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第一部終章 熟練度カンストの凱旋者
熟練度カンストの飛行者
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ゲイルが大変元気であった。
俺はそれだけでちょっと嬉しくなる。
奴は俺を見つけるなり、翼をばたばたさせて寄ってきた。
「おおー! 無事だったかゲイル。よしよし、よーしよしよしよし」
擦り付けてくる頭をナデナデ擦り擦り。
「ユーマ様、それ私もやって欲しいです……!!」
「サマラさん攻めるねえ」
ぬうっ。
亜竜はペット感覚だからいいが、サマラは人間だからなあ。
特別な感情を抱いている人間だからなあ……。
そうは言われてもハイハイと言えぬところが、俺の童貞力を証明している。
「……」
「ぬぬぬぬぬ」
すぐ近くまでサマラが迫ってくる。
いかん、今回はリュカもいないから、彼女を止めることが出来る者は何処にもいないぞ!
アリエルはニヤニヤしながら見守るばかりだ。
仕方ない。
俺は覚悟を決めた。
「よ、よしよし」
頭を撫でる。
俺と背丈が変わらないか、少し高いくらいの女性にこれをやるというのは、なかなか不思議な気持ちになる。
リュカ相手にやるのは、小さな子の頭を撫でるようで気恥ずかしくは無いんだがなあ。
「ああ、満足……」
サマラが目を細めている。
ちなみに彼女の髪の毛、炎がうねるような光沢が、常に蠢き続けているのだが……触った感じはちょっと暖かいくらいで、熱くはない。
恐らく、サマラが魔法を使い始めると熱量を増すのだと思われる。
「ユーマさん、ゲイルで空路を使うんですよね? ルート的にはどういう風になるんですか?」
あっ、こいつ、今全身全霊でサマラを撫でている俺に質問をするのか。
アリエルめ、目が笑ってやがる。
「あ、ああ、一応、アルマース帝国の港を一回使おうかと思う。俺たちが目立つと、必ずアブラヒムが顔を出してくるからな。そこで情報を集めておきたい」
「アブラヒム!」
サマラが反応した。
おお、そうだった。ザクサーン教の元締めであるアブラヒムは、サマラにとって一族の仇なのである。
「今、とっても絶滅させたい名前を聞きました!!」
サマラの闘志が燃え上がる。
甘えん坊モードから、一気に戦闘モードに切り替わった火の巫女である。
「よし、それじゃ出発するとしようか!」
「おー!」
「おー!」
俺がセンター、右側にアリエル、左側からやや中央寄りにサマラ。
サマラの位置が微妙なのは、彼女は俺と体重があまり変わらないため、やや中央側に重心を預けるのと……。
「むふふ……! 合法的にユーマ様に抱きつけます」
「サマラは合法非合法関わりなく抱きつくよな……?」
「いえ、そのっ……勢い任せでなければなかなか……」
そんな事を言いながら、俺の腕にしがみついている。
ゲイルはその身に風を纏うと、ふわりと舞い上がった。
翼を広げるだけで、魔力を帯びて風に乗るのだ。
一度、強く翼を振り下ろすと、高く高く飛翔した。
あっという間に、火竜の山が遠ざかっていく。
「あっ……ユーマさん、なんだか……聞いたことのない音がします……! あれ、あっちに……二つ……?」
アリエルが耳を澄ませる。
彼女はリュカ同様に、風の魔法を使うことが出来る。
シルフに音を運ばせて、遠い音を聞き分ける、など。
「そっちは……アルマース帝国の方向だな。願ったり叶ったりだ。ゲイル!」
ゲイルはグオ、と鳴いて応えた。
俺が示した方向に向かって、加速する。
正面から受けた風圧は、アリエルが魔法で中和する。
「いました! あれ!」
「あれ……アイが見つけた謎の鳥……?」
「ヘリコプターな。まさかここまで深く入り込んでくるとは……って、あれ、テレビ局のヘリじゃねえか」
「テレビ……?」
サマラが首を傾げた。
アリエルはあちらの世界でテレビを見ているため、疑問を感じはしない。
「テレビって言うのはな……」
俺は説明を開始する。
その横で、突然その空間に、謎の飛行物体が出現した。
「あっ」
「あれっ」
アリエルとサマラが驚愕に叫んでいる。
「お、おい」
俺は、そいつが誰なのかを察して、ちょっと青ざめた。
