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第23話 いざサウザン帝国! 異教の地の聖女
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熱風吹き付ける、南国の帝国。
それがサウザン帝国である。
広大な領土を持ち、王国の倍以上と言われる人口を抱えている。
海に、山に人が広がり、帝国の中には複数の部族も存在していると言われている。
ここは帝国の玄関口であった。
山間の小さな村である。
魔導バイクが走ると、物珍しそうに村人達が顔を出した。
「こんにちはー!」
ミーナが笑顔で手を振ると、村人達も笑顔になった。
子供の笑顔には、人の心を解きほぐす力があるのだ。
「ヒャッハー! こんにちはー!!」
シーゲルが笑顔で手を振ると、村人達はこわばった顔になり、手にしていた笛を吹いた。
ヒャッハーなならず者の笑顔は、相手を威嚇する戦闘行為に等しいのである。
たちまち、兵士が駆けつけてきた。
「なんだなんだ」
「モンスターか」
まるで金剛力士像かと思われるような、巨体の双子兵士が駆けつけてきた。
「お、俺は何もしていねぇーっ」
弁明するシーゲル。
付き人が困っているので、アンゼリカが助け船を出す。
「これは私の付き人です。人相が悪いだけですのでお気になさらず」
ヘルメットとサングラスを外した彼女の顔に、兵士達が見とれた。
「その髪と肌の色、ノーザン王国から?」
「ええ、そうです。最近、空白地帯に領地を構えた聖伯、アンゼリカと申します」
「おおっ、あ、あなたがー!!」
兵士達が沸き返った。
「空白地帯のならず者を平定し、長い間誰も踏み入れられなかったあの地に人が暮らせる土地を作った豪傑……いやいや、凄い聖女がいると噂には聞いておりましたが、あなたでしたか」
「ここは帝国辺境なので、商人などがよく出入りするのですよ。だから、世界の情報には詳しいのです」
物分りのいい兵士達である。
姿を見るに、兜も鎧もちょっといいものを纏っている。
辺境守護ということで、腕が良く、信頼できる兵士が派遣されているのかも知れない。
「さきほど私が懲らしめた兵士達とは違って、紳士的ですね。安心いたしました」
「なんと……。それらは魔王軍と戦うために派遣された、臨時兵士でありましょう。あやつらは規律などどこ吹く風、至福を肥やすことに勤しんでいる者も多いらしいです」
「我らも出会う度に張り倒しているのですが」
双子兵士は、拳をパシーンパシーンと打ち合う。
大変いい音がするので、彼らは拳闘なども得意としているようだ。
「私は兄のアカラー」
「私は弟のウンカラーと申します」
「我らはちょうど帝都へ戻るところ。ですが、帝都のあちこちに魔王軍が入り込んでおり、大変物騒な様子です」
「護衛と道案内がてら、同行しましょう」
アンゼリカ一行は道案内を得た。
双子兵士は、魔導バギーに乗っている。
兵士にまで魔導機器が行き渡っている帝国は、さぞや豊かな国なのであろう。
村人達に手を振られ、アンゼリカ一行は帝国の内部へ。
「お気をつけ下さい。戦場を通過します」
「へ?」
双子兵士の言葉に、シーゲルが間抜けな声を上げた。
その直後、兵士の言う通りになった。
飛び交う弓矢。
魔法。
爆発する地面。
「ウグワー!」「ウグワー!!」
吹き飛ばされる、あるいは倒れ伏す人々。
モンスターが空を飛び、大地を走り、人間の軍勢を襲っている。
人とモンスターとの戦いだ。
そしてモンスター達の中には魔族が混じっている。彼らが指揮を取っているようだ。
「あれが魔王軍ですか」
「はい。恐ろしい数で攻めてきます。一体どこに、あれほどのモンスターが潜んでいたのか……」
「ふむ……」
アンゼリカが目を細める。
「シーゲル、バイクを任せます」
「へい!」
アンゼリカがバイクの上に立ち上がる。
疾走する魔導バイクの上、直立した聖女の姿勢に僅かなぶれもなし……!
「モンスターの悲しみの声が聞こえます。彼らは戦いたくて戦っているのではありませんね」
「せ、聖女殿!?」
双子兵士が狼狽する声をよそに、アンゼリカはバイクの座席を蹴った。
巨体が華麗に宙を舞う……!
