上 下
63 / 173
第二部:神都ラグナスの冒険 1

第54話 ラグナスへの旅路 その4

しおりを挟む
 夕食時、仲間達にファルクスを紹介した。

「おっほ、小鳥ちゃん! かわいい」

 アリサが鼻息を荒くして、ロッキーにおいでおいでしている。
 小鳥のロッキーは大変警戒している。

 そうだよな、この司祭怪しいもんな。

「なんて残念なやつなんだ……」

 カイルが呆れて呟くと、アリサがギッとカイルを睨んだ。

「うるせーですわよ脳筋槍男」

「な、ななな、なんだよその呼び名!? やめろよ!」

『小鳥にゃ? 食べていいのにゃ?』

『ピョ、ピョイー』

 おお、ドレが目を光らせたので、ロッキーが怯えている。

「だめ。ロッキーは食べちゃだめだよドレ」

「はっはっは、わたくしめも困りますなあ。ロッキーにはわたくしめの呪歌を色々教え込んでいます故。ということで、アリサ殿がおられぬ間だけですが、わたくしめが皆様の仲間となることになりました」

「ううっ……本当ならわたくし、大教会なんか放っておいてモフライダーズと一緒に行動したいのですわ……! 出世なんかするもんじゃなかったのですわーっ!!」

 嘆くアリサ。
 復讐の好機とばかりに、ぷぷーっと笑うカイル。
 おっ、アリサがカイルの脇腹にボディブローした。
 カイルがアリサのほっぺたを掴んでつねる。
 争っている。

「あの二人はなかよしさんですねえ」

 クルミはニコニコしながら、魚料理を食べていた。

「センセエとクルミみたいです」

「ちょっと違うと思うなあ」

 それはそうと、クルミが笑顔になるくらいには、スカイキラーの焼き物は美味しい。
 肉がしっかり締まっていて、噛むほどに旨味が溢れ出す。

 これ、スープを作っても美味しくなりそうだな。
 いい出汁が取れそうだ。

 食事をする俺達のもとには、水夫や乗客が次々やって来ていた。
 スカイキラーの話を求めてくる。

 今日の昼間起こったばかりの、新鮮なモンスター退治の話だもんな。

「ふーむ、即興ですが浮かびましたぞ! わたくしめにお任せをば!」

 ファルクスが立ち上がった。
 彼の楽器はリュート。
 洋梨を半分に切ったような外見の本体からネックが突き出した、弦楽器だ。

 ぽろんぽろんと奏でながら、ファルクスが歌い出した。
 俺がスカイキラーを、知恵と工夫で退治するコミカルな戯曲だ。

『おお、その名はオース
 アドポリス救いし勇者
 我が船に降り立ち
 襲い来るスカイキラー
 はらり垂らしたただの布
 夢か魔法かひるがえり
 空飛ぶ悪魔を撃ち落とす
 力にあらず
 魔法にあらず
 知恵こそが力
 それがオース
 オースオース』

 うーむ!
 何と言うか、こそばゆい。

 照れくさくて背中がむずむずしてくる。
 ついこの間まで、こういった他からの称賛とは無縁の人生だったからなあ。
 いきなり評価されるようになって、戸惑うことこの上ない。

 歌の途中、水夫が何人かやって来た。

「あの、オースさん」

「お願いがあるんですけど」

「なんだい?」

「さっきの、あの布を垂らしてスカイキラーを取る方法なんですけど、詳しく教えてくれないですか」

「なんか、スカイキラーの料理がすげえ好評なんで、金になるかもしれなくてですね」

「なるほど! いいとも」

 案外、この辺りで、スカイキラーが食材として定着するかもしれないな。
 俺は彼らに、布を使ったスカイキラー漁の方法を教えた。
 風向きが一番大事だから注意してね。

「こいつはオース式漁法って名付けますよ!」

「やめてくれえ」

 そんな気遣いはいらないぞ!

 その後、とても食べ切れないほどのスカイキラーを、船の料理人達が一生懸命捌いていたらしい。
 無数の切り身がやってきて、これをマストから干す作業に入った。

「木に登るですか? クルミ、とくいです! てつだうです!」

「お嬢ちゃんの木登り凄かったもんなあ!」

「ありがてえ!」

 クルミの申し出に、水夫達が頬を緩める。
 なんというか、娘を見るお父さんみたいな顔になってるな、みんな。

 クルミはこう見えても、ゼロ族では成人している年齢なのだが……!
 まあ、みんなスカイキラー戦の時のクルミの動きを見ていたからな。

 地上と変わらないかのように、すごい速度で木に登り、驚くべき器用さで布をマストに巻き付けていったクルミ。
 こと、高所の作業では彼女に勝る者はおるまい。

『わふ』

「えっ、ブランも手伝いに行くのかい」

『わふん』

「ははあ、ブランも高いところに登ってみたいのか」

 むふーっと鼻息を荒くするブラン。
 マーナガルムも可愛いところがあるなあ。

 すぐ近くで、ブランをさわさわしていたオーガ船長。
 ブランがマストに登りたいと聞いて、一瞬考えた。

「マスト折らない?」

 ブラン大きいもんなあ。

『わふ』

「重心のコントロールには自信があるから絶対折らないって言ってますね」

「そうかあー。ブランちゃんがそう言うならそうなんだろうなあ。いいよいいよ」

 目を細めてうんうんうなずく船長なのだった。
 モフモフに対しては完全に甘やかしモードに入ってしまうのだなあ。

 結局その後、完全に日が沈んでしまうまでの間、クルミとブランはマストの上で、わいわいと作業をしたのだった。

 あれだけ大きなブランが登っても、マストはミシミシ言わないんだなあ。
 頑丈だ。

『あの犬が重量バランスというか重力をコントロールしてるにゃ。見てると分かるにゃ。端に寄っても不自然なくらい足場がしならないにゃ』

 ドレが解説してくれた。
 なるほどなるほど。

 器用にマストを登るブランに、水夫も乗客達も大盛りあがりだ。
 まさか誰も、ブランが凄まじく高度な技を使ってマストにダメージを与えないようにしているとは思うまい。

「でも、ブラン楽しそうだなあ」

『割とみんな高いところは好きにゃ。己も高いところは嫌いじゃないにゃ』

「ドレも行くかい?」

『己は日が暮れたら働かないことにしてるにゃ』

「ドレちゃーん! もうすぐお別れのわたくしに、モフモフさせてくださいなー!」

『うーわー』

 ドレがアリサに抱きかかえられた。
 これからモフモフされまくるのであろう。

 船旅は平和。
 このまま進めば、明日にはラグナスに向かう運河が見えてくるという。

 楽しみだ。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~

月輪林檎
ファンタジー
 人々を恐怖に陥れる存在や魔族を束ねる王と呼ばれる魔王。そんな魔王に対抗できる力を持つ者を勇者と言う。  そんな勇者を支える存在の一人として、聖女と呼ばれる者がいた。聖女は、邪な存在を浄化するという特性を持ち、勇者と共に魔王を打ち破ったとさえ言われている。  だが、代が変わっていく毎に、段々と聖女の技が魔族に効きにくくなっていた…… 今代の聖女となったクララは、勇者パーティーとして旅をしていたが、ある日、勇者にパーティーから出て行けと言われてしまう。 勇者達と別れて、街を歩いていると、突然話しかけられ眠らされてしまう。眼を覚ました時には、目の前に敵である魔族の姿が…… 人々の敵である魔族。その魔族は本当に悪なのか。クララは、魔族と暮らしていく中でその事について考えていく。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

処理中です...