上 下
87 / 173
第二部:神都ラグナスの冒険 6

第78話 追跡! 神都包囲網 その1

しおりを挟む
 さあ、毎日がザクサーン忘却派との追いかけっこだ。
 俺達の前に姿を表したのが運の尽き。

 すぐさま情報を手に入れて、活動を始めた現場を潰すのだ。

 本日の仕事先は、運河。

「運搬船を奪った連中が暴走してるだって?」

 すぐさま、現場に駆けつける俺だ。
 並走するのはカイル。

「そうっす! いつもの、操られてるやつみたいっすね!」

「積み荷は?」

「貴金属類っす!」

「なーるほど」

 目の前を、ゆったりと運搬船が過ぎ去っていく。
 跳んで乗り込めないギリギリの距離だな。

 それにしても、運搬船が速度が出ない船で本当に良かった。

「ここは……ブラン!」

『わふん』

 呼べばどこからともなく現れる、俺の相棒白い犬だ。
 彼は俺達に背中を向けると、乗るように促す。

 俺とカイルで、ぎゅうぎゅうに乗り込む。
 牛くらいの大きさがあるから、いけてしまうのだ。

「よーし、頼むぞ、ブラン!」

『わおーん!』

 ぴょーんと、助走なしでブランが跳ねた。
 真っ白な巨体が運河を渡る。

「う、うおわああああ落ちるううう!?」

 カイルがしがみついてくるんだが、凄い力だ……!
 手加減して欲しい!

 そして当たり前のように、ブランは運搬船の上に着地した。

 さて、これは陽動かどうか。
 運搬船を運用しているらしき男達がいるが、彼らは皆、レブナントのような緩慢な動きをしている。

 これはザクサーンの魔法で操られているな?

 経験からすると、操られている人間だけで船を運用することは難しいはずだ。
 船はどんなアクシデントが起こるかも分からないからな。

 だから、洗脳した人間を操っている忘却派が乗り込んでいるはず……!

 その時、ピィーっと指笛の音がした。
 忘却派がいたのだろう。

 その音に合わせて、洗脳された者達が動きを止める。

 ゆっくりと俺達に向かって振り返るさまは、本当にアンデッドみたいだ。
 今回は俺とカイルとブラン。
 どんな状況でも、自力でどうにかできる組み合わせだな。

「カイル、暴れてくれ!」

「よしきた!」

 洗脳された船員が、俺達に掴みかかってくる。
 そこへ真っ先に飛び出していったカイルが、手にした得物を振り回した。

 いつものコルセスカでは人を殺してしまうので、今回の武器は長い棒だ。
 これを、体を軸にして回転させ、前方、左右、後方、死角なしの攻撃を繰り出しいく。

 洗脳された者達は足を払われ、打ち据えられ、引っ掛けられて放り投げられ、次々に戦闘力を奪われていった。
 体が動けなくなる程度のショックを受けると、しばらく戦えなくなるのがこの洗脳魔法の弱点だな。
 そこまで強力なものじゃない。

「ええい、おのれ!! モフライダーズに嗅ぎつけられたか!! どこにでも出てくる連中だ!」

 ここ最近、忘却派の仕事を次々に邪魔しているので、俺の顔は向こうに知れ渡っているようだ。
 忌々しげに俺を睨む男は、船の舳先に立っていた。

「だが、こんなこともあろうかと、あの方は準備されていたのだ! いでよ、キメラ!!」

 男は叫びながら、舳先近くに設置されていた木箱を解放して回る。
 中から現れるのは、オオトカゲの手足を持った双首の蛇と、巨大な翼を生やしたライオンだ。

『わふん』

 任せて、と悠々前進していくブラン。

「任せた!」

『わふ!』

 さて、モンスター大決戦が始まった。
 大物はブランに任せつつ、俺は忘却派の黒幕と戦うとしよう。

「ええい、なんだその犬は!! どうしてキメラと互角に戦える!」

「互角じゃないんだなあこれが」

 俺が言う横で、ブランが双首蛇を咥えて甲板にガンガン叩きつけている。
 頭上から飛びかかってくる空飛ぶライオンは、ぴょんと跳ね上がって前足で叩き落とした。

「なんだと!?」

「うちのブランは特別でね。さあ、降参しろ。どうしてこの船を奪おうとしたのか吐いてもらう……もらわなくても理由は分かるか。忘却派の神都での活動費だろ?」

「な、なぜそれを……」

「本国のアルマース帝国は協調派が主流だって聞いたからね。マイナーな君達は、独自に活動資金を作らなきゃならない。実に大変だ」

「お、おのれ……!! これ以上情報は漏らさぬ!! お前ごとこの船を爆破する!! おお、ザクサーンの神よ、我が魔力に無限の力を与えたまえええええ」

 おっとまずい!!
 これはいわゆる、自爆の魔法だ!
 爆発の範囲は分からないけれど、船が沈んだら貴重品は水の底。
 船員達だって助からない。

 俺は即座に間合いを詰め、忘却派の男に組み付いた。

「わは、わははは!! お前も連れて行くぞ!! 死ね、モフライダーズ!!」

 俺をがっちりと掴もうとする男。
 だが、俺は既に厚手の手袋を身に着け、そこに雷晶石を握りしめている。

 掴まれる寸前に、

「ビリっと行くぞ!」

 雷晶石が弾けた。

「ウグワワーッ!?」

 電撃で痺れ、白目を剥く男。
 開かれた口の中から、見開かれた目玉が、光り輝き始めている。
 体内の魔力が増幅、暴走し、今にも爆発を起こしそうなのだ。

「よーし、吹っ飛べ!」

 俺は舳先から、ラグナスとは逆方向に向かって男を放り投げた。
 さらに、袖口からスリングを滑り落とし、そこに炎晶石を設置。

「そおいっ!!」

 投擲された炎晶石は、水面ギリギリの男の腹にぶつかると、爆発を起こした。

「ウグワーッ!!」

 その爆発が、男をさらに遠ざける。
 そして、とうとう男も爆発した。

 魔力光が辺りに撒き散らされ、爆風と衝撃波が来る。
 だが……距離をとったお陰でそれほどでもないな。

 それよりも気をつけるべきは。

「カイル! 波が来る! 落ちるなよ!」

「うっす!!」

 爆発の余波で起こった波が、船を揺さぶる。
 これが水中で爆発してたら、もっと波が大きかったことだろう。

 いや、なんとか想定内に収められてよかったよかった。

 俺達はスピーディに忘却派の活動を阻止した。
 最近、こんな毎日を送っているのだ。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...