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第四部:オケアノス海の冒険 4

第135話 いざ上陸……と思ったらクラーケン その2

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 バルゴン号はぐんぐんと突き進み、クラーケンに絡みつかれた船へと近づく。
 どうやら船員達もこっちに気付いたようで、おーいおーいと手を振ってきた。

「近づくな! 沈められるぞ!」

 おお、いい人達だなあ。

「大丈夫! 助けに来たんだ!」

 俺が叫び返すと、彼らは驚いて目を丸くした。

「よし、小舟を下ろして接触しようか」

「いや、水の上じゃ、あのモンスターの思うつぼだろうぜ。リーダーのお仲間の力を借りる時じゃねえか?」

 アルディが、赤い雀を見た。

『我?』

 フランメが首を傾げる。
 なるほど、空の上から攻めるわけか。

『わふ』

 ブランもやって来た。
 そしてとんでもないカミングアウトをしてくる。

「えっ、君、水の上を走れるのか!?」

『わふわふ』

 今まで特に必要なかったからやってなかっただけらしい。
 これはとんでもないことだ。

「よし、それじゃあ、俺とクルミでブランの上に。フランメはアルディで行こう」

「はいですー!!」

「うっし、任せてくれ!」

「じゃあ、わたくしは船がやられないよう、神聖魔法で防御に回りますわね」

「頼む!」

 役割分担完了。
 ドレはアリサに抱っこされながら、精神攻撃でクラーケンを牽制するようだ。
 多分、水の上に出たくないだけだと思う。

『わふーん!』

 水の上に降りたブラン。
 一声鳴くと、彼の足が水上に立った。
 俺とクルミを載せても、全く沈む気配がない。

「こんな凄い力があったとは……」

「水の上なのに、土の上みたいです! あっ、センセエ! えんしょうせきでいいですか?」

「ああ。雷晶石は俺達まで感電しちゃうからね」

 今回の武器は、燃え上がる魔石で決定。
 俺とクルミのダブルスリングが唸りをあげるのだ。

 水上を疾走してくるブランの姿に、向こうの船員達は驚いてわあわあ叫んでいる。
 どうやらクラーケンも気付いたようで、迎撃のために触手を差し向けてきた。

「行くぞ!」

「とやー!」

 俺とクルミの炎晶石が、これを迎え撃つ。
 空中で、小さな爆発が二つ起こった。
 クラーケンの触手が半ばから焼け焦げ、力を失う。

『もがーっ!!』

 おお、クラーケンが怒っている。
 だが、俺達ばかりに気を取られている場合ではないぞ。

 奴が船に巻きつけた触手へ、空から急降下してくる者がいる。

 アルディとフランメだ。
 触手を掠めるように飛んだ直後、青くて太いそれが、輪切りにされて宙を舞った。
 あの一瞬で切断するか!
 アルディもとんでもないな。

「す……凄い人達が助けに来たぞ!」

「がんばれーっ!!」

 船員達からの声援が飛ぶ。
 ちょっと聞き覚えのない訛りがある共通語だな。
 サフィーロ地方の人達なんだろう。

 クラーケンの巨大な目が、ぎょろぎょろと動く。
 俺とアルディを同時に追いかけているようだ。

 そして触手を伸ばすが、当然のごとくブランとフランメの動きにはついていけない。
 これは、挟撃してあっさり倒せるぞ。

 そう思ったところで……。
 クラーケンが、船の拘束を解いたのである。
 そして、水の中に潜っていく。

「にげたです!」

「うん、逃げたねえ……」

 ただのイカではなかったか。
 モンスターだもんな。
 それなりに高度な思考をしているのかもしれない。

 逃げるモンスターを追いかけてとどめを刺すほど、クラーケンを目の敵にしているわけではない。
 これで人間が怖いと学習してくれれば御の字なんだけれども。

 戻ってきた俺達を、船員が大歓声で迎えてくれた。

「ありがとうー!!」

「助かった!!」

 帽子や手をぶんぶん振ってくれる。
 海の近くの人々は、身振り手振りが大きい。
 離れた船同士からでも見えるようにするためだろうか。

 船べりから、船長らしき男性が身を乗り出してきた。

「ありがとう! 港を目の前にして沈められるかと思った……! 船を捨てて逃げればいいんだがね。こいつには異国の珍しい品物がどっさりと積んであるからねえ」

「ああ、そいつは迷いますよね。とにかくみんな無事ですか」

「何人か触手にやられて怪我はしたが、お陰でみんな生きてるよ!」

「何よりです!」

 船は動き出した。
 クラーケンに締め付けられたダメージは、外見だけで済んだようだ。
 俺達を港に案内してくれると言うから、そのお言葉に甘えることにする。

 クラーケンが去った後、急に辺りが明るくなった気がした。
 日差しが差し込み、ぽかぽかとした陽気が心地よい。

 商船に続いて、バルゴン号もサフィーロへと入港した。

 船を降りる俺達を、商船の船長が待っている。

「改めてありがとう! 君達は何者だね? サフィーロの軍船でなければ対抗できないクラーケンをああも簡単に退散させるとは! それに水の上を走っていた大きな犬と、人を載せていた大きな鳥! ……鳥はいないようだが」

『チュン』

 フランメが囀りながら胸を張った。
 ブランの頭の上である。

 まあ、この小さなサイズでは、フランメがフェニックスだなんて誰も気づかないだろう。

「どういたしまして。俺達はモフライダーズ。アドポリスからやって来た冒険者ですよ」

「ほう、冒険者か! たまにこちらにも冒険者が来るが、君達ほどの凄腕は初めてだな……! もしや、神話返りの謎を追いかけてこちらに来たのかね? ああ、いや、セントロー王国から何人かの賢者が、調査にやって来ているものでね」

「なるほど」

 神話返りとやらは、どうやらそれなりに有名な話のようだ。

「もちろん、君達もこの大きな事件を解決するために来たんだろう!? 君達ほどの凄腕ならば、きっとこの謎も解明できると思うんだ!」

 船長にキラキラ光る瞳で見つめられて、俺は曖昧に笑った。
 すぐに去るつもりなんだけどなあ……!

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