「いけ、殺せ! 人間どもを皆殺しだ! 我らの勝利を魔王様に捧げよーっ!! ぐはははは! この笛は便利だなあ。モンスターどもを自由にこき使える! 古代文明の道具だと? 人間どもも味なものを作ってくれるじゃないか!」
げらげらと笑っていたのは、魔族の将軍である。
青い肌に、四本の腕。
3m近い体格は、圧迫感がそう見せているのではない。本当に3mあるのだ。
ふと、彼は陽の光が一瞬かげった事に気づいた。
訝しく思い、頭上に目をやる。
そこには、金色の髪を風になびかせた、白い聖衣の女が飛翔しているではないか!
「と、飛んでる!? いや、跳躍しているのか!!」
「しゃあっ!!」
裂帛の気合とともに、女はモンスター達の只中に着地した。
「馬鹿め! 何を考えてモンスターの中に降り立った! そこの人間の女を踏み潰せーっ!!」
『ぶももー!』
モンスターが吠えて、女へ襲いかかろうとした。
だが。
モンスターが片腕で止められる。
いや、片腕で一掴みにされて、放り投げられた。
「な……なにぃーっ!?」
女が巨大化している!?
魔族の将軍は目を見張った。
「い、いや。これは人間どもが使う圧迫感というやつだな。それの使い手ということか! お前ら、騙されるな! あれは本当にあの大きさなのではない! 圧迫感でそう錯覚しているだけなのだ! そう、人間があんなに大きいはずは……はずは……」
悠然と立ち上がるアンゼリカ。
溢れ出す圧迫感が見せるサイズは、実に身の丈5m。
錯覚に過ぎないと分かってはいても、その凄まじい存在感に、将軍は一瞬たじろいだ。
「戦争などおやめなさい。あなた方を操っている者がいることは分かっているのです……!!」
優しい声で、しかし戦場の隅々まで届くような声量で発しながら、突き進むアンゼリカ。
邪魔をしようとするモンスター達は、次々にボディスラムで投げ捨てられ、ハンマースルーで放り投げられ、ヤクザキックで蹴倒された。
聖女、無人の野を行くが如し!
モンスター程度ではその勢い、止められぬ!
「あれが……あれが聖女というやつか! だが、覆面をしていないな? まさか、新しい聖女が……!?」
将軍は歯ぎしりした。
あちこちに現れ、魔王軍を苦しめているという聖女。
それがまさか己の前に現れるとは。
しかも新しい聖女だとすれば、これは一大事。
魔王様に報告せねばならない。
この戦いは、魔王様を神へと押し上げるための聖戦なのだ。
「魔なる強き神、魔王様の覇道を邪魔するものは……」
将軍は戦闘態勢に入る。
全身の筋肉が膨れ上がり、身にまとった鎧が弾け飛ぶ。
青い、鋼のような筋肉があらわになった。
「この俺が叩き潰してやるわあーっ!!」
将軍は、魔王直々に特訓を受けたうちの一人。
魔族としては、完璧に近いほど作り込まれた肉体は、それだけで無敵の凶器と化す!
「あなたが彼らを操っていたのですね」
アンゼリカもまた、将軍に気づいた。
全身から、視認できるほど濃厚な聖なる気を発して振り返る。
聖なる気が煙のように立ち上る。
「ぬはははは、その通りよ! だが、それが分かったとてどうする。人間ごときが魔王様直々に教えを受けたこの俺に勝てると思うてか!」
四本の腕を振り上げ、将軍は哄笑する。
その目が邪悪に輝いた。
ここに、聖女vs魔族将軍の戦いが幕を開ける……のだが。
将軍は一つだけ見誤っていた。
相手はただの人間ではない。
聖女であり、プロレスラーだった。
どこからか、ゴングが鳴る音が響き渡る。
その瞬間、聖女が駆けてくる。
凄まじい速度だ。
将軍は笛を吹いた。
モンスターが反応し、一斉に聖女めがけて襲いかかる。
「空手チョップ!!」
手刀一閃、モンスターの群れが吹き飛ばされる。
ならず者達のような圧迫感を持たぬモンスターなど、鎧袖一触で蹴散らされるのみなのである!
