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年末! 私の色々挑戦編
第167話 異世界カツ丼無双伝説
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突然フリースペースに空いた穴が、その場にいた人々を飲み込んだ。
どこまでも落下していった先にあったのは、現実とは違う世界。
「なんだここ……」「VRじゃない……!?」「でも俺たちはアバターのままだし……」「えっ、ログアウトできない!」「ほんとだ!」「なんだこれ!?」「またも異常事態!? 助けてくれはづきっちー!」
むき出しの土。
どこまでも続く森。木々の姿は、地球上にあるどれとも似ていない。
さらに遠く見えるのは、剣のように尖った山々。
降り注ぐ太陽の光は二つあり、空の色は地上ではありえないほど青い。
青の中を飛び回るのは、鳥ではない巨大な影。
「これって……前にはづきっちの配信で見たやつ……?」「どうなってるんだよ」「なんだ、これ……」「はづきっちは絶対に来るぞ。そして俺たちに揺れを見せてくれる……」
戸惑う人々の中に、何人かの配信者がいた。
彼ら、彼女たちは配信を続けながら、現状の異常さをリスナーに訴える。
徐々に、配信、SNSを通じてこの異常事態の発生が周知されていく。
「みんな、大丈夫だ! きっと助けが来る!」「落ち着いて! 今配信を使って呼びかけてる!」
配信者たちが声を張り上げる。
混乱しそうになる人々は、辛うじて自制することができた。
常にダンジョンの危険と隣り合わせのこの時代に、自制できない者ほどすぐに死ぬ。
結果、生き残った人々は危険への嗅覚が鋭くなるのだ。
彼らは不安と戦いながら、その場に留まった。
勝手に動き回っていれば、恐らく膨大な犠牲者が出たことだろう。
「現実の俺の体、どうなってるんだ……?」「くそ、こっちからじゃネットが繋がらない」「配信だけ繋がってるの?」「リスナーから外の状況を聞いてくれませんか」「俺たちの不安をぶっちぎって唐突にはづきっちが現れるぞ。俺は詳しいんだ」
配信者たちはその要請に応えて、現実の情報を集め始める。
リスナー伝いに集まってきたのは……。
この世界に飲み込まれた人々は、現実世界では消滅していた。
VR機器だけが転がっており、部屋はもぬけのかららしい。
つまりこれは……アバターと本体が入れ替わり、異なる世界へ連れ込まれたのだ。
「なんだよこれ……どうなってるんだ……!?」「帰してくれ! 家に帰してくれ!」「怖い……怖い……!」
徐々に彼らは冷静さを失っていく。
闇雲に動く者が現れ始める。
未知の事態。
しかも、どうやら取り返しのつかないことになっているようで、そこに巻き込まれた理不尽が彼らの心を苛む。
統制は破れ始めていた。
「みんな、落ち着いて!」「助けが来るまで待ってて!」「迷宮省が動いてくれるから!」
配信者たちの声が響くが、それは人々が口にする不安のざわめきに飲まれていく。
「こ、こんなところにいられるか! 俺は帰る、帰るぞ!」
一人が立ち上がったのがきっかけだった。
次々に立ち上がり、めいめい勝手に動き始める。
「や、やめるんだ! 何が起こるかわからないのに……」
「VR空間から繋がったんだぞ! きっとどこかのゲームみたいになってるに違いない……。ステージの境界線みたいなのがあって……」「オープンワールドだったらどうするんだよ」「そ、そりゃあ……」
そこへ。
この事態を引き起こした張本人が出現する。
規則正しい足音が連続して響き渡る。
森の中から、彼らは現れた。
漆黒の鎧に身を包んだ、異形の兵士たち。
鎧は腕が四本あったり、翼があったり、太い尾が生えていたり、鋭い角があったり。
人間ではない。
「ひっ」「なんだあれ」「武器を持ってる」「お、俺たちをどうするつもりだ」
『素晴らしい。尖兵めがこの世界に、新鮮な労働力を運び込んできてくれた』
乾いた拍手が響いた。
兵士たちの中から進み出る、ねじれた角を持つ騎士。
兜をしてない彼は、美しい顔をしていた。ただし、右目が二つある。そして左目の上から角が生えていた。
明らかに人間ではない。
「だ、誰だ!」
誰何の声が響く。
だが男は鼻を鳴らすばかり。
『卑しい労働力めに名乗る名など無い。よし、連行せよ。逆らうなら殺せ。また幾らでも連れ込めばいい』
黒い兵士たちが動き出した。
最初は規則正しく。
