上 下
44 / 147
スローライフから逃げられると思うな編

第44話 出現、洋服店

しおりを挟む
 タマル村を後にし、馬車は街道を走る。
 賑やかになった馬車の中。
 俺たちは新たな仲間たちと大いに盛り上がり、熊鍋で祝杯を……。

『溶けるう』

『またフランクリンが溶けておりますぞ』

「こいつ周囲が雪じゃないとてんでダメだな! 体温を調整できる何かが必要だよな……」

「私たちがもこもこになったみたいに、着込んだら寒くなる服とかないの?」

「そんな都合のいいものは……ハッ」

 ここで思い至る俺である。
 臨時の対策だけなら可能ではないだろうか?

 雪の結晶を見る。
 そして鉱石を見る。

 両方を手に持ってみると……。

『新しいレシピが生まれた!』

「ほらな! このレシピが生まれるやつ、後から生まれてくることがあるんだよ」

『何を思いつきましたかな?』

「冷え冷えする金属だぞ。決まっている……!」

 トンカントンカンやる。

▶DIYレシピ
 ※冷凍庫
 素材:鉱石×5+雪の結晶×3

「よし、フランクリンを押し込めーっ!!」

 わーっとみんなで、冷凍庫にフランクリンを入れた。

『オー! アイ・アムリボーン!! 生き返ったようでーす』

 横倒しになった冷凍庫から頭だけ出しながら、フランクリンが喜んだ。
 喜んでもらえてとても嬉しい。

 住人となったお前を見放すことは絶対に無いからな……。
 冷凍庫に車輪をつけてやった。

 これに紐をくくりつけて、ポルポルが引っ張り始める。

『ピピー』

『ソーイージー! 楽ちんでーす!』

「あっ、さっそく横着することを覚えやがった。早く寒さをキープできる装備を作ってやらないとなあ」

 そう思っていたら……。
 やって来ましたよ、メールボックスに新規店舗の開店案内。

「よーし、みんなでお店に行こう!」

「さんせーい!」

『いいですなあ』

『楽しみでーす!』

『ピピー』

『カタカタ』

 骨次郎も入れて六人で、ゴッドモジュールからタマル村へ瞬間移動だ。
 すると、ヌキチータや双子や館長が並んで、見たことのない新しい店の前に立っているではないか。

 ヌキチータがすぐこちらに気づいた。

『あっ、タマルさん! 待ってたんだなもしー。これから彩色あやしき洋品店の開店記念セレモニーをやるんだなもし』

「あやしき!? また凄い名前だなあ」

 だが、パッと見ると洋服屋は、色とりどりの色紙を壁に散りばめた、呉服屋みたいな作りをしている。
 確かにこれはあやしき洋品店だ。

 二人の男性がこの店を運営しているようで、一人は紋付袴姿にメガネを掛けた男だった。
 白目の色が黒くて黒目が白いので、多分また外なる神だと思う。
 大人しそうである。

 もう一人が燕尾服姿の高校生くらいのまだ少年と言える感じの男だった。
 やっぱり、黒い白目に白い黒目をしているのだが、にこやかに俺たちに話しかけてくる。

「やあやあやあ! あなたがヌキチータさんが言ってたタマルさんやね!? ぼく、彩色洋品店の店員をしてますサンいいますー。正しい名前は違うんやけど、発音ができへんからね。歴代の転生者の中で、唯一魔人候撃破まで生き残ったのみならず、ヌキチータさんも想像していなかったほどの大活躍らしいやないですか! 今もヌキチータさん、UGWポイントシステムをひいひい言いながら拡張してますよ!」

「おう、よろしく! 君よく喋るなあ! しかし情報が的確で分かりやすい」

「どうもどうもー! お求めの商品の情報とかね。ぼくが提供いたしますんでね。わかりやすくを心がけてますー。なんでもきいてくださいね。ああ、こちらにいるメガネの色男が、ぼくの兄のイチですー。例によって正しい名前は発音できへんからね。このイチがタマルさんのオーダーがあれば、その通りの服を作りますー」

 イチと呼ばれた男性が、ペコリと頭を下げた。
 奥ゆかしい。

「イチ氏! 作ってもらいたい服があってな……」

「な……なんでしょう」

「雪だるまを溶かさないための服が欲しい」

「雪だるまを……服で溶かさない……?」

 じっと、冷凍庫に収まったフランクリンを見るイチ氏。
 そしてニヤリと笑った。

「腕が鳴りますね」

 頼もしい!

「はいはい。ではご注文いただきましたー。オーダーメイドは一日いただきますー。3000ptですよー」

「結構するなあ。オーダーメイドだもんなあ」

 ということで、デザインとか機能について話し合う。
 本当ならば素材を持ってきて貰う必要があるが、今回は開店サービスということで素材は洋品店持ちである。

「フランクリン、お前もこれで、灼熱地帯を闊歩できる雪だるまになることだろう……」

『リアリィ!? ミーの世界が広がりまーす!』

 喜びのあまり、冷凍庫から飛び上がったフランクリン。
 すぐに『オー! 溶けまーす!』とか言って冷凍庫に引っ込んだ。

『はいはーい! 二人とも仲良くやれそうだなもし。では皆さん、このクラッカーを持って……はい、このタマル村の発展は、タマルさんの活躍によるものであることは間違いないんだなもし。村の代表として、一言どうぞタマルさん!』

「うむ……ごほん」

 俺は咳払いした。

「本日はお日柄もよく……。このクソのような地獄めいたヘルズテーブルだが、こうしてスローライフの拠点を築くことができた。つまり、スローライフは決定的に可能であることを証明したわけだ」

 俺の言葉に、外なる神々がうんうんと頷いている。
 ラムザーは何かツッコミを入れたそうで、ポタルは分からないなりにニコニコしている。

「こうして設備も充実してきたとこで、より一層、この世界への侵略……いや、スローライフの伝導が進むことだろう。つまり、ヘルズテーブルは平和になっていく……。そのため、これからも一層力を入れて活動していく次第だ。みんなも俺に手を貸して欲しい! そして彩色洋品店! 開店おめでとうございまーす!!」

『おめでとうなんだなもしー! ではみなさーん! いち、にの、さんで行くんだな! いち、にの、さーん!』

 みんなでクラッカーの紐を引っ張る。 
 すると、先端からパーンと言う爽やかな音とともに、コズミックな極彩色のビームが飛び出していった。

 うーん、流石は外なる神が用意したクラッカーだ。
 俺でなかったら正気を削られていたのではないか。

 こうして村に洋服店がやって来た。
 仲間たちをどうお洒落させるか、今から楽しみな俺なのだった。

『ウグワーッ! 洋服店がオープンしました! 500ptゲット!』
『ウグワーッ! 初めてのセレモニーをしました! 500ptゲット!』

▶UGWポイント
 3500pt

 拠点
 タマル村
  設備
  ヌキチータ事務所
  魔人商店
  異形博物館
  彩色洋品店(NEW!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...