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第四部:オケアノス海の冒険 5

第140話 沼地のヒュドラー……じゃなくヒドラ その2

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 ヒドラの正体は、ヒュドラーによく似たウミウシ的な生き物だった。
 いやあ、大きい。
 確かに大きい。

『もげもげー』

 凄い鳴き声を出すし。

「よーし、どれどれ……っと、足場が悪いなここ」

 沼地をびしゃびしゃと踏むアルディ。
 なるほど、沼の奥には踏み込めないな。

『もげもげー』

「あっ、首? 首っぽいのが伸びてきましたわ! きゃあ!」

 アリサを目掛けて、首とも触手ともつかないものが伸びてくる。
 あれか。
 狙いやすいところが分かっているのか?

「ひゃあ、変なのがきたですよー! えいやー!!」

 クルミにも触手が伸びてきたが、これは彼女が炸裂弾を投げつけて撃退する。
 触手の先端は破裂してしまったが、すぐににょきにょきと生え変わる。

「ははあ、なるほどヒュドラーっぽい」

「オースさん! 感心してないで助けてほしいのですけどおー!!」

「神聖魔法で撃退しては? っと!」

 俺はノーマルな弾を投げつけて、触手を弾いた。
 おや、長く伸びると力が弱くなるようだ。
 スリングからの一撃で弾かれてしまったな。

「神聖魔法は直接的に攻撃をできるものは、水場と相性が悪いのですわー! それにわたくし、体を動かすこと全般が苦手なのですけどー!!」

「神都ラグナスでは一人で脱走してきたのに?」

「人間、窮地に陥ると力が出るものですわ」

「ここは窮地じゃないってことか。余裕だなあ」

「ああ、うそうそ! 余裕はありませんわー! わたくしの全力でもあのぬめぬめは躱せませんわー!」

「だってさ、ブラン」

『わっふう』

 ブランが口角を上げてみせた。
 そして、水の上を歩いてアリサの元へ。
 彼女の襟首を咥えると、ひょいっと放り上げて自分の背中に着地させた。

「じゃあアリサ、全体への補助を頼むよ」

「うほーっ!! モフモフの上なら元気百倍ですわあー!! やりますわよおー!!」

「リーダー俺にも頼む!」

 アルディが足場をご所望だ。

「フランメ、頼まれてくれるか?」

『任せるチュン。我はあんなヌメヌメに触りたくないチュン。またあの人間に斬らせるチュン!!』

 ジャンプしたアルディの足の下に、フランメが滑り込み、巨大化する。
 水面ギリギリを、真紅のフェニックスが飛んでいった。

『もげもげもげー!』

「おっと、俺に標的を変えたな? ……あ、いや違うか」

『うにゃー!! 助けるにゃごしゅじーん!! 己はああいうのに精神攻撃が効かなそうだし、触手で叩くのも汚れそうでめちゃくちゃいやにゃああああ』

 ドレが必死になって逃げてくる。

「よーし、こっちだドレ! 俺の肩に駆け上がれ!」

『ちゅっちゅーい!』

 ここで俺のポケットから顔を出したローズが、気合を入れて鳴いた。
 すると彼の額の宝石がぼんやり輝き、そこから光が一条放たれる。
 光は水面を叩き……そこから、魚が一匹跳ね上がった。

『もげー!』

 ヒドラの触手が魚を追いかける。
 ドレから注意が逸れた。
 この隙に、猫は俺の肩にしがみついた。

『うにゃー!! 助かったにゃあああああ!! ローズ、恩に着るにゃあ!』

『ちゅちゅーい!』

 ローズが胸を張った。
 そんな風にドレを受け止めながらも、俺の反撃準備は整っている。
 手にしているのは炎晶石。
 次々にぶち当てて、効果を検証していくとしよう。

 今も頭上では、フランメに乗ったアルディが剣を振り回している。
 彼の鋭い斬撃が、何本もの触手を切り落とすが、それは次々に再生してきてしまう。

「さて……こちらには乗り物が無いし、周囲を歩きながら攻撃して検証だ。それっ!!」

 まずは炎晶石。
 炸裂した炎は、触手を炎で焼き切り弾き飛ばす。

 すると、焼けた後が再生しない。
 いきなり当たりだった。

「早い……。普通こういうのは何発か試したあとだろ。それにヒュドラーまんまの弱点とかどうなんだ。ああ、いや、ヒドラだもんな。ヒュドラーの真似したモンスターみたいなもんだ……」

「どうしたですかセンセエ?」

「ああ、いやなんでもない。クルミ、炎晶石で攻撃だ!」

「はいです!!」

 二人ならんで、炎晶石を投げつける……のでは効率が悪いな。

「アルディ、頼む! 片っ端から触手を切り落としてくれ!」

「おう!! 任せてくれ!」

 フランメが凄まじい速度でヒドラに迫る。
 掠めるように飛翔すると、その翼が触手を焼き、剣が触手を切り飛ばす。

 なるほど、ヒドラを相手取るには最高のコンビだ。
 だが、驚くべきことにアルディの手数は、フェニックスがヒドラを燃やすよりも遥かに多い。

 虹色の剣閃が瞬き、巨大なウミウシの怪物を凄まじい勢いで切り裂いていく。
 フランメが飛翔した先に、切り裂かれた跡が広がっているのだ。

「好都合! 行くぞクルミ! アルディが傷をつけたところに投げ込んでいけ!」

「はいですよー!! とりゃとりゃとりゃー!!」

 俺とクルミの連続投擲。
 炎晶石の雨が、ヒドラの体に叩き込まれていく。
 焼かれた部分は再生しない。

 つまり、そこを更に切り裂いて、切り裂かれた部分に炎を叩き込んでいく。

『も、もげ、もげええええええっ!!』

 ある程度叩き込んだところで、ヒドラが断末魔の悲鳴を上げて、真っ二つに裂けた。
 じっと確認していると、再生する気配はない。

「よしよし! 戦闘終了だな。ブラン! 俺をそこまで連れて行ってくれ!」

『わふーん』

 アリサが接近を嫌がったため、結局そのへんをトコトコ走り回っていただけだったブラン。
 元気に戻ってきた。
 そして、アリサをぺいっと横に降ろす。

「あーれえー。いけずですわブランちゃーん」

 そして、次いでブランにまたがるのは、俺とクルミである。
 沼の上を走りながら、ヒドラの死体に向かってみる。

 大変生臭い香りがする。
 だが、じゅうじゅうと焼けている所はまあまあ美味しそうな匂いが……。

「ウミウシも貝の仲間だからかな……。しかし、どうしてウミウシがこんなに大きく……。ひょっとして、神話返りってのは、有名なモンスターによく似た姿に、動物達が変異して暴れてるんじゃないだろうな」

「動物が変わっちゃうですか!? それって、だれがやったですかねえ?」

 クルミが後ろで疑問を口にする。
 それで、ピンときた。

「そうか、原因があるかもしれないんだな。何か動物をモンスターに変えるような……って。まだまだ、ヒドラ一匹だけしか確認してないけどね。さあみんな、街に戻ってまた情報収集と行こうじゃないか!」

 俺の声に、アルディとフランメが元気に応じる。
 対して、ドレとアリサが休みたい休みたいとぶうぶう言うのだった。 
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