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いそがし私の東奔西走編

第74話 大罪VS持ってる女伝説

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 あれっ!?
 ガチ恋勢とかママ目線のデーモンもうやっつけたんじゃない!?
 スタジオに突入して私はハッとした。

 急に立ち止まったので、後ろに野中さんがぶつかってくる。

「うーわー、柔らかいものに当たった!」

「あっ、ご、ごめんなさい」

「どうしたのいきなり……きゃあっ!?」

 あれ?
 なんか視界の端で何かが素早く動いたみたいな。

※『うおおおおお!? はづきっちがのちょっと先をギロチンみたいなのがガンガン動いていった!』『これを読んで回避したのか!』『いや、多分またいらんことを考えて突然立ち止まったんだ』『なんとなくで致死的なトラップを回避……!』たこやき『相変わらず持ってるなあ……』

『ありえないだろ、そこで避けるのは!!』

 聞いたことがあるような声が……。
 目を凝らしてみたら、スタジオの真ん中に大きな人型の影が立っていた。
 全身に真っ赤な目が輝いていて、足元からは影の触手がたくさん生えている。

「あっ、ナカバヤシさん」

『いかにも。俺は憤怒のナカバヤシ! 多くの人間たちの怒りや憎しみを取り込み、こうして力を得て戻ってきた! 手始めに、怒りに飲まれた愚かな人間どもをデーモンに変えてやったところだ! 人類よ! ここが地獄の始まりだ! 全世界がダンジョンと化し、怒りに飲まれた者は俺の手でデーモンに変わる! 貴様らは我が眷属によって塵芥のように排除されていくのだ! うおおおお!! 怒りが湧き上がってくる!!』

「ネームドが出たピョン!!」

「まさか事件の裏にネームドが関わっていたなんて……! 行きます!!」

 ギロチンをキックで壊したピョンパルさんと、魔法で撃ち落とした風街さんがスタジオに飛び込んでいった。
 迎え撃つみたいに、黒い触手がたくさん生えてきて襲いかかる。
 触手は近づくと燃え上がり、炎で攻撃してくるようだ。

「あひー! ま、待ってくださーい! わた、私も行きまーす!」

 私は後ろに野中さんと、男性声優の人を連れて駆け込んでいった。
 うわーっ、地面にコードとかが落ちてて転びそうだなあ。

「まずはマネージャーを助けましょう!!」

 男性声優さんがマネージャーさんを指差す。
 なんか、MC席にぐるぐる巻きにされて貼り付けられている。

 その周りで松明を持ったモンスターたちが踊っていた。
 こ、これは、なんか火炙りとかバーベキューみたいなことをしようとしてる!?

「た、助けてーっ!! ディナーにされるーっ!!」

「こ、こらー!」

 私はゴボウを振り回して、そっちに走った。
 後ろの二人も慌ててついてくる。

『ゴブゴブッ!』『レーッド!』『オーガーッ!』『トロォォォル!』

 色々いる!
 ここで兄から、ザッコで連絡が!

『ゴボウ農家から直送できるようになったぞ。スパチャを使え!』

「わ、分かった! ゴボウ……お買い上げー!!」

 投げられていたスパチャを消費しながら、私は虚空に手を伸ばす。
 すると、そこに光が生まれ……とれたてゴボウが姿を表した。

※『うおおおおおお』『最強の産地直送!!』『ゴボウとゴボウが合わさり最強に見える!!』

 ゴボウ二刀流……!

 襲いかかってくるモンスターをゴボウで受けて、もう一方のゴボウでペチッと叩く。

『ウグワーッ!?』

 モンスターが消滅する。
 これを何回か繰り返したら、モンスターが全部いなくなった。

※『素で二天一流みたいなことしてる』『ゴボウ二天一流、完成しちまったな……』『昔の二刀流と動きのもたもたした感じは変わらないんだが、何故か敵にゴボウが吸い込まれていくな……』『モンスターが当たりに来るというか』

「よ、よく分からないけど勝ちました! じゃあ次はナカバヤシさんを……」

 マネージャーさんは男性声優さんに任せ、私は近づく触手をゴボウでぺちぺち払いながら突き進む。
 野中さんは後ろで、咳払いをしているけれど……。
 喉のチューニングをしてる?

 前の方では、ピョンパルさんと風街さんがナカバヤシさんと激戦を繰り広げていた。
 うーん!
 ナカバヤシさんが触手を振り回したり、変形させて刃物にしたり、炎を撒き散らしたり。
 とにかく手数が多すぎて、二人はなかなか近づけないみたい。

 というか、二人が動こうとするとナカバヤシさんが先回りして道を塞いでる?

「これだけの同接数でも拮抗がやっとピョン!」

「私たちの戦い方をまるで知っているような……。ハッ! まさかあなた、私たちの配信を見てる!?」

『その通り!! 我ら大罪勢は人の中より生まれた人類の天敵! 故に人の知恵を持つ! 俺は有名配信者の配信を一通り見て、その癖を頭に叩き込んである! お前たちのパターン化した戦いなど通じないぞ!!』

 確かに、ピョンパルさんの連続攻撃は的確に防がれてるし、風街さんの魔法は炎の攻撃で相殺されている。
 それで、触手の数がちょっと多いので、そこをかいくぐって二人にちょこちょこダメージを与えているみたい。

「あれ? ナカバヤシさん強くない?」

※『強いんだよ!』『流星ちゃんが今年出現したモンスターで最強って言ってたでしょ』

 そうだっけ……?

