上 下
112 / 255
第一部終章 熟練度カンストの凱旋者

熟練度カンストの帰還者

しおりを挟む
『まさか、世界の壁を越えて呼ばれるとは思わなかったぞ』

 巨大な火竜は、空にその巨体を浮かべて笑った。
 現実世界の夜空は、この巨竜が砕いてしまっていた。欠けた空間の向こうには、すっかり日が暮れたこの時間には不釣合いな、青空が広がっている。
 あちら側とこちら側での時差であろう。
 道行く人々は、誰もが足を止め、ぽかんと口を開いて空を見上げている。
 誰もこれを無視する事は出来ない。
 視界に入れないなどと言う事が出来ようはずもない。
 暗闇の中、青空の輝きを背に受けて、赤く照り返す鱗の巨大な怪物が浮かんでいるのだ。
 それは、口を開いてはいなくても、この場にいる全ての人間の耳に届く言葉を発している。

『約定によって、そなたの願いを叶えにやって来た。灰色の剣士ユーマよ、我に願うことは何か』

 全長百メートル余り。
 翼長に至っては、二百メートルに達するだろう。
 これだけでかいものが突然出現したら、きっと自衛隊や米軍のレーダーに引っ掛かっているのだろうなあ、と俺は思う。

「そっちの世界に戻りたい。連れて行ってくれ」

『なんだ。随分と慎ましやかな願いなのだな』

 火竜は拍子抜けしたようである。

『我の力を使い、この地を焦土に変えてそなたが君臨する事も可能なのだぞ。ただ一度の願いなのだ。有効に使うが良かろう』

「いや、そういうのいいから。戻るだけでいいから」

『そうか』

 ワイルドファイアはフム、と鼻を鳴らした。
 鼻息が炎になり、空気を焼き焦がす。
 一瞬、まるで周囲が昼間になったかのように照らされた。
 これを見て、人々はへなへなと崩れ落ちる。
 本当に恐ろしいものを目の前にした時、弱いものは逃げると言う選択肢すら思い浮かばなくなるのだ。
 この場にいる、俺以外の全ての人間は死を覚悟したに違いない。

「おい、アリエルまでへたり込んでどうするんだ」

「い、いやあ、だって! あれですよ!? あの火竜がこんな目の前にいるんですよ!? 腰を抜かさない方がおかしいですから!」

「仕方ないなあ……。よっこら」

「ひゃっ」

 アリエルをおんぶした。
 ふと横を見ると、もう一人だけ、腰を抜かしてない奴がいた。
 目をキラキラさせているアルフォンスである。
 あれはきっと、「うわー、本当のドラゴンだー」なんて思っているに違いない。

『では乗るが良い』

 ワイルドファイアの尻尾が目の前まで垂れてきた。
 俺はこいつを駆け上っていく。
 鱗や背びれの段々があるから、案外登りやすいぞ。
 背中の上に到達した辺りで、火竜は翼を大きく開いた。

『行くぞ。掴まっているがよい』

 これは、物凄い風が下に向かって吹くのではないかと俺は思った。
 だが、こいつはそれなりに気を使ってくれたらしい。
 何やら魔法の力らしきもので、ふわりと火竜の巨体が上空へと舞い上がる。
 そこに来て初めて、ワイルドファイアは一度、大きく羽ばたいた。
 強烈な風が巻き起こる。
 台風とまではいかないが、春一番程度の強さではあったのだろう。
 下方に伺える繁華街で、看板が倒れ、チラシやらポスターが剥がれて舞う。

『ふむ? この世界の鳥が近づいてくるようだな』

 火竜はどこかに気を取られたようだ。
 見つめる先、何やら編隊を組んで飛んでくる。
 おお、こいつは戦闘機じゃないのか。
 数キロ先なのだろうが、俺にも良く見える。これはワイルドファイアの魔力の影響を受けているのだろうか。

『何か小さいのを出してきたな。どーれ』

 それってミサイルじゃないか?
 戦闘機が放ったミサイルが、ワイルドファイア目掛けて飛来してくる。
 火竜は結構な熱量を常に放っている存在である。
 今は、俺とアリエルが乗っかっている背中を冷やしてくれているが、それ以外は戦闘機のアフターバーナーもかくやという熱を放出している。
 そこに、ミサイルが飛来し、