そして徐々に本性を現すように、荒々しく、獣のように駆け出す。
「ひっ」「ひいいいいい」「うわああああああ!!」「うおおお今だぞはづきっち、撮れ高ぁぁぁぁぁ!!」
もはや統制などない。
人々は恐怖に支配され、逃げた。
ばらばらに逃げる。
配信者たちは勇気を振り絞って立ち止まり、配信を続けながら攻撃を開始する。
剣が、おもちゃの銃が力を発揮し、兵士たちを食い止める。
だがあまりにも数が多い。
一人の配信者は兵士の群れに呑まれた。
一人、また一人。
絶望が空間を支配する。
ねじれ角の騎士は哄笑した。
『尖兵どもが苦戦していると聞いたが、大したことはない。所詮、あちらの世界の人間を変えた魔種など程度が知れているということだな。ふん、実に容易い仕事だった。嫉妬めには後で褒美があるよう、魔将閣下に報告しておかねばな』
絶望の世界。
それこそがこの世界だった。
人ならざるものに支配され、人は彼らに使われる労働力に過ぎない。
人間の抵抗など無駄。
いつものように、彼らの軍門に下る……はずだった。
だが、そこにスコーンと何が妙なものが現れた。
それは……巨大なツギハギテディベアと……カツ丼だった。
『!?』
ねじれ角の騎士は一瞬呆然とする。
そして次の瞬間。
「えー、ではここから配信していきますね。敵が多いですねー。ここはマジックハンドとレーザーブレードでですね」
『なんだ!? 何が現れたのだ!?』
「キター!! ご存知ないのですか!?」
兵士たちの中で、誰かが叫んだ。
カツ丼……ねじれ角の騎士はそれを知らない。
だが、丼の外に描かれたブタさんのマークが何なのかは分かった。
シンボライズされた家畜の一種みたいなものであろう。
『ふざけた外見を……! おい、そいつらを排除……』
言いかけたところで、カツ丼がどこからか取り出したマジックハンドが、うにょんとしなった。
長く長く伸びたマジックハンドが、周りにいた黒い兵士たちをまとめて吹っ飛ばす。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
黒い兵士たちの動きが止まる。
彼らは理解したのだ。
なんか凄いものが自分たちの只中に降り立ったと。
※『無双系ですなあ』『はづきっちファイト!』『おっ、ビクトリアちゃんが現地の人たちを助けに行った』『今同志おこのみがいなかった?』『はづきっち前衛だな』『えっ、一人でこの大群を押し返す!?』
「できらあ!」
カツ丼が威勢のいい返事をした。
『くっ! なんだあれは! 見たことも聞いたこともない! だがいつもと同じこと! 魔法兵、射撃せよ! 焼き尽くせ!』
ねじれ角の騎士の背後で、無数の魔法が生じた。
放つのはファイヤアロー。
対象を貫き、内部から焼き尽くす恐るべき魔法だ。
騎士が率いる魔法兵団は、カツ丼目掛けてこのファイヤアローを雨のごとく降り注がせ……。
「速度が遅いので見てから反射余裕ですねー。ホイホイのホイ」
全てのファイヤアローが、輝く剣によって弾き返されてきた。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
自らの魔法に打ち貫かれ、魔法兵団は壊滅。
※『無体過ぎるw』『まあ弾丸を打ち返す女相手に魔法の集中攻撃はな……』『まさかカツ丼がヤベえ奴だなんて絶対わからないじゃんw』『初見殺し~』
カツ丼はポテポテと小走りで近づいてくる。
ねじれ角の騎士は戦慄した。
『なんだ!? なんだと言うのだ!!』
彼自身は、打ち返されたファイヤアローを魔法の障壁を巡らせて防いでいる。
物理攻撃すら跳ね返す鉄壁の守りである。
彼の最も得意とする魔法だった。
だが、それを展開していてなお、ねじれ角の騎士の全身に鳥肌が立っている。
まずい。
あの奇妙な物体は、本当にまずい。
『全軍! 止めろ!! あいつを止めろ!!』
騎士の号令がかかった。
この言葉には魔法が宿っている。
黒い兵士たちは、標的をこのカツ丼に定めた。
集団で叢雲のごとく襲いかかってくる兵士たち。
迎え撃つカツ丼。
「レーザーブレードだとちょっと大変ですので、ここでゴボウをですねー」
※『伝家の宝刀キター!!』『本気を出すかはづきっち!』『ゴボウ! ゴボウ!』
輝く剣をぽいっと捨てたカツ丼は、体の中からひょろっとした茶色い棒のようなものを取り出した。
『なんだそれは? 聖剣を捨てて棒で相手をするだと? 舐められたものだな! 終わりだ、訳の分からないモノ!!』
襲いかかる兵士たち!
