上 下
144 / 517
先輩! 私の新人フォロー編

第144話 ビクトリア来日伝説

しおりを挟む
 11月前半はこれと言ったイベントもなく過ぎ去り、あっという間にビクトリアがやってくる日になった。
 平穏な毎日がありがたい……。

 なんか巷では、嫉妬勢はインターネットを使った侵食をしてくるとか、知らない人からのDMに気をつけようとかそういう話になっているんだけど。

「あれから嫉妬のシン・シリーズと接触はないのか?」

「あったかも知れない……。でも私が気付いてないだけかも知れない……」

「お前はそういうの全く気にしないからな」

「そ、そこは先輩のいいところだと思いますー」

 私とシカコ氏は、兄のVMAX-2000に乗せられて空港へ向かっていた。
 何度も乗ったけど、この車はとにかく速い。
 だけど兄曰く、

「本気モードを出すには海外にでも行かないといけない。日本でこの性能は持ち腐れなのだ」

 とニヤニヤしながら言うのだ。
 あえて道が狭い日本で超高速スポーツカーを乗ることに愉悦を感じる男……!

 それはともかく、後部座席があるスポーツカーなVMAXだけど、シートベルトをしたシカコ氏は加速の度に「はひー」と悲鳴を上げる。
 スピードがダメな人だ!

 でも、その速度のお蔭で空港まであっという間に到着した。
 空港内のレストランで腹ごしらえをする。

 しばらくすると、ビクトリアの乗る飛行機が来る時間になったようだ。
 私とシカコ氏は顔を見合わせて頷いた。

 このために横断幕を作ってきている。

 アメリカからの直行便が復活し、その第一弾としてやってくる飛行機なのだ。
 周囲の注目度は凄い。

 だからここで目立つと、全国ネットで私たちの姿が放送されてしまう!
 だがしかし!
 海を超えてきたビクトリアを迎えるのに、ささやかな感じでいいんだろうか?
 よくない。

 私とシカコ氏はトイレでバーチャライズして来た。

「はづきっちがいる!!」

「隣の小さい子誰!?」

「かわいい」

 当然注目されるのだ。
 そしてテレビ局とかが詰めかけている空港のターミナルで、横断幕を準備した。

 隣で、なんかアメリカからの直通便復活について捲し立てている女性アナウンサーさんがいる。
 私がカメラにチラチラ映り込んで作業しているので、カメラマンさんがハッとしたようだ。
 すごく驚いた顔で私を指さしてる。

 アナウンサーさんもちらっと私を見た後、ぎょっとして「は、はづきっち!?」と叫んだ。

「あ、どうもどうも。気にせず続けてください……」

「あ、いえ、いいんですけど! その……あなたほどの大物配信者がここにどうして……?」

「そ、それはですね。秘密なんですけど」

「そこをなんとか……」

 食い下がってくるなあ。
 だが、私は曖昧に笑ってこれを回避し、シカコ氏……もとい、もみじちゃんと二人で横断幕を広げた。
 まあ、私が四人並んだくらいの小さい横断幕だけど。

『ようこそビクトリア!! 歓迎!! イカルガエンターテイメント一同』

 みたいなのが書いてある。
 これを見て、アナウンサーさんは察したらしい。

「なるほど、なるほど……!」

「なので彼女はあんまり映さないでもらえると……」

「あ、はいはい! でもちょっと映すくらいは……」

 遠くの兄が重々しく頷いた。

「あ、いいそうです」

「良かった! えー、皆さん、なんと、あのきら星はづきさんもこちらのイベントに駆けつけてきておられます! どうやら先日のアメリカ配信でともに戦ったビクトリアさんを迎えるためらしく……」

 これがもう、あっという間にツブヤキックスで広まった。
 さらに、空港にいる私やもみじちゃんを激写したものまで出回っていく。

「はひー、すっごい視線を感じますー!」

「陽キャの世界は怖いねえ……」

「はづき先輩は理解不能なものを全部陽キャに例えますよねえ」

「この世で一番おそろしいものだからね」

「そうかなあ……」

 ぺちゃぺちゃ喋っていたら、飛行機到着です。
 ワーッと歓声が上がった。

 しばらくして、飛行機から乗客がわいわい降りてくる。
 重要な人たちはタラップ車で降りてアピールしてるけど、ここはターミナル。
 普通の人たちが降りてくるところだね。

 ……ビクトリアって重要人物だっけ?
 重要人物じゃない?

