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第一部終章 熟練度カンストの凱旋者

熟練度カンストの飛行者

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 ゲイルが大変元気であった。
 俺はそれだけでちょっと嬉しくなる。
 奴は俺を見つけるなり、翼をばたばたさせて寄ってきた。

「おおー! 無事だったかゲイル。よしよし、よーしよしよしよし」

 擦り付けてくる頭をナデナデ擦り擦り。

「ユーマ様、それ私もやって欲しいです……!!」

「サマラさん攻めるねえ」

 ぬうっ。
 亜竜はペット感覚だからいいが、サマラは人間だからなあ。
 特別な感情を抱いている人間だからなあ……。
 そうは言われてもハイハイと言えぬところが、俺の童貞力を証明している。

「……」

「ぬぬぬぬぬ」

 すぐ近くまでサマラが迫ってくる。
 いかん、今回はリュカもいないから、彼女を止めることが出来る者は何処にもいないぞ!
 アリエルはニヤニヤしながら見守るばかりだ。
 仕方ない。
 俺は覚悟を決めた。

「よ、よしよし」

 頭を撫でる。
 俺と背丈が変わらないか、少し高いくらいの女性にこれをやるというのは、なかなか不思議な気持ちになる。
 リュカ相手にやるのは、小さな子の頭を撫でるようで気恥ずかしくは無いんだがなあ。

「ああ、満足……」

 サマラが目を細めている。
 ちなみに彼女の髪の毛、炎がうねるような光沢が、常に蠢き続けているのだが……触った感じはちょっと暖かいくらいで、熱くはない。
 恐らく、サマラが魔法を使い始めると熱量を増すのだと思われる。

「ユーマさん、ゲイルで空路を使うんですよね? ルート的にはどういう風になるんですか?」

 あっ、こいつ、今全身全霊でサマラを撫でている俺に質問をするのか。
 アリエルめ、目が笑ってやがる。

「あ、ああ、一応、アルマース帝国の港を一回使おうかと思う。俺たちが目立つと、必ずアブラヒムが顔を出してくるからな。そこで情報を集めておきたい」

「アブラヒム!」

 サマラが反応した。
 おお、そうだった。ザクサーン教の元締めであるアブラヒムは、サマラにとって一族の仇なのである。

「今、とっても絶滅させたい名前を聞きました!!」

 サマラの闘志が燃え上がる。
 甘えん坊モードから、一気に戦闘モードに切り替わった火の巫女である。

「よし、それじゃ出発するとしようか!」

「おー!」

「おー!」

 俺がセンター、右側にアリエル、左側からやや中央寄りにサマラ。
 サマラの位置が微妙なのは、彼女は俺と体重があまり変わらないため、やや中央側に重心を預けるのと……。

「むふふ……! 合法的にユーマ様に抱きつけます」

「サマラは合法非合法関わりなく抱きつくよな……?」

「いえ、そのっ……勢い任せでなければなかなか……」

 そんな事を言いながら、俺の腕にしがみついている。
 ゲイルはその身に風を纏うと、ふわりと舞い上がった。
 翼を広げるだけで、魔力を帯びて風に乗るのだ。
 一度、強く翼を振り下ろすと、高く高く飛翔した。
 あっという間に、火竜の山が遠ざかっていく。

「あっ……ユーマさん、なんだか……聞いたことのない音がします……! あれ、あっちに……二つ……?」

 アリエルが耳を澄ませる。
 彼女はリュカ同様に、風の魔法を使うことが出来る。
 シルフに音を運ばせて、遠い音を聞き分ける、など。

「そっちは……アルマース帝国の方向だな。願ったり叶ったりだ。ゲイル!」

 ゲイルはグオ、と鳴いて応えた。
 俺が示した方向に向かって、加速する。
 正面から受けた風圧は、アリエルが魔法で中和する。

「いました! あれ!」

「あれ……アイが見つけた謎の鳥……?」

「ヘリコプターな。まさかここまで深く入り込んでくるとは……って、あれ、テレビ局のヘリじゃねえか」

「テレビ……?」

 サマラが首を傾げた。
 アリエルはあちらの世界でテレビを見ているため、疑問を感じはしない。

「テレビって言うのはな……」

 俺は説明を開始する。
 その横で、突然その空間に、謎の飛行物体が出現した。

「あっ」

「あれっ」

 アリエルとサマラが驚愕に叫んでいる。

「お、おい」

 俺は、そいつが誰なのかを察して、ちょっと青ざめた。
 テレビ局のヘリコプターは、突然並行して飛行し始めた飛行物体に驚愕している。
 飛行物体の一部が、ピカピカと輝いた。

