11 / 517
冴えない私の助走編
第11話 世界が彼女に気付いた
しおりを挟む
※ 冒険配信者切り抜き動画のコメント欄
『この後転、CGモデルじゃなくて人間がやってるってマ!?』
『やっべ、不規則すぎて怨霊が追いきれないじゃん』
『すげえ。あと可愛い』
『なんか守りたくなっちゃうよね』
『リスナーとちょいちょい喧嘩してるの好き』
『あれ? なんかモデル、明星斑鳩(あかぼし-いかるが)のに似てね?』
『ないないない、頭身違うじゃん』
『だってさ、このバーチャル体の作りとか挙動とか……』
徐々に広がっていく、きら星はづきの切り抜き動画。
ファン視点では、ちょっと変わった……いや、かなり変わった配信をする可愛い新人配信者。
プロ視点では……。
「すげえじゃん。体を張って、野菜も武器も魔法も変わらないっての証明した人、初めてじゃない?」
とある有名配信者の配信枠で、言及される。
「それにあの同接数の移り変わりで、ゴボウの威力変わってるでしょ。これ、同接数何人からゴボウの強度が変化するかが分かるデータになってるのよ。すげえよこの子」
業界最大手冒険配信者グループ、なうファンタジーにおいて、男性配信者最高のチャンネル登録者数を持つ彼。
八咫烏と名乗る彼は、漆黒の瞳を輝かせ、きら星はづきについて語る。
「面白いんじゃない? 一緒にやってみたいもん。絶対あの子伸びるよ。うちのアカデミーの子とコラボしてんの? マジで? 帰ったらチェックしてみようかな……っと!」
八咫烏の体が動いた。
多くの同接によって強化された彼の肉体は、人間の限界を容易に超える。
襲いかかってきた巨大なモンスター、オーガの一撃を軽々と躱すと、カウンターでラーフというトイガンからスポンジ弾が叩き込まれた。
『ウグワーッ!』
粉砕されるオーガの首。
それと同時に、モンスターの肉体が光になって消え失せた。
華麗な彼のアクションに、チャット欄が沸き立つ。
流れ出す色とりどりの文章は、スーパーチャット。
投げ銭だ。
収益化した冒険配信者に送られる投げ銭は、その場で配信者が使用し、買い物を行える。
「八咫烏大好きさん、『八咫烏さんは新人さんにも優しくて、やっぱり懐が深いなって思います。そんな八咫烏さんが大好きです』スパチャありがとうね! ほら、俺らって危険と隣合わせの仕事でしょ。だから新人は大歓迎なんだよな。俺らが頑張らないと、ダンジョンハザードで大変なことになるわけだし。新人育成も先輩の仕事よ。将来有望な新人ならなおさら。俺も若い頃はさんざんやらかして、先輩にフォローしてもらったからねー」
スーパーチャットはスパチャと略され、金額によってチャットのカラーが変わる。
赤いスパチャは一定額以上であることを現し、上限は無い。
かつてはあったのだが、撤廃されている。
八咫烏はその場で、このスパチャで得た金を使用した。
彼の手に宿るのは、一枚の呪符。
※『ギャーッ私のスパチャ使ってもらえた! 嬉しいー!!』
誰かがスマホの向こうで叫んだ。
他のコメントは、八咫烏の言葉に、『うんうん、八咫烏もすっかり先輩だよねえ』『成長したもん!』と後方母親ヅラをする中。
スパチャを投げたその人物は、怒りを燃やしていた。
※『私の八咫烏に色目使いやがって、あの新人! 許せない……!!』
ガチ恋勢である。
今、きら星はづきに向けて、八咫烏ガチ恋勢が襲いかからんとしていた。
そして一方の本人は……?
「うおおおおおお登録者二千人!!」
私は興奮のあまり、校内で咆哮を上げるところだった。
実際は、「うおおおお」で止められた。
止まってない! 獣のような雄叫びが聞かれてしまっている!
陽キャ女子たちが振り返り、私を凝視した。
私は得意の寝たフリで対応する。
見たか、これこそ長年の熟練が生み出した珠玉の狸寝入り!!
「寝言!?」
「ヤバ、マジでエグい叫び声だったんだけど!?」
「マジビビった……。あれは笑えないって」
「覇王色の雄叫びだったよね」
なんか好き放題言われてしまった。
くっそー。
だが、私は登録者二千人の冒険配信者だぞ。家に帰ったら二千人のリスナーが私を待っていてくれるんだ……!
