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休憩? 私の充電編

第134話 カラオケ特訓、そして本番へ伝説

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 本当に全然私のことで騒がれなくなってしまった。
 すごい。

 エゴサしても陰謀論サイトみたいなのがヒットしなくなってきてる。

 兄が家にやって来ていたので、どういうことか聞いてみたら。

「ガソリンと電力が供給されない状態で走り続けられる車はない」

 とか哲学的なことを言ってきたのだった。
 つまり、こっちがネタを全く提供しない上に、陰謀論とかわあわあ言う人たちを一切相手にしない状態を二週間続け、しかも迷宮省側が陰謀を広めているアルファを次々逮捕したので。

「私のアンチが下火になっちゃったのね」

「そういうことだ。お前はそれだけのことをやった配信者だからな。国がお前を守ろうとする。お前にとって一番危険な相手は人だ」

「ほえー、不思議な領域に入った……」

 ひとまず心配は無いらしい。
 イギリスの大罪勢っぽい議員の人にも、国から抗議が行くらしいし。

「だが、敵の狙いはある程度成功してしまったと考えていいだろう。お前、同接数がアメリカに行く前くらいまで落ち着いているだろう」

「あ、うん。世界中の人たちは時差があるし、言葉も違うもんねえ」

「向こうの狙いは、お前の勢いを削ぐことだ。そうして人間側とのパワーバランスを保ったのだろう。狡猾なやつだ」

 なるほどー。
 確かにアメリカにいた時は、なんでもできそうなくらい同接数が増えてたもんね。
 今はそうでもないし、ライブダンジョンさんがやるライブの方が全然同接が多いと思う。

「私はまあこだわらないので。それより近々カラオケコラボがあって……」

「うむ。彼女に協力を要請している。今度の土曜日に行ってくるといい」

 彼女というのは!
 シカコ氏だった。

 ちょっとカワイイ、フリルのついたブラウスを着て私を待っている。

「先輩、こっちこっち」

「同い年で先輩はやめてえ」

「配信者としての大先輩ですし。尊敬する人ですしー」

 むふーっと鼻息を荒くするシカコ氏。
 かなり歌がうまい彼女が、私の指導をしてくれるということだった!

 個室に入ってから、お互いドリンクを頼む。
 私はコーラでシカコ氏はメロンソーダ。

「いいですかはづき先輩。カラオケは度胸です。間違ったっていいんです、カラオケだから。とにかく胸を張って歌い切るのが大事なんです。あとキーを覚えましょう」

「ふむふむ」

「うちはイノッチとチョーコとよくカラオケ行くんで、かなり場馴れしてます。先輩は今日カラオケ歌いまくって慣れましょう。あんま行ったことないでしょ」

「ぜ、全然ない」

「やっぱり……。じゃあ一番手はうちが歌います……と行きたいところですが、まずはちょっと難易度が高いデュエットから行きましょう」

「あひー」

 スパルタ!!
 それなりに声量があって、キーを外さないシカコ氏は歌がうまい。
 それに対して、私はキーがちょいちょいブレるしテンポもヘンテコなのだ。

 何よりこんな変な声でいいのかー!

「いいですよはづき先輩! なんか声が出てます!」

「さすがに配信で慣れてきたので、大きい声だけは出る……」

「いっちばん大事です!! キーとかテンポは技術ですから。やり続けると上手くなりますから」

 そ、そういうものなのかー。
 ドリンクが届いたので、二人でチューっとストローを吸う。
 一息に飲み干してしまった。
 お代わりを注文する。

「すごい」

「歌うとカロリーを消費する気がするので……」

「はづき先輩の歌、なんか馬力を感じますもんね……」

「馬力!?」

 そんな形容をされたのは初めてだ。
 で、この後で流行りの歌を何度も練習したり、リスナーが知ってるボカロ系の曲を教えてもらったりなどした。

「事前に風街さんと打ち合わせがあると思うんです。そこでセットリスト……セトリを決めますから、レパートリーが多いに越したことはないです」

「な、なるほどー」

 シカコ氏、詳しい。
 いや、配信見まくってるんだから詳しくて当然か。

「実は自分が配信者になったらどうするとか、ずっと妄想しててー……。まさか本当にその機会が来るとか思って無くてー……」

「なるほどー」

 恥ずかしそうな彼女に私はニコニコした。
 その日は練習と歌の理解に努め、翌日はセトリを作成することにした。

「……という話を聞いたので私も来ちゃいました」

「あひー、風街さん!」

「ひっ、ほ、ほ、ほんものの風街流星ちゃん……!?」

 シカコ氏が今にも気絶しそうだ!!

「シカコ氏気を確かにー! この業界にいるとこういうことしょっちゅうになるから!」

「は、はい。呼吸が止まってました……」

「深呼吸しよう……」

「ひっ、ひっ、ふー」

「それは深呼吸じゃないわね」

 風街さんに突っ込まれてしまった。
 さて、大物で多忙なはずなのに、異常にフットワークが軽い風街さん。

 今夜は配信だというのに、私のセトリ作成のお手伝いのためにわざわざ来てくれたのだ。

「ツブヤキックスのツブヤキは、私だけじゃなくてマネージャーさんもやってるからね。週の頭にあらかじめ予定を立ててあって、ショート動画なんかは複数同時に進行してるの。歌みたも何本かストックあるし」

「この人はいつこんなに大量の仕事をしてるんだろう……」

 私は戦慄した。
 風街さんは風街さんで、ふんふん言いながらシカコ氏を見ている。

「イカルガエンターテイメントさんで新しい配信者を出すって噂に聞いたけど、彼女なのね? なるほどなるほどー。バネの効きそうないい体してる。えっ、歌も上手いの? いいじゃない。じゃあ私と今度コラボしましょ」

「はひー」

「シカコ氏が恐縮のあまり死にそうな声をあげてる。か、風街さん、もうちょっと手心をというか……」

「いいのいいの。そういう初々しさもリスナーに受けるんだから! 楽しみねえ」

 こうして、カラオケボックスで私のセトリは完成していくのだった。
 いよいよ近日、カラオケコラボ配信……!
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