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第二部:彷徨編

43・俺、カリカリステップにやってくる

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 見渡す限りの大草原!
 地平線までずっと、背の低い草原が広がっている。
 ステップ地帯と言うんだったよな。中学の時に習った。

「うーむ! 青空だ……。空気が乾いている」

「たまに雨が降って、それで草が育つんですよ。これを食べて羊が育つんです」

 遊牧民のカリナは、ちょっと嬉しそうだ。
 足取りも軽く、俺の隣をスキップしていく。

「見て下さい! あっちからむこうまで、ずーっと広がっている全部がわたしたち遊牧民の大地なんです! カリカリステップへようこそ!」

「カリカリステップ!!」

「かわいい」

 意外なネーミングに俺は驚き、日向が微笑んだ。

「じゃあカリナ。俺たちは君の部族を探してステップを歩き回る?」

「そう言うことになります。ですけれど、見つけるのはそう難しくないですよ。わたしたちはステップをぐるぐると巡っているんです。これは草を食べ尽くさないためなんですよ。だから、草の伸び方でみんながどこにいるかが分かります。ええと……」

 しゃがみこんで、草を調べているカリナ。

「これは近いと思います。わたしが人里に、塩とか調味料を羊の肉と交換してもらいに来た時に人さらいにさらわれたんですけど、その時から半巡りの半分くらい経ってますから」

 一巡りで一年、半巡りで半年、半巡りの半分で三ヶ月ね。

「行きましょう! ステップにもモンスターはいますが、今までわたしたちが戦ってきたものよりは弱いです。というか、わたしたちがあまりにも強いモンスターと戦いすぎです」

「やはりそうだったのか」

 薄々思ってたんだけどな。
 ピンチにならないと閃かない俺が、ばんばん閃く時点で毎回命の危機だったのではないか。
 どうなってるんだ、今のこの世界、キョーダリアスは。

「恐らく、邪神が復活するから、モンスターたちが影響を受けて凶暴化しているのだと思うわ。私が世界を巡ってきて、見てきた中でもモンスターの被害に悩まされているところは多かったもの」

 ラムハが語る。

「あたしの実家もモンスターが作物を食い荒らすことが増えたってみんな言ってたなあー」

 ルリアの村もか。
 そういえばルリアの故郷はまだ見たことないな。
 どこなんだろう。

「どの辺に住んでたの」

「えへへ、ひみつー」

 ルリアが教えてくれない。

「女の子には話したくないこともあるんだよ多摩川くん。あまりそういうの聞きすぎたらだめ……って中上さんが言ってた」

 日向の話は友達女子の受け売りか。
 あんまり男女の機微とか詳しく無さそうだもんなあ。
 俺も全然わからないけど。

「分かった。では追求しないでおこう……」

「ええーっ! もう聞いてくれないの!?」

 この話題で引っ張るつもりだったらしいルリアがショックを受けた。

「ルリア、あまり秘密にしすぎていると男の子は興味をなくしちゃうのよ? バランスが大事なのよー」

 得意げなアミラ。

「戦闘の気配がする」

 マイペースなイクサ。
 んっ!?
 戦闘の気配!?

「分かるのかイクサ」

「ああ。血の臭いがする。こっちだ」

 イクサがいきなり走り出した。
 こいつは戦いに関する嗅覚とか第六感がとても優れているので、任せておくといい。

「あっ、イクサさん! んもー! わたしが案内しようと思ってたのに!」

 憤慨して頬を膨らませるカリナ。
 いつもよりも年相応っぽい。
 かわいい。

「かわいい」

「えっ!! オクノさん、今わたしをかわいいと言いましたか! もっと言って下さい!」

「しまった口に出た!!」

「二人ともそんなことしている場合じゃないでしょ! ほら、オクノもカリナも走って走って! もしかしたら遊牧民の人が襲われているかも知れないでしょ!」

 ラムハの言葉で、しゃきっとする俺たちなのだ。

「言われてみればそうでした! もう、オクノさんがいきなり私を褒め称えたり結婚したいとか言い出すからですよ。いいですよ!」

「後半言ってない。言ってないから」

「結婚!? ゆるさないよー! あたしを倒してからにしろー!」

「お姉さんも感心しないわねえー!」

 わいわい騒ぎながら、イクサの後を追う俺たちなのだ。

「……賑やかだなあ……! でもなんだか楽しそう。ずっとこんな感じで旅をしてたのかな」

「そうね。オクノがいるとみんな明るくなるの。彼って深く物を考えてないけど、暗くなりそうな空気を真逆にしちゃう才能があるのよね」

 日向とラムハの声が聞こえてきたぞ。
 珍しい、ラムハが俺を褒めている。
 だが、今は立ち止まっている暇はない。

 なぜなら……眼の前でイクサが言った通りの戦いが繰り広げられていたからだ。
 遊牧民たちが、弓を使って戦っている。
 相手は武装した兵士たち。
 王国の兵士か!

