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第二部:彷徨編

74・俺、大海原に漕ぎ出す

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「大鎌設置していい?」

「ダメに決まってんだろ。船のバランスが崩れるし、何かあったらむしろうちの船の方にダメージが来るわ」

 我が団の船舶責任者、オウルに聞いてみたら却下された。
 地下遺跡でゲットした、罠から取れた大鎌である。
 これを船首につけてかっこよくしようという計画だったんだが。

「いいかオクノ。船は木造なんだ。それ、地下遺跡の武器だろ? 錆びてねえところを見ると、鉄じゃないよくわからん、しかも強靭な金属でできてる。そんなもんが例えば嵐で煽られて船体に突き刺さったらどうする?」

「なるほど、その発想はなかった」

「そういう発想をして、危険なものは回避しておくもんなんだよ、海ってのは」

 残念。
 大鎌の処置は宙に浮いてしまった。

「どうしたもんだろう」

 手が空いているリザードマンの船員たちに話しかけると、彼らは次々に首を傾げた。
 特にアイディアは無いらしい。
 彼らは種族的に、規定の仕事をきっちりこなしていくことを好むんだとか。だから、新しいことを考えつくというのは苦手なんだと。

 うむむ、大鎌……大鎌……。

「おお、懐かしい! 首刈りの大鎌ではありませんかな!」

「知っているのかジェーダイ」

 俺が甲板に置いた鎌を見て、ジェーダイは深く頷いた。

「巨獣の首をも一撃で刈り取るこのサイズ。見間違えるはずがないでしょう。団長、これは投擲して使うのにちょうどいいバランスで作られていますぞ。ロープで結んで、船の横に引っ掛けておくといいでしょう」

「ほう、それでどうやって使うんだい?」

「ロープを掴んで、何人かで揺らして、近づいた船に突き刺すんですな。ロープを伸ばして反動をつければ、帆柱くらいなら切断できますぞ」

「そりゃあすごい! 誰でも扱えそうだし、船の飛び道具として横に装備しよう!」

「ですな! せっかく団長が見つけてきたのです。活かしていきましょうぞ!」

 ジェーダイは俺を団長と認めてから、敬語っぽいのを使ってくる。
 おじさんに敬意を払われると照れくさいなあ。

 まあ、俺も団長だもんなあ。
 日本ではボッチの高校生だった俺が、いつの間にかこんなにたくさんの仲間に囲まれているのだ。
 我ながらどうやってこんなに仲間を増やしたのか見当もつかない。

 甲板の上でバタバタと働く船員のみんなを見ていたら、しみじみとしてしまった。
 タルに腰掛けてボーッとする。
 船の素人である俺の仕事は、重い荷物を運び込むくらいしかないのだ。

 そして重い荷物はさっき全部アイテムボックスに詰めて運び込んだ。
 俺が……俺こそがこの船の食料庫だ!

「いやー、しかし便利だわアイテムボックス。なんで今になってこの力に気付くの。普通もっと序盤で気付いて活用するでしょー。ひょっとして俺が持ってる特別な力って、このピコーン!じゃなくてアイテムボックスだったりしてなあ」

 座っていたタルをアイテムボックスにしまったり取り出したりして遊んでいると、やはり暇を持て余した女子たち5人がやって来る。

「何してんのオクノくん」

 ルリアが声をかけてきた。

「アイテムボックスにものをしまったり取り出したり」

 そう答えると、ルリアがむつかしい顔をした。むむむ、とか唸っている。
 いや、特にやっていることに意味はないから。

「何度見ても不思議よねえ……。どこに消えてるのかしら」

 今度はアミラだ。
 最もな質問である。

「そりゃ、アイテムボックスだよ。なんかこの船の当分の水と食料を全部詰め込めるくらいのサイズがあることが今日わかったからな……。これに気付いていたら、もっと楽な生き方があったような気がしないでもない」

