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最終章 熟練度カンストの魔剣使い編

熟練度カンストの寄り道者

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「ちょっとお茶が入るまでの間に、エインガナの島を救ってくる」

 いい加減、のんびりはしていられんと、俺は立ち上がったのである。
 アウシュニヤ王国の兵士や民衆に、剣を軽く教えた後のことだ。
 王妃たるアムリタは、まだガキンチョなので、俺の物言いにぷーっと膨れた。

「茶よりも世界を救わねばならんだろう。茶の時間には戻ってくるし、それが終わったら大反抗をやろうってんだろ? それまでには戻る」

「ええ。ユーマはそう言う人だ。気をつけて」

 スラッジは、俺という人間をよく分かっている。
 快く見送ってくれた。
 さて、ゲイルにまたがって……。

「さあ、行きますわよ!」

「おい」

「なんですの?」

 平気な顔をして俺の後ろに腰掛けているデヴォラ。
 彼女は、腰回りに特製のホルスターを装備しており、ここに幾つものエルド教の武器を装備できるようになっている。
 さっきまで空だったホルスターに、武器と弾薬が満載されているではないか。

「僧侶の方が、最初に量産した武器をくれたのですわ。これで戦えますわよ」

「いやあ……。だってお前、ネフリティスを守るために戦ってた口だろ?」

「そうですわよ? ですけれど、他の国が侵略されるままにしておけば、いつかは敵はわたくしの国にもやって来ますわ。ならばこちらから出向いて退治してやる必要がございますわよね?」

「そうだが」

 まずい。
 こいつには絶対口で勝てない気がする。
 結局俺は押し切られ、ゲイルに乗って空間を渡る。
 このワープは、ヴァレーリアは酔ってしまって大変苦手だったように思うが、デヴォラは全く問題なし、という顔をしていた。
 彼女曰く、船で揺れには慣れているので、多少世界が歪んだところで問題ないとか。
 三半規管が鍛えられているのだろう。
 かくして、俺たちはエインガナの大地へ跳んだ。


 到着。

「いる」

「いますわね。ちょっとゲイルさん、固定していてくださいます?」

 ぐお? とゲイルが疑問を感じる声を上げるが、既にデヴォラは行動に移っている。
 腰に装備したレールガンと、その他、追加の銃身、スコープ、銃床、さらに外付けのやや大振りな、内部から光を発している謎の機関を組み合わせる。

「スナイパーライフルか」

「仰る言葉は存じ上げませんが、そのようなものですわね。標的が大きくて狙わなくても当たるから、楽ですわ!」

 俺の肩越しに、デヴォラは狙撃を行った。
 エインガナの大地上空に浮かぶ、移民船の一角に小さな爆発が起こる。
 これで、敵の挙動にも変化が生じたようだ。
 要は、俺たちの出現に気づいたということだ。

 大地を闊歩していた、金属製の巨人たちが、俺たちを振り仰ぐ。
 奴らは背中から翼のようなものを展開すると、飛び上がり始めた。
 船からの命令が出たな。
 地上に人の姿はないな……と思ったが、よくよく見ると金属の巨人の腹が半透明になっており、そこに人が閉じ込められている。

「デヴォラ、これはあの船を落として終わりというわけにはいかんな」

「そうですわね。異教徒がどうなっても、ネフリティスには影響はないのですけれど……。わたくし、今はひどくこの望まれぬ来訪者に腹が立ってますの。徹底的に救助しますわ!!」

「同感だ」

 奴らが高く舞い上がる前に、俺はゲイルを地上へ向かわせる。
 ごく低空飛行になった時点で、俺は飛竜から飛び降りた。
 着地した足で、飛来してくる巨人たちに向かって走り出す。
 背後からは、デヴォラの援護射撃。
 的確に巨人の翼を打ち抜き、地上に落下させる。

「それじゃあ、まとめて行っとくか」

 手近に落下した一体を、腹部装甲を削ぎつつ、途中で軌道を変えて上半身を切り飛ばす。
 ここから短距離ワープで別の場所に出現し、着地しつつある巨人たちを後ろから攻撃する。
 片っ端から、背開き状態に下ろしていき、振り返った相手はまず腕を切断。
 その後、脇腹に大きな穴を空けて、閉じ込められた人間の脱出を促す。

「カーマル!!」

 助けられた人々が、俺を見て、外から来た人を指す言葉を叫び、諸手を挙げて喜ぶ。

「うんうん。どんどん助けていくから、まずは逃げてなー」

 彼等の背中を押しながら、後ろから来る巨人目掛けてバルゴーンを投擲する。
 回転しながら飛来した剣が、巨人の首を跳ね飛ばし、俺の手に戻ってくる。
 そうしている間にも、デヴォラが片っ端から巨人を地上へと叩き落としてくる。

