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秋な私の呉越同舟編

第285話 元長官の家お呼ばれ伝説

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 ウォンさんとのコラボ配信が物議を醸し出したんだけど、騒いでいる人の数は去年よりもずっと減ったなーという感じなのだ。
 地上波とか週刊誌とか新聞メディアが騒いでて、リスナーさんたちは『またか^^』『まあはづきっちだしな』という感じ。

 よく分かってらっしゃる……。
 ちなみにイカルガあての抗議の電話やメールは、宇宙さんとウェスパース氏が張り巡らせた罠により、悪意を測定されると呪詛返しが発動する。
 イカルガを気軽にぶん殴ろうと思ってアクセスしてはいけないのだ……。

 怖い時代になりましたねえ……。

 そんな私だけど、日曜の朝。
 もうじき配信者として本格的に活動するという大京元長官から、自宅へ招待していただいてしまった。

 これは恐くもあり楽しみでもあり。

「私も招待されたわ。一緒に住んでるからじゃないかしら」

「ビクトリアも? 多分、私が一人で行って人見知りでもじもじしないようにという気遣いからかも知れない……」

 なんだかんだ、私に関する情報をたくさん持ってそうだしね。
 ということで、朝の軽い雑談配信を終えてから出発した。

 元長官の家は都心にあって、セキュリティの分厚い高級マンションの一角。

 建物入口のインターフォンを鳴らす。

『はいはい、どなた?』

 はきはきした感じの声が聞こえてきた。
 奥さんだ!

「あのあの、お、お、お招きに与りました、きら星はづきです~」

「リーダー、誰が聞いてるか分からないんだから気をつけて~!」

「あっあっ、ごめんごめん」

 インターフォンの向こうでクスクス笑う声が聞こえて、『噂のはづきちゃんね。今開けるね』と自動ドアが開いた。
 私が入っていこうとすると、なんかどこかで待ち構えてたみたいで、記者みたいなのがウワーッと駆け込もうとする。

「ひえーっ、あぶなーい!」

 私はローアングラー蠱毒を放つ。
 そうしたら、蠱毒が記者の人の足元にまとわりついた。

 途端に立てなくなって崩れ落ちる記者の人。

「うぐわー! 足が、足があああああ」

「あっ、手加減したので足が駄目になるまではいかないです! えっと、半日くらい動けないと思うんで……」

「リーダーのシキガミ使いがまた上達してるわねー」

「毎日いじってるからねえ」

 他に待ち構えていた記者の人たちが、これを見てゾッとした顔になった。
 よし、一応他の記者の人にもローアングラー蠱毒をけしかけておこう。

 元長官も暮らしづらくて迷惑だもんね。
 一旦皆さんにはお帰り願おう。

 私は即座に実行した。
 少しして、色々なところの車が集まってきて、動けない記者を回収していったみたい。

 ここでようやく、私たちは元長官の部屋に向かうことができた。

 広いマンションだ。
 一階の総合ロビーから、地下にはレクリエーションスペースがいくつか。上の階にはスポーツクラブまである。
 常にコンシェルジュみたいな人がいて、「ご用向きは?」とか聞いてくる。

「あのあの、大京さんの家にお招きしてもらっててですね……」

「ああ、聞き及んでおります。どうぞ」

 二重のセキュリティだ!
 やっとエレベーターに乗れた。
 しかもこのエレベーター、招かれた部屋のある階にしか止まれない。

 セキュリティ強力~!

 わちゃわちゃとエレベーターを降りる私とビクトリアなのだった。

「凄い設備ね……。ステイツだとはむしろ、もっと昔からあるアンティークな設備のものが多いわ。都会は違うかも知れないけど……」

 ビクトリアがキョロキョロしている。
 このフロアは一階に部屋が二つしかなくて、大京さんち以外には行けないようになってる。
 なので、行けるルートを辿っていくことになるのだ。

「ダンジョンだ」

「ダンジョンね」

 同じ感想を懐いてしまう。
 そして到着です。

 そこには、なんかスポーティな感じのきれいな女の人と、おっとりした感じのスレンダーな女の人、それから色紙を持った男の子と女の子がいた。

 なんだなんだ!?

「よく来てくれたね。中に入ってくれ。こら、はづきさんが通るのを邪魔したらだめだぞ。サインは後でもらいなさい」

 おお、元長官の声!
 子供たちがぶうぶう言っている。

「お、お邪魔しまあす……」

「リーダー、長官、奥さんが二人いるわ。二人とも指輪……!」

「二人!? ほんとだ!」

 なんか人口が凄く減った時に、男女ともに配偶者を二人まで設けていいよ! という法律が一時期あったらしい。
 その時に結婚したんだと思うなあ。

 まあ、パートナーを養う財力とか甲斐性とか、あるいは二人の男性にめちゃくちゃ愛される愛されパワーが無いとそういうことにはならないけど。

 ということで、大京元長官のお子さん二人にサインをねだられて書くことになってしまった!
 私のサインは進化しているぞ!!
 うおおー!!

「すげー! 最新のサインだ!」

「はづきっちいっつもサイン練習してるって言ってるもんね!」

「ま、まさか二人とも私の配信を見てる……!?」

「あたりまえじゃん!」

「いっつもおうえんしてる!!」

 あんなに教育に悪い配信を!
 ちなみにこの二人の他に、大京氏にはあと三人子どもおられるそうで。
 大家族だあ。

「長女は留学して全寮制の高校にね。あと二人は、ほら」

 ベビーベッドがあって、双子の赤ちゃんがぐうぐう寝ている。

「ということで、この家族を支えるために、俺は配信者で食っていこうと思うんだ」

「リアルにそのセリフを聞くことになるとは思いませんでした……」

「俺も言うとは思っていなかった。だが、配信開始前のツブヤキックスで、既にフォロワーが五万人を越えた」

「すっご」

「君には配信者としての心得などを聞きたくてね。ああ、先日の大罪勢とのコラボ配信はどうでもいい……。君だからな」

「はっ、恐縮です……」

 色々分かってくれる人は貴重だなあ。
 ちょっと向こうでは、ビクトリアが大京氏の長男と次女にアメリカンな戦い方を教えているところだった。
 活発そうな奥さんが、「懐かしいなあ。私も若い頃はレイピア使ってダンジョンを踏破してたっけ」「懐かしいですねえ。あの頃は迷宮省が発足したばかりで、新卒なのにそこに回されて大変だった~」
 おっとりした人は元職員さんだった。

「彼女は現役だよ」

「現役で迷宮省の職員さん!? はえ~」

 では、迷宮省内部の情報も元長官は掴んでるんでしょうねえ。

「イカルガは思った以上にじゃじゃ馬で、積極的に今の迷宮省を切り崩しに掛かっているからな……。多分、中林さんはあと半月で退任するんじゃないか?」

「わ、悪そうな笑み!」

「中林さんの胃をリアルタイムで猛攻撃している本人が何を言っているんだ。正直、想定以上だった……。人間の手では管理しきれんな」

 というような話をした後、ダンジョンに関するレクチャーをスタートする私なのだった。

 
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