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東征の魔剣士編
熟練度カンストの準備人
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飯を食い終わったので、さっさと下に下りてきた。
ローザなど、黒い飲み物をお代わりしながらまだまだ居座るつもりらしい。
法律作成作業には、昼から取り掛かるのだそうだ。
「貴様も落ち着かん男だな。まあ、若いうちはその方がいいか」
なんて言っていた。
そうか、こいつ実年齢はアラフォーだった。
一見、華奢で清楚な長い黒髪の美少女なので、忘れそうになる。
「わーっ」
「ワー」
アイとマルマルの声がする。
どすん、ばたん、と大きな音も聞こえるから、チェア君で遊んでいるのだろう。
チェア君というのは、頭から背中にかけて、ちょうど座り心地がいい形に装甲を発達させた亜竜の名前である。
基本的に、サマラ専属の亜竜であり、彼女とアンブロシアが、よく移動に使用している。
アイとマルマルは、サマラお付きの侍女みたいなものだ。
二人ともまだ幼女なので、日が高いうちしか仕事をさせないようにしている。
「あっ、灰王さま! こんにちは!」
「灰王サマ、こんにちハ」
「はいこんにちは。チェア君で遊んでたの?」
「うん! チェア君、ひなたぼっこをすると、ここの乗るとこがポカポカになるんだよ!」
「あたたかイ。とっても、ゆっくりできル」
「そうかそうか。だけど、これからチェア君に荷物を積み込むからな。降りてくれ」
「降ろしてー!」
「しテー」
「ほう」
幼女たちがチェア君の上でバンザーイのポーズを取ったので、俺もまた手を広げた。
「よし、来るがいい」
「とりゃー!」
「りャー」
「ぐうわあーっ」
いかに小さい女の子二人とは言え、ある程度の高度からの突撃はなかなかの破壊力である。
「あっ、灰王さまつぶれた!」
「大変、サマラ様、呼んでこなくチャ」
「マルマル、あたしもいくー」
二人はぶっ倒れた俺の上からササッと立ち上がると、家の中へ突っ走っていった。
元気すぎる。
起き上がると、チェア君が顔を近づけてザラザラの舌で舐めてくる。
「うおっ、君の舌あっついなあ」
仮にも火の属性を宿す亜竜である。
チェア君、体温が高いようだ。竜で爬虫類っぽいが、恒温動物なのだな。
「では、色々積み込むので大人しくしておるように」
俺はチェア君に言い聞かせ、彼の上によじ登った。
さて、どう荷物を配置して行こう。
ゲイルはゆっくり飛ばせないと、チェア君を置いていってしまうことになる。
かといって、ゲイルはあまり荷物は運べない。
乗せる人員の割合をどうしようかとか、考える事は色々あるな。
適当に荷物を載せたり降ろしたりして、配置を研究していると。
「ユーマ様が倒れた!? ……って、元気じゃないですか。なーんだ」
駆け出してきたサマラが、あからさまにガッカリした。
後ろからは、軽装のアンブロシアである。
最近仲のいい二人が、作業用に二の腕むき出しの格好でやってきた。
後ろに、アイとマルマルが隠れてこっそりこちらを伺っている。
「怒ってない。全然怒ってないよ」
「ほんと?」
「ほんト?」
「灰王嘘つかない」
「よかったー」
「安心しター」
ということで作業再開である。
「やっぱり、地上班はチェア君に手馴れてるサマラとアンブロシアがいいと思うんだが」
「ええっ、アタシ、ユーマ様と一緒に乗りたいです! ユーマ様も一緒に地上行きましょうよ!」
「ゲイルがむずかるからなあ……」
「サマラ、あたしらはうちら嫁たちの中でも体が大きい二人なんだから、ここは小さい連中の方がゲイルも楽ってもんさ」
「むむう、そ、それはそうだけど」
「おい待て。今何つった」
アンブロシアの言葉に聞き捨てならぬ単語を聞き取った俺である。
「小さい連中の方がゲイルも楽?」
「もうちょっと前」
「あたしとサマラの体が大きいって事? なんだいユーマ、もしかして体だけじゃなく体の一部も大きいとか、そういうエッチなこと考えてるんじゃないだろうね? いや、あたしだってその覚悟はある、あ、あ、あるけどさ、心の準備とか……」
「あっこいつ一人で盛り上がりだした。アンブロシア、お前だけは信じてたのにっ」
「ユーマ様、アンってこう見えて結構むっつりですよ?」
そうか、サマラはアンブロシアをアンと呼んでるのか。
いやいや、そうじゃない。
「その前だよ。嫁とか言ってたろうが」
「えっ? 違うのかい? あんた、あたしらの事を責任持つって言ってたろ? それに散々、リュカも第何夫人とかさ」
「ユーマ様、覚悟を決めましょう」
「う、うむぅ……」
押し切られてしまった。
いや、まあ、分かっちゃいるんだけどな。
昼までかけて、旅に使う下着やら消耗材を梱包して、積み込みの配置を検討した。
その後、仕事に出かけていくローザを見送ると、入れ違いでリュカとアリエルが帰ってきた。
アリエルが溜め息をついているではないか。
「おかえり。どうしたどうした」
「聞いてユーマ。エルフの長老さんってデリカシーがないのよ」
「ほうほう」
「アリエルに、『いつ子供を作るんだ』ーって食べてる時に聞くんだよ?」
「もうですね、食べてる食事の味が分からなくなるくらいで。あー、私なんでエルフなのにエルフの中にいるとアウェー感を感じてるんでしょうかねえ……」
不憫な奴である。
あっ、子供を作るって話になると、相手は誰だ。
