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第一部:都市国家アドポリスの冒険 7
第35話 デュラハンとその事情 その5
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「カイル、君の担当は首なし馬だよ。仕留めてくれ」
「いや、でも、そのちびっこがデュラハンとやるんですか!?」
「ちびっこではないです! クルミです! 行くですよー!」
鼻息も勇ましく、クルミがデュラハンに立ち向かう。
「なに、相手は接近戦の達人だとしても、そんなものは付き合わなければいい。クルミ、距離を保ちながら俺から受け取った石を投げつける」
「はいです!」
さあ、ここから忙しい。
サポート要員として、アリサには控えてもらっている。
ブランはいつも通り、見学だ。
彼はこの様子を楽しんで見ているようだ。
『おおおおおおっ!!』
デュラハンが吠えながら、前に立ちふさがったクルミに突っ込んでくる。
「クルミ、はいっ」
「はいです! とやー!」
俺が彼女に手渡したのは、魔力を充填した炎晶石。
これが燃え上がるより前に、スリングで振り回して放り投げるのだ。
クルミのスリング、狙いは正確。
近寄ってきていたデュラハンは、これを剣で払おうとした。
直前で、炎晶石が爆発する。
『ぬぐわっ』
「クルミ、はいっ」
「はいです! とややー!」
俺達二人はちょっと移動しつつ、立ち直っていないデュラハンへ炎晶石をさらに投擲。
今度はデュラハンの胴体に炸裂した。
爆発が起こる。
『ぐわあああああ』
相手は氷の精霊。
相反する属性である、炎はよく効くのだ。
それに、スリングで投擲される石はかなり速い。
剣の達人だって、そうそう見切れるものじゃない。
慣れてきた頃には、勝負が決まっているわけだ。
それに……。
『おのれっ! おのれえええっ!』
「ひゃー! なんかクルミの胸のあたりがジューッといったです!」
「クルミ、今のうちに胸元に粉末を補充! 俺が時間稼ぐからね」
俺は炎晶石の一つを、アンダースローで投げつけた。
急にゆっくり飛んでくる石があるので、デュラハンは慌ててこれを剣で切る。
炎晶石は空中で破裂し、炎を撒き散らした。
首なし騎士には何のダメージも与えないが、その間にクルミはまた、死の呪いへの防備を固めている。
俺が準備する炎晶石も備え終わりだ。
「ほい、クルミ!」
「はいです!」
炸裂する炎。
吠えるデュラハン。
俺達は常に距離を一定に保つ。
接近戦をさせない。
そもそも、相手に実力を発揮させる理由が無いのだ。
「クルミ、もうすぐ終わるぞ。落ち着いて行こう。これはルーチンワークのように対応して倒すモンスターだ」
「るーちんです? とやーっ!」
投擲された炎晶石を当てられ、またデュラハンが吠えた。
『卑怯なり……! 卑怯……!』
「デュラハンはその特性上、盾を持てない。鎧で矢は防げても、投擲されてくる炎晶石は防げないわけだ。魔法でデュラハンに対抗するには詠唱が必要で、連打はできない。だけど、スリングなら、移動しながら結構な速度で投擲できるからね」
「すっげえ……」
首なし馬を薙ぎ倒しつつ、こちらを伺っていたカイル。
思わず、といった感じでつぶやきが漏れた。
「あのデュラハンを、作業みたいにして倒すのかよ……!」
「敵が頭に血を上らせたら、それでこちらの勝ちさ。行動が単純化してパターンにはめやすくなる。冷静になる前に倒せばいい」
デュラハンはひたすらに、こちらへの距離を詰めようとしてくる。
高速で接近するための馬と戦車は奪った。
飛び道具である死の呪いは無効化した。
こちらの炎晶石を、首なし騎士は防ぎきれない。
となれば、どうする?
