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冴えない私の黎明編

第5話 トモダチ登録伝説

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 二人でダンジョンを出たら、すっかり暗くなっていた。

「やっば、門限……!」

「あ、実家から来てるんだ? っていうか、あなたもAフォンでバーチャライズしてたのね。仕様からすると、なんだかうちのAフォンみたいな……」

「バーチャライズ……? あ、ダンジョン入ると、姿変わるやつ……」

 カンナちゃんを見たら、彼女の姿も変わっていた。
 黒髪で瞳も黒い、スレンダーでスタイルのいい、普通の女の子だ。
 いや、顔はいいな……。

 年は多分、私より上だ。
 それに……ですわ口調じゃない!

「ですわじゃない……」

「キャラを作ってるの! ……っていうか、あなたまんまなのねえ。とにかく! 今日はありがと!」

 カンナちゃんがAフォンをかざした。

「ねえ、LUINEしとこ?」

 LUINEはチャットアプリだ。
 私はお母さんとお父さんと兄しか登録されてない。
 後はLUINE公式と牛丼屋かな……。

「はい、登録」

「は、はい」

 無意識にディスプレイを探すけど、ダンジョンから出た以上、もう配信は終わっている。
 うおおお、リスナーは何も言ってくれないぃ。
 外部知識なしの私はもう、赤ちゃんレベルだぞぉ。

 お互いのAフォンをフリフリして、LUINEを交換し合う。
 うわーっ!

 お母さんとお父さんと兄以外の人とトモダチ登録しちゃった……!

「お、おおーっ!」

「あたし、絶対に受けた恩は忘れないタイプなんだよね。仲間からは武士系お嬢様って言われてる」

「武士!? 御恩と奉公……」

「そう! それそれ!」

 けらけら笑うカンナちゃん。

「どう? この後どっかでご飯してかない? 奢る……のはちょっと厳しいから、割り勘だけど」

「あっ、うちでお母さん、ご飯用意してるので……」

「あっ」

 色々察されてしまった。

「じゃ、また今度ね! 絶対ご飯しようね! それと……」

 私を指差すカンナちゃん。

「次は正式にコラボしよ! ぜったいあなた、ビッグになるよ! きら星はづきさん!!」

 そう言った彼女の顔が、一瞬銀髪で赤い瞳のお嬢様に見えた。
 うわーっ、これはガチ恋してしまいそうだわ……!!

 その後、三軒隣の自宅に戻った私。
 カンナちゃんは、「家、近……!!」ととても驚いていた。

「あら、お帰りなさい。……まあ、友達!? あらあらまあまあ! これからもよろしくお願いしますね!」

「や、やめてーお母さーん!!」

 そんな恥ずかしい親子の姿を見せた後、私はニヤニヤしながら夕食を取った。

 素晴らしい、素晴らしいじゃないか、冒険配信者……!
 もう得るものしかない。
 メリットしかない。

 陰キャ脱出待ったなし!

 まあ、昨日も今日もちょっと死にかけてるんだけど。
 ちなみにダンジョン内で死亡すると、Aフォンが身代わりに壊れて配信者は外に放り出される。

 そうしたら新しいAフォンを手に入れるまで、ダンジョンに入れなくなるってわけ。
 一応、身の安全は保証されてる。

 だけど、正式なAフォンは国が認めたところでしか生産できないし、生産ナンバーも管理されてるんだって兄が言ってた。
 だから数は限られてて、少なからぬ配信者は違法で作られたAフォンを使ってる。

 違法のは強度が弱いバーチャライズしかできないし、身代わりにもならない。
 冒険配信者は毎日、ちょいちょい死んでるらしいけど、それはみんな非公式Aフォンを使ってる人たちなのだ。

「あなた、昨日から配信やってるの? ちゃんと公式のAフォンって言うの使わなくちゃダメよ? お兄ちゃんも言ってたでしょ」

「もちろん! 私死にたくないもん!」

 死なずに有名になりたい!
 それにあのAフォンを壊したら、また手に入るアテなんかない。
 命を大事に行こう……。

 野菜で戦う企画はこれで終わりだ。
 とくにトマトはダメ。
 ゴボウはあり。

「あ、お母さん、このゴボウ明日使って」

「はいはい。……もしかして、ゴボウで話題になってる配信者って……」

「ギクッ」

 ゴボウは家族で美味しくいただきました。

 お風呂に入り、寝る前にLUINEでカンナちゃんとやり取りをする。

『今日はありがとうね。昨日トレンド乗ってた娘、どんな人かなって思ったら凄く優秀だったんでびっくりしたかも』

『こちらこそ、友達登録ありがとうございます。不束者ですが何卒よろしくお願い致します』

『堅っ』

『友達と会話したことがございませんので』

『もっとさ、普通の友達と話すみたいな感じでいいんだよ。普通の……あっ』

『お気づきになりましたか』

 我ながら涙が出てくるぅ。

『それよりさ、はづきちゃん。もう話題になってるよ』

『何がですか?』

『ツブヤキッターでトレンドをチェックー』

『トレンドを……?』

 エンターテイメントのトレンドを見てみた。
 29位くらいに、ゴボウ、というのがあって吹き出す。

「ゴッ、ゴボウ!!」

『見た?』

『見ました。ゴボウが豊作だったんですか?』

『ボケない! あなたのことだよ! あたし会社から質問されちゃったもん。彼女は誰だ?って』

『会社……?』

『げんファン。幻想ファンタジア株式会社』

『オウ』

「ひええええええええええええ!!」

『案外動じてないのね?』

『リアルでは絶叫しました』

『真夜中だと迷惑だから声は控えめにね……。っていうかもしかして防音室とかあるタイプ? 家で雑談配信してる冒険配信者いるじゃない』

『いえ、普通の建売住宅です』

『声は控えめにね!』

『はい』

 しばらく沈黙。

『やっぱ実際に会って話しよう!』

『えっ』

『トークだとはづきさん他人行儀なんだもん。やっぱ顔と顔を合わせてこそでしょう』

 ひい、陽キャだ!!
 その積極性が眩しい!!

 だけど、なんだろう。
 構ってもらえるのがめちゃくちゃ嬉しい。

『二人きりなら考えましょう』

『クールな口調でそう言うこと言う~!』

 結局そのまま、深夜までトークを楽しんでしまう私なのだった。

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