テレビ局のヘリコプターは、突然並行して飛行し始めた飛行物体に驚愕している。
飛行物体の一部が、ピカピカと輝いた。
「あー、バカ、よせ、やめろって……」
飛行物体から、ビームが放たれる。
それは狙い過たず、ヘリに直撃した。
ヘリが一気に赤熱化し、とろけた様に見えた。
次の瞬間、起こるのは爆発である。
「あー。やっちまったか」
飛行物体がこちらへやってくる。
その上には、見覚えのある髭の男が直立していた。
「おや、誰かと思えばあなたか、ユーマ殿」
「アブラヒム、やっちまいやがったなあ……。あれ、放送されてたらどうするつもりだったんだ」
「どうもこうも。あれはこの世界に入り込んだ異物だろう? ならば破壊して構うまい。悪いのは火竜と共に、世界の壁を砕いた何者かなのではないかな?」
「むうっ、それを言われると弱いな」
「死ね、アブラヒム!!」
いきなりサマラが激昂して、半身を起こす。
胸元が輝き、衣装を焼き切りながら放たれる炎のビーム。
今までの流れを全く無視する形で放たれた攻撃で、これはアブラヒムも予想外だったようだ。
顔をひきつらせると、全身に銀色のバリアを放って攻撃を受け止めた。
「あ……危ないじゃないか……!! 私が死んだらどうするつもりだったのだね!?」
「殺す気よ!!」
「あなたたちは彼女の側では無かったと理解していたのだがね……。ここで始めるつもりか……?」
「まあ待て! サマラ、ここはこらえろ。気持ちは分かるが、こいつはみんなとは関係ない」
「うぎぎぎぎ……!」
「よし……よーしよしよし」
さわさわ撫で撫で。
「あっ、あっ、ユーマ様、今はそんなところ撫でるの、いけません、反則……」
よしっ、サマラが骨抜きになった。
「ま、まあ、テレビ局のヘリを落としたのはいい。状況を掴んでるんだろう。教えてくれ」
「ふむ、私があなたにそれを教える筋合いは……と言いたいところだが、彼らとの相性はあなたのほうがいいだろう。あれらは、私たちを倒すために最適化されている」
「そうなん?」
「私たちの作り出す防御の光壁は、あなたの攻撃を防げるが、彼らの攻撃を防ぐことは出来ない。彼らが武器に特化していると言うことは、つまりそういう事なのだよ」
「恨み骨髄だなあ……。お前ら何をやらかしたんだよ」
「私たち以上にやらかしたあなたに言われたくはないな」
うむ、それについては言葉も無いな。反省もしないが。
「で、困ってないのか? 俺も事情があって、奴らを狩って回らねばならんのだ」
「それは良いニュースだね。アルマース近辺にも、彼女の私兵たる金色の武器の者たちが現れている。だが、幸い私の力は数を頼みにするものだ。拮抗は可能だろう。だから、一番派手な相手を頼みたいのだが」
「派手な……?」
その時だ。水平線の近くにキラリと輝くものが見える。
「ありゃなんだ」
「船……ですね。全身金色の、趣味が悪い船です」
アリエルが顔をしかめる。
あんまりしかめてばかりだと、シワになるぞ。
しかし、船が金色だということは……。
「そう、あの船全てが彼らの力だということだ。私の力では、あれを破壊することが叶わなくてね。あちらも、私も決め手がない状態だ……! 聖戦士では落とせず、奴らも聖戦士の壁を超えられていない」
「ほいほい。で、その他の敵の位置なんかは……」
「あれを下したら情報提供しようじゃないか。あなたは敵だが、少なくともあれらよりは随分マシな敵だ」
「そりゃどうも。よし、行くぞゲイル」
ゲイルの首をぺちぺち叩くと、グオ、と鳴いた。
そのまま、一直線に黄金の船に向かっていく。
「よし、俺がガードを担当する。アリエル、風圧。サマラ、攻撃な」
「分かりました!」
「は、はいっ、がんばりまーっすっ!!」
超高速の亜竜が、金色の船との距離を詰めていく。
おうおう、あちらさん、驚いてやがるな。
金色の矢がビュンビュン飛んでくる。
こいつもまともに受けたらいけない奴だ。というか、ようやく弓使いが登場か。
これが最初にいたら、俺はやられていた可能性がある。
何せ、受け流す事ができない攻撃だからな。
俺は刃を金色の矢に合わせる。
ゆるりと左右、上下へとそのベクトルを変化させる。
ほんの僅かな動きでベクトルを変えれば、矢は方向性を見失ってあちこちへ飛び去っていく。