『むおおおおおおっ!!』
デュラハンが絶叫して、こちらへ疾走してくる。
防御を捨てた突撃だ。
「ひゃあっ!」
「よし、勝った」
俺はここで、炎晶石からマジックトラップに持ち替えている。
素早く取り出したスリングでトラップを振り回し、デュラハンの足が振り下ろされる場所へ投擲。
インスタント落とし穴が生まれた。
デュラハンの足が、見事にはまる。
『おごおおおおっ!?』
首なし騎士が転んだ。
「ほい、クルミ! 炎晶石連続で行くよ。狙う必要なんかない。どんどん投げつけて」
「はいです!! ほいっ! ほいっ! ほいっ! ほいっ! ほいっ!」
『ウグワーッ!!』
首なし騎士の全身が、炎に包まれた。
やがてその体の輪郭がぼやけて、ゆっくりと縮んでいく。
気がつくと、デュラハンがいた場所には、結晶のようなものが残っていた。
「討伐完了。恐ろしくタフなデュラハンだったなあ」
俺はデュラハンがいた場所に近づくと、結晶を拾い上げた。
ひんやりと冷たい。
「うりゃあっ!!」
それと同時に、カイルが首なし馬を仕留めたようだった。
こちらも結晶に変わる。
デュラハンよりは小ぶりな結晶だ。
「はあ、はあ……。本当に倒しちまった……。しかも、ちびっこと二人っきりで」
「いやいや。カイルが馬を足止めしてくれたのが良かったのさ。お陰で集中できた。一人でやってた時は、トラップで馬を足止めしつつ炎晶石、という繰り返しで……一時間はかかったからね」
「デュラハンと一時間!? 地獄だ……」
まさしくそうだった。
一人で延々と戦い続けたあの時。
いつ死んでもおかしくなかったな。
だが、その中でデュラハンのタイミングは完璧に掴んだのだ。
デュラハンやバジリスクといった、強力なモンスターというのはおかしなもので、個体ごとの癖みたいなのが少ない。
強さの差はあれど、行動するためのルーチンがとても似通っているのだ。
だから、パターンを見極めることができれば対処は容易になる。
「センセエ! そのキラキラきれいなのはなんですかー?」
「あらあら、それは氷の精霊石ですわね」
戦いを見ていたアリサが、トコトコとやってきた。
隣に、いつもどおりのサモエド顔をしたブランもいる。
「そう。デュラハンはこれを落とすんだ。精霊石一つで、氷属性の魔法のアイテムをたくさん作れるからね。仕入れた炎晶石ぶん全てを補って、同じ額くらいのリターンがある」
「それにしたって、こんなでけえ精霊石は初めて見るぜ。あのデュラハン、本当にヤバイやつだったんすね」
「うんうん。個体としての強さは俺が戦った中で最強だったかもね。だが、どんなに強くても思考と行動がパターン通りならば怖くない」
精霊石をポーチに収納。
さあて、町長に報告に行くとしようじゃないか。
「いや、でも、そのちびっこがデュラハンとやるんですか!?」
「ちびっこではないです! クルミです! 行くですよー!」
鼻息も勇ましく、クルミがデュラハンに立ち向かう。
「なに、相手は接近戦の達人だとしても、そんなものは付き合わなければいい。クルミ、距離を保ちながら俺から受け取った石を投げつける」
「はいです!」
さあ、ここから忙しい。
サポート要員として、アリサには控えてもらっている。
ブランはいつも通り、見学だ。
彼はこの様子を楽しんで見ているようだ。
『おおおおおおっ!!』
デュラハンが吠えながら、前に立ちふさがったクルミに突っ込んでくる。
「クルミ、はいっ」
「はいです! とやー!」
俺が彼女に手渡したのは、魔力を充填した炎晶石。
これが燃え上がるより前に、スリングで振り回して放り投げるのだ。
クルミのスリング、狙いは正確。
近寄ってきていたデュラハンは、これを剣で払おうとした。
直前で、炎晶石が爆発する。
『ぬぐわっ』
「クルミ、はいっ」
「はいです! とややー!」
俺達二人はちょっと移動しつつ、立ち直っていないデュラハンへ炎晶石をさらに投擲。
今度はデュラハンの胴体に炸裂した。
爆発が起こる。
『ぐわあああああ』
相手は氷の精霊。
相反する属性である、炎はよく効くのだ。
それに、スリングで投擲される石はかなり速い。
剣の達人だって、そうそう見切れるものじゃない。
慣れてきた頃には、勝負が決まっているわけだ。
それに……。
『おのれっ! おのれえええっ!』
「ひゃー! なんかクルミの胸のあたりがジューッといったです!」
「クルミ、今のうちに胸元に粉末を補充! 俺が時間稼ぐからね」