「お、お、お兄ちゃん!!」

「しまった」

 ということで、私たちは慌てて許可をもらい、飛行機の近くまで行かせてもらった。
 なぜかスルッと通してもらえたんだけど……。

「迷宮省から、きら星はづきの行動をできる限り支援せよという要請が来ておりまして」
 係の人が説明してくれた。

「あーなるほど」

 国がバックアップしてくれてたのか。
 ということで、タラップ車が見えるところです。

 見たことあるアメリカのおじさんが、国の偉い人と握手していて、みんなこれをパシャパシャ撮影している。
 で、ゴスロリ姿の女の子がオロオロしながらその辺を歩いている。

 あまりに場違いなので、記者の人たちもどうしたものか迷っているみたいだ。
 私はもみじちゃんに向かって強く頷くと、横断幕をぐっと広げた。
 そして叫ぶ。

「ようこそビクトリア!」

 私の声が届いた。
 ゴスロリな彼女……ビクトリアは顔をあげると、パッと表情を輝かせた。
 そして猛烈な勢いで走ってくる。

「リーダー!!」

「ビクトリアー!」

 横断幕を兄に任せて、私は両手を広げる。
 飛び込んでくるビクトリア。
 私は彼女をキャッチすると、抱き上げてくるくる回った。

 なんか劇的な再会シーンみたいになったので、カメラマンの人たちが集まってきてパシャパシャやったり動画を撮り始めた。

「当たり前みたいにビクトリアさんを抱き上げましたけど、はづき先輩の馬力凄いですよね……」

「ああ。多分、最近のあいつは鍛えてるから体重二倍くらいある女子より腕力あるぞ。配信の間中ゴボウをしっかり握りしめてペースを落とさず振り回し続けられる女がどれほどいる?」

「確かに……」

 私を化け物みたいに言ってないか……?

「凄い! 女の子を抱き上げた上に持ってきたトランクまでひょいっと持ち上げてる!」

「やっぱりきら星はづきは違うねー。中身が実は屈強な男性なんじゃないか説は本当だったのかもな」

「バーチャライズすると見た目はどうとでもなるからなあ」

 周りもなんか言ってるんですけど!
 私は女子です!!

 そしてさらに、状況は混迷の度合いを深める。
 アメリカのおじさんがこっちに気付いたのだ。

「オー! ハヅキ!! トゥインクルスター!! マイゴッデス!」

 なんか叫びながらドシドシ走ってくる!
 あっ、州知事~!!

 私はビクトリアを横に置いて、向かってきた州知事のハグをスッと回避した。

「あ、握手でお願いします、シェイクハンド……」

「オーケー!」

 こうして、私と州知事が握手するところがまた激写されてしまったのだった。

しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

社畜探索者〜紅蓮の王と異界迷宮と配信者〜

代永 並木
ファンタジー
井坂蓮二、23歳 日々サービス残業を繰り返し連続出勤更新し続け精神が疲弊しても働き続ける社畜 ふと残業帰りにダンジョンと呼ばれる物を見つけた ダンジョンとは10年ほど前に突如現れた謎の迷宮、魔物と呼ばれる存在が闊歩する危険なダンジョンの内部には科学では再現不可能とされるアイテムが眠っている ダンジョンが現れた影響で人々の中に異能と呼ばれる力を得た者が現れた 夢か金か、探索者と呼ばれる人々が日々ダンジョンに挑んでいる 社畜の蓮二には関係の無い話であったが疲れ果てた蓮二は何をとち狂ったのか市販の剣(10万)を持ってダンジョンに潜り己の異能を解放する それも3等級と呼ばれる探索者の最高峰が挑む高難易度のダンジョンに 偶然危機に瀕していた探索系配信者竜胆天音を助け社畜の傍ら配信の手伝いをする事に 配信者や異能者に出会いながら探索者として活躍していく 現2章

処理中です...