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最終章 熟練度カンストの魔剣使い編

熟練度カンストの完勝者

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 竜巻が巻き起こり、炎が吹き上がり、水が叩きつけられる。
 これらに打ちのめされた天使を、飛び込んできた女騎士が切り伏せる。
 リュカたちの戦場は、三人の巫女が空間を支配し、敵に何もさせない。
 人造神の実力は、精霊王に匹敵する。
 だが、それすらも彼女たちは乗り越えられる力を身につけているのだ。

 みんな強くなったなあ、としみじみ思いながら、俺は天使の立て続けの攻撃をいなす。
 七体に分裂して、全方位から連続した斬撃や突きを叩き込んでくるが、そんなものは慣れている。
 自ら攻撃に近づきながら、敵の攻撃タイミングをずらす。
 そして、近いところから順に処理していくだけだ。
 受け流し、受け流し、受け流し、受け流す。
 六体受け流したところで、最後の一人を、一見して同じに見えるような動作で跳ね返した。

『────!!』

 次の攻撃に移るタイミングは、完全に崩された。
 天使は一人に戻り、俺の前で膝を突く。
 さて、もう一方の戦況はどうだろう。

 黒いコートをはためかせた、双銃の使い手は、人造神相手に、あろうことか近接格闘戦を挑んでいる。
 バカなのか。
 バカなんだろうなあ。
 一応、相手も弓を使う天使なので、接近戦は理にかなっていると言えなくもない。
 黒いコート……クラウドの武器が銃でなければ。

「ふっ、やるな! 反応速度、攻撃の威力、そして美しさ……! 全て俺がこれまで戦ってきた相手を上回っている! しかし!」

 天使は握り締めた矢をクラウドに叩きつけるが、これを銃の背で受け止める。
 そしてあろうことか、超高速で動く天使の腹に、キックを決めるクラウドである。
 そのままの勢いで空中に舞い上がりながら、宙返り。
 天使はクラウドに照準を定めて、矢を放つ。
 これを、クラウドが撃ち落とす。
 あそこの戦いはよく理解できんな。
 クラウドこそ、正真正銘ただの人間のはずなのだが、なぜか相手がどんなに強くてもいい勝負ができるのだ。

「おっと、余所見してたわ」

 俺は側面から切りつけてきた剣を受け流した。
 軽口は叩くが、相手を舐めてはいない。
 敵の一撃一撃が、当たれば必殺の威力を持っていることを知っているからだ。
 だが、裏を返せば、当たらなければどうということはない。
 天使の攻撃をいなしながら、懐に飛び込む。
 これを嫌い、敵は高速でバックステップを開始した。
 その動きを、読む。

「“ディメンジョン”」

 時空を切り裂き、バルゴーンの切っ先が消えた。
 それは後退した天使の背後から現れ、その胸を貫く。
 人造神が信じられない、という表情をした。
 俺はそのまま、敵を縦に両断する。
 天使は物も言わず、消滅したかに思えた。
 だが、一旦薄れた奴の姿が、再び濃くなって実体化する。

 おや?
 これはもしかして……。
 疑念を抱き、横目でリュカたちを見る。
 四方からの集中攻撃を食らった天使が、消滅したところだ。
 だが、それもまたすぐに姿を現す。
 天使たちは、いやらしい笑みを浮かべている。
 まるで、人間ごときには、自分たちを倒せないと言っているかのようである。
 だが、俺は見逃さない。
 一体が倒されると、残っている天使の輪郭が一瞬ぶれた。

「リュカ、サマラ、アンブロシア、ヴァレーリア! こいつら、三体で一体だ。同時に倒さないとダメだぞ」

「同時に!?」

「難しいです!」

「洒落になってないよ……!」

「どうすればいいというのだ!」

 四人から悲鳴があがった。
 俺はちらっとクラウドを見る。
 奴は当然のように俺の言葉を聴いていて、フッと笑った。

「ユーマ、俺に合わせろ! お前の攻撃は一瞬で決まる。その分、時間のコントロールが楽だろう」

「クラウドに言われるのはちょっとアレだが、言っていることは正しいな。じゃあ、リュカたちの天使は、俺と」

「俺が同時に支援して倒す」

 そういうことになった。
 天使たちの顔に浮かんでいた笑みが消える。
 一見して無表情だが、それが意味する感情は驚愕、だ。
 一瞬で自分たちが不死身であるシステムを見抜かれたのだから、仕方ない。
 例え俺が導き出した回答が間違いでも、戦い続ければ糸口は掴める。
 今は、この答えに向けて剣を振るうだけだ。

「ええいっ、もう一度……!!」

 リュカが風を呼ぶ。
 真横に叩きつけられる烈風が、槍の天使を釘付けにした。
 そこに、炎を纏ったサマラとヴァレーリアが飛び込み、敵を両側から攻撃する。
 アンブロシアは指先から、高い圧力をかけられた水を、レーザーの如く噴射して天使を切り裂く。

「デッドエンド……ッ」

 クラウドの声が響いた。
 あの野郎、合図も無くいきなり必殺技を放つ気だ。
 俺はバルゴーンを重剣の形にすると、肩に担いだ。

「“アクセル……”」

「シューッ!」

「“ディメンジョン”!!」

 金色の銃が、弓の天使の眉間を貫き、爆散させる。
 同時に、赤い銃はその弾丸を、槍の天使に向けて放っている。
 俺の一撃は、剣の天使を袈裟懸けに切断している。
 さらに切っ先は次元を超え、槍の天使の頭を斜めに断ち割っていた。