だが、それはスコーンという音と、「あちょっ」という間の抜けた声とともに……。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』×100
一掃された。
文字通り、一層である。
茶色い棒の一閃と同時に、ピンクの輝きが放たれた。
黒い兵士たちは全てそれに呑まれ、文字通り粉砕された。
振り返るカツ丼。
いや、丼が回っても振り返ったのかは全く分からない。
だが、横に描かれたブタさんのマークと騎士は、確かに目が合った。
『ば、化け物めえええええええ!!』
ねじれ角の騎士が叫んだ。
抜くのは魔剣。
魔法障壁を刃として放ち、あらゆるものを両断する剣だ。
最強の守りと最強の攻撃。
この二つで以てカツ丼を迎え撃つ……。
「あちょー!」
魔法障壁が真っ二つになった。
魔剣が真っ二つになった。
ねじれ角の騎士が真っ二つになった。
『ウグワーッ!? そ、そんなぁ~!』
「えー、上手く動けたので5分で攻略完了です」
「リーダー、こっちもみんな助けた!」
「ビクトリアえらーい」
※『えらい』『カツ丼でどうなるかと思ったが、動けるカツ丼だったな』『しかし見たこと無いゲーム画面だったなー』『新作か?』『あ、なんかVRが異世界に繋がったとかニュースしてるぞ』『マジ異世界かよ』『異世界を5分でRTAするなw』
周囲の光景が変わっていく。
異世界から、見慣れたVRのフリースペースへ……。
なんか視界の端で、「せっかくアバター作ってここまで来たのにカツ丼じゃ揺れてるところが見れなーい!」と飛び跳ねてる人がいた気がする。
こうして……。
その後のツブヤキックスのトレンドがカツ丼で埋め尽くされた。
どこまでも落下していった先にあったのは、現実とは違う世界。
「なんだここ……」「VRじゃない……!?」「でも俺たちはアバターのままだし……」「えっ、ログアウトできない!」「ほんとだ!」「なんだこれ!?」「またも異常事態!? 助けてくれはづきっちー!」
むき出しの土。
どこまでも続く森。木々の姿は、地球上にあるどれとも似ていない。
さらに遠く見えるのは、剣のように尖った山々。
降り注ぐ太陽の光は二つあり、空の色は地上ではありえないほど青い。
青の中を飛び回るのは、鳥ではない巨大な影。
「これって……前にはづきっちの配信で見たやつ……?」「どうなってるんだよ」「なんだ、これ……」「はづきっちは絶対に来るぞ。そして俺たちに揺れを見せてくれる……」
戸惑う人々の中に、何人かの配信者がいた。
彼ら、彼女たちは配信を続けながら、現状の異常さをリスナーに訴える。
徐々に、配信、SNSを通じてこの異常事態の発生が周知されていく。
「みんな、大丈夫だ! きっと助けが来る!」「落ち着いて! 今配信を使って呼びかけてる!」
配信者たちが声を張り上げる。
混乱しそうになる人々は、辛うじて自制することができた。
常にダンジョンの危険と隣り合わせのこの時代に、自制できない者ほどすぐに死ぬ。
結果、生き残った人々は危険への嗅覚が鋭くなるのだ。
彼らは不安と戦いながら、その場に留まった。
勝手に動き回っていれば、恐らく膨大な犠牲者が出たことだろう。
「現実の俺の体、どうなってるんだ……?」「くそ、こっちからじゃネットが繋がらない」「配信だけ繋がってるの?」「リスナーから外の状況を聞いてくれませんか」「俺たちの不安をぶっちぎって唐突にはづきっちが現れるぞ。俺は詳しいんだ」
配信者たちはその要請に応えて、現実の情報を集め始める。
リスナー伝いに集まってきたのは……。
この世界に飲み込まれた人々は、現実世界では消滅していた。
VR機器だけが転がっており、部屋はもぬけのかららしい。
つまりこれは……アバターと本体が入れ替わり、異なる世界へ連れ込まれたのだ。
「なんだよこれ……どうなってるんだ……!?」「帰してくれ! 家に帰してくれ!」「怖い……怖い……!」
徐々に彼らは冷静さを失っていく。
闇雲に動く者が現れ始める。
未知の事態。
