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晩秋な私の魔王編
第323話 イベント会場地ならし伝説
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私はよく、気分転換で裏方の仕事をやる。
毎日の配信で忙しいんじゃないかと言われるけど、それはそれ、これはこれ。
例えばイノシカチョウ配信のためのエフェクトを式神で作ったり、大きなイベント会場を直に見に行って配信のコース取りを考えたり。
あとは、配信内で使うちょっとしたイラストなんかだと自前で作っちゃう。
プロのイラストレーター、エメラクさんたちにはとってもかなわないけどねー。
ということで。
補習期間には配信しないことになっていて、私は羽を伸ばすべく……。
男子三人組がデビューするための会場をチェックにやって来たのだった。
「君は本当にこういうところがマメだなあ……。それに式神の扱いでは既に私に匹敵している。どこで時間を作ってそれだけの修練を積んでいるんだね?」
一緒にやって来た宇宙さんが不思議そうだ。
「それはですねー。移動のスキマ時間とか、配信前の時間とか、今日は何をやろうかなーって迷う時間があるじゃないですか。そこで実験と実践をですね」
「まさしく天才肌だなあ。だが、結界や浄化の類はてんで身につかないと来ているから不思議だ」
「式神は形になるからですかねー。ブタさんかわいいですよ」
今も一匹、ブタさん式神を呼び出して肩の上に乗せている。
「ぶっぶっ、ぶぃー!」
ブタさんがぶうぶう鳴いて教えてくれた。
ここが今回のデビュー会場ですかあ。
一見すると、テナントが全部退去した後の雑居ビルに見える。
「本来はオーナーが取り壊す予定だったんだが、ダンジョン化した。よくあるパターンだが、問題は地の大魔将の支援を受けてしまったようでね」
「あー、それは大変」
ここのところの世界的トレンドは、大魔将繋がりで強化されたダンジョン。
普通のダンジョンの倍くらい難しくなるのだ。
具体的には、配置されてるモンスターが強くなって、ダンジョンが広くなる。
でも、今のイカルガからするとこれくらいの難易度がちょうどいいですよねー。
「はづきくん、君は入ってくれるなよ」
「えっ、進入禁止!?」
「魔王ベルゼブブの権能を持つ君が踏み込んだダンジョンは、生半可なものならすぐさま消滅させられてしまうからな……。会場の保全という意味では君は強くなりすぎたのだ」
「あー、ダンジョンは儚い……。羽化した後のウスバカゲロウのよう」
「詩的だなあ」
もう晩秋だというのに、夏のポエムみたいなのを口にしてしまった。
私はあれだね。
ちょっと力をセーブする手段を考えないといけない。
そうしないと、配信できる範囲が限られてしまう。
これは課題だなあと思いながら、宇宙さんが会場予定地に結界を張るのを眺めていた。
時々、「あっ、陰陽師だ!」とか言って駆け寄ったり写真を撮ろうとする人をセーブする役割。
「す、すみませーん。勝手に陰陽師の写真を撮ると、近くにいる怨霊がスマホを通じてあなたに憑くので……」
「ひっ、こわぁ」
「マジかよ~。洒落になんない」
みんな話せば分かってくれる。
分かってくれない人には、式神をけしかけてちょっとびっくりさせる。
ちなみに、一般人がみだりにこういうダンジョンを撮影すると、漏れ出てきた怨霊みたいなのが憑いちゃうのは本当。
それで、自宅に持ち帰って丸ごとダンジョン化する……みたいなのも、年間何百件か起きているらしい。
道理で、ダンジョンがいつまでも絶えないはずだ。
みんな呪いを持ち帰ってるんだもんなあー。
確かに、危ない画像とか、ヤバそうな写真ほどバズるもんね。
それでも、何人かは隠し撮りして宇宙さん越しに今回の会場をSNSにアップしたみたい。
