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第一部:都市国家アドポリスの冒険 6
第30話 新しい同行者 その5
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「ところでオースさん、何をなさっているのですか?」
アリサが不思議そうに尋ねてくる。
これに、クルミが胸を張って答えた。
「センセエが何かしてるときはしらべてるですよ! あとで大事なことになるのにきまってるです!」
「うん、その通り。クルミ、よく分かってきたねえ」
「えへへ」
いやいや、本当にその通り。
俺は今、倒されたレブナントを検分している。
どうせこの装備は回収され、使えるものは洗浄の上で再利用されることになる。
不思議なのは、レブナント化したという冒険者達だけが消滅し、装備はそのまま残っていることだ。
「アリサ、質問いいかな」
「はい、なんでしょう」
「今の神聖魔法は、いわゆるパニッシュと呼ばれる高位神聖魔法だろう? これは必ず、アンデッドを消滅させるものなのかい?」
「ええ。アンデッドの強さによりますが。ゾンビや、これらの低位レブナントならば一撃ですね」
アタリマエのことですよ、みたいな口調で応じるアリサ。
なるほど。
「それは人体に使っても消滅させられる?」
「まさか! アンデッドだけです」
そりゃあそうだ。
人体にも使えるなら、パニッシュはとんでもない殺戮魔法になる。
だが、ならばなぜアンデッドだけを消滅できる?
ここで俺は推論を立てた。
アンデッドは、既に人間ではない。
それはもしかして、その肉体そのものに関しても言えるのではないか?
「アンデッドは、パニッシュに対応して消滅する性質の肉体に置き換わっている……?」
「センセエ、どういうことです?」
「そうだねえ。例えばクルミ、化石って知ってるかい?」
「はいです! たまーに石の中から貝の形の石とか出てくるあれですね!」
「正解。あれはもともと貝だったんだ」
「えええええ!? 石の中に貝がいたですか!?」
「いやいや。大昔に死んだ貝が土に埋もれて、それが石になったんだ。貝に体は段々石に置き換わって、ああして化石になる。同じことがアンデッドでも起きてるんじゃないかな。しかも急速に」
アンデッドを構成する物質は、人間の肉体とは違う、という推測だ。
しかもこれは、パニッシュや聖水などの手段で消滅させることができる。
反面、魔法がかかっていない通常の武器では彼らに傷をつけることができない。
ゾンビやスケルトンなどの最下級アンデッドは、肉体の部分が多く残っているから普通に殴り勝てるだけなのだ。
「魔法と親和性が高い物質で、アンデッドはできている? これは教会の本を読むと解決しそうだ」
「あのお、オースさん? 寄付をしたからと言って教会が蔵書を読ませてくれるとは限りませんことよ……?」
「じゃあ、首を縦に振るまで寄付を積む」
アリサが天を仰いだ。
『わふん』
ブランが、しょうがないよ、こういう男だから、とサモエドみたいな笑顔になる。
アリサはブランを思い切りモフモフして、ため息を付いた。
「分かりました。じゃあ、教会に参りましょう? 何を考えてらっしゃるのか分かりませんけど、アンデッドは神聖魔法か、魔法か魔法の武器。これを使うのがセオリーでしてよ?」
「それはそうだけど……あっ」
俺は黄色いものが落ちているのを発見した。
ぼんやり光っている。
これは……レブナントの破片?
そっと、ポケットから取り出したヘラで掬うと、油紙で包んでポーチにしまった。
「今何かしまいませんでした?」
「いいや、何も? さあ行こう。教会へ行こう」
無理やり押し切り、教会へ向かった。
そして寄付をどっさりと積み、そこの司祭を拝み倒す。
アリサも口添えしてくれたので、司祭立ち会いの元なら……という条件付きで、教会の蔵書の閲覧を許してもらったのだった。
教会の図書室を見て回る。
この世界はゼフィロシアというのだが、その千年前からの歴史を綴った本などがある。
読みたい。
だが、あれを読んでいたら今日はそれで終わってしまう。
チャンスは今日だけ。
効率的に行こう。
探すのはアンデッドの本だ。
「本が並んでいる順番は?」
「名前順ですよ」
司祭に教わり、アンデッド、と探していった。
あったあった。
羊皮紙を束ねたものを、木製のバインダーで挟んだ仰々しい書籍。
「それは……。何か企んでいるんですか?」
「普通そう思いますわよねえ」
司祭とアリサがひそひそ話をしているが、気持ちは分かる。
「だいじょうぶ! センセエは正しいことだけするですよ! 安心です!」
これを全肯定してくれるクルミの心強さ!
