上 下
101 / 196
凍土の王国編

第101話 スニークミッションから箱の中へ

しおりを挟む
 俺とルミイの結婚が決まったら、後は話が早かった。
 結婚式の準備が始まったのだ。

 俺が邪神っぽいものとトモダチであることとか、明らかに蛮神に敵対する勢力なのではないかということは置いておかれた。
 王であるバルクが認めたからだな。
 それに俺は超強いというのを見せつけたので、異議があるやつも口出しするのがちょっと怖いらしい。

 そんなわけで、王国のあちこちで大工仕事が行われている。
 会場を作ってるんだな。

「結婚式ってのは盛大にやるんだなあ」

 俺がぼんやりしながら呟いたら、ガガンが「わはは」と笑った。

「マナビ、お前は賢いと思ってたがちょこちょこ鈍いところがあるな。いいか。これはルミイとお前だからこそ大仰な事になってるんだ」

「そうなのか!」

 そうだぞ、と頷くガガン。
 かいつまんで説明をしてくれた。

 一般のバーバリアンたちなら、簡単な宴をやってそれを結婚式にしてしまうそうだ。
 エルフたちは精霊に結婚を伝え、彼らの祝福を受ける。傍目には地味なんだそうだ。

 だが、ルミイは王族の末姫。
 しかもバルクの子で最初に結婚するのだ。

 ちなみにバーバリアン王にはあと二人奥さんがいるが、まだ小さい女の子ばかりが四人いるのだとか。
 ルミイが嫁いだ今、バーバリアン男子たちはこの娘たちを、将来自分の奥さんにすべく研鑽を積み始めているらしい。

「結婚というのは、一族の外にいるものを取り込む意味がある」

「ふむふむ」

「個人的なものではないんだ。魔法使いどもはそこが分かってない。だからだんだん弱くなっていってる」

「ほうほう」

「凍土の王国は、マナビ、お前を仲間に取り込んだんだ。これで王国はさらに強くなる。もう魔法帝国にも負けない。蛮神の他に、もう一柱の神も味方になるんだからな」

「なーるほど、そういうことか!」

 内部に対しても、外に対しても、凍土の王国は強大なものと同盟を結んだのだと見せつけるための儀式でもあるんだな。

『そういうことかあ。なんだ、なら俺様、そっちに行って宴のご相伴に与りたいぞ』

「オクタゴンが来ると狂気が撒き散らされるからなあ」

『半日我慢できる。ってことで、式には顔をだすぞ』

 そういうことになった。

 邪神オクタゴン、結婚式に参列!!
 この衝撃的な一報は、瞬く間に王国を駆け巡った。

 結婚式を準備する人々はめちゃくちゃ熱が入り、会場がかなり豪華になった。
 あちこちに丸太で柱が完成し、装飾が彫り込まれている。
 この上から、塗料をつけていくのだそうだ。

 俺はと言うと……。
 バーバリアンのおばさんたちがやって来て、ワイワイと体の寸法を測っていった。

「あら、ひ弱に見えたけど案外筋肉ついてるわね!」

「これは体が小さいから分からないだけね。いいじゃないいいじゃない」

「やめてくださいセクハラですあーれー」

 おばさんにペタペタ触られる俺なのだった。
 なお、この数日女子たちには会えていない。

 ルミイなら分かる。
 専用のドレスかなんか作ってるんだろう。
 それに儀式みたいなのを覚えなきゃいけないらしく、缶詰になってるのだ。

 カオルンとアカネルはどうしたんだ。
 ヘルプ機能を呼び出せるが、連絡はつかない。
 こ、この行方不明感……。

 まさかNTR……!!
 俺はガクガク震えた。
 の、脳が破壊される!