「ぬうーっ! 違う! 貴様、ただの人間とは明らかに違う!」
「またもモンスターを使役するとは! あなたには彼らへの愛が無いのですね! 許すまじ!」
アンゼリカの腕が、将軍の腕の二本を掴み取った。
「はっ、馬鹿め! 俺には四本の腕がある! このまま捻り潰して……」
「ふんっ!!」
と思ったら、腕を掴まれて放り投げられる。
ハンマースルーである。
本来はロープに振る技なのだが、ここにはロープなどない。
将軍はアンゼリカの剛力を振り払うことができず、そのまま遠くへと吹き飛ばされた。
「ウグワーッ!? な、なんだこの力はーっ!! まるで巨人族に投げられたかのような!!」
同時に、アンゼリカは地面を蹴っている。
落下していく将軍めがけて、急接近だ。
「させるか! ぬおおお、デビル・ファイヤー!!」
将軍の四本腕が印を組むと、そこから紫色の炎が吹き出した。
触れるものを焼き尽くす、魔の炎である!
「空手チョップ!」
それを真っ向から両断するアンゼリカ!
聖女には魔法は通用しないのだ!
「私を倒そうと思うなら」
アンゼリカが、落下してきた将軍をがっちりと受け止める!
「プロレスをしなさい!」
そして急角度からの……ボディスラム!
「ウグワーッ!!」
比喩ではなく、大地が揺れた。
聖女のボディスラムは、ならず者であろうと、魔族であろうと、別け隔てなく等しくその悪の心を砕くのだ!
将軍が握っていた笛は粉砕され、モンスター達が我に返る。
彼らが見たものは、戦場の中心に立つ聖女の姿だった。
完全に失神している将軍を見下ろす彼女は、ゆっくりと拳を天に向かって突き上げた。
空を振り仰ぐ聖女。
降り注ぐ太陽の輝き。
金色の髪がきらきらと輝いた。
金色の聖女……!!
モンスター達は知った。
今ここに、最も強き者が現れたのだと。
「すごーい! モンスターがみんな聖女様に頭さげてる!」
「やっぱ聖女様はすげえなあ」
キャッキャと喜ぶミーナとシーゲル。
双子兵士はそれどころではない。
「な……なんというお方だ……!!」
「モンスターまでも救ってしまうとは……! あのお方は真の聖女だ。金色の聖女だ……!!」
それがサウザン帝国である。
広大な領土を持ち、王国の倍以上と言われる人口を抱えている。
海に、山に人が広がり、帝国の中には複数の部族も存在していると言われている。
ここは帝国の玄関口であった。
山間の小さな村である。
魔導バイクが走ると、物珍しそうに村人達が顔を出した。
「こんにちはー!」
ミーナが笑顔で手を振ると、村人達も笑顔になった。
子供の笑顔には、人の心を解きほぐす力があるのだ。
「ヒャッハー! こんにちはー!!」
シーゲルが笑顔で手を振ると、村人達はこわばった顔になり、手にしていた笛を吹いた。
ヒャッハーなならず者の笑顔は、相手を威嚇する戦闘行為に等しいのである。
たちまち、兵士が駆けつけてきた。
「なんだなんだ」
「モンスターか」
まるで金剛力士像かと思われるような、巨体の双子兵士が駆けつけてきた。
「お、俺は何もしていねぇーっ」
弁明するシーゲル。
付き人が困っているので、アンゼリカが助け船を出す。
「これは私の付き人です。人相が悪いだけですのでお気になさらず」
ヘルメットとサングラスを外した彼女の顔に、兵士達が見とれた。
「その髪と肌の色、ノーザン王国から?」
「ええ、そうです。最近、空白地帯に領地を構えた聖伯、アンゼリカと申します」
「おおっ、あ、あなたがー!!」
兵士達が沸き返った。
「空白地帯のならず者を平定し、長い間誰も踏み入れられなかったあの地に人が暮らせる土地を作った豪傑……いやいや、凄い聖女がいると噂には聞いておりましたが、あなたでしたか」
「ここは帝国辺境なので、商人などがよく出入りするのですよ。だから、世界の情報には詳しいのです」
物分りのいい兵士達である。
姿を見るに、兜も鎧もちょっといいものを纏っている。
辺境守護ということで、腕が良く、信頼できる兵士が派遣されているのかも知れない。
「さきほど私が懲らしめた兵士達とは違って、紳士的ですね。安心いたしました」
