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第二部:彷徨編

48・俺、オルトロスをもふる

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「わんわんハフハフ!」

「おー、よしよしよしよし」

 オルトロスがむぎゅむぎゅ抱きついてくるので、背中とか二つの頭とかを撫で回す。
 顔をめちゃめちゃペロペロされた。
 そっかー、戦闘中しか呼んでなかったもんなー。

 実体化したオルトロスのサイズは、成犬のゴールデンレトリバーくらい。
 狼っぽいイヌで、色は基本が青っぽいんだけど、見る角度によって変わる。
 毛はとてももふもふだ。

 こいつも俺に会いたかったのだなあ。

「よーし、お前の名前は……フタマタだ。頭が二つに分かれてるからな」

「わんわん!」

「変な名前ー」

 ルリアがいらんことを言った。

「ぐるるるる」

「ひえー! オクノくん、この子あたしを威嚇してくるー!」

「多分人の言葉が分かるんだろう。フタマタの名前をバカにしたから怒ったんだぞ。人の名前をどうこう言っちゃいかん」

「はあい。ごめんねフタマタ」

「わんわん」

 おお、すぐに許した。
 素直に謝るなら許す。
 人間のできた犬だ。

「さて、それじゃあ、あたしはそろそろお暇しようかねえ。遊牧民たちが困ったらあたしを呼ぶように言っておきな。あたしは森の奥で、いつも色々なものを見ているからねえ」

 おばあちゃんは、フェっフェっフェっと笑うと去っていった。
 本当に魔女みたいな人だな。
 異常に怪しいし、強力な呪法を使うし。

「女神キシア本人じゃね?」

 俺の予測を、ラムハがやんわりと否定した。

「キシアは好んで、狼の姿をとると言われているわ。フタマタに似ているから、あの神官は彼を実体化させてくれたのかも知れないわね」

「なるほど。同じ犬科のよしみかあ」

 俺がわしわしとフタマタを撫でていると、日向が恐る恐る寄ってきた。

「あの、多摩川くん。撫でていい……?」

「俺を……!?」

「違う! フタマタちゃん」

「どうぞどうぞ……」

「ありがとう……! ほわあー、ふわふわのもふもふで暖かい……」

 フタマタが、いいんですかボス、みたいな目を俺に向けてきた。
 俺が頷くと、オルトロスは大人しく撫でられるままになる。

 俺に忠実なやつだ。
 実にかわいい。

「オクノさん、フタマタは犬なんですか。狼なんですか」

「犬だ」

 俺が断言すると、フタマタが深く頷く。
 犬であることに誇りを持っている顔だな。

「わたしも撫でたいです」

「お姉さんも、いい? フタマタちゃん」

「わんわん」

 あらかじめ許可を取る者たちには寛容なフタマタである。
 いつの間にかルリアも混じって、もふもふやっている。
 大人気だな動物。

「彼も、私たちとずっと戦ってきた仲間と言えるものね。……さてオクノ、これからどうするのかしら。遊牧民を送り届けるという仕事は果たしたわ。キシア大森林を抜ける許可ももらっている。しばらくここでゆっくりしてもいいし、すぐに抜けてもいいのだけど。どちらにせよ、砂漠を越える準備をしなくてはならないわ」

「近くに町はある? ほら、オアシスの町とかそういうのパターンじゃん」

「ええ。森を抜けたところに商人たちの町があるわ。恐らくキシアの神官と友好関係にあって、森を抜けるフリーパスを持っている人たち」

「よし! じゃあそこに行こう! 町のほうが休めるだろ」

 そういうことにした。
 俺の決定に、誰もが頷く。
 そして森を抜けていくことになった。

 その間はただ歩くだけだ。
 オルトロスのステータスなんかを確認しておこう。


フタマタ
レベル:55
職業:番犬

力   :275
身の守り:165
素早さ :275
賢さ  :55
運の良さ:110

HP1230
MP120

獣術:30レベル
炎の呪法:15レベル

☆獣術
・毒の牙・麻痺の牙・死の牙
・突撃
★炎の呪法
・ヘルファイア・バーニングバリア・ファイアウェポン


 おっ!
 支援から攻撃までやれる犬だ!
 HPが高いのは、モンスターだからだろう。
 俺との連携でよく使ってたのは、この突撃らしいな。
 牙を使った技はなかなか使い勝手が良さそうだ。死の牙とか絶対に一撃必殺だろ。