※『忘れてる顔をしている』『とにかく二人が危ない! はづきっちゴー!』

「お、おー!」

 私が声を上げて応じると、ナカバヤシさんがハッとして振り返った。

『来たな、何度見ても何も理解できなかった女!!』

「何かひどいことを言われてる!!」

 だけどナカバヤシさん、私の方向には最初から全力攻撃を仕掛けるつもりらしくて、その体が大きく膨れ上がっている。

 ひえー、何が来るのー!

 と思ったら、ナカバヤシさんの右手側で「あひー!」という私そっくりな悲鳴が上がった。
 野中さんだ!

『えっ、そっち!?』

 ナカバヤシさんがビクッとして横を向く。
 体についている目みたいなのも、一斉にそっちを見た。
 キモチワルイ!

 だけどチャーンス。
 野中さんに攻撃がいかないうちに、私はナカバヤシさんにポテポテ駆け寄った。

『しょ、正面から小走りで来るだとぉ!? くそっ、タイミングをずらされた! こうだ!!』

 突然頭上に影が差す。
 何かが高速で降ってくるような……。

 その時!
 私は床に伸びていたコードにつまずいてしまったのだ!

「あひー!」

 ぼてーんと転び、よく磨かれた床をツルーっと滑る。
 背後で物凄い音がして、床が砕けた。

※『上と下から連続ギロチンだ!』『はづきっち、転んだ勢いでそこをジャストタイミングでくぐり抜けたな……』『ラック値高すぎだろwwww』『俺らの姫すげえwww』

 ついでに、ゴボウがすっぽ抜けてる!
 ゴボウは光り輝きながら飛び……。

『ま、まずい!!』

 ナカバヤシさんが張った触手の弾幕みたいなのを、なんかよく分からないキリモミ飛行しながら回避し、彼の体に激突する。

『ウグワーッ!? 弾道が読めん!!』

※『そりゃあ、自然なままのゴボウの形だからな……』もんじゃ『聖剣化したゴボウを不規則な軌道で高速射出する……。はづききりもみシュートと名付けよう』『必殺技生まれたww』

「あ、いけないいけない、えっと、ゴボウ! ゴボウ!」

 私は立ち上がりながら、スパチャをありがたく使わせてもらい、ゴボウを補充する。
 あ、四本買っちゃった。

 片手に二本ずつ握る。
 二本を真ん中で握って、手の上下からゴボウが飛び出す感じね。

※『ツインゴボウブレード!!』『しかも二刀流継続だぜ!』『いつもの二倍の手数だ!』おこのみ『はづきっちがゴボウを四本持ったら、1+1+1+1は4じゃない、200だ! 20倍だぞ20倍!!』

 ゴボウが不安定なので、ふるふる震えさせながら、再び走る私!
 おっおっ、なんかゴボウが落ちそう、落ちそう。

『させるかーっ!!』

※『デーモンのエロいことになりそうな触手の嵐が!!』『いや、なんかゴボウを構え直したり握り直したりする変な動きで、触手が防がれてる! はづきっちが猛烈な勢いで近づくぞ!』『スピード落ちねえ!』たこやき『あ、いや、今床で滑った』

「あひー!」

 つるーんと行った、そのまま転びつつ、磨かれた床を凄い勢いで滑って一気にナカバヤシさんに近づいてしまった。

『く、来るな! 来るなー!!』

 ナカバヤシさんは慌てて触手を組み合わせ、真っ黒な壁みたいなのを作ったけれど……。
 そこに、私のゴボウがサクッと刺さった。

『ウグワーッ!!』

「あ、掴まるところができて安心……。ちょっとあと二本も刺しておいて……」

『ウグワワーッ!?』

 触手の壁の一部が光になって消えていく。

 あれ?
 さっきナカバヤシさんに向かって飛んでいったゴボウが押し出されてきた。
 私はこれを、スポンと抜いた。

『ウグワーッ!?』

「あっ、気づいたらすぐ近くじゃないですか。え、えいえい! あちょーっ!」

 私はゴボウを両手に構えて、ぺちぺちぺちっとナカバヤシさんを叩いた。
 触手の壁に亀裂が入り、とうとう光になって砕け散る。

 私のぺちぺちが、さっき突き刺したゴボウに当たって、より深く食い込む。
 ナカバヤシさんの巨体に刺さるゴボウ。
 で、私のぺちぺちもたくさん当たる。

『ウグワアアアアアアアアッ!! こんな、こんなことで……! せっかくあのお方に選ばれた大罪勢として、一番槍として人類を怒りの炎で焼き尽くすはずだったのに……!! 俺がこんな、よく分からない女に、どうして……!! だが覚えているがいい! 俺の呪詛が世界に撒き散らされ、憤怒を身に得た者は新たな大罪に……』

「あちょっ」

※『あっ、話の途中で頭を叩いた』

『じゅ、呪詛が終わってないのに! ウグワー……』

※『呪詛の途中で消えてしまった』『人の話を聞かない女はづきっち』『ネームド一蹴しおった』『またノーダメかよw』『あ、はづきっち、登録者100万人達成おめでとうございます』

「えっ、100万人!?」

 私は飛び上がって驚いた。
 今日一番驚いた。

 そうしたら、野中さんが向こうから走ってくる。

「はづきちゃんおめでとうー!! 100万人おめでとうー!!」

「あ、ありがとうございますー!!」

※『めでたい!』『おめでとう!!』『やったね100万人!』たこやき『こうしてネームドデーモンのことは忘れ去られるのであった』
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