 ということで、俺は宮殿に忍び込むことにしたのだった。
 チュートリアルを駆使し、守りについているバーバリアンを回避していく。

 みんな浮かれていて、まさか花婿がスニークミッションしてくるとは思ってもいない。
 俺は壁を這い、天井にぶら下がりながら移動した。

 そして花嫁の部屋っぽいのを発見!
 刺繍がいっぱいされた布が運び込まれていくぞ。
 そろり、と隙間から覗いた。

 すると、そこにいたカオルンと目が合ったのだった。

 俺は素早く、口元に人差し指を立てて静かにしてもらうよう要請する。
 ちなみに、カオルンは可愛いドレスを着ており、なんか退屈そうだった。
 こっちにトトトっと走ってきて、

「マナビ、カオルンは暇で死にそうなのだ。なんか、カオルンとアカネルの服も作るみたいなのだ。大変そうなのだー。冒険の話とかたくさん聞かれてお話したのだ。お話よりもカオルンは外に出たいのだー。でも、結婚式の明後日まで駄目なのだー」

 おお、しなしなとしている。
 しかし、どうしてカオルンとアカネルまで必要なのだ。
 解せぬ。

 なんか儀式に必要なサムシングがあるんだろうか。
 俺はカオルンに別れを告げ、またスニークアクションに戻った。
 シャカシャカ移動し、誰かが通りかかると素早く箱を被り、やり過ごす。

「誰かいたような……。いや、何の気配もない」

 通りかかったやつがいなくなった。
 チュートリアルはこういうのにも使えるのだ。

 途中、アカネルの部屋も発見した。
 あいつめ、何を嬉しそうにニコニコして、スカートの裾を摘んでくるっと回ったりしているのか。
 超可愛いではないか。

 ちょっと見とれてたら、宮殿の廊下を歩く人々に見つかりそうになったので、慌てて箱を被ってやり過ごした。
 そして移動を再開。

 宮殿最深部にて、ルミイを発見したのだった。

 ここまで、大型の施設の中を移動しているようだったが、凍土の王国の宮殿はそこまで広くない。
 小規模な小学校くらいの大きさなのだ。
 ルミイがいたのは自室……つまり四階だった。

 そこで、何やらおばちゃんに、式の中で読み上げる言葉みたいなのを教えてもらっている。
 一生懸命にこれを繰り返してるのはなかなか可愛い。

 俺は箱の隙間から、ニコニコしながらこれを見守った。

「ルミイ様良かったですねえ。ここにいたころは、宮殿でずっとつまらなそうな顔をされてたのに」

「そうですか? わたし、ニコニコしてたんですけど」

「あたしは宮殿で働いて長いんですよ。それにルミイ様よりもずっと長く女をやってますから。相手がつまらなそうだとか、今とっても嬉しそうだとかよーく分かるんです」

 おばちゃんはそう言いながら笑った。

「ルミイ様がさらわれた時は、もう二度と会えないもんだと思ってましたけど。まさかとんでもないお婿さんを連れてこられるとはねえ……。バルク様を正面からぶちのめす男なんて、あたしゃ初めて見ましたよ! あの人、子供の頃から負け知らずですから」

「パパは強いもの。だけどマナビさんはもーっと強いかもですよ?」

「そのマナビさんの事を言ってる時、ルミイ様の声がちょっと高くなるんですよ。本当に大好きなんですねえ」

「あひー」

 な、な、なんだってー!!
 俺は動揺のあまり、箱の中でガクガクと震えた。
 箱が音を立てる。

 流石に気付かれた。

「く、曲者だよー!! みんな来ておくれー!!」

 宮殿の中のバーバリアンがわいわいと集まってくる。 
 しまった!!
 俺は箱とともに、高速で宮殿の中を逃げ回るのである。
 ついに三階の窓から飛び出した。

「箱が飛んだ!!」

 箱のままで、着地する。
 そして宮殿の一階に当たる倉庫部分に身を隠すと、ほとぼりを覚ますことにするのだった。

 得られた情報量が多くて、俺は今何も考えられないぞ。
 だが、明後日の結婚式までは待てそうなのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...