上 下
5 / 196
滅びの塔編

第5話 サービスシーンとは親切な

しおりを挟む
 最後の階層に到着したのだが。
 出口らしきものがない。
 螺旋構造の下り坂だから、一階層ごとにかなりの距離を下っている。

 これが塔だというなら、確かにそろそろ地上辺りでもおかしくはないな。

「出口がないどころか、何か魔法陣みたいなものがあるんだが」

「あひー! こ、この魔法陣! 帝国人たちは本気ですよ! 本気でわたしたちを殺そうとしています!」

「フーン」

「あっ、今全然興味なさそうな顔しましたね! 本当ですよ! 本当なんですからねー!」

「それは分かるが、ここまできて出口が無いというのはずるいなあと俺は思うのだが」

「それはそうですけど……。わたしもお腹空いてきましたし」

「じゃあ、塔の中の休憩室で一休みしようか」

「えっ!? そんなものがあるんですか!?」

「スケルトンたちの武器はちゃんと手入れされてたし、矢だって補充されてた。あれはちょくちょくメンテナンスのために塔にやって来てる証拠だ。ということは、ここで作業しながら休憩する部屋もあるはず……」

 俺はヘルプ機能で、塔の休憩室と検索する。

『第三階層の入り口脇です。色の違う岩を叩いて下さい』

「ほいっ」

 そこだけ黒い岩をコツンと叩くと、ゴムの感触があった。
 ゴゴゴゴッと音がして、壁面が展開する。

「あっ、ほ、本当に休憩室があった!」

「テーブルに椅子、水に食料、ベッドに風呂まである」

 スマホは……繋がらないか……。

「じゃあわたし、お風呂入りますね! わーい!」

「なにっ!?」

 俺の眼の前で、ローブをぽいぽいっと脱ぎ捨ててお風呂へ突撃するルミイ。
 うおっ、でっか……。

 俺の脳内からスマホの事が全部吹き飛んだ。
 今さっき見た光景を脳内でぐるぐる繰り返しながら、食事の準備をする。

 異世界飯だ。
 カロリーブロックって感じの食事だな。
 なんか味気ないな。

 魔法帝国とか言っていたからな。
 機能化が進んでこんな有様になってしまったのかもしれない。

 チーズ味だったので、嫌いじゃない。
 水は、保存できるように薬っぽい味がついていた。

 一応ヘルプ機能で確認だ。

『魔化水です。雑菌の繁殖を抑える力があるため、百年単位で保存ができます。あまり美味しくありません』

 味まで教えてくれるのは便利だな。

「マナビさんもう食べてるんですか? わたしもお腹ペコペコで……!」

「うおっ、バスタオル一丁で……!!」

「? なんでマナビさん、わたしに向かって手を合わせてるんですか?」

「素晴らしいものを見せていただきました……。俺が異世界に来た報酬はこれで十分です……」

「そういえばパパが、もう男の前で脱いだりするな、いらぬ争いを招くことになるって言ってました」

「パパさんの発言は正しいな。ルミイを巡って男たちが殺し合うぞ。傾国級だ」

「えへへ、褒めてもなんにも出ないですよう」

 そしてバスタオル姿のままで席についたルミイ。
 魔化水を飲んで顔をしかめた。

「うえー、美味しくないです。でも喉乾いてるから贅沢いいません」

 ぐびぐび飲むじゃん。
 カロリーブロックをかじる。

「チーズ味のお菓子です! おいしー!」

「そうか、異世界だと美味しいお菓子みたいな扱いになるのか」

 俺も美味しく、カロリーブロックを食べた。
 さっきまでは全く余裕がなかったが、しみじみと向かいに座るルミイを見ていると、相当可愛いキュートな美少女であることがよく分かる。

 今まではゲーム感覚だったが、俺がこの世界でやっていくモチベーションがむくむくと湧き上がってきたのが分かる。
 別のところもむくむくだが。

「それでルミイ、最下層に魔法陣があったろ。何が出てくるか分かる?」

「分かりません! でも、わたしたちを絶対殺すぞ!っていうものが出てくるのは間違いないですね」

 チーズ味の粉がついた指先を舐めるルミイ。
 はしたないところも可愛い。

 こんななりで、桁外れの耐久力とハイエルフの頂点に当たる抗魔力があるというのは凄い。
 だが、俺が一緒ならそんな力を使う必要はないからな。
 全部イージーモードでくぐり抜けて守護ってやろう。

「うわあ、マナビさんがネチョッとした視線を向けて来ました! 何か悪巧みしてます?」

「俺は少しだけ傷ついた」

 食事は終わり、ルミイも髪を乾かしたあと、ローブを着込んだ。

「マナビさんもお風呂に?」

「あ、そうか。次いつ入れるか分からないもんな。じゃあ……」

 ほかほかになって出てきた俺。
 風呂の湯も魔化水なんだが、これは石鹸なしでも肌がすべすべになるな。

 製法を知りたい。

『原材料名と制作手順はこちらです』

 ヘルプ機能優秀!
 こうして、心身ともに健康になった俺たち。

 外に出てみると、魔法陣から召喚される何者かが、その全身を見せたところだった。

 無数の腕を持ち、それに武器を装備している巨人。
 頭も複数ある。

「ヘルプ機能」

『ヘカトンケイル。強靭な肉体と耐魔力、そして魔化された装備を複数有するワンザブロー帝国最強戦力の一角です。本来であれば戦争に用いられる生物兵器です』

「ほー、そんなものを俺たち二人のために? 大盤振る舞い過ぎない?」

「凄く悔しかったんでしょうねえ」

「帝国人は負けず嫌いだなあ」

「でもマナビさん、あれはさすがに無理ですよ。バーバリアン軍団が束になっても敵わなくて、パパとママがタッグで挑んでやっと撃破した怪物ですよ」

「ルミイのパパとママが怪物なんじゃないの?」

 素朴な疑問を懐きつつ、俺は出現したヘカトンケイルと向かい合うのだった。

「それじゃあ、帝国最強兵器vs丸腰の俺、始めますか。チュートリアルモード、起動」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...