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イケてる? 私の勇躍編

第47話 ウサギとご一緒伝説

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 スタッフの顔合わせと言う名の飲み会があるらしいんだけど、全部兄が断ったみたい。

『金が発生しない。地上波の連中は取材や取引相手をタダで済ませる事に正義を感じているからな』

「そ、それはなんか歪んだ考えでは……!」

 兄がプンスカ怒りながら言うので、なだめる私なのだ。
 本日もいつも通り、ザッコを使った会話。

 このちょっと前まで、カンナちゃんとお喋りしたりしてたんだけど。
 向こうもそろそろレコーディングが始まるとかで、レッスンの追い込みが大変らしい。

 ……冒険配信者がレコーディング……!?
 歌ってみた動画を出すとか言ってたけど、冒険配信者が歌ってみた動画……!?

 よくわからない世界過ぎる。
 でも、そうやって人気を稼いで行かないと登録者は増えないし、同接だって増えないからダンジョン配信できないもんね。
 仕方ないのかもしれない……。

 私もゴボウのお料理配信とかした方がいいのか……?
 ダンジョンより楽そうだし、今度やろう……。

 私のゴボウ料理レパートリーは七つくらいに増えている。
 お前らに、このレパートリーを拡散してやってもいいかも知れない。

『ということで、ピョンパルを招待した』

「うん」

 なんか兄が喋ってたのを聞き流していた。
 突然誰かの名前が出てきて、私は適当に相槌を打って……気付く。

 えっ!?
 ピョンパルを招待した……!?

『放送対策用のルームであるここで、俺たち三人で会議をするぞ』

『ぴょーん! ピョンパルだピョン! この度はお招きにあずかりありがとうございます』

 軽い乗りの前半から、落ち着いた声色の女の人の変わった!

「ど、ど、ど、ど、どうも。きら星はづきです……」

『はづきさん、先日はお世話になりました。新しい仕事でもよろしくお願い致します』

 凄く丁寧だ!
 未体験のタイプ……。

『ということで……挨拶は終わりですね。これから地上波放送対策会議を始めたいと思いまーす!』

「よ、よ、よろしくお願いします!」

『はづきさん、皆さん最初は緊張するものですけど、それはとても大切ですよ。ダンジョン配信は危険ですから、緊張感を失ったバカから死にますから。この間のダンジョンハザードとか…なんてもう、本当にありえねーピョン! なーに考えてんだピョン!! お陰で予定してた配信がわやになったピョンなー!!』

「うわーっ!! 一瞬でピョンパルさんに戻った!」

『こいつのよそ行きモードはすぐに崩れる』

『一緒に炎上した仲の斑鳩さんに言われたくないピョンなー。ってことではづきちゃん、気をつけて下さい。地上波側、基本的に冒険配信者を下に見てますから。つまり舐めてかかってくるってことです』

「ひええええ」

『うちの会社の黒獅子リオネも、共演した芸能人にセクハラっぽいことをされて、裏でボコボコに叩きのめしたって言ってたピョン。証拠は撮影したから表沙汰にはならなかったピョンなー。年配ほどろくでなしがいるので気をつけて欲しいピョン!』

「は、はい! でも私はよわよわなので……!」

『配信中にゴボウで叩けば芸能人が物理的に粉砕されるピョンな! あっはっはっはっは!』

『おいこらうちの妹に何をさせようとしてる』

『アヒェー! シスコンが怒ったピョン!!』

 兄とピョンパルさん、割りと仲が良さそうだ。
 とりあえず明日、現場の下見に行こうという話になり、ピョンパルさんと待ち合わせするのだった。

 登録者200万人を超える大配信者でしょ……!?
 とんでもない人だ。
 私が会ってきた中でトップクラス!

 日が開けて、ガチガチに緊張しながら私が待っていると。

「お待たせしました」

 落ち着いた声色の女の人がやって来た。
 年頃は、水無月さんよりも上だと思う。
 背丈は私よりちょっと低いくらい。
 大人の女性だなーという雰囲気で、グリーンのサマーニットが似合ってる。

 彼女はスススッと近づいてくると、

「失礼ですけど……はづきさん?」

 と声を掛けた。

「あ、は、はい、私です! その……ピョンパルさん?」

「はい、私です……ピョン」

 そう言って彼女は笑った。
 待ち合わせ場所から、近くの喫茶チェーンへ移動する。

 そこでピョンパルさんから、今度の現場の地図を見せてもらった。

「ここ。中古の住宅だったんだけど、ダンジョンハザード前に事件が起きて無人になったところね。建物が老朽化して取り壊される予定だったのだけれど、前の住人が怨霊化して占拠しちゃったみたいで……。あと、ハザード以降、モンスターの全体的な強さが上がったみたい」

「なるほど……。あ、あの、どうでもいいことかもなんですけど」

「うん、どうしたの?」

「全然ピョンパルさんと違う喋りだなーって。その、普段の……」

「あれ、外でやったら一発で私だってバレるから……。声色ともども完璧に抑えてる」

「な、なるほどぉ」

「はづきさんもそのまんまだから、気をつけたほうがいいよ。あなた多分、かなりガチ恋勢が多い……!!」

「ひえっ、私がですか!! あひー!?」

「無自覚だったピョンか!? かーっ!! これだから天然は!! あんたの仕草、アーカイブを見たらどれもこれも男を迷わせる魔性の女ムーブピョン! ガチ恋勢量産システム、既に完成していたのか……!!」

 ちょっと盛り上がって声が大きくなってしまった!

「あれ……? はづきちゃんとピョンパルの声がしたような……」

「誰か動画見てる……?」

「異常に臨場感があったような」

 いけなーい!!
 私とピョンパルさんは口を押さえて黙り込んだ。

 二人でアイスラテを一気飲みして、現場下見の続きに出かけることにするのだった。
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