上 下
60 / 147
スローライフから逃げられると思うな編

第60話 君の名は……みんなで考えよう

しおりを挟む
「マンイーターさんのお名前は?」

『無いわよ』

「なんですって」

「ないの!?」

『あたしたちは個体を互いに認識できるもの。名前がないと認識できないあんたたちとは違うわ』

『文化の違いですなー』

『多様性ですねー』

『ピピー』

 ここは、馬車の中。
 マンイーターの沼からはちょっと離れたところにいる。

「だが、呼び名が決まってないと不便だな。君が言う通り、俺たちは名前がないと認識できないのだ。ということで……みんなで君の名前を考えよう」

『いいですな! 考えましょう!』

「ねえねえ、せっかくだからタマル村に戻ってゆっくり考えようよ!」

『……ということは……飛空艇で村に戻るのですな!』

「そうなるな!」

 そういうことになった。
 馬車が飛空艇と置き換わる。
 これを、マンイーター娘が目を見開いて眺めていた。

『とんでもないことが起きてるんだけど。なにこれ。あんたたち何者!?』

『スローライフキングのタマル様ですぞ。我々はその一味。割と、部下とかそう言う感じじゃなく仲間みたいなゆるーい関係ですな』

『不思議な関係……。それにこの大きいものも不思議。なにこれ』

「乗り込んだら空が飛べる船だよ! ほらほら、乗った乗った!」

 ポタルに背中を押されて、マンイーター娘が飛空艇に乗り込んできた。
 そして舞い上がる飛空艇。

『きゃああああああっ! しょ、植物が空を飛ぶなんてありえない、ありえないーっ!!』

 下半身を根っこに変えて、甲板にへばりつこうとするマンイーター娘。

「怖くない怖くない!」

『怖いわよーっ!! 動き回ること自体がそもそもありえないんだからーっ!!』

 ポタルに言われて、むきーっと返すマンイーター娘だ。
 二人ともキャラが違ってて楽しいなあ。

 わあわあきゃあきゃあと騒ぎながら、デッドランドマウンテンから降りていく飛空艇。
 ドラゴンたちも、山から離れた対象を追いかけるつもりはないらしい。

 時速一二〇キロの速度で、飛空艇が空を駆ける。
 あっという間に見知った土地を超え、タマル村までやって来た。

 速いなー。
 馬車の十倍以上の速度だもんな。
 しかも障害物も何も関係ない。

 二時間半ほどの飛行で、デッドランドマウンテンからタマル村まで行けるのね。

 村に住む外なる神々が出てきて、手を振っている。
 俺も振り返した。

『どうですかタマルさん!!』

「館長! こちらがお約束のマンイーターです」

『ありがとう、ありがとう』

 館長と固い握手を交わす。
 そして、館長のふくろうヘッドがじーっとマンイーター娘を見つめる。

『こちらは……? 我が博物館に寄付を……?』

「しないよ! 新しい住人だ」

『そうか、残念。だがいつでも気が変わったら言ってください』

 博物館展示物拡張の情熱が凄いな。

『あたし今、あの目で見られてぞーっとした』

「ああ見えてあの人は神だからなあ」

 わいわいと降りてきたところで、俺たちみんなで車座になるのだ。

「はい、ではそういうわけでね、新しく住民が増えました。マンイーター娘さんです! はいみんな拍手!」

 わーっと拍手が巻き起こる。

『なにこの茶番』

「仲間になったことはめでたいんですけどね、なんと彼女、お名前がないということで、これでは呼びにくい。ということで、皆さんのお知恵を拝借し、名前を決めていこうということになりました。みんな名前を思いついたら発言して下さい」

「はーい!」

「はいポタルさん早かった」

「ポタポタ!」

「君ポルポルもだけど、自分の名前関係を使うの好きね? じゃあ候補1と」

『正気!?』

『では我が!』

「はい、次はラムザーどうぞ!」

『ガルガン!』

「強そう! でもイメージと違うねー」

 マンイーター娘の姿を、確認してみよう。
 活動的な印象のポタルと違って、ちょっと深層の令嬢っぽい外見だ。
 基本的に服は着ていないので、今は危ないところに蔦を巻き付けた感じである。

 体型はポタルよりもグラマーですな。
 植物出身なので、動きは鈍い。

『オーケー、ミーの渾身のネーミングでーす!』

「はいフランクリン! 何気に真打ちだぞお前。期待してるからな」

『キャロライン!!』

「凄いドヤ顔だあ」

『もうどうにでもして』

 マンイーター娘が疲れ切った顔である。

「じゃあみんなの意見をまとめた感じで、キャロルでどうだろう」

「いいと思う!」

『異議なし!』

『ブラボー!』

『ピピー』

 意見を発していないポルポルも満足のようだ。
 では、満場一致でマンイーター娘の名前はキャロルということに決まった。

「改めてようこそ、マンイーターのキャロル! これは野菜であるキャロットもイメージした名前なので、植物みもちょっとあるのだ」

『こだわりですな』

「へえー!」

『タマルさんもやりますねー』

『はいはい』

 本人が一番興味なさそうだぞ!
 キャロルは植物系なので、基本的にクールではあるのだ。

「ではキャロルの住民加入をお祝いして、俺が今までのレシピから選り抜きでごちそうを」

『ごちそう!?』

 ぐわーっと食いついてくるキャロル。

『ねえつまりそれってさっきの食べ物よりもずっと種類があって数が多くてもっともっと美味しかったりするのほんとそれあたしのために作ってくれるってこと!?』

「落ち着け、落ち着け……色々当たって気持ちいい……」

「はーなーれーてー!」

 間にぎゅうぎゅうとポタルが入ってきたのだった。

▶住民
 マンイーターのキャロル
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...