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スリッピー帝国編

第38話 三人称視点・一般人or最精鋭兵士

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 スリッピー帝国は、魔導軍事国家である。
 魔導兵器設計の異能を持つ異世界召喚者を迎えた彼らは、ワンザブロー帝国を滅ぼすべく力を貯めていた。

 そして今。
 強大な軍事国家と思われていたワンザブロー帝国が、お粗末な魔力しか無い破綻国家であることが明らかになった。

 スリッピー帝国は即座に、侵略を決定したのである。

 放ったのは、グリフォン部隊。
 帝国が誇る部隊、魔導アーミーの筆頭である、空陸をカバーする最強の部隊だ。

 例えヘカトンケイルが出てきても、撃破して見せるという自負が彼らにはあった。
 意気揚々と帝都を出発し、ワンザブロー帝国との国境線に到着。

 ここから先は敵地。
 目につく全ては破壊していいし、都市からは略奪し放題だし、人民は蹂躙し放題だ。

 グリフォン部隊の士気はまさに最高潮だった。

 そこに、一台の魔導カーが走ってきたのである。
 側面と前方に、ワンザブロー帝国の紋章!

 グリフォン部隊を率いる魔導将軍、デオーチスはニヤリと笑った。

「ちょうどいい! あの魔導カーを最初の獲物とし、魔力の星を不当に占有せしめる悪徳国家ワンザブロー帝国粉砕始まりの一手としてくれよう!! 全軍、攻撃開始!!」

 魔導カーに乗っているのが、明らかに非武装な連中で、それぞれバラバラの服装をしている。
 一人は魔力皆無の一般人で、一人はふわふわローブのハーフエルフ娘、そして唯一強い魔力を感じられるのが尻尾の生えた少女である。
 この不自然な組み合わせについて、デオーチス将軍は無視することにした。

 粉砕してしまえば変わらないからである。

 その考えの無さが、デオーチス将軍とグリフォン部隊の命運を決めることとなった。

「将軍! 当たりません! 攻撃が当たりません! 突っ込んできます!! 魔導カーが正面から突っ込んできて……あーっ! 戦車が! 我が軍のファイアボール級戦車の側面に穴を! あっ、ファイアボール級戦車が友軍を無差別に攻撃し始めました! 乗っ取りです! 乗っ取られました!!」