「わふん?」

 オルトロスが、どうですかボス、とでも言いたげだ。

「強いな! 賢さもルリアの四倍くらいある」

「わんわん」

「ええーっ!?」

 ルリアが驚愕した。
 そしてパーティに加わったオルトロスのステータスを見て、

「ひええー、ほんとだあ」

 と震える。
 オルトロスは優しい目をして、

「むふー」

 ルリアの肩に前足をポンと置く。
 背がそこまで高くないルリアは、オルトロスがちょっと立ち上がると前足が頭まで届くな。

「ううっ……! あたしより賢いからってー」

「運以外全部負けてるな」

「ひーん」

 逆を言えばルリアは、この運の良さだけでぶっちぎりなんだが。
 
 ということで、森を抜けた。
 恐ろしく広大な森に見えたのだが、半日くらいで抜けられてしまったのだ。
 中で空間が歪んだりしているのでは?
 迷いの森、みたいな。

 これは女神の厚意と受け取っておこう。
 いざ、商人の町へ……と歩きだしたら、後ろから声がかかった。

「ああ、そうそう。言伝を頼まれてくれるかい?」

 おばあちゃんだ。

「なんだい」

「どこの町にも、見たことがある顔の吟遊詩人がいると思うけど、そいつにうちの女神様から伝言だよ。あまり人の世を手助けするな。人間は人間の力で歩くべき、だとさ。深い意味はないよ」

「まんまじゃん!」

 明らかに吟遊詩人の正体をほのめかすような伝言だ。 
 そんなもんを俺に押し付けていいのか!

 おばあちゃんはフェっフェっフェっと笑うとまた姿を消した。

「不気味な人だけど、凄腕よね。お姉さん、おばあさんの使った呪法にびっくりしちゃった。パーマネンス……。身につけたら、オクノくんを強化する呪法を戦闘中ずーっと固定しておけるかも」

 アミラがやる気だ。
 本格的に水の呪法メインでやっていくつもりらしい。
 うちも戦力が増えたしな。
 回復薬の仕事の比重は増していくだろう。

 アミラの他にも、回復の呪法が使える仲間が欲しいところではある。
 確か、辺境伯が光の呪法で回復できたよな。
 水以外にも回復が使える呪法があるはずなのだ。

「サポート回復役をスカウトせねば。なんか俺、マネジメントする仕事が増えてきてるぞ……」

 もともと、人と協力して何かをするのは苦手な俺である。
 そうだったはずである。
 だけどこっちの世界に来てから、めちゃめちゃスムーズに仲間たちと協力して冒険できている。

 俺は元の世界に向いてなかったんだな……!

「オクノさん、町です! これなら、日が暮れる前には辿り着けますよ!」

 先行していたカリナが、飛び跳ねて大きな声を上げている。
 彼女が立っているのは、丘の上。
 そこから町が見下ろせるらしい。

「よーし、じゃあみんな急ごう!」

「ええ」

「はーい!」

「はいはい」

「はいっ」

「よし、勝負だな?」

「わん!」

 みんな口々に返事をする。
 イクサ、違うからな?

 丘の上まで来てみれば、そこから辺りの風景を一望にできた。

 視界の半分を、赤い地面が埋め尽くしている。
 あれが砂漠だ。岩石砂漠。

 そして砂漠の手前にオアシスみたいなのがあって、そこに町があった。
 商人たちの町。
 砂漠越えの拠点だ。

 そこは、西部劇の町みたいに見えた。
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