しかも、どうやら取り返しのつかないことになっているようで、そこに巻き込まれた理不尽が彼らの心を苛む。
統制は破れ始めていた。
「みんな、落ち着いて!」「助けが来るまで待ってて!」「迷宮省が動いてくれるから!」
配信者たちの声が響くが、それは人々が口にする不安のざわめきに飲まれていく。
「こ、こんなところにいられるか! 俺は帰る、帰るぞ!」
一人が立ち上がったのがきっかけだった。
次々に立ち上がり、めいめい勝手に動き始める。
「や、やめるんだ! 何が起こるかわからないのに……」
「VR空間から繋がったんだぞ! きっとどこかのゲームみたいになってるに違いない……。ステージの境界線みたいなのがあって……」「オープンワールドだったらどうするんだよ」「そ、そりゃあ……」
そこへ。
この事態を引き起こした張本人が出現する。
規則正しい足音が連続して響き渡る。
森の中から、彼らは現れた。
漆黒の鎧に身を包んだ、異形の兵士たち。
鎧は腕が四本あったり、翼があったり、太い尾が生えていたり、鋭い角があったり。
人間ではない。
「ひっ」「なんだあれ」「武器を持ってる」「お、俺たちをどうするつもりだ」
『素晴らしい。尖兵めがこの世界に、新鮮な労働力を運び込んできてくれた』
乾いた拍手が響いた。
兵士たちの中から進み出る、ねじれた角を持つ騎士。
兜をしてない彼は、美しい顔をしていた。ただし、右目が二つある。そして左目の上から角が生えていた。
明らかに人間ではない。
「だ、誰だ!」
誰何の声が響く。
だが男は鼻を鳴らすばかり。
『卑しい労働力めに名乗る名など無い。よし、連行せよ。逆らうなら殺せ。また幾らでも連れ込めばいい』
黒い兵士たちが動き出した。
最初は規則正しく。
そして徐々に本性を現すように、荒々しく、獣のように駆け出す。
「ひっ」「ひいいいいい」「うわああああああ!!」「うおおお今だぞはづきっち、撮れ高ぁぁぁぁぁ!!」
もはや統制などない。
人々は恐怖に支配され、逃げた。
ばらばらに逃げる。
配信者たちは勇気を振り絞って立ち止まり、配信を続けながら攻撃を開始する。
剣が、おもちゃの銃が力を発揮し、兵士たちを食い止める。
だがあまりにも数が多い。
一人の配信者は兵士の群れに呑まれた。
一人、また一人。
絶望が空間を支配する。
ねじれ角の騎士は哄笑した。
『尖兵どもが苦戦していると聞いたが、大したことはない。所詮、あちらの世界の人間を変えた魔種など程度が知れているということだな。ふん、実に容易い仕事だった。嫉妬めには後で褒美があるよう、魔将閣下に報告しておかねばな』
絶望の世界。
それこそがこの世界だった。
人ならざるものに支配され、人は彼らに使われる労働力に過ぎない。
人間の抵抗など無駄。
いつものように、彼らの軍門に下る……はずだった。
だが、そこにスコーンと何が妙なものが現れた。
それは……巨大なツギハギテディベアと……カツ丼だった。
『!?』
ねじれ角の騎士は一瞬呆然とする。
そして次の瞬間。
「えー、ではここから配信していきますね。敵が多いですねー。ここはマジックハンドとレーザーブレードでですね」
『なんだ!? 何が現れたのだ!?』
「キター!! ご存知ないのですか!?」
兵士たちの中で、誰かが叫んだ。
カツ丼……ねじれ角の騎士はそれを知らない。
だが、丼の外に描かれたブタさんのマークが何なのかは分かった。
シンボライズされた家畜の一種みたいなものであろう。
『ふざけた外見を……! おい、そいつらを排除……』
言いかけたところで、カツ丼がどこからか取り出したマジックハンドが、うにょんとしなった。
長く長く伸びたマジックハンドが、周りにいた黒い兵士たちをまとめて吹っ飛ばす。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
黒い兵士たちの動きが止まる。
彼らは理解したのだ。
なんか凄いものが自分たちの只中に降り立ったと。