あー。
後々、ご自宅がダンジョンにならないことを祈ります。
やっちゃダメだよって迷宮省が通達しているけど、撮影する人が後を絶たない。
これはあれですね。
人間の承認欲求とかいうやつで。
「よし、これで終了! もう撮影OKだよ」
「おおー、結界作業お疲れ様です」
「繊細な作業だからね。はづきくんが守ってくれてて助かった。人が入り込んだら、その人間ごと封印することになるからね」
洒落にならない話だなあ。
結界処理を施されたダンジョンは、見た目からヤバさが消えて、ただの廃屋みたいに見えるのだ。
だけど、中ではダンジョンとして熟成が行われてるんで、何週間か以内に攻略しないといけない。
「ダンジョンがこの世界に現れる以前は、こういう怨霊が憑いた物件を結界で封印するだけで良かったんだ。ごくごく、怨霊の力も弱いものだったからね」
「ほへー、そうなんですねえ」
場所は移動して、喫茶店。
私はグランデサイズのミルクとキャラメルソースとかき氷みたいなのが混じったコーヒーフラッペをごくごく飲んでいる。
「SNSの発達で、怨霊が強化されたとは言うけど、やっぱり問題はダンジョン化だろうね。今の異世界からの侵攻を撃退できれば、ある程度これは落ち着くと思うが……」
ちなみに、撮影してしまうこともだけど、ダンジョンを絵に描くこともよろしくないらしい。
そのダンジョンに強い興味を持っている、ということがダンジョン化を引き寄せてしまうんだとか。
SNSではよく、ダンジョン化物件写真とかを見ることがあるし、それはバズってたりするし。
なかなか今の状況は変わりそうにないですねえ。
お陰で私たち、配信者の仕事がたくさんあるんだけど。
「とと、宇宙さん、あのですね、相談が……。私の力を分けて普段の配信で使わないようにしておきたくて……」
「ほう! つまり魔王部分ときら星はづき部分を分けると……? それは興味深いね……」
近頃のダンジョン事情から、新しい話題に移っていく私たちなのだった。
毎日の配信で忙しいんじゃないかと言われるけど、それはそれ、これはこれ。
例えばイノシカチョウ配信のためのエフェクトを式神で作ったり、大きなイベント会場を直に見に行って配信のコース取りを考えたり。
あとは、配信内で使うちょっとしたイラストなんかだと自前で作っちゃう。
プロのイラストレーター、エメラクさんたちにはとってもかなわないけどねー。
ということで。
補習期間には配信しないことになっていて、私は羽を伸ばすべく……。
男子三人組がデビューするための会場をチェックにやって来たのだった。
「君は本当にこういうところがマメだなあ……。それに式神の扱いでは既に私に匹敵している。どこで時間を作ってそれだけの修練を積んでいるんだね?」
一緒にやって来た宇宙さんが不思議そうだ。
「それはですねー。移動のスキマ時間とか、配信前の時間とか、今日は何をやろうかなーって迷う時間があるじゃないですか。そこで実験と実践をですね」
「まさしく天才肌だなあ。だが、結界や浄化の類はてんで身につかないと来ているから不思議だ」
「式神は形になるからですかねー。ブタさんかわいいですよ」
今も一匹、ブタさん式神を呼び出して肩の上に乗せている。
「ぶっぶっ、ぶぃー!」
ブタさんがぶうぶう鳴いて教えてくれた。
ここが今回のデビュー会場ですかあ。
一見すると、テナントが全部退去した後の雑居ビルに見える。
「本来はオーナーが取り壊す予定だったんだが、ダンジョン化した。よくあるパターンだが、問題は地の大魔将の支援を受けてしまったようでね」
「あー、それは大変」
ここのところの世界的トレンドは、大魔将繋がりで強化されたダンジョン。
普通のダンジョンの倍くらい難しくなるのだ。
具体的には、配置されてるモンスターが強くなって、ダンジョンが広くなる。