彼女は俺の隣にちょこんと座り、本を覗き込む。
「んー? コワイ絵がかいてあるです!」
「アンデッドの絵だねえ。ほら、レブナントのコーナーがある。彼らは自然発生しない。魔法によって死体を改造するものである……だって。つまり一度殺せばレブナントにできるわけだ。それから……レブナントを従えるアンデッドだってさ。これは……魔法の鎧の一種に、身に付けた者を強力なレブナントに変えてしまうものがある。それを身に着けた者を、アンデッドナイトと呼ぶ、か。俺も知らないアンデッドだな」
レブナントの性質について細かく書かれている。
基本的には生前と変わらないとか。
ただし、知力は大きく落ちる。
アリサが、死者を蘇生する時、肉体に残ったメモリーが……とか言ってたな。
そういうあれかな?
とにかく、レブナントは生前に抱いていた強い感情に従って動く。
さっき出会った冒険者レブナントは、陽の光の下に出てこようとしていた。
あれはつまり、逃げようとしていたんじゃないか?
逃げるという感情を抱いて死んだ。
だから、その感情のままに逃げようとしている。
「ふむふむ。それから倒し方はっと。神聖魔法と、聖水と、魔法の武器。そして……銀か!」
そこまでで、レブナントの章は終わりだった。
すると、図書室の窓がペシペシ叩かれる。
司祭がそっちを見て、叫んだ。
「ああっ、窓に、窓に!」
「あ、ブラン!」
教会に動物は入れないので、外に置いてきたブランだ。
退屈だったようで、いつの間にか教会の外を回って図書室まで来たようだ。
窓に鼻先を押し付けて、肉球でぺしぺしとガラスを叩いている。
『わふぉーん』
「わかったよ! もう戻るから! 司祭様、ありがとうございました。参考になりましたよー」
「そ、そうですか。しかし大きな犬ですねえ……。随分おとなしいようですが」
「あっはっは」
「ブランは賢いです!」
「モフモフが素敵なんです!」
俺は笑って誤魔化し、クルミが褒め、アリサはうっとりとしたのだった。
最強の魔獣マーナガルムなんですよ、なんて絶対に言えないものな。
アリサが不思議そうに尋ねてくる。
これに、クルミが胸を張って答えた。
「センセエが何かしてるときはしらべてるですよ! あとで大事なことになるのにきまってるです!」
「うん、その通り。クルミ、よく分かってきたねえ」
「えへへ」
いやいや、本当にその通り。
俺は今、倒されたレブナントを検分している。
どうせこの装備は回収され、使えるものは洗浄の上で再利用されることになる。
不思議なのは、レブナント化したという冒険者達だけが消滅し、装備はそのまま残っていることだ。
「アリサ、質問いいかな」
「はい、なんでしょう」
「今の神聖魔法は、いわゆるパニッシュと呼ばれる高位神聖魔法だろう? これは必ず、アンデッドを消滅させるものなのかい?」
「ええ。アンデッドの強さによりますが。ゾンビや、これらの低位レブナントならば一撃ですね」
アタリマエのことですよ、みたいな口調で応じるアリサ。
なるほど。
「それは人体に使っても消滅させられる?」
「まさか! アンデッドだけです」
そりゃあそうだ。
人体にも使えるなら、パニッシュはとんでもない殺戮魔法になる。
だが、ならばなぜアンデッドだけを消滅できる?
ここで俺は推論を立てた。
アンデッドは、既に人間ではない。
それはもしかして、その肉体そのものに関しても言えるのではないか?