グフフフフ……と突っ伏したまま笑った。
陽キャ女子たちが、ビクッとするのが分かってしまった。
こうして、休み時間は寝て、お弁当は教室の隅で気配を殺しながら素早く済ませ……。
そう、誓って便所飯などしない。私は美味しくご飯を味わう主義なのだ。
無事に学校を終えた私。
「きら星はづきってのがいてさ。俺の推し」
「マジで? へえ……エグい後転」
「な……?」
おっ、私が話題になっているな……?
フフフ、私は登録者二千人の女だぞ……?
ガチ恋させちゃったかな……。フッ。
私は余裕の笑みを浮かべながら帰宅した。
登録者は増えたけれど、最近は連続でダンジョン探索したりコラボしたりと生き急いでいたし、そろそろまったりしようかな……。
雑談配信メインで、私のガチ恋勢を増やすような魔性の女っぷりを……。
いやいやいや、勘違いはやめろ私?
コミュ障で、冒険配信者としての姿になっても挙動不審な私に、ガチ恋……?
ないないない。無いだろう……。
謙虚だ。
謙虚に生きるんだ、きら星はづき!
お前はあのキラッキラな兄とは違う……!
「お兄ちゃんのAフォン使わせてもらってはいるけどね……!」
落ち着いた私。
PCを開き、メッセージが届いていることに気付いた。
これは一体……?
『ちょりーっす! はじめまして! チャラウェイTVの冒険配信者、チャラウェイっていいます! マジパネェーッ新人冒険配信者のきら星はづきさん、コラボしませんか!』
「な、な、な、なにぃーっ!!」
私は吠えた。
まったりなんかしている場合じゃない!
新しいコラボのお誘いがやって来たのだ。
私はすぐに冷静な思考を放棄し、脊椎反射でお返事を書いた。
『よよろこんでお受けします! よろしくおねがいしまs!!』
完璧だ……!
『この後転、CGモデルじゃなくて人間がやってるってマ!?』
『やっべ、不規則すぎて怨霊が追いきれないじゃん』
『すげえ。あと可愛い』
『なんか守りたくなっちゃうよね』
『リスナーとちょいちょい喧嘩してるの好き』
『あれ? なんかモデル、明星斑鳩(あかぼし-いかるが)のに似てね?』
『ないないない、頭身違うじゃん』
『だってさ、このバーチャル体の作りとか挙動とか……』
徐々に広がっていく、きら星はづきの切り抜き動画。
ファン視点では、ちょっと変わった……いや、かなり変わった配信をする可愛い新人配信者。
プロ視点では……。
「すげえじゃん。体を張って、野菜も武器も魔法も変わらないっての証明した人、初めてじゃない?」
とある有名配信者の配信枠で、言及される。
「それにあの同接数の移り変わりで、ゴボウの威力変わってるでしょ。これ、同接数何人からゴボウの強度が変化するかが分かるデータになってるのよ。すげえよこの子」
業界最大手冒険配信者グループ、なうファンタジーにおいて、男性配信者最高のチャンネル登録者数を持つ彼。
八咫烏と名乗る彼は、漆黒の瞳を輝かせ、きら星はづきについて語る。
「面白いんじゃない? 一緒にやってみたいもん。絶対あの子伸びるよ。うちのアカデミーの子とコラボしてんの? マジで? 帰ったらチェックしてみようかな……っと!」
八咫烏の体が動いた。
多くの同接によって強化された彼の肉体は、人間の限界を容易に超える。
襲いかかってきた巨大なモンスター、オーガの一撃を軽々と躱すと、カウンターでラーフというトイガンからスポンジ弾が叩き込まれた。
『ウグワーッ!』
粉砕されるオーガの首。
それと同時に、モンスターの肉体が光になって消え失せた。
華麗な彼のアクションに、チャット欄が沸き立つ。
流れ出す色とりどりの文章は、スーパーチャット。
投げ銭だ。
収益化した冒険配信者に送られる投げ銭は、その場で配信者が使用し、買い物を行える。
「八咫烏大好きさん、『八咫烏さんは新人さんにも優しくて、やっぱり懐が深いなって思います。そんな八咫烏さんが大好きです』スパチャありがとうね! ほら、俺らって危険と隣合わせの仕事でしょ。だから新人は大歓迎なんだよな。俺らが頑張らないと、ダンジョンハザードで大変なことになるわけだし。新人育成も先輩の仕事よ。将来有望な新人ならなおさら。俺も若い頃はさんざんやらかして、先輩にフォローしてもらったからねー」
スーパーチャットはスパチャと略され、金額によってチャットのカラーが変わる。
赤いスパチャは一定額以上であることを現し、上限は無い。
かつてはあったのだが、撤廃されている。
八咫烏はその場で、このスパチャで得た金を使用した。
彼の手に宿るのは、一枚の呪符。
※『ギャーッ私のスパチャ使ってもらえた! 嬉しいー!!』
誰かがスマホの向こうで叫んだ。
他のコメントは、八咫烏の言葉に、『うんうん、八咫烏もすっかり先輩だよねえ』『成長したもん!』と後方母親ヅラをする中。
スパチャを投げたその人物は、怒りを燃やしていた。
※『私の八咫烏に色目使いやがって、あの新人! 許せない……!!』
ガチ恋勢である。
今、きら星はづきに向けて、八咫烏ガチ恋勢が襲いかからんとしていた。
そして一方の本人は……?