冷静に狙いを定められていないな。
心の準備をする時間を与えたらダメだ。
こいつが正確な狙いで攻撃してきた場合、俺でも攻撃を逸しきれる自信は無くなる。
破壊困難な、絶対物質の矢。
放たれた時点で、そいつは明確な殺意を持った物体となる。
俺は込められていた気合が抜けた武器なら折ることが出来るが、放たれたこの矢は折ることが出来ない。
という事で。
「サマラ!」
「はーいっ!! ヴルカン! ヴルカンヴルカンヴルカンッ! サラマンダーサラマンダーッ!!」
炎の奔流が放たれる。
これを、アリエルが風に乗せて船へと運ぶのだ。
その一瞬だけ風圧が強まるから、俺は空いた片腕でサマラの手を握ってホールドする。
「うっふふ! ユーマ様の手……! テンション、上がってきたーっ! サラマンダーッ!!」
サマラの胸から飛び出す炎が、巨大なトカゲの形になった。
そいつが風に乗って、随分近づいた金色の船に飛び込んでいく。
おお、矢が止まった。
どうやら船の中は阿鼻叫喚のようである。
冷静に対処していけば、あいつらの戦力なら難しくは無かろうが……。
「冷静にさせるかよ」
金色の船直上。
俺はサマラを抱き上げた。
ゲイルがスピンする。
アリエルが手を伸ばし、風を巻き起こした。
ゲイルから落下しつつ、俺は大剣をサーフボード状に変化させた。
「サマラ、しっかり掴まってろ!」
「はい!!」
「おらぁっ、行くぞおっ!!」
風に乗り、虹色のサーフボードが黄金の船へと突撃していく。
到着した瞬間、俺は一撃。
船べりにいた魔術師らしい格好をしたやつを真っ二つにした。
同時に、サマラの胸から飛び出したヴルカンが、ヒーラーらしき男に襲いかかっている。
俺は着地と同時に、バルゴーンを変形させようとして……。
「パターンは二つだけか……。じゃあ、片手剣で……!」
回転しながら、バルゴーンが俺の腰へと収まり、鞘が出現する。
俺はポンっと真上へサマラを放り上げた。
サマラは胸元から炎を発しながら、勢いを殺して着地する。
「よしサマラ、ここはタンクがいない。最大火力で薙ぎ払え」
「はいっ!! むううううううう!!」
サマラが溜め始めた。
俺は、彼女を狙って襲いかかる連中を、斬って、斬って、なぎ払い、受け流して捌いて撃ち落とし。
叩いて蹴って、打ち払う。
バルゴーンにダメージが入らないよう、金色の武器の打点をずらしながら攻撃を受け流し続ける。
船上にいる生き残りは、十人と少しか。
双剣なら少しは楽なのだが……!
「サマラ、俺が時間を稼ぐ。たっぷり溜めて……ぶっ放せ」
手数が足りない分を、正確さで補えばいい。
一瞬でも相手が隙を見せれば、
「ぐげえっ!?」
指を切り落とす。
相手の気が武器に載っていないなら、
「ばかなっ!?」
武器を叩き折る。
金色の武器は、どうやら時間をかけると再生してしまうようだ。
だが、次の再生まで間が持てばいい。
遂には、攻め寄ってくる奴がいなくなった。
俺に恐れをなした……と言う訳ではない。
俺の背後で膨れ上がる、猛烈な熱量。
灼熱の輝き。
奴ら、これを見て腰を抜かしたのだ。
これだから、戦闘経験が足りない奴らは。
恐るべき攻撃ならば、放たれる前に撃破すれば良いだろう。そんな計算も出来ないのか。
だからこのような事になる。
「ぶっ放せ、サマラ!!」
「はいっ……!! ”アータル”!!」
サマラの胸から生まれたのは、純粋なる火の精霊と化したアータル。
生まれ出た炎の巨人が、拳を高らかに振り上げる。
次の瞬間、炎に包まれた一撃が、船上を焼き尽くしたのである。
俺はそれだけでちょっと嬉しくなる。
奴は俺を見つけるなり、翼をばたばたさせて寄ってきた。
「おおー! 無事だったかゲイル。よしよし、よーしよしよしよし」
擦り付けてくる頭をナデナデ擦り擦り。
「ユーマ様、それ私もやって欲しいです……!!」
「サマラさん攻めるねえ」
ぬうっ。
亜竜はペット感覚だからいいが、サマラは人間だからなあ。
特別な感情を抱いている人間だからなあ……。
そうは言われてもハイハイと言えぬところが、俺の童貞力を証明している。
「……」
「ぬぬぬぬぬ」
すぐ近くまでサマラが迫ってくる。
いかん、今回はリュカもいないから、彼女を止めることが出来る者は何処にもいないぞ!