「オクノ!」

 イクサが判断を求めてきたぞ。
 こいつに任せると両方をぶっ倒してしまいかねない。

「よし、王国兵を蹴散らすぞ」

「了解だ」

「殺しちゃだめよ」

「……了解した」

 すごく渋々了解したな。
 技を放とうとしていたイクサは諦め、そのまま猛スピードで王国兵の中へと飛び込んでいった。

「うわっ、誰か来たぞ! 遊牧民の伏兵か!」

「ええい、食い止めてやるウグワー!」

「なんだこいつ強いぞウグワー!」

「あれっ、もしかしてあなたイクサ王子ウグワー!」

 早い早い。
 一瞬で三人のしたぞ!

「あわわわわ! い、いいの!? 王国は味方だったんじゃないの!?」

「日向は何を腑抜けたことを言っているのだ。状況が変わったら味方が敵になるとか普通だろう」

「普通……なの!? でも多摩川くん、一瞬で決めちゃったよね」

「迷ったらそれだけ無駄な時間ができるし、その間に誰か死ぬかもしれないだろ。それに殺さないで無力化したらこっちが間違っててもごめんなさいできる」

 我ながら完璧な理論だ。

「よーっし、あたしも行くよー! うりゃうりゃー! スウィング!」

 イクサの後を追って飛び込んでいったルリアが、兵士たちの中で技を炸裂させた。

「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」

 おお、六人くらいぶっ倒れたな。

「よし、とどめを刺します」

「カリナステイ」

「ぎゅっと抱きしめてくれたら攻撃をやめるかも知れません」

「交渉してきたな12歳……!! 仕方ない。ぎゅっ」

「あっ……攻撃をやめました」

 カリナが満足げだ。
 なんだか俺の腕の中で鼻息を荒くしている。

「オクノくん! お姉さん、子供にそういう事するのはどうかと思うなあ!」

「アミラさん! わたしはもう十二歳なので子供じゃありませんから! アミラさんこそおばさんに足を踏み入れてるじゃないですか!」

「言っちゃいけないことを言ったわね! 私、こう見えてもギリギリ十代なんだからー!」

 七歳違うと、十代でもおばさん扱いか!
 怖い。

「ああ、目の前で修羅場が……!」

 日向はなんか嬉しそうに俺たちのやり取りを見ている。
 そんなことをしている間に、王国の兵士が全て打ち倒された。
 総勢三十人くらいいたようだが、戦争が行われている時に遊牧民のところに派遣されるような連中だ。
 大した強さじゃなかった。

「ありがとう。君たちは一体……?」

 遊牧民は、俺たちを遠巻きにしながら声を掛けるだけで近づいてこない。
 警戒心マックスというやつだ。
 気持ちは分かる。
 訳が分からない連中が飛び込んできて敵を殲滅しても、そいつらもまた新しい敵かも知れないもんな。

 だが、うちにはカリナがいるのだ。

「わたしです!!」

 俺の腕の中に収まったまま、なんと俺をずりずりと引っ張っていくカリナ。
 遊牧民たちに向かって手を振った。

「……少し大人びてきているが……もしやカリナか!? 生きていたのか!」

「カリナが男の腕に捕まっている!! 助けねば!」

 弓がきりきり引き絞られる。
 やばいやばい!
 勘違いされてるじゃないか!

「違う違う! 俺はカリナに腕を掴まれててだな」

「変態はみんなそう言うのだ! まだ12歳の娘を抱きしめるような男にろくな奴はいない!」

 ごもっともです!
 でも違うよ!
 いかん、イクサが戦闘モードに入りかけている。
 あの矢が放たれた瞬間、遊牧民はひとり残らず上半身と下半身泣き別れで地面に転がることになってしまう!

 危ない遊牧民!
 逃げてー!
 だが、ここでカリナが決定的な一言を放つ。

「待ってくださいみんな! 彼は大丈夫です! オクノさんは、わたしの婿なんです!」

「なん……だと……」

 遊牧民たちの動きが止まった。

「戦意の臭いが消えたな」

 イクサ、その嗅覚はなんなんだ。
 そして、この遊牧民たちとの邂逅で、またまた状況はややこしくなってきそうなのである。
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