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出張!私のイギリス編

第309話 ビクトリアを背中に載せて空から観光?伝説

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「恐るべき速度でスカーブラを解放してしまったな。私が一人で挑んだ場合、イエローキングに察知されて妨害を受ける可能性が高かった。だが、我々が揃ってスカーブラ攻略に要した時間は35分。異常な速度だ。イエローキングもさすがに全く間に合わない」

 ルシファーさんが愉快そう。
 スカーブラはすぐに再建されるそうで、いつの間にか外で控えていた建築とかインフラ関係の人たちが、うわーっとなだれ込んできた。

「人類の反撃が始まるぞ。ここから勢力図を塗り替えていく。隔日でイエローキングの領域を削り取るのだ!」

 盛り上がってますなあ。
 私はと言うと、バングラッド氏の慣らし運転。
 デビュー前に私との合体機能を発表したこの魔将の人、まだ色々隠し玉を持っていそうだけど……。

「リーダー、はやくはやく!」

「はいはい」

「私は掴まって飛ぶのは勘弁ですねえ……」

 タマコさんは普通の人だからね。
 下で見ててほしい。

「じゃあ行きますよ、バングラッド氏ー」

『おうとも! ふんぬらー!!』

 飛び上がる私。
 近くにいたインフラの仕事の人たちから、「オー」と驚きの声があがった。
 いきなり女の子が飛んだら驚くよねえ。

 背中にはビクトリアをくくりつけている。
 飛びたい飛びたいって言うんだから。

 そうしてみんなで、空からスカーブラ観光なのだ。
 赤いレンガみたいな屋根が続いていてきれい。

 海に面した港町で、実に絵になるところなのだ。

 凍りついていた船も元通り。
 小さい港に、カラフルな可愛い船が並んでいるのは見てるだけで楽しい。

 しばらく風を受けながら、びゅんびゅんと空を飛んだ。
 基本的にバングラッド氏の気分次第ね。

 私は背中にビクトリアをくっつけたまま、ゴボウを抜く練習をした。
 ふむふむ、このタイミングか……。

 飛びながらだと忙しいから、飛び上がる時に抜くのが無難かなあ。
 いやいや、飛びながらでもやれないことはない。

 さっきのルシファーさんみたいに、モンスターをつまんで盾にしておけばいいか。

 新しい戦い方が見つかってきたぞ……。

「スカボロー城が見えるわ! あそこに降りてみたい!」

「ははあ、いいでしょう。バングラッド氏~」

『心得た! ぬうん!』

 バビューンと飛んでいくバングラッドウイング。
 あっという間に到着した。

 まあ、飛ぶ速度は凄く速くはない。
 多分、時速40kmくらい?

 それでも空を自由に動けるだけでぜんぜん違うからね。

『きら星はづきに攻撃を任せておけば、あの異常な動体視力で何もかもなんとかしてくれるからな! 実に楽ちんだ。いや、我も直々に戦いたいのだが、この飛行速度では相手に追いつけぬからな……!』

 本来飛ぶわけがない形の物を飛ばせるのに全力なので、速度を出すなんてもっての外らしい。
 これはアバター技術の一層の発展を待つしか無いだろう。
 あんまり速く飛ばれても、風がぶつかってきて大変そうな気もするけど。

 ビクトリアが歓声をあげながら、スカボロー城の遺跡っぽい姿を見学して回っている。
 なんかヨーロッパって感じがしますねえ。
 ファンタジー世界みたい。

 こっちの家って昔風に見える作りをしてるから、現代って感じがしないよね。
 風情があるー。

 そしてちょっと高台にあるこのお城からは、イギリスの北部方面が雲に包まれているのが見える。あれがイエローキングの領域かな?
 いやあ、山が少ないですね!
 平らですね!

 大変満足したので、私はその場にのんびりと座り込んでビクトリアがお城観光から戻るのを待つのだった。
 バングラッド氏も分離し、また人型に戻る。

『空を飛ぶ相手ばかりというのはなかなか面倒であろうな。ウェンディゴどもは大した相手では無いが、飛んでいるだけで脅威になりうる。まあ我らが飛んだので普通の雑魚に成り下がったが』

「ねー。でも、あの対象を凍らせる視線は結構使えそうだと思うんだよね」

『使えそうと言うと……シャーベットでも作るのか?』

「そうですそうです。暑い夏の日は重宝しそう。残念ながら、今はちょっと肌寒い秋だけど」

 イギリスの緯度って樺太と同じくらいらしいから、多分寒い……寒い?
 いや、案外日本と変わらないぞ。
 それに雨が多いと聞いてたけど、霧雨がサッと降るくらいで全然大した事ない。

 イメージ通りだったの、カレーとアフタヌーンティが美味しいことだけだったな。
 あ、でもお高い店にしか行ってないし、安いところはもしかすると個性的な味かもしれない。
 確かめたい。
 何事も偏見は良くないもんね……。

 うんうん、と頷く私だった。

「リーダーがまた一人で何か合点しているわ。満足したから帰りましょ。明日はオフなんでしょ? 観光に行きましょうよ。それにタマコが待ってるわ」

「あっ、そうだった」

 またバングラッド氏を装着し、ビクトリアを今度は私が抱っこして飛ぶ。

「私、リーダーに抱きしめられる機会がとても多いと思うのだけど」

「ビクトリアは細いし軽いから持ちやすいね」

「喜んでいいところなのかしら……」

 体重が軽くて喜ぶ女子は多いよね。
 私はこう、胸元やお尻や太もものお肉が落ちないので、なかなかどっしりとした重量を誇っている。
 身長から100を引いたよりもちょっと多いくらい……。

 あっ、のんびりしてたらAフォンにルシファー氏からの鬼電が!
 仕方ない、行くかあ。

 私たちはまた、空に飛び上がるのだった。
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