アリエルはニヤニヤしながら見守るばかりだ。
仕方ない。
俺は覚悟を決めた。
「よ、よしよし」
頭を撫でる。
俺と背丈が変わらないか、少し高いくらいの女性にこれをやるというのは、なかなか不思議な気持ちになる。
リュカ相手にやるのは、小さな子の頭を撫でるようで気恥ずかしくは無いんだがなあ。
「ああ、満足……」
サマラが目を細めている。
ちなみに彼女の髪の毛、炎がうねるような光沢が、常に蠢き続けているのだが……触った感じはちょっと暖かいくらいで、熱くはない。
恐らく、サマラが魔法を使い始めると熱量を増すのだと思われる。
「ユーマさん、ゲイルで空路を使うんですよね? ルート的にはどういう風になるんですか?」
あっ、こいつ、今全身全霊でサマラを撫でている俺に質問をするのか。
アリエルめ、目が笑ってやがる。
「あ、ああ、一応、アルマース帝国の港を一回使おうかと思う。俺たちが目立つと、必ずアブラヒムが顔を出してくるからな。そこで情報を集めておきたい」
「アブラヒム!」
サマラが反応した。
おお、そうだった。ザクサーン教の元締めであるアブラヒムは、サマラにとって一族の仇なのである。
「今、とっても絶滅させたい名前を聞きました!!」
サマラの闘志が燃え上がる。
甘えん坊モードから、一気に戦闘モードに切り替わった火の巫女である。
「よし、それじゃ出発するとしようか!」
「おー!」
「おー!」
俺がセンター、右側にアリエル、左側からやや中央寄りにサマラ。
サマラの位置が微妙なのは、彼女は俺と体重があまり変わらないため、やや中央側に重心を預けるのと……。
「むふふ……! 合法的にユーマ様に抱きつけます」
「サマラは合法非合法関わりなく抱きつくよな……?」
「いえ、そのっ……勢い任せでなければなかなか……」
そんな事を言いながら、俺の腕にしがみついている。
ゲイルはその身に風を纏うと、ふわりと舞い上がった。
翼を広げるだけで、魔力を帯びて風に乗るのだ。
一度、強く翼を振り下ろすと、高く高く飛翔した。
あっという間に、火竜の山が遠ざかっていく。
「あっ……ユーマさん、なんだか……聞いたことのない音がします……! あれ、あっちに……二つ……?」
アリエルが耳を澄ませる。
彼女はリュカ同様に、風の魔法を使うことが出来る。
シルフに音を運ばせて、遠い音を聞き分ける、など。
「そっちは……アルマース帝国の方向だな。願ったり叶ったりだ。ゲイル!」
ゲイルはグオ、と鳴いて応えた。
俺が示した方向に向かって、加速する。
正面から受けた風圧は、アリエルが魔法で中和する。
「いました! あれ!」
「あれ……アイが見つけた謎の鳥……?」
「ヘリコプターな。まさかここまで深く入り込んでくるとは……って、あれ、テレビ局のヘリじゃねえか」
「テレビ……?」
サマラが首を傾げた。
アリエルはあちらの世界でテレビを見ているため、疑問を感じはしない。
「テレビって言うのはな……」
俺は説明を開始する。
その横で、突然その空間に、謎の飛行物体が出現した。
「あっ」
「あれっ」
アリエルとサマラが驚愕に叫んでいる。
「お、おい」
俺は、そいつが誰なのかを察して、ちょっと青ざめた。
テレビ局のヘリコプターは、突然並行して飛行し始めた飛行物体に驚愕している。
飛行物体の一部が、ピカピカと輝いた。
「あー、バカ、よせ、やめろって……」
飛行物体から、ビームが放たれる。
それは狙い過たず、ヘリに直撃した。
ヘリが一気に赤熱化し、とろけた様に見えた。
次の瞬間、起こるのは爆発である。
「あー。やっちまったか」
飛行物体がこちらへやってくる。
その上には、見覚えのある髭の男が直立していた。
「おや、誰かと思えばあなたか、ユーマ殿」
「アブラヒム、やっちまいやがったなあ……。あれ、放送されてたらどうするつもりだったんだ」
「どうもこうも。あれはこの世界に入り込んだ異物だろう? ならば破壊して構うまい。悪いのは火竜と共に、世界の壁を砕いた何者かなのではないかな?」
「むうっ、それを言われると弱いな」