「な、な、な、なんだとぉーっ!?」

 デオーチス将軍は目を剥いた。
 敵帝国の魔導カーを攻撃すると決定してから、ほんの数分のことである。

 敵は最短ルートを最速でたどった。
 まさに神速。あっという間に戦車を奪われ、グリフォン部隊に馬鹿にならない被害が出ていた。

「ええい、ヘリを出せ! スプリットファイアボール級ヘリで、戦車ごと焼き尽くしてやれ!」

「し、しかし友軍がまだ周りに! あの戦車、友軍にまとわりついて他からの攻撃を許しません!!」

「歴戦の兵士が乗りこんだのだろう! だが少数では限界があるということを教えてやる! 構わんぞ、焼き尽くさせろ!!」

 確認した限り、敵には一般人とハーフエルフと少女しかいなかった、という事実はデオーチス将軍の頭から都合よく抜け落ちている。

「了解!!」

 命令を受けた魔導ヘリは、上空から爆撃を開始する。
 複数の範囲魔法を圧縮して放つ、凄まじい破壊魔法である。

 その名はヘリに冠されている。
 スプリットファイアボール。

 爆裂火球と呼ばれる魔法を、魔導ヘリサイズに拡大したものなのだ。

 放たれた爆撃魔法は、乗っ取られた戦車と、その周辺の友軍を焼き払った。
 なお、爆撃の直前、ギリギリ被害を一切受けないタイミングで敵の二名は外に飛び出している。

「逃げました!」

「ウグワーッ!? な、な、なんだとぉーっ!?」

 乗っ取られた戦車を、友軍ごと焼き払った攻撃。
 乗っ取って暴れた連中は無事に脱出。被害はグリフォン部隊のみ。
 完全な自爆である。

 脱出した敵一般人が、魔導カーに乗ってから笑顔で手を振ってきた。
 ここでデオーチスは頭に血が上った。

「ええい!! グリフォン部隊の全軍を用いて、あの魔導カーを撃滅せよ! 魔導ヘリ動け! 大地を爆撃魔法で焼き尽くせ!」

「了解! 全魔導ヘリ、ワンザブロー帝国魔導カーを撃破せよ! どんな犠牲を払っても構わない! これはデオーチス将軍命令である!」

 魔導ヘリが動き出した。
 スリッピー帝国最強兵器とも言える魔導ヘリは、たかが魔導カー一台を破壊するために、全機がその場に集結したのである。

『こちら、魔導ヘリ一号機。これより爆撃を開始する! 爆撃を開……しぃーっ!?』

 魔導ヘリからの報告が、何かが粉砕される音と打撃音で途切れた。
 そして、魔導ヘリの一機が明らかに異常な動きをし始める。

 くるくる回ったかと思うと、周囲の魔導ヘリに射撃魔法をぶっ放したのだ。
 そして、戦車部隊や歩兵部隊が密集しているところに爆撃魔法を的確にぶっ放す。

「「「「「「「「「「ウグワーッ!!」」」」」」」」」

 大地は地獄と化した!
 炎が、煙が上がり、グリフォン部隊のうちの四割が損耗。

「ウグワーッ!? な、な、なんだとぉーっ!?」

 デオーチス将軍は腰が抜けるほど驚き、実際に腰が抜けた。

「何が……何が起こっているのだ! ま、まさかこれは」

「魔導ヘリを乗っ取られました! 恐らくさっきと同じやつです!」

「なんだとぉーっ!? ま、まさかワンザブロー帝国の最精鋭だとでも言うのか! 恐ろしい……恐ろしい奴らだ! まさかこれほど強力な人材を抱えていたとは……!! だが! 空の上では逃げ場があるまい!! 落とせ! ヘリを落とせ!!」

「了解! 全魔導ヘリ! 一号機を撃墜せよ! 一号機は乗っ取られた! 一号機を撃墜せよ!」

 指揮車両からの命令は迅速に実行された。
 ふわふわっと移動する一号機ヘリを、残る魔導ヘリが包囲する。
 そして放たれる、射撃魔法。

 一号機ヘリは一瞬で炎に包まれ、落下を始めた。

 そこから、ぴょいっと飛び降りる影がある。
 地上から上がってきた、光る翼の影がそれをキャッチした。

「あ、あれは……。逃げられ……?」

「な、な、なんだとぉーっ!? 許すな! 追撃! 追撃だ!!」

 逃走した敵軍兵士と思わしき一般人。
 明らかに非武装で、軍事的訓練を経験したとは思えないが、しかしワンザブロー帝国最精鋭兵士とでも思わなければ、納得しがたいほどの凄まじい戦果を挙げた男。
 グリフォン部隊に大打撃を与えた、その男を逃がすわけにはいかない!

 怒りに燃え、デオーチスと指揮車両全乗組員が、彼に注目した。
 故に、上空から錐揉み回転しつつ落下してくる、炎上した魔導ヘリに気づくのが遅れた。

「あ」

 誰かが気付いたときには、指揮車両の目の前にそれがあった。

 大質量同士が衝突し、魔導ヘリに残されていた爆撃魔法が起爆する。

 大爆発だ。

「ウグワーッ!?」

 デオーチス将軍は爆発に呑まれ、戦場に散った。






「いけたいけた。いやあ、三人でも一部隊を壊滅させられるもんだな。やってみるもんだ」

「マナビさん、カオルンが増えてから明らかにむちゃくちゃやるようになってますよね? まあ、元からむちゃくちゃでしたけど」

「うひゃー。魔力のない男がたった一人でやっていい活躍じゃないのだ。マナビはおかしいのだー! 変なのが世界にはいるのだ! 世界は広いのだー!」

「おかしいのはマナビさんだけですからね!」

 わいわいと賑やかな魔導カーは、機能不全に陥ったグリフォン部隊の横を、ゆうゆうと駆け抜けていくのだった。
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