上 下
64 / 517
いそがし私の東奔西走編

第64話 ほうとうと迷宮省伝説

しおりを挟む
 冒険配信者の配信は、これが行われると国がチェックするのがお決まりらしい。
 専門の機関で、迷宮省というところがある。

 基本的には大したコトは起こってないから、迷宮省がチェックしても直接接触してくることは少ないし、私の場合は兄が窓口を担当してくれるんだけど……。

『これは一大事ですね。ちょうどこちらにおりますので合流しましょう』

 なんか向こうからアポが来たんですけど!
 慌てて兄に連絡したら、『迷宮省のか。会話を動画で撮っておいてくれ。俺も後でチェックする』とか。

 つまり、今回は職員さんの相手を私がやるということ……!?

 愛好会のメンバーに案内されて入ったほうとう屋さんで、お料理を注文していたら職員の人が猛スピードでやって来た。
 外は暑いから、すっごい汗。

 二十代半ばくらいの女の人で、半袖のワイシャツに夏用のスラックスを穿いていた。
 黒くて長い髪を、今はくるくるっと結って流れ星型の髪留めめでとめている。
 ちょっとキリッとした感じの美人さんだ。

 あれ?
 職員さんがバーチャライズしてる?

「初めまして。迷宮省調査課の風街流星(かぜまちりゅうせい)です。あ、これは迷宮省の慣例として魔法名なんですが」

 魔法名……?
 私は首を傾げた。
 風街さんはハッとする。

「つまりですね、ダンジョンが世界に満ちる中で、これを攻略する武器として現代魔法というものが編み出されているのはご存知だと思いますが」

「あーはい、カンナちゃんが使ってました」

 科学の力で魔法を再現する、みたいなもので、効果は実際に魔法みたい。
 配信者の中には、ダンジョンの外でもこれを自由に使える才能がある人もいるらしい。

「私たちのような国の重要情報を持つ者は、狙われることがあるんですよ。そのために名前そのものに防御を施しています。これが魔法名」

「ははあー」

「あなたがた冒険配信者が、配信者としての名前で活動しているのも同じ意味を持っているんですよ?」

「ほへー」

 情報量が多い!
 私はポカーンとしながら話を聞いた。

 そうこうしているうちに、ほうとうが来た。
 味噌味美味しい。

 むしゃむしゃ食べ始める私。
 横で静かにしていた愛好会の面々も、もりもり食べ始めた。

 その一人がハッとする。

「あれ!? 風街流星と言いますと、ライブダンジョンのゼロナンバーのお一人では!?」

「ふぁ、ふぁんふぁっふぇー」

「はづきっち、食べてから反応してもいいのですぞ!」

「今は食べるのに集中しましょう!」

「ふぁい」

 私はお気遣いに甘えて、ほうとうをむしゃむしゃ食べた。
 美味しい美味しい。

 おうどんと違って、むにゃむにゃ柔らかい麺が煮込まれたお野菜と絡んで、一緒に食べるのがなんともたまらない。
 今度家で作ってみようっと。
 あ、ゴボウ入ってる。

「つまり、私は本来迷宮省の人間だったのですが、趣味で歌の活動をしていたらライブダンジョンにスカウトされまして。迷宮省は公務員ですが、冒険配信者との兼業は法律で許されているのです。双方の益になることですからね」

 難しい話をしていらっしゃる。
 そうこうしている間に、風街さんのほうとうも来た。
 彼女もむしゃむしゃ食べ始める。

 うーん、なかなかの健啖!