でも、今のイカルガからするとこれくらいの難易度がちょうどいいですよねー。
「はづきくん、君は入ってくれるなよ」
「えっ、進入禁止!?」
「魔王ベルゼブブの権能を持つ君が踏み込んだダンジョンは、生半可なものならすぐさま消滅させられてしまうからな……。会場の保全という意味では君は強くなりすぎたのだ」
「あー、ダンジョンは儚い……。羽化した後のウスバカゲロウのよう」
「詩的だなあ」
もう晩秋だというのに、夏のポエムみたいなのを口にしてしまった。
私はあれだね。
ちょっと力をセーブする手段を考えないといけない。
そうしないと、配信できる範囲が限られてしまう。
これは課題だなあと思いながら、宇宙さんが会場予定地に結界を張るのを眺めていた。
時々、「あっ、陰陽師だ!」とか言って駆け寄ったり写真を撮ろうとする人をセーブする役割。
「す、すみませーん。勝手に陰陽師の写真を撮ると、近くにいる怨霊がスマホを通じてあなたに憑くので……」
「ひっ、こわぁ」
「マジかよ~。洒落になんない」
みんな話せば分かってくれる。
分かってくれない人には、式神をけしかけてちょっとびっくりさせる。
ちなみに、一般人がみだりにこういうダンジョンを撮影すると、漏れ出てきた怨霊みたいなのが憑いちゃうのは本当。
それで、自宅に持ち帰って丸ごとダンジョン化する……みたいなのも、年間何百件か起きているらしい。
道理で、ダンジョンがいつまでも絶えないはずだ。
みんな呪いを持ち帰ってるんだもんなあー。
確かに、危ない画像とか、ヤバそうな写真ほどバズるもんね。
それでも、何人かは隠し撮りして宇宙さん越しに今回の会場をSNSにアップしたみたい。
あー。
後々、ご自宅がダンジョンにならないことを祈ります。
やっちゃダメだよって迷宮省が通達しているけど、撮影する人が後を絶たない。
これはあれですね。
人間の承認欲求とかいうやつで。
「よし、これで終了! もう撮影OKだよ」
「おおー、結界作業お疲れ様です」
「繊細な作業だからね。はづきくんが守ってくれてて助かった。人が入り込んだら、その人間ごと封印することになるからね」
洒落にならない話だなあ。
結界処理を施されたダンジョンは、見た目からヤバさが消えて、ただの廃屋みたいに見えるのだ。
だけど、中ではダンジョンとして熟成が行われてるんで、何週間か以内に攻略しないといけない。
「ダンジョンがこの世界に現れる以前は、こういう怨霊が憑いた物件を結界で封印するだけで良かったんだ。ごくごく、怨霊の力も弱いものだったからね」
「ほへー、そうなんですねえ」
場所は移動して、喫茶店。
私はグランデサイズのミルクとキャラメルソースとかき氷みたいなのが混じったコーヒーフラッペをごくごく飲んでいる。
「SNSの発達で、怨霊が強化されたとは言うけど、やっぱり問題はダンジョン化だろうね。今の異世界からの侵攻を撃退できれば、ある程度これは落ち着くと思うが……」
ちなみに、撮影してしまうこともだけど、ダンジョンを絵に描くこともよろしくないらしい。
そのダンジョンに強い興味を持っている、ということがダンジョン化を引き寄せてしまうんだとか。
SNSではよく、ダンジョン化物件写真とかを見ることがあるし、それはバズってたりするし。
なかなか今の状況は変わりそうにないですねえ。
お陰で私たち、配信者の仕事がたくさんあるんだけど。
「とと、宇宙さん、あのですね、相談が……。私の力を分けて普段の配信で使わないようにしておきたくて……」
「ほう! つまり魔王部分ときら星はづき部分を分けると……? それは興味深いね……」
近頃のダンジョン事情から、新しい話題に移っていく私たちなのだった。
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