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凍土の王国編

第103話 初夜からそれどころじゃない事態へ

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 新郎は特に何もやることがない。
 着飾った女子たちをガン見しながら、もりもりと飯を食った。
 食事が進む進む。

 ルミイもむしゃむしゃ食べながら、じーっとこっちを見て何か言いたげである。
 だが食べるのが終わらないので、何も言わない。

 カオルンはすぐに飽きて、ドレスのまま会場をぶらぶら歩き回り始めた。
 おっ、なんか男たちが寄ってきて、カオルンにわあわあ言っているな。
 だが伝わってないようだ。

「マスター、マスター」

「なんだいアカネル」

「どうです? 当機能をドレスアップしてもらったのですが、なかなか良い外装だとは思いませんか」

「おお! めちゃくちゃ可愛い。清楚な感じのアカネルがまるで花嫁さんのような可愛らしい美しさだな! 緑のドレスも似合ってる」

 俺は色々言葉を選んだのである。
 アカネルは実に嬉しそうに微笑む。

「マスターはまだお気づきではないようですが」

「うんうん」

「マスターは、この王国に、ルミイとともに側室の二人を連れてきたと判断されています」

「ほうほう……えっ」

 凄いことを言われた。

「なので、当機能は花嫁です。間違いありません」

「もぐぐー」

 ルミイがもぐもぐしながら頷いた。
 食べてからにしなさい。

 彼女はジュースをグビグビ飲んで口の中のものを飲み下すと、用意されていた布で顔をぐいぐいっと拭いた。
 お化粧落ちるのではないか。
 というか、こんなにめちゃくちゃ飲み食いする花嫁初めて見たわ。

「あのですね! アカネルが言った通りなんです! バーバリアンはそういう風習なんですよ! 強い男が女たちを養うんです!」

「なるほどー。強いと奥さんが複数いる国かあ」

「強いだけじゃなくて、養えないといけないですけどね! だからここだと、みんな強くなろうとして必死なんです。ただ、女も強くならないと生き残れないことが割りとあるので強くなるんですけど! もちろん、男は女より強くないといけなかったり色々大変なんです」

「どこもかしこも、その土地なりの苦労があるもんだな」

 俺はほえーっと感心した。
 すると、バーバリアン王バルクが話に加わってくる。

「そういうことだ。お前は幸い、正体不明の強さを持ち、三人の娘とともに旅をしながらも彼女たちに満足な寝食を提供できていた。これは強い男として十分だ。甲斐性とも言うな。だから、ルミイを任せる……ぬぐぐぐぐぐ」

 おお、鋼の拳が震えている。

「あなた、拳を下ろして」

 ルリファレラがそーっとバルクの拳を降ろさせた。

「今後は、そちらにいる邪神さんの奥さんを探しに行くのよね? ガガンくんの奥さんも探すの? あらあら! 同性に優しい男は、やがてそれを慕って人が集まってくるものよ。ルミイはいい男を見つけたわねえ」

 このエルフなお義母さん、懐がでかいなあ。
 あと、長生きしているだけあって人の歴史なんかにも詳しいようだ。

 凍土の王国を建てた王は、どこからか現れ、バラバラだった部族を戦いの中でまとめ、バーバリアンの王国を築き上げたのだと言う。
 ルリファレラ曰く、男たちからの求心力が凄かったらしい。

『俺様も大変楽しみにしている……』

 オクタゴンがしみじみと呟いた。

『蛮神バルガイヤーはさっき接触してきたが、男神だからな。既に月の女神と結婚してて羨ましい』

「神と話したのか!? 何もしていないように見えたが!?」

 これにはバルクも驚く。

『俺様のこの姿は、小指一本ぶんだと言っただろう。本体は遠きイースマスの地にある。だが、俺様の一部がここに来たことで、凍土に存在するバルガイヤーと接触できるようになったのだ。そこで分かった懸念があってな』

