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凍土の王国編

第93話 求婚の権利問題から決闘の始まりへ

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 広場に集まっていたバーバリアンたちが、周囲をぐるりと囲むように席を設け、そこに決闘場が完成していた。

 決闘はバーバリアンの最高の娯楽らしいな。
 魔獣なんかを捕まえてきて、ここで戦士と戦わせたりするらしい。

 外国の魔法使いを捕らえたりすると、やっぱりここで魔獣と戦わせたりするとか。
 大変に野蛮である。

「ふうーっ! オレは問題ないぜ。おいモヤシ野郎。お前は武器を使ってもいいぞ。そうでなきゃ、絶対的強者のオレと絶対的弱者のお前じゃ勝負にならんからな」

「そいつはどうも」

 ガガンがニヤニヤ笑いながら、鋼の拳を打ち付けている。
 闘気を纏い、鋼の如く変化した腕を使って殴るのがこの男の戦い方らしい。
 さっきヘルプ機能で調べた。

 ガガンは完全に勝利を確信し、俺など眼中に無いようだ。

 まあ、俺の外見はお世辞にも強そうには見えないし、魔力も闘気も持ってないことは確認されているしな。
 だから、ボディチェックすらされなかった。

 俺の体に魔法の刻印とかされてて、それで特殊なパワーを使うかも知れないのに。
 いや、もちろん何も無いが。
 完全無欠の手ぶらである。

「本当に何も持たなくていいのか? お前、それは蛮勇だぞ? ガガンはああ見えて、若手最強の戦士だからな」

 ルミイパパであるバルクが、なんか言ってきている。

「うむ、強いんだろうなーということは分かる。だが、まあまあ俺もやる方なので見ていて欲しいなお義父さん」

「誰がお義父さんかーっ!! い、いや、ガガンに万一勝てれば考えてやらんこともない……」

「うほっ、言質いただきました!」

 俺とバルクの会話を聞いていたようで、ガガンのこめかみに青筋が浮かんだ。

「てめえええええ!! ルミイはオレのもんだあああああ!! 手出ししようってのか、モヤシ野郎!! 手加減してやろうと思ったが、やめだ! ここでぐちゃぐちゃに捻り潰してやるあああああ!!」

 ガガンの、まさに咆哮。
 これには、やんややんやと盛り上がる観衆なのだ。
 みんな酒が入ってる。

 なお、ルミイとカオルンとアカネルは、ニコニコしている。
 あれは絶対、俺がまた相手を煽ってるとか思っているんだろう。

 今回はまだおとなしい方だぞ。
 煽りまくったらガガンの株が急降下してかわいそうだろう。
 あいつはまだ若いっぽいし。

「やっちまえガガンー!!」

「一発だ! 一発でのしちまえ!」

「バーバリアン魂見せつけろー!」

 わいわいと沸く観衆に対し、「……」と冷静なエルフたちなのだ。
 じーっと俺の挙動を見ている。

「よーし! では、決闘を始める! ガガンが勝てばルミイへの求婚を許そう! それでいいな!」

「いいとも!」

「ねえ、俺は? 俺が勝ってもなんにもないの?」

 勝利の商品を求める俺に、バルクが嫌そうな顔をした。

「分かった分かった。じゃあお前の求めるものを言ってみろ」

「おう。俺は下心全開でここまでやって来た。勝利したら、ルミイは正しい意味でいただく」

 一瞬、静まり返る決闘場。
 そして、バーバリアンの若き男子たちが全員、いきり立って叫び始めた。

「殺せー!! そのモヤシを殺せー!!」

「ガガン、やれ! やっちまえ! 殺しちまえ!」

「許せねえー!! 俺たちのルミイをこんなモヤシ野郎が!」

 みんな敵になってしまった。
 不思議だなあ。

 ガガンは顔を怒りで真っ赤にしている。
 首や肩も赤く染まっているな。
 めちゃくちゃ怒ってる。

「こっ! ろっ! すっ!!」

「お前も同じようなこと言ってたじゃん」

「もがーっ!!」

 言葉が通じなくなってしまった。
 バルクはいきり立つ若者たちを見て、満足気に微笑んだ。
 殺気や怒りなどは、バーバリアンの戦闘意欲を増すので、好ましい反応なんだろう。

「よし、始めよ! お前たちの力を示せ! 蛮神バルガイヤーに戦いを捧げよ!」

「「「「「「「「「「捧げよ!!」」」」」」」」」」

「ほーん」

 バーバリアンたちが唱和したので、俺は大変感心した。
 棒立ちである、
 そこに、ガガンが掴みかかってきた。

 いきなり捕まえてくびり殺す気である。

「チュートリアル、行ってみよう」

 そこでいつもの発動だよ。
 ガガンの動きを観察してみる。

 こいつは単純明快なパワーファイター。
 ただ、闘気によって両腕が凶器そのものになっている。

 かすれば命取り、掴まれたら一巻の終わり、拳を地面に叩きつける衝撃波が発して、下手に巻き込まれるとずたずたになる。
 ほほー、これは強い。
 でかい口を叩くだけある。

 だがまあ、攻撃範囲を理解するとそこまで怖くないよなあ。

 俺はガガンの動きをよく見て覚えた。
 攻撃範囲もしっかり把握する。
 衝撃波は避けるより、これに乗って飛び上がった方がいいな。

 そして闘気とやらの特性をチェック。

「こいつのは放出するタイプか。腕に闘気とか言うのを集めているけど、溜めきれずに溢れ出て、そいつが衝撃波を作るんだな。制御しきれてないじゃないか」

 若いなーと微笑ましくなる俺なのだった。
 衝撃波の指向性も把握した。
 これ、乗るのは楽ちんだな。

 で、こいつの弱点も把握した。
 攻撃をぶち込みきった瞬間、一番頑丈なはずの鋼の腕が、闘気のあまりの量にパンパンに膨れてるじゃない。
 水がいっぱいに詰まった風船のようだ。

 これはあれだな。
 溢れ出す闘気の方向をいじってやれば一発だ。
 どれどれ?

 うわー、破裂した。
 これは勝ちですわ。

 ガガンの見せ場も考えて、大体五手くらいで詰ませる事にしよう。

 俺は戦いの組み立てと、動き方の練習を終え、現実の時間へ戻ってくるのである。
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