「アンデッドは、パニッシュに対応して消滅する性質の肉体に置き換わっている……?」
「センセエ、どういうことです?」
「そうだねえ。例えばクルミ、化石って知ってるかい?」
「はいです! たまーに石の中から貝の形の石とか出てくるあれですね!」
「正解。あれはもともと貝だったんだ」
「えええええ!? 石の中に貝がいたですか!?」
「いやいや。大昔に死んだ貝が土に埋もれて、それが石になったんだ。貝に体は段々石に置き換わって、ああして化石になる。同じことがアンデッドでも起きてるんじゃないかな。しかも急速に」
アンデッドを構成する物質は、人間の肉体とは違う、という推測だ。
しかもこれは、パニッシュや聖水などの手段で消滅させることができる。
反面、魔法がかかっていない通常の武器では彼らに傷をつけることができない。
ゾンビやスケルトンなどの最下級アンデッドは、肉体の部分が多く残っているから普通に殴り勝てるだけなのだ。
「魔法と親和性が高い物質で、アンデッドはできている? これは教会の本を読むと解決しそうだ」
「あのお、オースさん? 寄付をしたからと言って教会が蔵書を読ませてくれるとは限りませんことよ……?」
「じゃあ、首を縦に振るまで寄付を積む」
アリサが天を仰いだ。
『わふん』
ブランが、しょうがないよ、こういう男だから、とサモエドみたいな笑顔になる。
アリサはブランを思い切りモフモフして、ため息を付いた。
「分かりました。じゃあ、教会に参りましょう? 何を考えてらっしゃるのか分かりませんけど、アンデッドは神聖魔法か、魔法か魔法の武器。これを使うのがセオリーでしてよ?」
「それはそうだけど……あっ」
俺は黄色いものが落ちているのを発見した。
ぼんやり光っている。
これは……レブナントの破片?
そっと、ポケットから取り出したヘラで掬うと、油紙で包んでポーチにしまった。
「今何かしまいませんでした?」
「いいや、何も? さあ行こう。教会へ行こう」
無理やり押し切り、教会へ向かった。
そして寄付をどっさりと積み、そこの司祭を拝み倒す。
アリサも口添えしてくれたので、司祭立ち会いの元なら……という条件付きで、教会の蔵書の閲覧を許してもらったのだった。
教会の図書室を見て回る。
この世界はゼフィロシアというのだが、その千年前からの歴史を綴った本などがある。
読みたい。
だが、あれを読んでいたら今日はそれで終わってしまう。
チャンスは今日だけ。
効率的に行こう。
探すのはアンデッドの本だ。
「本が並んでいる順番は?」
「名前順ですよ」
司祭に教わり、アンデッド、と探していった。
あったあった。
羊皮紙を束ねたものを、木製のバインダーで挟んだ仰々しい書籍。
「それは……。何か企んでいるんですか?」
「普通そう思いますわよねえ」
司祭とアリサがひそひそ話をしているが、気持ちは分かる。
「だいじょうぶ! センセエは正しいことだけするですよ! 安心です!」
これを全肯定してくれるクルミの心強さ!
彼女は俺の隣にちょこんと座り、本を覗き込む。
「んー? コワイ絵がかいてあるです!」
「アンデッドの絵だねえ。ほら、レブナントのコーナーがある。彼らは自然発生しない。魔法によって死体を改造するものである……だって。つまり一度殺せばレブナントにできるわけだ。それから……レブナントを従えるアンデッドだってさ。これは……魔法の鎧の一種に、身に付けた者を強力なレブナントに変えてしまうものがある。それを身に着けた者を、アンデッドナイトと呼ぶ、か。俺も知らないアンデッドだな」
レブナントの性質について細かく書かれている。
基本的には生前と変わらないとか。
ただし、知力は大きく落ちる。
アリサが、死者を蘇生する時、肉体に残ったメモリーが……とか言ってたな。
そういうあれかな?
とにかく、レブナントは生前に抱いていた強い感情に従って動く。
さっき出会った冒険者レブナントは、陽の光の下に出てこようとしていた。
あれはつまり、逃げようとしていたんじゃないか?
逃げるという感情を抱いて死んだ。
だから、その感情のままに逃げようとしている。
「ふむふむ。それから倒し方はっと。神聖魔法と、聖水と、魔法の武器。そして……銀か!」
そこまでで、レブナントの章は終わりだった。
すると、図書室の窓がペシペシ叩かれる。
司祭がそっちを見て、叫んだ。
「ああっ、窓に、窓に!」
「あ、ブラン!」
教会に動物は入れないので、外に置いてきたブランだ。
退屈だったようで、いつの間にか教会の外を回って図書室まで来たようだ。
窓に鼻先を押し付けて、肉球でぺしぺしとガラスを叩いている。
『わふぉーん』
「わかったよ! もう戻るから! 司祭様、ありがとうございました。参考になりましたよー」
「そ、そうですか。しかし大きな犬ですねえ……。随分おとなしいようですが」
「あっはっは」
「ブランは賢いです!」
「モフモフが素敵なんです!」
俺は笑って誤魔化し、クルミが褒め、アリサはうっとりとしたのだった。
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