俺は炎晶石の一つを、アンダースローで投げつけた。
急にゆっくり飛んでくる石があるので、デュラハンは慌ててこれを剣で切る。
炎晶石は空中で破裂し、炎を撒き散らした。
首なし騎士には何のダメージも与えないが、その間にクルミはまた、死の呪いへの防備を固めている。
俺が準備する炎晶石も備え終わりだ。
「ほい、クルミ!」
「はいです!」
炸裂する炎。
吠えるデュラハン。
俺達は常に距離を一定に保つ。
接近戦をさせない。
そもそも、相手に実力を発揮させる理由が無いのだ。
「クルミ、もうすぐ終わるぞ。落ち着いて行こう。これはルーチンワークのように対応して倒すモンスターだ」
「るーちんです? とやーっ!」
投擲された炎晶石を当てられ、またデュラハンが吠えた。
『卑怯なり……! 卑怯……!』
「デュラハンはその特性上、盾を持てない。鎧で矢は防げても、投擲されてくる炎晶石は防げないわけだ。魔法でデュラハンに対抗するには詠唱が必要で、連打はできない。だけど、スリングなら、移動しながら結構な速度で投擲できるからね」
「すっげえ……」
首なし馬を薙ぎ倒しつつ、こちらを伺っていたカイル。
思わず、といった感じでつぶやきが漏れた。
「あのデュラハンを、作業みたいにして倒すのかよ……!」
「敵が頭に血を上らせたら、それでこちらの勝ちさ。行動が単純化してパターンにはめやすくなる。冷静になる前に倒せばいい」
デュラハンはひたすらに、こちらへの距離を詰めようとしてくる。
高速で接近するための馬と戦車は奪った。
飛び道具である死の呪いは無効化した。
こちらの炎晶石を、首なし騎士は防ぎきれない。
となれば、どうする?
『むおおおおおおっ!!』
デュラハンが絶叫して、こちらへ疾走してくる。
防御を捨てた突撃だ。
「ひゃあっ!」
「よし、勝った」
俺はここで、炎晶石からマジックトラップに持ち替えている。
素早く取り出したスリングでトラップを振り回し、デュラハンの足が振り下ろされる場所へ投擲。
インスタント落とし穴が生まれた。
デュラハンの足が、見事にはまる。
『おごおおおおっ!?』
首なし騎士が転んだ。
「ほい、クルミ! 炎晶石連続で行くよ。狙う必要なんかない。どんどん投げつけて」
「はいです!! ほいっ! ほいっ! ほいっ! ほいっ! ほいっ!」
『ウグワーッ!!』
首なし騎士の全身が、炎に包まれた。
やがてその体の輪郭がぼやけて、ゆっくりと縮んでいく。
気がつくと、デュラハンがいた場所には、結晶のようなものが残っていた。
「討伐完了。恐ろしくタフなデュラハンだったなあ」
俺はデュラハンがいた場所に近づくと、結晶を拾い上げた。
ひんやりと冷たい。
「うりゃあっ!!」
それと同時に、カイルが首なし馬を仕留めたようだった。
こちらも結晶に変わる。
デュラハンよりは小ぶりな結晶だ。
「はあ、はあ……。本当に倒しちまった……。しかも、ちびっこと二人っきりで」
「いやいや。カイルが馬を足止めしてくれたのが良かったのさ。お陰で集中できた。一人でやってた時は、トラップで馬を足止めしつつ炎晶石、という繰り返しで……一時間はかかったからね」
「デュラハンと一時間!? 地獄だ……」
まさしくそうだった。
一人で延々と戦い続けたあの時。
いつ死んでもおかしくなかったな。
だが、その中でデュラハンのタイミングは完璧に掴んだのだ。
デュラハンやバジリスクといった、強力なモンスターというのはおかしなもので、個体ごとの癖みたいなのが少ない。
強さの差はあれど、行動するためのルーチンがとても似通っているのだ。
だから、パターンを見極めることができれば対処は容易になる。
「センセエ! そのキラキラきれいなのはなんですかー?」
「あらあら、それは氷の精霊石ですわね」
戦いを見ていたアリサが、トコトコとやってきた。
隣に、いつもどおりのサモエド顔をしたブランもいる。
「そう。デュラハンはこれを落とすんだ。精霊石一つで、氷属性の魔法のアイテムをたくさん作れるからね。仕入れた炎晶石ぶん全てを補って、同じ額くらいのリターンがある」
「それにしたって、こんなでけえ精霊石は初めて見るぜ。あのデュラハン、本当にヤバイやつだったんすね」
「うんうん。個体としての強さは俺が戦った中で最強だったかもね。だが、どんなに強くても思考と行動がパターン通りならば怖くない」
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