「あー、バカ、よせ、やめろって……」

 飛行物体から、ビームが放たれる。
 それは狙い過たず、ヘリに直撃した。
 ヘリが一気に赤熱化し、とろけた様に見えた。
 次の瞬間、起こるのは爆発である。

「あー。やっちまったか」

 飛行物体がこちらへやってくる。
 その上には、見覚えのある髭の男が直立していた。

「おや、誰かと思えばあなたか、ユーマ殿」

「アブラヒム、やっちまいやがったなあ……。あれ、放送されてたらどうするつもりだったんだ」

「どうもこうも。あれはこの世界に入り込んだ異物だろう? ならば破壊して構うまい。悪いのは火竜と共に、世界の壁を砕いた何者かなのではないかな?」

「むうっ、それを言われると弱いな」

「死ね、アブラヒム!!」

 いきなりサマラが激昂して、半身を起こす。
 胸元が輝き、衣装を焼き切りながら放たれる炎のビーム。
 今までの流れを全く無視する形で放たれた攻撃で、これはアブラヒムも予想外だったようだ。
 顔をひきつらせると、全身に銀色のバリアを放って攻撃を受け止めた。

「あ……危ないじゃないか……!! 私が死んだらどうするつもりだったのだね!?」

「殺す気よ!!」

「あなたたちは彼女の側では無かったと理解していたのだがね……。ここで始めるつもりか……?」

「まあ待て! サマラ、ここはこらえろ。気持ちは分かるが、こいつはみんなとは関係ない」

「うぎぎぎぎ……!」

「よし……よーしよしよし」

 さわさわ撫で撫で。

「あっ、あっ、ユーマ様、今はそんなところ撫でるの、いけません、反則……」

 よしっ、サマラが骨抜きになった。

「ま、まあ、テレビ局のヘリを落としたのはいい。状況を掴んでるんだろう。教えてくれ」

「ふむ、私があなたにそれを教える筋合いは……と言いたいところだが、彼らとの相性はあなたのほうがいいだろう。あれらは、私たちを倒すために最適化されている」

「そうなん?」

「私たちの作り出す防御の光壁は、あなたの攻撃を防げるが、彼らの攻撃を防ぐことは出来ない。彼らが武器に特化していると言うことは、つまりそういう事なのだよ」

「恨み骨髄だなあ……。お前ら何をやらかしたんだよ」

「私たち以上にやらかしたあなたに言われたくはないな」

 うむ、それについては言葉も無いな。反省もしないが。

「で、困ってないのか? 俺も事情があって、奴らを狩って回らねばならんのだ」

「それは良いニュースだね。アルマース近辺にも、彼女の私兵たる金色の武器の者たちが現れている。だが、幸い私の力は数を頼みにするものだ。拮抗は可能だろう。だから、一番派手な相手を頼みたいのだが」

「派手な……?」

 その時だ。水平線の近くにキラリと輝くものが見える。

「ありゃなんだ」

「船……ですね。全身金色の、趣味が悪い船です」

 アリエルが顔をしかめる。
 あんまりしかめてばかりだと、シワになるぞ。
 しかし、船が金色だということは……。

「そう、あの船全てが彼らの力だということだ。私の力では、あれを破壊することが叶わなくてね。あちらも、私も決め手がない状態だ……! 聖戦士では落とせず、奴らも聖戦士の壁を超えられていない」