「死ね、アブラヒム!!」
いきなりサマラが激昂して、半身を起こす。
胸元が輝き、衣装を焼き切りながら放たれる炎のビーム。
今までの流れを全く無視する形で放たれた攻撃で、これはアブラヒムも予想外だったようだ。
顔をひきつらせると、全身に銀色のバリアを放って攻撃を受け止めた。
「あ……危ないじゃないか……!! 私が死んだらどうするつもりだったのだね!?」
「殺す気よ!!」
「あなたたちは彼女の側では無かったと理解していたのだがね……。ここで始めるつもりか……?」
「まあ待て! サマラ、ここはこらえろ。気持ちは分かるが、こいつはみんなとは関係ない」
「うぎぎぎぎ……!」
「よし……よーしよしよし」
さわさわ撫で撫で。
「あっ、あっ、ユーマ様、今はそんなところ撫でるの、いけません、反則……」
よしっ、サマラが骨抜きになった。
「ま、まあ、テレビ局のヘリを落としたのはいい。状況を掴んでるんだろう。教えてくれ」
「ふむ、私があなたにそれを教える筋合いは……と言いたいところだが、彼らとの相性はあなたのほうがいいだろう。あれらは、私たちを倒すために最適化されている」
「そうなん?」
「私たちの作り出す防御の光壁は、あなたの攻撃を防げるが、彼らの攻撃を防ぐことは出来ない。彼らが武器に特化していると言うことは、つまりそういう事なのだよ」
「恨み骨髄だなあ……。お前ら何をやらかしたんだよ」
「私たち以上にやらかしたあなたに言われたくはないな」
うむ、それについては言葉も無いな。反省もしないが。
「で、困ってないのか? 俺も事情があって、奴らを狩って回らねばならんのだ」
「それは良いニュースだね。アルマース近辺にも、彼女の私兵たる金色の武器の者たちが現れている。だが、幸い私の力は数を頼みにするものだ。拮抗は可能だろう。だから、一番派手な相手を頼みたいのだが」
「派手な……?」
その時だ。水平線の近くにキラリと輝くものが見える。
「ありゃなんだ」
「船……ですね。全身金色の、趣味が悪い船です」
アリエルが顔をしかめる。
あんまりしかめてばかりだと、シワになるぞ。
しかし、船が金色だということは……。
「そう、あの船全てが彼らの力だということだ。私の力では、あれを破壊することが叶わなくてね。あちらも、私も決め手がない状態だ……! 聖戦士では落とせず、奴らも聖戦士の壁を超えられていない」
「ほいほい。で、その他の敵の位置なんかは……」
「あれを下したら情報提供しようじゃないか。あなたは敵だが、少なくともあれらよりは随分マシな敵だ」
「そりゃどうも。よし、行くぞゲイル」
ゲイルの首をぺちぺち叩くと、グオ、と鳴いた。
そのまま、一直線に黄金の船に向かっていく。
「よし、俺がガードを担当する。アリエル、風圧。サマラ、攻撃な」
「分かりました!」
「は、はいっ、がんばりまーっすっ!!」
超高速の亜竜が、金色の船との距離を詰めていく。
おうおう、あちらさん、驚いてやがるな。
金色の矢がビュンビュン飛んでくる。
こいつもまともに受けたらいけない奴だ。というか、ようやく弓使いが登場か。
これが最初にいたら、俺はやられていた可能性がある。
何せ、受け流す事ができない攻撃だからな。
俺は刃を金色の矢に合わせる。
ゆるりと左右、上下へとそのベクトルを変化させる。
ほんの僅かな動きでベクトルを変えれば、矢は方向性を見失ってあちこちへ飛び去っていく。
冷静に狙いを定められていないな。
心の準備をする時間を与えたらダメだ。
こいつが正確な狙いで攻撃してきた場合、俺でも攻撃を逸しきれる自信は無くなる。
破壊困難な、絶対物質の矢。
放たれた時点で、そいつは明確な殺意を持った物体となる。
俺は込められていた気合が抜けた武器なら折ることが出来るが、放たれたこの矢は折ることが出来ない。
という事で。
「サマラ!」
「はーいっ!! ヴルカン! ヴルカンヴルカンヴルカンッ! サラマンダーサラマンダーッ!!」
炎の奔流が放たれる。
これを、アリエルが風に乗せて船へと運ぶのだ。