『ふむ』

 爆発する前に、ワイルドファイアの前で粉々に砕け散った。
 これはあれだ、この火竜が次元を斬り裂くようなノリで、ミサイルをぶん殴ったのだろう。
 信管が反応するよりも遥かに速いから、爆発するまえに砕け散る。
 さらに飛来してきたミサイルを、こいつ、真横にスッと動いて避けた。
 旋回半径がどうこうという次元ではない。
 一切のGや空気抵抗を無視して、縦横無尽に動けるようなのだ。
 こいつ、空を飛ぶとさらに化け物になるのな。

『小うるさい鳥めを叩き落してから行くとするか』

 奴が口蓋を展開した。
 ビームを吐くつもりだろう。

「ストップストップ。被害が半端じゃないから、スルーしてくれ」

『なんと……。そなたは存外に穏健主義なのだな』

 火竜の口がピッタリと閉じた。
 翼が空気を打つ。
 巨体が一気に、遥かな上空へ舞い上がった。
 いや、そこから上は、現実世界の空ではない。
 砕けた空間の壁を飛び越えて、あの世界、リュカがいる世界へと飛び込んだのだ。
 何だか、物凄い空気抵抗があったような気がするが……。
 戦闘機も近くまでやってきて、割れた空の近くをうろうろしてから飛び去っていった。

「あれは自然に塞がるものなのか」

『我が砕いたのだ。そう容易く塞がるはずが無かろう。しかし案ずるな。百年も経てば安定しよう』

 塞がるんじゃなくて安定するのか。
 今は考えない事にしておこう。
 ワイルドファイアを現実世界で暴れさせず、こちらに連れて来られただけでよしとせねばな。
 よく、ファンタジー世界の生物が現実に来て、現代兵器で仕留める話なんかがあるが、このワイルドファイアクラスになると、まだ現代兵器では全く歯が立たんな。
 それこそSF世界のレベルに足を突っ込まないと……。

「ワイルドファイア。世界は今どうなってる? 俺がいなくなってから二日くらい経ってると思うが」

『レイアめが復活したぞ。彼奴は己の軍勢を作り出し、世界へ攻め寄せているな。我が巫女が彼奴の下僕になっているのが大層面白くない』

「そ、その、あなたは手出ししないんですか?」

 恐る恐る、と言った感じでアリエルが尋ねる。
 火竜は鼻息を吹いた。

『我ら四竜と精霊王が戦えば、天地は無事では澄むまい。人も獣も、鳥も魚も、虫も草木も、七度滅ぶほどの災厄となるぞ』

「あっ、力が強大すぎて世界がやばくなるのか」

 了解した。
 この火竜とて、世界を滅ぼしたいと言うわけでは無いのだ。
 そう言えば、恐れられている割に、ワイルドファイアは火竜の山でも誰かをみだりに殺したりはしていなかったな。

『そなたの仕事であろう。どれ、特別に望む戦場へ運んでやろう。希望を言え』

「おお、気前いいな。じゃあ……」

 俺の脳裏に浮かぶのは、バルゴーンを折った勇者とやらの顔。

「魔剣デュランダルの使い手の元に連れて行ってくれ」

『心得た』

 火竜の翼が空を打つ。
 途端に、巨体は凄まじい加速を得た。
 ここは遥かな天空。
 俺たちが旅した世界は、この世界のごく一部でしか無いと知れる。
 一瞬見えた、約束の地の彼方に聳える巨大な山々。大地を分かつ、海と見紛うほどの大河。見渡す限りの密林。絶海の孤島。
 いつか、旅してみたいものだ。
 そう思いながら、俺は火竜の加速に身を委ねた。




「なんだ……? 空が割れた……?」

 勇者リョウガは、空を見上げていた。
 今は、アルマース帝国に巣食う魔王の軍勢の中でも、火に属するモンスターたちとの戦いの最中である。
 絶対魔剣デュランダルが唸りをあげ、巨大な亜竜の首を斬り飛ばす。
 リョウガが経験したゲームに登場した竜に比べれば、幾分か強力な相手であった。
 何より、個体によって能力が大きく異なる。

「なんだ、ありゃ?」
「何かのイベントじゃないのか?」

 集まってくるのは、リョウガの仲間たちである。
 ギルド”デスブリンガー”を構成するメンバーの一部。
 誰もがレイアに召喚されたとき、特別な力を授かっている。
 彼らの中では、本日はゲーム二日目。
 召喚者である女神レイアからは、魔王と魔物、そして人々に圧政を強いる悪逆な宗教指導者たちを撃破するという指名を受けていた。