※『無双系ですなあ』『はづきっちファイト!』『おっ、ビクトリアちゃんが現地の人たちを助けに行った』『今同志おこのみがいなかった?』『はづきっち前衛だな』『えっ、一人でこの大群を押し返す!?』
「できらあ!」
カツ丼が威勢のいい返事をした。
『くっ! なんだあれは! 見たことも聞いたこともない! だがいつもと同じこと! 魔法兵、射撃せよ! 焼き尽くせ!』
ねじれ角の騎士の背後で、無数の魔法が生じた。
放つのはファイヤアロー。
対象を貫き、内部から焼き尽くす恐るべき魔法だ。
騎士が率いる魔法兵団は、カツ丼目掛けてこのファイヤアローを雨のごとく降り注がせ……。
「速度が遅いので見てから反射余裕ですねー。ホイホイのホイ」
全てのファイヤアローが、輝く剣によって弾き返されてきた。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
自らの魔法に打ち貫かれ、魔法兵団は壊滅。
※『無体過ぎるw』『まあ弾丸を打ち返す女相手に魔法の集中攻撃はな……』『まさかカツ丼がヤベえ奴だなんて絶対わからないじゃんw』『初見殺し~』
カツ丼はポテポテと小走りで近づいてくる。
ねじれ角の騎士は戦慄した。
『なんだ!? なんだと言うのだ!!』
彼自身は、打ち返されたファイヤアローを魔法の障壁を巡らせて防いでいる。
物理攻撃すら跳ね返す鉄壁の守りである。
彼の最も得意とする魔法だった。
だが、それを展開していてなお、ねじれ角の騎士の全身に鳥肌が立っている。
まずい。
あの奇妙な物体は、本当にまずい。
『全軍! 止めろ!! あいつを止めろ!!』
騎士の号令がかかった。
この言葉には魔法が宿っている。
黒い兵士たちは、標的をこのカツ丼に定めた。
集団で叢雲のごとく襲いかかってくる兵士たち。
迎え撃つカツ丼。
「レーザーブレードだとちょっと大変ですので、ここでゴボウをですねー」
※『伝家の宝刀キター!!』『本気を出すかはづきっち!』『ゴボウ! ゴボウ!』
輝く剣をぽいっと捨てたカツ丼は、体の中からひょろっとした茶色い棒のようなものを取り出した。
『なんだそれは? 聖剣を捨てて棒で相手をするだと? 舐められたものだな! 終わりだ、訳の分からないモノ!!』
襲いかかる兵士たち!
だが、それはスコーンという音と、「あちょっ」という間の抜けた声とともに……。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』×100
一掃された。
文字通り、一層である。
茶色い棒の一閃と同時に、ピンクの輝きが放たれた。
黒い兵士たちは全てそれに呑まれ、文字通り粉砕された。
振り返るカツ丼。
いや、丼が回っても振り返ったのかは全く分からない。
だが、横に描かれたブタさんのマークと騎士は、確かに目が合った。
『ば、化け物めえええええええ!!』
ねじれ角の騎士が叫んだ。
抜くのは魔剣。
魔法障壁を刃として放ち、あらゆるものを両断する剣だ。
最強の守りと最強の攻撃。
この二つで以てカツ丼を迎え撃つ……。
「あちょー!」
魔法障壁が真っ二つになった。
魔剣が真っ二つになった。
ねじれ角の騎士が真っ二つになった。
『ウグワーッ!? そ、そんなぁ~!』
「えー、上手く動けたので5分で攻略完了です」
「リーダー、こっちもみんな助けた!」
「ビクトリアえらーい」
※『えらい』『カツ丼でどうなるかと思ったが、動けるカツ丼だったな』『しかし見たこと無いゲーム画面だったなー』『新作か?』『あ、なんかVRが異世界に繋がったとかニュースしてるぞ』『マジ異世界かよ』『異世界を5分でRTAするなw』
周囲の光景が変わっていく。
異世界から、見慣れたVRのフリースペースへ……。
なんか視界の端で、「せっかくアバター作ってここまで来たのにカツ丼じゃ揺れてるところが見れなーい!」と飛び跳ねてる人がいた気がする。
こうして……。
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