「懸念?」

 この邪神の言葉としては珍しい。
 俺は問い返した。

「なんだそれ」

『魔力の星がゆっくりと降下を始めたようだ。魔法の時代がもうすぐ終わるぞ。魔法帝国群は崩壊し、混乱の時代がやってくる』

 オクタゴンの予言を聞いて、バルクはニヤリと笑った。

「望むところだ。これで魔法使いどもを駆逐し、凍らぬ大地を手に入れる事ができる。次の繁栄は俺たちバーバリアンがいただく」

「そうね。魔法帝国は好き勝手をし過ぎたもの。時代の終わりにはひどい目に遭ってもらわないとね」

 ルリファレラも同じ気持ちのようである。
 やる気満々。
 さすがバーバリアンの王と妃。

『俺様が心配なのは、その流れで俺様の嫁探しが有耶無耶にならないかなのだ』

「ははは、任せろオクタゴン。最優先で行くぞ」

『本当か! 信頼しているぞ兄弟』

「やってやるぜ兄弟」

「なんだかオクタゴンさんと仲良しで嫉妬します!!」

 ルミイがむくれたので、みんな笑った。
 いやあ、実にいい時間である。

 結婚式の宴は夜遅くまで続いた。
 夜になれば冷えるのだが、みんな強い酒などを飲んで騒いでいる。

 俺は冷えるのはごめんなので、部屋の中へ引っ込むことにした。

『では、俺様はまたイースマスに戻る。何かあったら声を掛けてくれ』

「おう、お疲れ!」

 オクタゴンは手を振ると、空間に溶け込むように消えていった。
 さて、俺は最近すっかり慣れた我がねぐらに戻る……。

 と思ったら、まるいおばちゃんがやって来て俺の手をガシッと掴んだ。

「新郎が行くとこは違うんだよ! こっちこっち!」

「うわー、なんだなんだ」

 この人、ルミイの担当をしてたおばちゃんではないか。
 俺は凄いパワーで引っ張られていった。

 向かうのは宮殿。
 その四階。

 ルミイの部屋ではないか!?
 
 ま、ま、まさかこれは……!
 そうか、確か式が終わったら、このイベントだったはず……!!

 部屋の中央部には、キングサイズよりもでかそうなベッドが一つ。
 そしてそれを取り囲む、トーテムポールみたいな彫刻柱が四本。
 毛皮が天蓋のように被せられ、暗くなった屋内を燭台が照らしている。

 ベッドの上には、ルミイがいた。

「よ、ようこそー!」

 明るい感じで迎えてくれるが、緊張感で声が震えている。
 纏っているのは、薄物一枚。

 明らかにその下は素っ裸である。

「ルミイ様、がんばんなよ! あんたも!」

 おばちゃんは俺の背中をパーンと叩くと出ていった。

「マナビが来たのだ!」

「ふう……これから見届けですか……。今後の参考にさせてもらいます」

 ベッド脇の椅子に、カオルンとアカネルがいる。
 なんということであろう。

 大変なことになってしまった。
 俺はぎくしゃくとした動きで、ベッドに向かった。

 そして、大きく深呼吸する。

「マナビさん?」

「よし、覚悟を決めた。やろう!!」

 そう告げるなり、俺は衣服をバーンと脱ぎ捨て、空中を飛翔しながら待ち受けるルミイにダイブ!
 これからくんずほぐれつな夜が始まる……と思った矢先だった。

 かなり遠くの方で、ピカッと光るものがあった。

「魔力の反応なのだ! 凄いのだ!」

 カオルンが立ち上がり、今まさにことに及ぼうとしていた俺とルミイをふんづけて「むぎゅう」「むぎゃあ」窓に駆け寄っていく。

「マナビ! ルミイ! アカネル! 見るのだ! 魔力の星が落ちていくのだ!!」

「ほ、本当です! これは一大事です!!」

 アカネルの声も動揺していた。
 ルミイとともに起き上がり、窓から外を眺めてみると……。

 見慣れた巨大な月、魔力の星エーテリアが、思った以上の速度で落下していくところだった。

 それは大地に激突したのだろう。
 アホほど太い光の柱が出現し、夜空が昼間のように明るくなった。

 そして聞こえてくる、轟音。
 はるか遠くで起こっている事なのに、音が聞こえてくるとはどういうことだ。

「初夜どころじゃなくなっちゃいましたね……!!」

 ルミイが呟いた。
 ほんとだ!!
 ちくしょう!!
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