召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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スリッピー帝国編

第47話 思わぬ出会いは学内から

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 学内を三人で練り歩く。
 今のところ、手がかりはなし。
 なので、あちこちをキョロキョロしながら情報収集ということになる。

「こういうのはカオルンが詳しいのだなー」

「おお、さすがは元皇帝の懐刀」

「カオルンの本職は、こういう密偵なのだな。たまたまヘカトンケイル級の戦闘力を持っているだけなのだな」

「よくよく聞くとチートじゃないか」

 圧倒的個人戦闘力を持つ工作員。
 敵の懐深くまで潜入してから、致命的ダメージを与える大暴れができるわけだ。
 こりゃあ強い。

 だが、皇帝ストライアスの性格的にそう言うことをやってなかったというわけだな。

「カオルンは強いのだ」

「うむ」

「そんじょそこらの魔導兵器にだって負けないのだ」

「うむ」

「そのカオルンがタクルというやつには勝てないのだ? まだ納得いかないのだ!」

「あー、まだ引っかかっていたか」

 タクルの能力は、対象限定のチャームだ。
 それ自体は俺にとっては恐ろしくない。
 だが、能力対象である女性にとっては致命的である。

 接触できる範囲にいると確実に負けるのだ。
 遠距離から攻撃して倒すしか無い。

 だがあいつ……スローゲインとは真逆のタイプという気がするんだよな。

 用途が制限された、言ってしまえば凡庸な能力を研鑽して鍛え上げているタイプ。
 アイナやスローゲインは災害みたいなもんだが、それだけに対処がハマったら一気に倒せた。

 タクルは、俺が相手をする異世界召喚者で、初めての”人間”だ。
 意識的にチートを振るう人間は怖いぞ。
 俺みたいにな。

 だから、念のために女子たちをあいつに触れさせるわけにはいかないし、タクルの意識を女子たちに集中させるわけにもいかないのだ。
 俺は用心深いのだ。

 行動を起こすのは、あいつの能力の情報を集めてからだ。
 ヘルプ機能で探ってもいいが、実際に能力の発現するところを見ておいた方が、チュートリアルの役にも立つ……。

「ヘルプ機能、一応聞くが、タクルの能力は接触だけか?」

『召喚当初は接触だけでした。現在はタクルの能力鍛錬により、一定の射程距離を持ちます。投げキッスが同等の効果を持つ射撃攻撃です』

「やべえ!! 本当にやべえなあいつは! カオルン、そういうことであいつは危険だぞ」

「納得出来ないのだー!」

 力こそパワーな環境で生きてきたカオルンに、搦め手の権化みたいなタクルは理解できないか。
 カオルンがグーだとしたら、あいつはパー。

 ますますこちらも搦め手でぶっ倒さないといけないぞ。

 なお、そんな話をしている俺たちの後ろで、ルミイはスリッピーくんに入ったままでムームー言いながら歩いていた。
 時々、学生たちが駆け寄ってきて、彼らとキャッキャしている。

 エンジョイしているなあ。

 すっかりスリッピーくんになりきっているルミイを眺めてつつ、あちこちに駆け出そうとするカオルンの手を引いて制御しているとだ。
 横合いにある窓を破って、何者かがぶっ飛んできた。

「ウグワーッ!?」

 そいつは服が黒焦げになり、顎を砕かれて白目を剥いている。

「雷の魔法なのだ! 接触式だから、ブラストボルトなのだな。割りと高位の魔法なのだー。最近こういうのを使える魔法使いは減ってるのだ。ちなみにこの魔法じゃ顎は砕けないはずなのだ。不思議なのだ」

「ほうほう」

 カオルンの説明がありがたい。
 破れた窓からは、白い髭の男が顔を出した。
 べっ甲柄のメガネを直しつつ、ふん、と鼻息を吹かす。

「全く、友愛団とやらは講義の妨害ばかりをする。学生の本分を果たさずしてなんのための学生か」

 おっ、大学の教授らしい。
 これは話を聞けるかもしれない。

「すみません、聴講できますか」

 俺が声をかけると、白い髭の教授はじろりとこちらを見て、ふっ、と笑った。

「私の講義は魔力を持たない者にも開かれている。講義室にきたまえ。まだ講義は始まったばかりだ」

 おお、話が分かる。
 それに一瞬で俺に魔力感知の魔法を使ったな?

 その後、カオルンとルミイの魔力を見てびっくりしていた。

 講義内容は、魔法工学概論とかいうものだった。
 魔法をどうして、機械で再現可能なシステムに落とし込むのか。
 その理由から効果などを話す講義だ。

 ははあ、この教授……。
 世界の魔力が弱まっていっている事を知っているな?
 スリッピー帝国も、その考えを基本として魔法科学みたいな方向に舵を切っている。

 それは、魔力の星が落ちると知っている俺からすると、正しい考えだと分かった。
 今のまま、魔力全能主義でいると三年後くらいに地獄落ち決定だからな。

 ……待てよ?
 タクルはシクスゼクス帝国からの間諜なんだったよな。
 あいつはこの軍事国家否定運動みたいなのを起こして、魔法科学を停滞させようとしてるんじゃないか?

 そうなれば、スリッピー帝国の力は弱まり、魔力の星が落ちたらめでたく地獄行きだ。

 ははあ、まだ予測に過ぎないが色々つながってきた。

 なお、ルミイはきぐるみの中で、講義の間はずっと寝ていたのだった。

 講義後。
 教授に接触して情報を集めることにするのだ。

「教授、この後は暇ですかね」

「ああ。幸運なことに五限までは余裕があるとも。その五限は古代魔法語読解だから、君にはあまり関係ないと思うがね、偽学生くん」

「鋭い」

 この教授、なかなかの切れ者である。

「君の目的はなんだ」

「うーむ、それは秘密なんだが、最終的にはタクルという男をぶち殺す」

「おお、ストレート」

 教授がちょっと引いた。
 その後、ニヤリと笑う。

「君も気付いていたか。スリーズがおかしくなったのは、彼がやって来てからだ。数々の研究は、学生と軍の一部がサボタージュを行っていることで停滞している。このままでは、近くやってくる終わりの日に間に合わなくなる……!」

「話がわかる人だなあ。じゃあ、学生食堂で飯でも食いながら」

「ははー。マナビは工作員もやれるのだなー! カオルンは感心したのだ! で、また食堂でご飯を食べるのだな?」

「食べるんですか!? わたしも食べます!!」

 ルミイが食堂と言う言葉に反応し、覚醒したのだった。
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