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フィフスエレ帝国跡編

第142話 馬とバギーと達人

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 コンボの達人をドラゴンと戦わせるため、俺たちは出発した。
 フォーホース帝国の端っこの村を目指して。

 メンバーは、俺、ルミイ、カオルン、アカネル。
 ここに、ナルカとゾンビホースのルサルカラバーが加わる。

 凍土の王国から取り寄せた魔導バギーを使うんだが、これ四人乗りなのだ。
 小柄なカオルンや細身のアカネルがいるなら、後部座席で五人乗れるが……。

 コンボの達人が増えると、あと一人分の座席が必要だからな。
 そこを、ルサルカラバーで補う。

 乗馬は俺な。

「よし、行くぞラバー! 走れ走れー」

「ぶるる」

 ゾンビホースがとっとこ走る。
 これ以上の腐敗を止めるための魔法を、ルサルカ神自ら施したラバーは、実質的にゾンビホースからアンデッドホースという上位存在へ進化したらしい。
 デュラハンのヘッドレスホースとかと同格の、高位アンデッドだぞ。

『これはマナビさんに私からのプレゼントです』

「こいつはどうも」

 儚げな金髪美少女のルサルカに俺がデレデレしていたら、ルミイとカオルンとアカネルからペチペチ叩かれた。
 いたいいたい。
 オクタゴンも出てきて、

『俺様のステディに色目を使ったら兄弟と言えど全面戦争だぞ……』

 とか言われた。
 俺はNTRを誰よりも憎む男。
 そんなことはしないさ!

 だが、奥さんたちから嫉妬されてこれはこれで気持ち良いものだった。
 そんな記憶を思い起こしながら、ラバーに乗って風を切る。
 いやあ、乗馬って本当にいいものですねえ。

 尻が痛くなるらしいが、あいにく俺の尻はこの世界で最も鍛え上げられているので問題ない。
 そしてルサルカラバーは疲れを知らない。
 アンデッドホースなので、疲労などでダメージを受けた器官はさっさと再生するそうだ。

 実質無限に走れるじゃん。
 本来は陽光に弱いらしいが、これもルサルカの加護マシマシで克服した。

「多分その子、ルサルカ様の眷属でも司祭様に次ぐくらいの格を得てるんじゃないかねえ」

 ナルカがとんでもないことを言った。

「ラバー、お前そんな凄いアンデッドになったのか」

「ぶるる」

 ラバーは何も答えてくれない。
 馬としての役割に徹する職人肌なのだ。

 こうして、俺たちは順調にシクスゼクスの国境を抜けた。
 あちこち魔獣に蹂躙されてるもんだから、魔族による防備なんか全くない。
 そして魔獣も魔族の反撃でダメージを負っているから、出会いざまに殴ると死ぬ。

 大変楽な行程だった。
 国境を抜けて右折するとスリッピー帝国。
 直進するとフォーホース帝国。

「目的地は近いぞ。ここだ」

 空中に、ヘルプ機能を通じて地図を表示する。
 アカネルがいると、一瞬で検索できるから便利だ。
 彼女はとても重要な役割を負っているのだが、傍目からだと分かりづらいんだよな。

 そんなアカネル、座席の上でカオルンに足を支えてもらいつつ、腹筋などしていた。
 頑張れ頑張れ。

 そして運転は不本意そうなルミイ。

「わたし、運転はもう絶対ヤダって言ったじゃないですかあー! さっきも魔獣の群れを切り抜けさせられたし!」

「凄いハンドルさばきだったねえ……」

 ナルカが感心している。
 そうだろう、そうだろう。
 何気に魔導バギーの運転だと、ルミイが一番上手いのだ。

 マニュアル通りの操縦ならアカネルが安定感があり、長時間の運転もできる。
 だが、緊急時のアドリブが必要な運転になると、ルミイの才能が生きる。

 最初のころも、スリッピー帝国の軍隊に突っ込んで無傷のままバギーを生還させたからな。
 本人は認めないが、天才的ドライバーだぞきっと。

 内心で呟いてても伝わらないので、口に出して「ルミイは天才ドライバーだから偉い、すごい」と言っておいた。
 偽らざる本心なので、それがわかったルミイがニヤニヤする。

「そんなあー。褒めても何も出ませんよー? うへへへ」

「凄く嬉しそうだね」

「いいか、ナルカ。夫婦円満のためには口に出して相手を褒めるのが大事なのだ……」

 これでしばらくはドライバーを続けてくれるだろう。
 さて、フォーホース帝国に侵入したのだが、全く見張りもいなければ、魔法的障壁もない。

「はあ、はあ……。お、恐らく障壁は、魔力の星が落ちたことで途切れたものだと思われます……。もともと、平行世界の技術を活かした、相手を閉鎖空間に飛ばすタイプの障壁があちこちに張り巡らされていたのですが」

 アカネルの説明がシャレにならない。
 なお、彼女は車上でできるトレーニングのお陰で息が切れている。

「たちが悪いなあ。だからこの国、侵入できなくて謎に包まれてたのか」

 今は丸裸である。
 障壁が無くなったばかりか、人にも会わないとはどういうことだ。

「フォーホース帝国は異世界召喚者と、彼らの能力をコピーした人造兵士で戦力を賄っていました。それがいないということは……敗れたのでしょう」

「敗れたかあ」

 誰に敗れた、なんてのは考えるだけ無駄である。
 俺たちがここに誰を迎えに来たのかを考えれば、答えはすぐに出る。

 村があった。
 村人たちはびくびくしており、彼らの中心で、あぐらをかいて飯を喰らっている男が一人いる。
 バンダナ、袖なし道着、ジーンズ、スニーカー。

 見た目だけなら、なんか勘違いしたようなコスプレっぽい兄ちゃん。
 だが、実力を知っている俺ならば分かる。
 溢れ出るような覇気が辺りを満たしている。 ……気がする。

「よう、コンボの達人」

 ラバーを止めて声をかける。
 男は飯を食い終わり、立ち上がった。

「新しい挑戦者か(Here Comes A New Challenger)?」

「俺だよ俺。セブンセンスで出会った男だ」

「……人の顔を覚えるのが苦手なのだ……」

「そうか。だがな、お前がやる気になる話を持ってきた。聞いてみる気はないか?」

「やる気になる話……?」

 コンボの達人は興味なさげである。
 強くなりすぎたあまり、この男とまともに戦える相手が極端に減ってしまった。
 戦いこそ生きがいの彼にとって、世界は退屈であろう。

「お前より強い相手を紹介してやる」

「なにっ!!!!!!!」

 めちゃくちゃ食いついてきた。

「連れて行ってくれ!! 俺は戦う! 戦わねばならん!!」

「おう。敵はドラゴン。星渡りの竜だ。多分、俺の見立てだと……その気になれば一国をたやすく滅ぼすレベルの、生きる災厄だな。拳一つで立ち向かってみるかよ、コンボの達人!」

「うおおおおおお!! 我、ついに真の敵を得たり!!」

 コンボの達人が天に向かって咆哮した。
 村人たちが震え上がる。

 いきなり、誰でも分かるくらいの覇気をぶちまけやがったな。
 魔力でも闘気でもない。
 第三の力、覇気だ。

 こうして俺は、ドラゴン・ルインマスターにぶつける担当をゲットしたのである。
 
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