達人に任せればいいってよくわかっただろ。俺らは横を移動する。じゃあな、二人とも!」

「ああ! ここは任せて先に行けーっ! いやあ、戦いになってくれて助かった」

『うむ、此奴とならば楽しめそうだ。ご苦労であった!』

 なんか二人から感謝の言葉を述べられつつ、先に急ぐ俺なのだった。

「マスター。ここからは、ルインマスターの眷属を撃破する必要があります。生き残ったフィフスエレの住人たちが、従ってくれる魔獣とともに眷属との戦いを続けています」

「ほうほう、全滅はしてなかったか」

「九割の魔法使いが死亡しました。一般の住民は九割五分が死亡しています」

「ほぼ全滅じゃん」

 だが、生きているものがいるならば助けておいたほうがいいかもしれない。
 せっかくフィフスエレに帰ってきたのである。
 やれることはやっておこう。

 そう思って、バギーは木々の間を疾走する。

「むむっ!! マナビさん、なんだか精霊たちがめちゃくちゃ喜んでます!」

「なんだなんだ」

 相変わらずバギーの横をラバーに乗って疾走する俺だが、ルミイの警戒がよく分からない。
 精霊が喜ぶってどういうことだ?

 その疑問はすぐに解決することになった。
 頭上の枝葉がバキバキと折れて、そこから何者かが、俺の後ろに飛び降りてきたのだ!

「いい男の気配がするわーっ!! と思ったら、精霊がまとわりついてきてうっとおしいんだけど!!」

「うおー、誰だ誰だ」

「気配もなくやって来たのだ! でも敵意が全然無いのだなー」

 カオルンが呑気な感じなので、危険はないのだろう。
 後ろから、いい匂いがする。

「あーっ、エリイ姉さん! 何してるんですかー! その人はわたしの旦那様ですよう!!」

「あら、ルミイじゃない! 奇遇ねー!」

 振り返ったら、オレンジ色の髪の女がいた。
 ルミイの顔立ちを、ちょっと気が強めにしたような。

「妹の旦那を取るわけにいかないわね。ちぇー」

 思わぬ人物と出会ってしまったのである。

 
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