その一瞬だけ風圧が強まるから、俺は空いた片腕でサマラの手を握ってホールドする。
「うっふふ! ユーマ様の手……! テンション、上がってきたーっ! サラマンダーッ!!」
サマラの胸から飛び出す炎が、巨大なトカゲの形になった。
そいつが風に乗って、随分近づいた金色の船に飛び込んでいく。
おお、矢が止まった。
どうやら船の中は阿鼻叫喚のようである。
冷静に対処していけば、あいつらの戦力なら難しくは無かろうが……。
「冷静にさせるかよ」
金色の船直上。
俺はサマラを抱き上げた。
ゲイルがスピンする。
アリエルが手を伸ばし、風を巻き起こした。
ゲイルから落下しつつ、俺は大剣をサーフボード状に変化させた。
「サマラ、しっかり掴まってろ!」
「はい!!」
「おらぁっ、行くぞおっ!!」
風に乗り、虹色のサーフボードが黄金の船へと突撃していく。
到着した瞬間、俺は一撃。
船べりにいた魔術師らしい格好をしたやつを真っ二つにした。
同時に、サマラの胸から飛び出したヴルカンが、ヒーラーらしき男に襲いかかっている。
俺は着地と同時に、バルゴーンを変形させようとして……。
「パターンは二つだけか……。じゃあ、片手剣で……!」
回転しながら、バルゴーンが俺の腰へと収まり、鞘が出現する。
俺はポンっと真上へサマラを放り上げた。
サマラは胸元から炎を発しながら、勢いを殺して着地する。
「よしサマラ、ここはタンクがいない。最大火力で薙ぎ払え」
「はいっ!! むううううううう!!」
サマラが溜め始めた。
俺は、彼女を狙って襲いかかる連中を、斬って、斬って、なぎ払い、受け流して捌いて撃ち落とし。
叩いて蹴って、打ち払う。
バルゴーンにダメージが入らないよう、金色の武器の打点をずらしながら攻撃を受け流し続ける。
船上にいる生き残りは、十人と少しか。
双剣なら少しは楽なのだが……!
「サマラ、俺が時間を稼ぐ。たっぷり溜めて……ぶっ放せ」
手数が足りない分を、正確さで補えばいい。
一瞬でも相手が隙を見せれば、
「ぐげえっ!?」
指を切り落とす。
相手の気が武器に載っていないなら、
「ばかなっ!?」
武器を叩き折る。
金色の武器は、どうやら時間をかけると再生してしまうようだ。
だが、次の再生まで間が持てばいい。
遂には、攻め寄ってくる奴がいなくなった。
俺に恐れをなした……と言う訳ではない。
俺の背後で膨れ上がる、猛烈な熱量。
灼熱の輝き。
奴ら、これを見て腰を抜かしたのだ。
これだから、戦闘経験が足りない奴らは。
恐るべき攻撃ならば、放たれる前に撃破すれば良いだろう。そんな計算も出来ないのか。
だからこのような事になる。
「ぶっ放せ、サマラ!!」
「はいっ……!! ”アータル”!!」
サマラの胸から生まれたのは、純粋なる火の精霊と化したアータル。
生まれ出た炎の巨人が、拳を高らかに振り上げる。
次の瞬間、炎に包まれた一撃が、船上を焼き尽くしたのである。
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彩音、お前もこっち来てたのか?
って敵全部ワンパンかよ!
真面目にコツコツとなんかやってらんねぇ!頼む!寄生させてくれ!!
果たして彩音は俺の救いの女神になってくれるのか?
理想と現実の違いを痛感し、余りにも弱すぎる現状を打破すべく、俺は強すぎる幼馴染に寄生する。
これは何事にも無気力だった引き篭もりの青年が、異世界で力を手に入れ、やがて世界を救う物語。
幼馴染に折檻されたり、美少女エルフやウェディングドレス姿の頭のおかしいエルフといちゃついたりいちゃつかなかったりするお話です。主人公は強い幼馴染にガンガン寄生してバンバン強くなっていき、最終的には幼馴染すらも……。
たかしの成長(寄生)、からの幼馴染への下克上を楽しんで頂けたら幸いです。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
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