「うおおおおおお登録者二千人!!」
私は興奮のあまり、校内で咆哮を上げるところだった。
実際は、「うおおおお」で止められた。
止まってない! 獣のような雄叫びが聞かれてしまっている!
陽キャ女子たちが振り返り、私を凝視した。
私は得意の寝たフリで対応する。
見たか、これこそ長年の熟練が生み出した珠玉の狸寝入り!!
「寝言!?」
「ヤバ、マジでエグい叫び声だったんだけど!?」
「マジビビった……。あれは笑えないって」
「覇王色の雄叫びだったよね」
なんか好き放題言われてしまった。
くっそー。
だが、私は登録者二千人の冒険配信者だぞ。家に帰ったら二千人のリスナーが私を待っていてくれるんだ……!
グフフフフ……と突っ伏したまま笑った。
陽キャ女子たちが、ビクッとするのが分かってしまった。
こうして、休み時間は寝て、お弁当は教室の隅で気配を殺しながら素早く済ませ……。
そう、誓って便所飯などしない。私は美味しくご飯を味わう主義なのだ。
無事に学校を終えた私。
「きら星はづきってのがいてさ。俺の推し」
「マジで? へえ……エグい後転」
「な……?」
おっ、私が話題になっているな……?
フフフ、私は登録者二千人の女だぞ……?
ガチ恋させちゃったかな……。フッ。
私は余裕の笑みを浮かべながら帰宅した。
登録者は増えたけれど、最近は連続でダンジョン探索したりコラボしたりと生き急いでいたし、そろそろまったりしようかな……。
雑談配信メインで、私のガチ恋勢を増やすような魔性の女っぷりを……。
いやいやいや、勘違いはやめろ私?
コミュ障で、冒険配信者としての姿になっても挙動不審な私に、ガチ恋……?
ないないない。無いだろう……。
謙虚だ。
謙虚に生きるんだ、きら星はづき!
お前はあのキラッキラな兄とは違う……!
「お兄ちゃんのAフォン使わせてもらってはいるけどね……!」
落ち着いた私。
PCを開き、メッセージが届いていることに気付いた。
これは一体……?
『ちょりーっす! はじめまして! チャラウェイTVの冒険配信者、チャラウェイっていいます! マジパネェーッ新人冒険配信者のきら星はづきさん、コラボしませんか!』
「な、な、な、なにぃーっ!!」
私は吠えた。
まったりなんかしている場合じゃない!
新しいコラボのお誘いがやって来たのだ。
私はすぐに冷静な思考を放棄し、脊椎反射でお返事を書いた。
『よよろこんでお受けします! よろしくおねがいしまs!!』
完璧だ……!
10
お気に入りに追加
245
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
社畜探索者〜紅蓮の王と異界迷宮と配信者〜
代永 並木
ファンタジー
井坂蓮二、23歳 日々サービス残業を繰り返し連続出勤更新し続け精神が疲弊しても働き続ける社畜
ふと残業帰りにダンジョンと呼ばれる物を見つけた
ダンジョンとは10年ほど前に突如現れた謎の迷宮、魔物と呼ばれる存在が闊歩する危険なダンジョンの内部には科学では再現不可能とされるアイテムが眠っている
ダンジョンが現れた影響で人々の中に異能と呼ばれる力を得た者が現れた
夢か金か、探索者と呼ばれる人々が日々ダンジョンに挑んでいる
社畜の蓮二には関係の無い話であったが疲れ果てた蓮二は何をとち狂ったのか市販の剣(10万)を持ってダンジョンに潜り己の異能を解放する
それも3等級と呼ばれる探索者の最高峰が挑む高難易度のダンジョンに
偶然危機に瀕していた探索系配信者竜胆天音を助け社畜の傍ら配信の手伝いをする事に
配信者や異能者に出会いながら探索者として活躍していく
現2章
ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す
名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる