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第二部:神都ラグナスの冒険 4

第69話 モフモフスリー その2

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 その後、大教会の使者とともにギルドに行き、その場で使者が依頼を提出。俺達が依頼を受けるという作業を終えた。

 ギルドの面々は目を丸くしてこれを見ていた。
 いつものエルフの受付嬢が、

「なんてマッチポンプ……?」

「人聞きの悪いことを言わないでほしい」

「でも、まるで教会のお抱え冒険者みたいじゃないですか。アリサさんだっているし」

 アリサがニコニコ顔で手を振った。

「色々事情があって、彼女をモフライダーズに迎え入れるために仕事を受けているんだ。この間の下水道探索の続きみたいなものだね。ギルドは黙ってれば仲介料だけもらえるんだからいいんじゃないの?」

「そりゃあ、楽ですけど……」

 案外真面目な人のようだ。

 ここでファルクスが、俺にひそひそ話をしてくる。

「あまり上と癒着してるように見えますと、ほら、冒険者は反骨精神があるというか、社会不適合者の集まりですからな。変に反発される可能性もあります。わたくしめが一つ、ここ最近の出来事をいい感じの戯曲にして新しい噂を流しておきましょうぞ」

「ああ、そういう対処方法があるんだ!? 吟遊詩人、情報戦に強いなあ」

 教会からの仕事と、他の冒険者達の目。
 どっちもきちんと対応しないといけないのが面倒なところだ。
 だが、雑務の発生には慣れっこなのだ。

 どっちもこなしてやるとしよう。
 まずは仕事だ、仕事。

「じゃあ、とりあえず……。盗賊ギルドに顔を出して情報を集めるかな。これ俺一人で……」

「はぁい! センセエ! クルミも行くですよ!」

『新しいところに行くにゃん? 己も興味あるにゃん』

 好奇心旺盛な二人が反応した!
 ブランがニコニコしながら、

『わふん』

 おお、他のメンバーと一緒に待っててくれるか……!
 ありがとう、ブラン。
 まさか、盗賊ギルドに司祭のアリサを連れて行くわけにもいかないしな。

「いってらっしゃいましー」

「盗賊ギルドは流石に戯曲にできませんからなあ」

「ギルドに面通ししなきゃなのか。大変っすねえ」

 仲間達に見送られながら、俺は一人と一匹を連れて路地裏へ。
 どんな明るい都市だって、陽の当たらない場所はあるものだ。

 特にこんな大きな街なら、幾らでもそういうところはある。
 そして、大教会からさほど離れていないダウンタウン。
 シーフとしてのクラスも持つ俺は、盗賊ギルドとの縁もある。

 神都ラグナスのギルドの所在もよく知っているのだ。
 そこに行くまでの間、ガラが悪い土地を歩くことになる。

「ほえー」

「クルミ、離れないようにね。ゼロ族は珍しいから、気を抜いてたらさらわれちゃうぞ」

「ひえー! ほんとですか!?」

 慌てたクルミが、俺と密着するくらいまで近づいてきた。
 近い近い!

 そして噂をしたら。

「へっへっへ、珍しい種族連れてるじゃねえか。リスの尻尾かよ!」

「もっふもふだな!」

「俺の仲間なんでね。手出しはしないほうがいいよ」

 俺はクルミをかばうように前に出た。
 声を掛けてきた男達は、俺が身に付けているパーティのバッジを目にして、「あっ」と声を上げる。

「て、手出しなんかしねえよ」

「だよなあ。俺らも流石に上が怖い」

 モフライダーズの情報は、ここまで流れてきているようだな。
 そしてさらにダメ押しがあった。

 俺の股間から、ドレが顔を出した。

『にゃん』

「あっ!! そ、その猫!! でっかくなるやつ!!」

「お前の飼い猫だったのかーっ!? 絶対手を出したらダメな奴らじゃん!」

 男達は慌てて逃げ出した。

『弱々マインドブラストにゃん』

「ウグワーッ!」

 あ、男達が昏倒した。

「ドレ、知り合い?」

「己を捕まえようとしたので、ちょっと撫でてやった連中にゃん」

 なるほど、妙なところで縁があるものだ。



 神都ラグナスの盗賊ギルドは、酒場の形をしていた。
 間口はさほど広くないものの……。
 一歩踏み入ってしまえば、そこは広い空間だ。

 周囲の建物がくり抜かれ、その全てが盗賊ギルドの偽装として使われているのだ。

 俺が入ってくると、辺りのテーブルでカード遊びなんかをしてた連中が、じろじろと値踏みするような目を向けてきた。
 誰かが立ち上がり、ニヤニヤ笑いを浮かべながら近づいて……。

『マインドブラストにゃ』

「ウグワーッ」

 おっ、ぶっ倒れた。

「ドレ、そんなに連発するのはいかがなものか」

『害意がありそうなのは全部蹴散らしてもいいにゃん。これは己の独自判断にゃん』

 そう言えば彼は心が読めるんだった。
 しかも、今のドレの言葉はこの場にいる全員に、オープンに放たれた。
 誰もがギョッとして、この金色の猫を見る。

 猫の後ろで、なぜか腰に手を当て胸を張るクルミ。

 リス尻尾の少女と、彼女の前に鎮座する金色猫がギルド中の注目を浴びるという、不思議な光景になってしまった。

「あのー」

「アッハイ」

 俺が恐る恐る声を掛けると、グラスを磨いていたマスターがぴょんと飛び跳ねた。

「モフライダーズのオースなんだけど、ギルドに面通しをしようと思ってさ」

「あ、伺ってます」

「上の方からもう?」

「はあ。うちも、こう、あの上には逆らえませんで」

 フランチェスコ枢機卿、盗賊ギルドも掌握してるのか。
 恐ろしい人だな。

「じゃあ、情報収集をしたいんだ。お金はあるから」

「はい、ではVIPルームにお通しします」

 マスターの後ろに扉があり、そこに案内される。

 通されたのは、とても豪華な部屋だった。
 だが、普段なら情報屋がいるであろうそこには、誰もいない。
 俺とクルミが適当に席について待っていると、ドレが部屋の中をトコトコ歩き回った。

『これは何にゃん』

「ドレ、何か見つけたですか?」

『フシギなものがあるにゃん』

「どれどれー?」

 クルミが立ち上がり、ドレがじっと見つめる彫像に近づく。
 そして、じーっと彫像を見る。
 ドレもクルミの背中を駆け上がって、彫像をじーっと見る。

 あ、それ。
 彫像の目が、来客を監視するっていうマジックアイテムだな。

 きっと、この彫像を通じて俺達を観察している人は、猫とクルミの顔が凄いアップになってしまい、何の情報も得られなくなっていることであろう。

「?」

 クルミが指先で、彫像の頭をつんつんした。
 すると、どこかから「ウグワーッ」という声が聞こえる。

 クルミの指で目を突かれるような錯覚に陥ったんだろう。
 外がどたどたと騒がしくなる。

 扉を開け放って入ってきたのは、精悍な印象の中年だった。

「お前らな、貴重なマジックアイテムなんだから突いたり密着したらダメ!」

 怒られてしまった。
 中年男性は、咳払いをした。

「俺が盗賊ギルドの長、ドナートだ。上から連絡は受けてる。お前らが、あのキメラ養殖業者を潰してくれるんだな?」

 キメラ養殖業者!?
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