「うわー」
「とても叶わん」
「逃げろ逃げろ」

 ドワーフたちが逃げていく。

「ははっ! ドワーフってマジで短足じゃねえか。足が遅えからすぐ追いつけるぜ! ほれほれ! 逃げろ逃げろ!」

「ひー」

 逃げるドワーフを、槍を振り回しながら追い回す者が一人。

「ぬっ、させヌ!」
「うっせーよ! 雑魚モンスのリザードマンが舐めた口叩くんじゃねえ!」
「ぐうっ!」

 槍が、ドワーフを守ろうと立ちふさがったリザードマンの腹を貫く。
 分厚い鎧も、鱗も役には立たない。
 全てを貫き通す最強の槍なのだ。

「うはは! マジスゲエー!! 俺の槍、何でもぶち抜いちまうぜ!! そぉら!!」

 彼はリザードマンを持ち上げて、貫いたまま振り回し、地面に叩き付けた。

「ぐハッ……!」
「さーて、じゃあ次はドワーフを……って、おっと、小さいリザードマンもいるじゃねえか! これってレアキャラ? 経験値入るのか?」
「みゅッ」

 戦場に迷い出てきたのだろうか。
 明らかに年若いリザードマンは、槍を持った男の鬼気に当てられて立ち竦んだ。

「よっしゃ! レアキャラゲットー!!」

 槍が幼いリザードマン目掛けて襲い掛かる。

「は、灰王さマッ……!」

 ぎゅっと、その幼いリザードマン、マルマルが目をつぶった時だ。
 凄まじい風が、周囲に吹き付けた。

「おい、ショウマ! 注意しろ、何か降って……」

 リョウガの声が聞こえたと思った。
 ショウマと呼ばれた槍の使い手は、一瞬頭上で、光が翳ったように思う。

「あ?」

 疑問を感じて見上げたそれが、彼の見た最後の光景だった。
 振り下ろされる虹色の刃。
 頭頂から入り、股間へと抜ける。
 行き掛けの駄賃とばかりに、最強の槍・・・・が縦に真っ二つ。

「やはり、デュランダルと同じ構造か。据え物斬りならこんなものだろうな」

「はっ、灰王様ッ! 灰王様ーッ!」

 小さいリザードマン、マルマルが、降り立った男にしがみついた。

「おう、マルマル! 危ないところだったな。戦場に出てきたらだめだぞ」

「うン。でモ、あいつら、遊牧民の人たちを人質に……」

「そうか、許せんな」

 男は振り返る。
 それを見て、勇者リョウガは全身に震えが起こるのを感じた。
 何故だ。
 あの男は、女神レイアが別の世界へ飛ばしてしまったはずだ。
 それが、今ここにいる。
 確かにへし折ったはずの、そして自分の足を切断した、あの虹色の剣を手にして。

「おい、勇者とやら」

 男はリョウガの様子に委細構わず、言葉を紡ぐ。

「俺の女はどこだ。あいつらを出せ」

 灰色の剣士にして、灰王。魔剣士ユーマの反撃が始まる。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ
ファンタジー
 大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。  彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。  そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。  目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。  転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。  しかし、そこには大きな罠が隠されていた。  ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。  それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。  どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。  それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。  果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。  可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 モンスター使役学を100年単位で進めたとされる偉大な怪物学者の孫アルバート・アダンは″天才″と呼ばれていた。将来を有望な魔術師として見込まれ、大貴族で幼馴染の可憐なる令嬢を許嫁としていた。  しかし、おおくの魔術師に期待されていたアルバートは【観察記録】という、「動物の生態を詳しく観察する」だけの極めて用途の少ない″外れスキル″を先代から受け継いでしまう。それにより周囲の評価は一変した。 「もうアダン家から実績は見込めない」 「二代続いて無能が生まれた」 「劣等な血に価値はない」  アルバートは幼馴染との婚約も無かったことにされ、さらに神秘研究における最高権威:魔術協会からも追放されてしまう。こうして魔術家アダンは、力をうしない没落と破滅の運命をたどることになった。  ──だがこの時、誰も気がついていなかった。アルバートの【観察記録】は故人の残した最強スキルだということを。【観察記録】の秘められた可能性に気がついたアルバートは、最強の怪物学者としてすさまじい早さで魔術世界を成り上がっていくことになる。

処理中です...