「なんと……。それらは魔王軍と戦うために派遣された、臨時兵士でありましょう。あやつらは規律などどこ吹く風、至福を肥やすことに勤しんでいる者も多いらしいです」
「我らも出会う度に張り倒しているのですが」
双子兵士は、拳をパシーンパシーンと打ち合う。
大変いい音がするので、彼らは拳闘なども得意としているようだ。
「私は兄のアカラー」
「私は弟のウンカラーと申します」
「我らはちょうど帝都へ戻るところ。ですが、帝都のあちこちに魔王軍が入り込んでおり、大変物騒な様子です」
「護衛と道案内がてら、同行しましょう」
アンゼリカ一行は道案内を得た。
双子兵士は、魔導バギーに乗っている。
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村人達に手を振られ、アンゼリカ一行は帝国の内部へ。
「お気をつけ下さい。戦場を通過します」
「へ?」
双子兵士の言葉に、シーゲルが間抜けな声を上げた。
その直後、兵士の言う通りになった。
飛び交う弓矢。
魔法。
爆発する地面。
「ウグワー!」「ウグワー!!」
吹き飛ばされる、あるいは倒れ伏す人々。
モンスターが空を飛び、大地を走り、人間の軍勢を襲っている。
人とモンスターとの戦いだ。
そしてモンスター達の中には魔族が混じっている。彼らが指揮を取っているようだ。
「あれが魔王軍ですか」
「はい。恐ろしい数で攻めてきます。一体どこに、あれほどのモンスターが潜んでいたのか……」
「ふむ……」
アンゼリカが目を細める。
「シーゲル、バイクを任せます」
「へい!」
アンゼリカがバイクの上に立ち上がる。
疾走する魔導バイクの上、直立した聖女の姿勢に僅かなぶれもなし……!
「モンスターの悲しみの声が聞こえます。彼らは戦いたくて戦っているのではありませんね」
「せ、聖女殿!?」
双子兵士が狼狽する声をよそに、アンゼリカはバイクの座席を蹴った。
巨体が華麗に宙を舞う……!
「いけ、殺せ! 人間どもを皆殺しだ! 我らの勝利を魔王様に捧げよーっ!! ぐはははは! この笛は便利だなあ。モンスターどもを自由にこき使える! 古代文明の道具だと? 人間どもも味なものを作ってくれるじゃないか!」
げらげらと笑っていたのは、魔族の将軍である。
青い肌に、四本の腕。
3m近い体格は、圧迫感がそう見せているのではない。本当に3mあるのだ。
ふと、彼は陽の光が一瞬かげった事に気づいた。
訝しく思い、頭上に目をやる。
そこには、金色の髪を風になびかせた、白い聖衣の女が飛翔しているではないか!
「と、飛んでる!? いや、跳躍しているのか!!」
「しゃあっ!!」
裂帛の気合とともに、女はモンスター達の只中に着地した。
「馬鹿め! 何を考えてモンスターの中に降り立った! そこの人間の女を踏み潰せーっ!!」
『ぶももー!』
モンスターが吠えて、女へ襲いかかろうとした。
だが。
モンスターが片腕で止められる。
いや、片腕で一掴みにされて、放り投げられた。
「な……なにぃーっ!?」
女が巨大化している!?
魔族の将軍は目を見張った。
「い、いや。これは人間どもが使う圧迫感というやつだな。それの使い手ということか! お前ら、騙されるな! あれは本当にあの大きさなのではない! 圧迫感でそう錯覚しているだけなのだ! そう、人間があんなに大きいはずは……はずは……」
悠然と立ち上がるアンゼリカ。
溢れ出す圧迫感が見せるサイズは、実に身の丈5m。
錯覚に過ぎないと分かってはいても、その凄まじい存在感に、将軍は一瞬たじろいだ。
「戦争などおやめなさい。あなた方を操っている者がいることは分かっているのです……!!」
優しい声で、しかし戦場の隅々まで届くような声量で発しながら、突き進むアンゼリカ。
邪魔をしようとするモンスター達は、次々にボディスラムで投げ捨てられ、ハンマースルーで放り投げられ、ヤクザキックで蹴倒された。
聖女、無人の野を行くが如し!
モンスター程度ではその勢い、止められぬ!