「でもそうなったら、オクノくんはお姉さんと会えて無いでしょ? 私はカールが死んだフロンティアを思いながら、ずっと悶々としてたと思う」

「それ以前に、わたしたちはハーレム送りで大変なことになるところでしたよ! だって、ハーレムは六欲天ウーボイドのご飯じゃないですか!」

 そう言えばそうだ。
 まだ子供のカリナまでハーレムに連れて行かれるところだったので、もしやロリコンの仕業!?と思ったのだが違った。
 女子をモンスターのご飯にするなんてもったいない。

「何の話? でも多摩川くん、いくつも能力があっていいなあ。私もアイテムボックスがあるけど、8個しかアイテムが入らないんだもん」

「それはゲーム的なシステムの違いだな……」

「ゲーム?」

 日向がいぶかしそうな顔をした。

 レベル制のシステムで、装備欄とアイテム欄を同じくする日向。
 分かりやすいし、成長が目に見えてわかる。
 この世界も一般的にレベル制だし、特殊な技も身につけられるようだ。
 だから、日向みたいなタイプが普通なのだ。

 対して、俺は技Pと術PとHPしかない。
 で、スキルがなくて技をひたすら閃いて、その閃いた数で成長していく。

 システムがぜんぜん違う。
 俺のステータスシステムは、ぶっちゃけるとめちゃめちゃ大味だ。
 アイテム欄に制限がないのも、大味だからかも知れない。
 整理機能もないので、アイテムをぶちこむと手探りで探すしかないぞ。

 待てよ。
 このアイテム欄、人は入るのかな?
 じっとカリナを見る。

「うっ、今、わたしをアイテムボックスとやらに入れようと思いましたね!」

「なんという危険感知能力!!」

「伊達に遊牧民で狩人ではないですから」

 そのようなやり取りをしていると、いよいよ出港準備が整ったようだ。
 都市国家の人々が集まり、俺たちを見送ってくれる。

 俺は彼らにぶんぶんと手を降った。

 海賊王国の脅威から、十年ぶりに解放された都市国家群。
 そこに住む人達の顔は、今は明るい。
 ラムハが俺の隣に並ぶ。

「イーサワが言ってたわ。今頃、私達の活躍は世界中に広まっていってるって」

「ほえー、話がでかくなるなあ……」

「そのために出港を遅らせたでしょう? そうしたら船員も集まったし、いいことじゃない」

「言われてみれば確かに。で、行く先々で俺達は有名人というわけか」

「そうなるわね。あちこちでモンスターが活発化したり、争いが起こったり、世界中が不穏な空気に包まれてきてるわ。そこに、オクタマ戦団が現れて解決していく。完璧じゃない?」

「あの商人、そこまで計算してるのか……!」

「優秀ね。世界の注目が私達に集まれば、自然と、今世界を騒がせている黒幕もこちらにやって来ると思うわ。探す必要がなくなる」

「ふむふむ」

「私はね、あなたがアイテムボックスの凄さに気付かなくてよかったと思ってるの」

 ラムハはそう囁くと、トコトコと舳先に向かって歩いていった。

「ええーっ、それはなんで?」

「さっきルリアとアミラが言った通りよ。私達を助けてくれたでしょ?」

「そりゃあそうだ。今の話はそういう意味でいいの?」

「そうねえ……あとは……私の中の私を、きっと止めてくれると思うから。もうすぐ、だと思うのよね」

 ラムハが指輪を見せる。
 真っ黒な、中身に宇宙が写っているような指輪だ。

 それの中心が、今、紫色の大きな星を映し出していた。

「地下遺跡を壊してしばらくしたら、これが現れたの。それから、私の頭の中に、知らないはずの知識や記憶がどんどん流れ込んでくる……」

 ラムハが振り返った。
 真剣な顔をしている。

「止めてね。例え、それで私が死ぬことに──」

「なんかラムハの中にいる闇の女神も止める、ラムハも助ける。両方やらなくちゃいけないわけだな。がんばる」

 最後まで言わせないぞ。
 俺はフラグを折るのが好きなんだ。

 そうしたら、ラムハは笑った。

「がんばってね、私の団長さん」
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