「相方の頭がいいと楽だな。俺の動きを読んで、移動する場所に敵を落として来やがる」

 ただ歩きながら、巨人たちをなます切りにするだけでいい。
 次々に解放されていく人々。

「カーマル……いや、異なる大地のジュエンよ」

 そんな俺の横に、突如半裸の男が出現した。
 ジュエン……エインガナの戦士を意味する名の男だ。
 全身傷だらけだが、その目に宿る戦意は衰えていない。

「ジュエン、一人でよくやってたな」

「それがジュエンの役割だ。だが、異なるジュエン、ユーマ。感謝を」

 男は俺に笑みを向けながら、巨人たち目掛けて手をかざす。
 ぐっと握りしめると、指し示された巨人の肉体の一部が喪失した。
 相手の部位を別の空間へと切り飛ばしたのだろう。
 おうおう、強いじゃないか。
 俺も負けてはいられない。

「救出も、見たところあと少しか。さっさと助けきって、空のでかいのを落とすぞ!」

「ユーマが来たならばできる。ジュエンが手を貸す」

「頼りにしてるぜ」

 俺は突っ走りながら、手近な巨人を片っ端からなで斬りにする。
 中に閉じ込められた人間を傷つけるわけにはいかん。ってことで、浅く、腹部の装甲を主に狙いながら切り離していくことにする。

『アアアアアアアッ!! やめろ! やめろォォォォ!!』

 絶叫が響く。
 見上げずとも分かる。
 移民船だろう。

『ようやく捉えた原住民共を! サンプルを!! 何をしているのか分かっているのか! 原始人がこの俺のやることを邪魔するなァァァァッ!!』

「随分と傲慢な奴が乗っているな」

 俺は思わず笑ってしまった。
 そして、最後の一人を救出する。

「行くぞ、ユーマ」

「おう、飛ばしてくれるんだな?」

 ジュエンは何も答えない。
 その仕草を持って返答とするばかりである。
 俺の肩に手を当て、もう片方の手を空に向ける。
 次の瞬間だ。
 俺は空中にいた。
 目の前に、青く巨大な移民船。
 こいつらは内部に縮退炉を内蔵しているから、ただ単純に破壊すればいいというものではない。
 俺やワイルドファイア以外の攻撃では、縮退炉まで破壊できる火力はこの世界に存在しない。
 だが、ここにいるのは俺。
 ならば、まずは一撃で縮退炉まで切り開く。

「“ディメンジョン・ビッグソニック”!」

 バルゴーンを限界まで巨大化させながら、全身で超高速のスイング。
 次元を超えて切っ先が、移民船全ての側面に充てがわれる。
 そして、切断。
 青く巨大な球体が輪切りになった。
 やはり、こいつは第一総督の船と同じような作りをしている。
 動力部分は全て下方に集まり、上方は移民たちの眠るカプセルや居住区画だろう。

『ば、馬鹿な……!!』

 切断され、海に向かって落下していく移民船上部。
 そこから、あの傲慢な声が聞こえた。
 構う必要など無い。

「ゲイルーッ!」

 俺の叫びに答えて、飛竜が高速でやってくる。
 しがみつくデヴォラの目の前に着地し、俺はそのまま、輪切りになった船へと接近。
 縮退炉は見たことが無いが、船にとっての最も重要な機関だ。
 見なくても、見れば分かる。
 案の定、厳重に守られた空間を発見。
 そこを一撃で切り飛ばす。
 ちょうど、縮退炉が空中に切り離された形だ。

「ジュエン! こいつを星の外に飛ばせ! できるだけ遠くへ! 世界の外でもいい!」

 遥か下方で、俺の言葉に応じて手をかざす男の姿。
 切り離された縮退炉の姿が消えようとする。
 消える寸前、俺はそいつを真っ二つに切断した。
 そして、消滅。
 どこに飛ばされたかは分からないが、爆発を起こすはずのそいつはいつまで経っても、その爆発音を伝えては来なかった。

「おお、何も考えずにぶった切ったが、結果オーライだな」

「何も考えずって……ユーマさん、そういうのはどうかと思いますわよ……? あれ、明らかにとても危険なものだったのじゃありません?」

「危険も危険。この亜大陸が全て吹き飛ぶな」

「そんなものをっ……!?」

「悪かったよ。次はもうちょっと考える。おーい、ジュエン!!」

 俺は下方に佇む、エインガナの戦士に手を振った。
 戦士の周囲には、助け出された人々が集まってきている。
 皆、笑顔で俺を仰ぎ、手を振り返す。
 唯一、手を振らないジュエンだったが、その顔には笑みが浮かんでいた。

「俺たちは行く! じゃあな!!」

「エインガナのジュエンは、受けた喜びを忘れない。いつか、ユーマのもとに喜びを与えに行こう」

「おう、期待して待ってるぜ」

 かくして、俺たちはアウシュニヤへと帰還するのだ。




 エインガナの大地は南半球であり、アウシュニヤは北半球。
 ということで、戻ってくると思いの外時間が経過しており、空が暗い。
 
「おかえりユーマ殿。終わりましたよ、量産が」

「おう。ノンストップで反撃開始だな」

「お疲れとは思いますが、もうひと頑張り頼みますよユーマ殿。比喩ではなく、世界の命運があなたに掛かっていますからね」

「おう。ま、ここで折り返しだな」

「本当にタフですわねえ、あなた……」

 デヴォラが呆れたように呟くのだった。
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