上 下
362 / 517
年越し私のまったり編

第362話 カナンさん帰ってきた伝説

しおりを挟む
 クリスマスイブのイブに大攻勢を仕掛けてきた地の大魔将だけど、なんか私の歌でみんなが猛烈に強くなるみたいな謎のバフを受けて、撃退されてしまったのだった。
 地の大魔将は逃げおおせて健在らしいけど、それ以降はダンジョンがパワーアップする気配もなく、平和平和。

 大きな変化もなく、年は暮れていこうとしている。
 あ、そうそう。
 変化と言えば、我が家の増築が終了した。
 物置だったところが五畳くらいの部屋になってるんだよね。

 本来ならスペースがあまりないところに作ったので、ちょっとだけ狭め。
 ここがカナンさんのお部屋なのだ。

 ということで……。

「ただいま!」

「お帰り、カナンさん!」

「おかえり!!」

 カナンさんの凱旋だ。
 父と母が両手を上げて歓迎している。
 家族の一員みたいなものだったもんねえ。

「ああ、懐かしい香り……。私がゴボウアースで故郷だと感じる匂いだ。やっと帰ってこれたのだなあ……」

 カナンさんは宿敵の魔将をやっつけて、人生の目的みたいなものを果たしてしまった。
 なので、出ていったときよりも優しい目をしているのだ。

「では荷物を部屋に置いてくる」

 ということで、二階に登っていった。
 どれどれ……?
 私も後をついていく。

 カナンさんの荷物は、彼女の服とあとは各地のお土産くらい。
 お土産の大半はAフォンに締まってあるから問題なし。

 クローゼットに服を収納して……。

「はづきも入ってきていいよ」

「わあい」

 カナンさんルームに突入!
 おお、新築の木の香りがする……気がする。

 エアコン完備、ベッドにパソコン、そしてクローゼットの他に謎の棚。

「この棚は一体……?」

「二人が私のために気を利かせてくれたらしい! これは嬉しいな……」

 あっ、カナンさんがAフォンから次々と土産物を取り出す!
 これを並べていくのだ。

「あー、全国あちこち回ったんだねえ」

「ああ。まずは旅行初心者である私がわかりやすい、有名なところから巡っていった。この会津東山温泉から全ては始まった……」

「福島県スタートだったのね」

 土産物を並べる度に、カナンさんの思い出話が始まる。
 なるほど、お土産と記憶がしっかり結びついているのだ!

「詳しくは私のアーカイブを見てね」

「配信者の強み~」

 思い出そのものがエンタメになって残ってるんだった!
 その後、部屋の防音性能とか日差しの入り方とかをチェック!

 悪くないんじゃないでしょうか。
 もともと、私の部屋もまあまあ防音だったし。

「私としては外の世界の音が入ってくるのも好きなんだが。自然を身近に感じられていい」

「でも、音が入ってくるということは寒かった暑かったり……」

「ぐぬぬ、ではやはり防音が効いてるほうがいいか……。ところでこのグリーンの壁紙は? 緑に包まれている感じがして私は好きだな……」

「それはお父さんが選んだやつでねえ」

 うちの父親、カナンさんのことも新しい娘みたいに思ってるので、エルフという種族のことを勉強して、新しい部屋の構造材とか壁紙とかサッシを樹脂にしたりとか非常にこだわったのだ。
 なので実は、この部屋は見えるところに一切金属が使われていない……!
 父こだわりの部屋。

 建築費用は私の配信で稼いだお金が潤沢に注ぎ込まれております!

 はづき家のパワーと思いやりの結晶!

「な、なんと! じーんとくるな」

 カナンさんが感激している。
 それで一通りのお土産を並べた後、彼女は自分とお土産が写るように写真を撮った。
 私もノリで写真に一緒に写った。

 SNSにアップしたら、いやあ受けた受けた。

『カナンさんがはづきっちの家に帰還!』『土産物がズラッと並んでるのをバックに撮った写真壮観だなw』『二人ともニッコニコでかわいいー』『背景が全部壁紙とお土産だから特定もできん』

 ははは、お土産は窓からの日差しが当たらない側の棚にあるからね。
 そして特定しようとした人がいたな?
 行け、式神~。

 Aフォンを通じて式神を飛ばしたので、一安心。

「食事が終わったらなんだけど、はづき、コラボ配信をしない?」

「突然のお誘い! コラボって言うと例えば……?」

「オフコラボだから、一緒にゲームをしてもいいが、私はゲームに疎い」

「奇遇ですね私もです」

「じゃあ一緒に歌うとか」

「歌のコラボ配信を……!? 権利関係大丈夫かな……」

「いきなりはまずいか。ゴボウアースは色々面倒なのだな」

「じゃあもう、カナンさんがひたすら旅の思い出をお土産と一緒に話して、私がそれに相槌を打つ配信というのは」

 私も楽だし!

「そうか! さっきはづきにやっていたことをやればいいのか! よし、それで行こう!」

 配信内容が決定したのだった。
 これは素晴らしいローコスト配信。

 私は横でうんうん頷いているだけでいいだろう……。

 この時はこう思っていた。
 だが!

「会津東山温泉は釜飯が絶品で……」

「あひー!? しゃ、写真まで残っている! 食べたいっ、食べたい~」

「岩手のいわいどりは美味しかった。あそこまで管理して、美味しい鶏肉を作ろうとする努力には頭が下がる」

「ああ~美味しそうですねえ~。わ、私はなんでそこにいなかったんだ」

※『いちいちはづきっちの欲にまみれた突っ込みが入るのが面白いw』『聞き役のリアクションが優秀だなあw』『こんな楽しい雑談配信になるとはw』

 私は食欲との戦いなんですが!
 夕食を食べたばかりだと言うのに……!

 おのれー、年明けは東北に旅行してグルメする……。
 私はそう心に誓うのだった。
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

社畜探索者〜紅蓮の王と異界迷宮と配信者〜

代永 並木
ファンタジー
井坂蓮二、23歳 日々サービス残業を繰り返し連続出勤更新し続け精神が疲弊しても働き続ける社畜 ふと残業帰りにダンジョンと呼ばれる物を見つけた ダンジョンとは10年ほど前に突如現れた謎の迷宮、魔物と呼ばれる存在が闊歩する危険なダンジョンの内部には科学では再現不可能とされるアイテムが眠っている ダンジョンが現れた影響で人々の中に異能と呼ばれる力を得た者が現れた 夢か金か、探索者と呼ばれる人々が日々ダンジョンに挑んでいる 社畜の蓮二には関係の無い話であったが疲れ果てた蓮二は何をとち狂ったのか市販の剣(10万)を持ってダンジョンに潜り己の異能を解放する それも3等級と呼ばれる探索者の最高峰が挑む高難易度のダンジョンに 偶然危機に瀕していた探索系配信者竜胆天音を助け社畜の傍ら配信の手伝いをする事に 配信者や異能者に出会いながら探索者として活躍していく 現2章

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...