「ほいほい。で、その他の敵の位置なんかは……」

「あれを下したら情報提供しようじゃないか。あなたは敵だが、少なくともあれらよりは随分マシな敵だ」

「そりゃどうも。よし、行くぞゲイル」

 ゲイルの首をぺちぺち叩くと、グオ、と鳴いた。
 そのまま、一直線に黄金の船に向かっていく。

「よし、俺がガードを担当する。アリエル、風圧。サマラ、攻撃な」

「分かりました!」

「は、はいっ、がんばりまーっすっ!!」

 超高速の亜竜が、金色の船との距離を詰めていく。
 おうおう、あちらさん、驚いてやがるな。
 金色の矢がビュンビュン飛んでくる。
 こいつもまともに受けたらいけない奴だ。というか、ようやく弓使いが登場か。
 これが最初にいたら、俺はやられていた可能性がある。
 何せ、受け流す事ができない攻撃だからな。
 俺は刃を金色の矢に合わせる。
 ゆるりと左右、上下へとそのベクトルを変化させる。
 ほんの僅かな動きでベクトルを変えれば、矢は方向性を見失ってあちこちへ飛び去っていく。
 冷静に狙いを定められていないな。
 心の準備をする時間を与えたらダメだ。
 こいつが正確な狙いで攻撃してきた場合、俺でも攻撃を逸しきれる自信は無くなる。
 破壊困難な、絶対物質の矢。
 放たれた時点で、そいつは明確な殺意を持った物体となる。
 俺は込められていた気合が抜けた武器なら折ることが出来るが、放たれたこの矢は折ることが出来ない。
 という事で。

「サマラ!」

「はーいっ!! ヴルカン! ヴルカンヴルカンヴルカンッ! サラマンダーサラマンダーッ!!」

 炎の奔流が放たれる。
 これを、アリエルが風に乗せて船へと運ぶのだ。
 その一瞬だけ風圧が強まるから、俺は空いた片腕でサマラの手を握ってホールドする。

「うっふふ! ユーマ様の手……! テンション、上がってきたーっ! サラマンダーッ!!」

 サマラの胸から飛び出す炎が、巨大なトカゲの形になった。
 そいつが風に乗って、随分近づいた金色の船に飛び込んでいく。
 おお、矢が止まった。
 どうやら船の中は阿鼻叫喚のようである。
 冷静に対処していけば、あいつらの戦力なら難しくは無かろうが……。

「冷静にさせるかよ」

 金色の船直上。
 俺はサマラを抱き上げた。
 ゲイルがスピンする。
 アリエルが手を伸ばし、風を巻き起こした。
 ゲイルから落下しつつ、俺は大剣をサーフボード状に変化させた。

「サマラ、しっかり掴まってろ!」

「はい!!」

「おらぁっ、行くぞおっ!!」

 風に乗り、虹色のサーフボードが黄金の船へと突撃していく。
 到着した瞬間、俺は一撃。
 船べりにいた魔術師らしい格好をしたやつを真っ二つにした。
 同時に、サマラの胸から飛び出したヴルカンが、ヒーラーらしき男に襲いかかっている。
 俺は着地と同時に、バルゴーンを変形させようとして……。

「パターンは二つだけか……。じゃあ、片手剣で……!」

 回転しながら、バルゴーンが俺の腰へと収まり、鞘が出現する。
 俺はポンっと真上へサマラを放り上げた。
 サマラは胸元から炎を発しながら、勢いを殺して着地する。

「よしサマラ、ここはタンクがいない。最大火力で薙ぎ払え」

「はいっ!! むううううううう!!」

 サマラが溜め始めた。
 俺は、彼女を狙って襲いかかる連中を、斬って、斬って、なぎ払い、受け流して捌いて撃ち落とし。
 叩いて蹴って、打ち払う。
 バルゴーンにダメージが入らないよう、金色の武器の打点をずらしながら攻撃を受け流し続ける。
 船上にいる生き残りは、十人と少しか。
 双剣なら少しは楽なのだが……!

「サマラ、俺が時間を稼ぐ。たっぷり溜めて……ぶっ放せ」

 手数が足りない分を、正確さで補えばいい。
 一瞬でも相手が隙を見せれば、

「ぐげえっ!?」

 指を切り落とす。
 相手の気が武器に載っていないなら、

「ばかなっ!?」

 武器を叩き折る。
 金色の武器は、どうやら時間をかけると再生してしまうようだ。
 だが、次の再生まで間が持てばいい。
 遂には、攻め寄ってくる奴がいなくなった。
 俺に恐れをなした……と言う訳ではない。
 俺の背後で膨れ上がる、猛烈な熱量。
 灼熱の輝き。
 奴ら、これを見て腰を抜かしたのだ。
 これだから、戦闘経験が足りない奴らは。
 恐るべき攻撃ならば、放たれる前に撃破すれば良いだろう。そんな計算も出来ないのか。
 だからこのような事になる。

「ぶっ放せ、サマラ!!」

「はいっ……!! ”アータル”!!」

 サマラの胸から生まれたのは、純粋なる火の精霊と化したアータル。
 生まれ出た炎の巨人が、拳を高らかに振り上げる。
 次の瞬間、炎に包まれた一撃が、船上を焼き尽くしたのである。
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