『─』

 天使は同時に声を漏らした。
 破壊された形状のまま、彼らは立ち尽くすと、ゆっくり天を仰ぎ……。
 光の粒になって消えていった。
 同時に、ストリボーグとその眷属が戦っていた巨大移民船が、その表面から全ての光を消した。
 巨体が自由落下を開始する。
 バリアは輝きを失い、氷の精霊王の攻撃を受けられず、砕け散っていく。

 戦場に響き渡るのは、全ての船が落下する轟音。
 そしてそれが、終戦を告げる音となった。




 船の中から、覚醒者と呼ばれる、眠らずに船を管理していた人間が引きずり出されてくる。
 無事だったのは一人だけ。
 巨大な船に乗っていた男だ。

「馬鹿な……馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。なんということだ……」

 この星の大気組成が、彼の馴染んでいた空気のものとは違うようで、息苦しそうに喉を鳴らす。
 だが、彼はそんな事など構った様子も無く、うわ言のように呟いていた。
 どうやら、彼の言葉は俺とクラウドにしか理解できないようだ。

「母星時間で二千年……。二千年だぞ……!? それだけの時間を、我らは新たな星を求めて旅してきたのだ。そして星系を滅ぼした技術を研鑽し、洗練し、この星を我らの母星テラとすべく……」

「こっちには先住民がいるんだ。おたくらの入り込む隙間はないんだよ。今でさえ、きつきつのギリギリなんだ」

 俺の声を聞いて、彼はハッとして顔を上げた。

「言葉が通じるだと!? さてはお前、ゴドー星系の監察官か! 奴らの船は、全て脱落したはずだと思っていたのに……!」

「ま、ご自由に俺の正体を想像するといい。お前たち、この星に殖民するつもりだったんだろうが、それで
現地の人間をどうするつもりだった?」

「現地の生物は……利用可能な資源かどうかを見極め、研究して品種改良を行い、敵性種は排除して……」

「なるほど、お前たちは移民者じゃないんだ。侵略者なんだな。ならば、悪い侵略者は退治されてだろ?」

 移民船は次々に、移民が眠る冷凍ポッドごと解体されていく。
 縮退炉は取り出され、全てがリュカの手によって宇宙へ放逐される。

「ああ、やめろ……やめろ! そこには、あの戦いを生き延びた民たちが……!」

「価値観が違いすぎるからな。人間、分かり合えるものじゃないぞ。今後、余計な争いの種になりそうなので、なかったことにさせてもらう」

「あ……悪魔め」

「いかにも。俺は灰王。分かりやすく言うなら、魔王だ」

 俺はそう告げた後、最後に残った覚醒者である、男の首を飛ばした。

「終わったの?」

「うむ。何もかも終わった」

 リュカにそう告げながら、俺は懐から腕輪を取り出す。
 移民船の連中と、同じ故郷を持つ第三総督、アウシュニヤの僧侶に確認を取るためだ。
 今回の戦いは、世界全土で発生した。
 正に、この星の総力戦。
 俺が確認しているだけでも、多大な犠牲者が出ている。
 数万人という規模では収まらないだろう。
 この世界の人口が、二割は減ったはずだ。
 だからこそ、あの移民船の連中を見逃すわけにはいかなかった。
 連中を生かしておけば、必ず今後の火種になる。
 そうなれば、俺はまた駆り出されることになるかも知れないのだ。
 もう、こんな生き急ぐような日々はごめんだ。
 ゆったりと腰を落ち着けて、何もしないで余生を過ごしたいのである。

「どうだ、僧侶?」

『お見事です! 最大の反応であったグラナート帝国のものが消滅しましたね。そして不思議なことに、南方大陸に降り立った一隻も、反応を途絶しています』

「は? そんなところに降りてたのか? そこは蓬莱帝の船に焼き払われて、何もないだろうに」

『だからこそ、そこを拠点に選んだのかもしれませんね。現に、テラフォーミングは進行していたようです。ですが、それは内部から再び破壊されています。それと……ユーマ殿が打ち上げた縮退炉が、半数ほど行方不明になっていまして』

「ええ……。また面倒なことが起こりそうな……」

『まあまあ。ですが、恐らくはこれが片付けばひと段落ですよ。少なくとも、ユーマ殿の寿命が尽きるまで、この世界は平和であり続けることでしょう。何しろ、今後百年は戦争もできぬほどに、世界中で人が死にましたからね』

「おう、そりゃあ結構なことだ。思惑とは別だが、結果的に平和になったわけだな」

『ぶれませんねえ』

「俺は聖人じゃないぜ。結局、俺とうちの仲間たちが幸せなら、それでいいんだ。そもそも、リュカが安心して暮らせるようにするために、何もかもやってきたんだからな」

『なるほど。で、あれば、あなたの目標はようやく果たされたと言えそうだ』

「ああ。長かった……」

 俺はやれやれ、と地べたに腰を下ろした。
 リュカが、不思議そうな顔をしながら、俺の横にぺたんと座る。

「どうしたの?」

「いやな。やっと、リュカと出会った時に、俺がやろうと思ったことを果たせたってことだ」

 俺は笑った。
 どっと疲れが押し寄せてくる。
 多分、この後、最後の一戦がある。
 それで終わりだ。
 俺が生きている間、天下は泰平となる。
 女たちが集まってきた。
 サマラが、アンブロシアが。
 ヴァレーリアは、魔導騎士の生き残りを引き連れて。
 ローザは辺境騎士団、土の眷属たちと共に。
 アリエルと、エルフたち。
 竜胆と、ネフリティスの水夫たち。
 亜由美は安定のぼっちで、ぽてぽてやってくる。
 最後に連れ立って、早苗とデヴォラ。

 世界における最大の戦いが終わった日。
 空は嘘のように晴れ渡り、雲ひとつ見えなかった。
 俺は仲間たちに囲まれながら、北の大地に、ごろりと寝転んだのである。
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