「ダンジョンもライブも体力が資本ですからね! ここのほうとう美味しいですねえ……」

 しばらく食事モードに入り、私はデザートまで頼んでお腹いっぱい。
 なお、愛好会はもう顔を真赤にしてそわそわしていた。

 そっか!
 この人たちとしては、大物配信者二人と同席しているんだ!
 これを明らかにしたら、愛好会は凄い量の嫉妬を浴びて炎上しそう。

「でははづきさん、本題に入るのですが」

「あっはい」

「大丈夫です? お腹いっぱいで眠くなってませんか?」

「ちょっと眠いです」

「頑張って耐えて下さい。あなたが遭遇した二体のモンスター、フンババと、もう一体は恐らくオーガジェネラルですが、これらについて矛を交えた……ゴボウを交えた感想などを伺いたいんです」

「ははあ」

 私の配信に出てきた、あの強いモンスター二人が問題らしい。
 もんじゃもなんか言ってたもんね。

 そうか、あの駅員さんオーガジェネラルって言うんだ。
 普通のモンスターが私の輝くゴボウとやり合えるんだもんね。
 確かに凄いことなのかも知れない。

「強かった気がします。えっと、速くてですね、あと凄くタフで。あ、一つ目の方はそうでもなかったですが」

「フンババに関しては、はづきさんや私クラスの配信者なら倒せるでしょうね。あれは同接4000人レベルのモンスターとして記録されています。ただ、言葉を話すタイプは初めてでした。恐らく上位種……同接8000人レベルのハイ・フンババの可能性が……」

「はあ」

「あっ、情報の許容範囲を超えてしまった」

 私が右から左に聞いた内容が流れていったのを、すぐに風街さんは察したらしい。

「つまりですね。迷宮省ではモンスターやデーモンの脅威レベルを同接数で表していまして……。データベースを見たことが無い……?」

「ほえー、そんなものが」

「それであれほどの成果を……。恐るべし天然。キャプテンやピョンパルが気にしているだけのことはありますね」

 ちなみにオーガジェネラルは、同接20000人レベルのモンスターらしい。
 ひえー。
 よくわからないけど強そうだ。

「我らあの時、二万人の視線に晒されていたでござるか」

「コワイ! 嫉妬と誹謗中傷が降り注ぎそう!」

「あ、バーチャライズしてない人はモザイクかかるんで大丈夫です」

 私が説明すると、愛好会の面々はちょっとがっかりしていた。

 その後、フンババとオーガジェネラルについて色々聞かれたので、私はどんな感じだったかを説明した。
 多分強いんじゃないかな……。
 よくわからないけど……。

「ちなみに以前はづきさんが撃退したネームドデーモンですが、あれが同接40000人レベル。この一年間において最強クラスのモンスターと考えられています」

「ほええ、そんなのと私やりあったんですか! よく生きてたなあ……」

「トップ配信者レベルでなければ太刀打ちできないでしょうね。むしろどうしてあなたが無傷でこれらの状況をくぐり抜けているのか、私にはさっぱり分かりませんが。ですが、迷宮省も会社もあなたに注目しています。今後もよろしくお願いします、きら星はづきさん」

 風街さんに握手を求められた。
 私はハッとして、手をお手拭きでゴシゴシした後、ぎゅっと手を握り返したのだった。

 甲高い歓声をあげる愛好会の面々。
 そして私たちはお店に注意されたのだった。
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

社畜探索者〜紅蓮の王と異界迷宮と配信者〜

代永 並木
ファンタジー
井坂蓮二、23歳 日々サービス残業を繰り返し連続出勤更新し続け精神が疲弊しても働き続ける社畜 ふと残業帰りにダンジョンと呼ばれる物を見つけた ダンジョンとは10年ほど前に突如現れた謎の迷宮、魔物と呼ばれる存在が闊歩する危険なダンジョンの内部には科学では再現不可能とされるアイテムが眠っている ダンジョンが現れた影響で人々の中に異能と呼ばれる力を得た者が現れた 夢か金か、探索者と呼ばれる人々が日々ダンジョンに挑んでいる 社畜の蓮二には関係の無い話であったが疲れ果てた蓮二は何をとち狂ったのか市販の剣(10万)を持ってダンジョンに潜り己の異能を解放する それも3等級と呼ばれる探索者の最高峰が挑む高難易度のダンジョンに 偶然危機に瀕していた探索系配信者竜胆天音を助け社畜の傍ら配信の手伝いをする事に 配信者や異能者に出会いながら探索者として活躍していく 現2章

処理中です...