「あれが……あれが聖女というやつか! だが、覆面をしていないな? まさか、新しい聖女が……!?」
将軍は歯ぎしりした。
あちこちに現れ、魔王軍を苦しめているという聖女。
それがまさか己の前に現れるとは。
しかも新しい聖女だとすれば、これは一大事。
魔王様に報告せねばならない。
この戦いは、魔王様を神へと押し上げるための聖戦なのだ。
「魔なる強き神、魔王様の覇道を邪魔するものは……」
将軍は戦闘態勢に入る。
全身の筋肉が膨れ上がり、身にまとった鎧が弾け飛ぶ。
青い、鋼のような筋肉があらわになった。
「この俺が叩き潰してやるわあーっ!!」
将軍は、魔王直々に特訓を受けたうちの一人。
魔族としては、完璧に近いほど作り込まれた肉体は、それだけで無敵の凶器と化す!
「あなたが彼らを操っていたのですね」
アンゼリカもまた、将軍に気づいた。
全身から、視認できるほど濃厚な聖なる気を発して振り返る。
聖なる気が煙のように立ち上る。
「ぬはははは、その通りよ! だが、それが分かったとてどうする。人間ごときが魔王様直々に教えを受けたこの俺に勝てると思うてか!」
四本の腕を振り上げ、将軍は哄笑する。
その目が邪悪に輝いた。
ここに、聖女vs魔族将軍の戦いが幕を開ける……のだが。
将軍は一つだけ見誤っていた。
相手はただの人間ではない。
聖女であり、プロレスラーだった。
どこからか、ゴングが鳴る音が響き渡る。
その瞬間、聖女が駆けてくる。
凄まじい速度だ。
将軍は笛を吹いた。
モンスターが反応し、一斉に聖女めがけて襲いかかる。
「空手チョップ!!」
手刀一閃、モンスターの群れが吹き飛ばされる。
ならず者達のような圧迫感を持たぬモンスターなど、鎧袖一触で蹴散らされるのみなのである!
「ぬうーっ! 違う! 貴様、ただの人間とは明らかに違う!」
「またもモンスターを使役するとは! あなたには彼らへの愛が無いのですね! 許すまじ!」
アンゼリカの腕が、将軍の腕の二本を掴み取った。
「はっ、馬鹿め! 俺には四本の腕がある! このまま捻り潰して……」
「ふんっ!!」
と思ったら、腕を掴まれて放り投げられる。
ハンマースルーである。
本来はロープに振る技なのだが、ここにはロープなどない。
将軍はアンゼリカの剛力を振り払うことができず、そのまま遠くへと吹き飛ばされた。
「ウグワーッ!? な、なんだこの力はーっ!! まるで巨人族に投げられたかのような!!」
同時に、アンゼリカは地面を蹴っている。
落下していく将軍めがけて、急接近だ。
「させるか! ぬおおお、デビル・ファイヤー!!」
将軍の四本腕が印を組むと、そこから紫色の炎が吹き出した。
触れるものを焼き尽くす、魔の炎である!
「空手チョップ!」
それを真っ向から両断するアンゼリカ!
聖女には魔法は通用しないのだ!
「私を倒そうと思うなら」
アンゼリカが、落下してきた将軍をがっちりと受け止める!
「プロレスをしなさい!」
そして急角度からの……ボディスラム!
「ウグワーッ!!」
比喩ではなく、大地が揺れた。
聖女のボディスラムは、ならず者であろうと、魔族であろうと、別け隔てなく等しくその悪の心を砕くのだ!
将軍が握っていた笛は粉砕され、モンスター達が我に返る。
彼らが見たものは、戦場の中心に立つ聖女の姿だった。
完全に失神している将軍を見下ろす彼女は、ゆっくりと拳を天に向かって突き上げた。
空を振り仰ぐ聖女。
降り注ぐ太陽の輝き。
金色の髪がきらきらと輝いた。
金色の聖女……!!
モンスター達は知った。
今ここに、最も強き者が現れたのだと。
「すごーい! モンスターがみんな聖女様に頭さげてる!」
「やっぱ聖女様はすげえなあ」
キャッキャと喜ぶミーナとシーゲル。
双子兵士はそれどころではない。
「な……なんというお方だ……!!」
「モンスターまでも救ってしまうとは……! あのお方は真の聖女だ。金色の聖女だ……!!」
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