俺じゃないか。
思わず意識してしまい、まじまじとアリエルを見る。
すると彼女もこちらを見ていて、視線がかち合う。
「なっ、なっ、なんですかっ」
「な、な、なんでもないぞ」
「そっ、そうですかっ」
「そうなのだ」
いかん。
つかの間の平和とは言え、突如訪れた平穏な生活で、俺のペースは大変乱れているぞ。
俺はどうやら、乱世では生き生きと活動できるが、平時には凡人未満の残念な人になってしまうタイプらしい。
治世の凡人、乱世の英雄だっけ。もっと違う言葉だった気がする。
むむむ、こんな事ならばもっと学んでおくべきだった。
俺の脳内はボキャブラリーが圧倒的に足りない。
「ほらほら、ふたりとも! 用意しちゃおう!」
そんな俺の尻を、リュカがぺちんと叩いた。
痛くは無いが、ハッと目が醒める。
うむ、こんな事をしている場合では無いのだった。
別にぼーっとしていても、みんなが着々と旅立ちの準備を進めていってくれているのだが、俺がボーっとしていたら格好がつかないではないか。
「よーし、俺も頑張っちゃうぞ」
腕まくりをする仕草をしながら、半そで姿の俺は作業に取り掛かった。
向こうでは、アリエルもポケーッとしてたらしく、リュカに発破をかけられている。
そんな訳で、荷造りに旅の行程の確認、持って行く食料の確保と加工。
あっという間に一日が終わっていく。
日が暮れてきた頃に、ローザが戻ってきた。
「腹が減った。今日の食事は何か」
帰ってきてすぐにこんな事を言う。
外見は清楚な美少女なのに、中身はまるでおっさんだ。
「ご飯はねー、今サマラとアイちゃんとマルマルちゃんが作ってると思うよ。ローザさんはゆっくりしててね」
「ふむ。いや、私も準備を手伝おうじゃないか。机上で議論して書類を作成するばかりの毎日に少々嫌気がさしていたのだ」
ローザは長袖のシャツを腕まくりして、作業に加わった。
そしてすぐに、
「ローザ、荷物を投げるよ!」
「よし、来るがいい」
「そおれ!」
「ぬうっ! うわーっ」
アンブロシアが投げて寄越した荷物に押しつぶされた。
荷物が衣類でよかった。
「うわっ!? ローザ大丈夫かい!?」
「ローザさんしっかりしてー!」
「ありゃー、これ、目を回してますねえ……」
「何たる非力であろうか」
助け起こしても、ローザは頭がクラクラしているようで視点が定まらない。
さてはこれは危ないかと思ったら、アリエルが彼女の耳に囁いた。
「ユーマさんがキスしたら目が醒めますかね」
途端にローザの目の焦点が合う。
「は、ははは! 大丈夫だ! 私は大丈夫だぞ。全く問題ない。さあ、作業再開と行こう」
作業再開も何も、最初の一手で目を回したではないか。
「ローザさんは向こうで荷物より分けててねー」
「むう……。私にだって荷運びくらいは出来ると思うのだが」
リュカも、ローザを戦力外と判断したようだ。
彼女の背中を押して、先ほどまでアイとマルマルがやっていた、荷物の仕分け作業に押しやる。
和気藹々とした時間である。
日がとっぷりと暮れていく。
家の外には灯りがあり、炎を使うのではなく、光を発する昆虫を集める事で明るさを保っている。
そのために、灯りの部分は特殊な昆虫を集める樹液を分泌するようになっているのだそうだ。
「ふいーっ、こんなもんかねえ」
いつの間にか、ねじり鉢巻にシャツも捲り上げてへそだし、ズボンの裾もまくって、大変肉体労働者っぽくなっていたアンブロシア。
滴る汗を拭うと作業の終わりを告げた。
素晴らしい作業進捗であった。
海賊業の経験があり、船上へ荷物を効率的に積み込むノウハウを持ったアンブロシアは、優秀な現場監督である。
彼女の指揮により、荷物のほとんどは片付いていた。
後は出発の朝、梱包が終わった荷物をチェア君に積み込むばかりである。
重い荷物なども幾つかあるが、俺たちにはリュカがいるから大丈夫であろう。
今回の作業、アンブロシアが二割、サマラが一割、リュカが六割、俺が0,5割、アリエルが0,5割くらいの作業をした。
リュカが大量の荷物を担いであちこち駆け回る姿は壮観だったなあ……。
「みんな、ご飯だよー!」
サマラの声が響いた。
アイとマルマルが家から駆け出してきて、今日のメニューを告げている。
俺の隣に、ローザがやって来た。
「おおよそ作業は終わったようだな。こちらも、予想外に進捗が順調だ。明日には決着がつく」
「ということは」
「早ければ明後日には旅立てると言う事だ。まあ、最後に貴様は、精霊界を巡って挨拶をしたほうが良かろう」
「では、明日は挨拶回りだな。俺一人で行くの?」
「貴様一人ではまともに会話になるまい。それぞれの巫女が手を貸す事になるだろう。食後にでも、予定を詰めねばな。さあ、食事に行くぞ。腹が空いて叶わん!」
ローザが俺の背中をぺちんと叩いた。
元辺境伯も、随分野生的になったものである。
夕食の香り漂う家の中に、みんなが吸い込まれていく。
俺はちょっと感慨深くその光景を見つめた後、
「よし、食うぞ」
後に続いたのである。
ローザなど、黒い飲み物をお代わりしながらまだまだ居座るつもりらしい。
法律作成作業には、昼から取り掛かるのだそうだ。
「貴様も落ち着かん男だな。まあ、若いうちはその方がいいか」
なんて言っていた。
そうか、こいつ実年齢はアラフォーだった。
一見、華奢で清楚な長い黒髪の美少女なので、忘れそうになる。
「わーっ」
「ワー」
アイとマルマルの声がする。
どすん、ばたん、と大きな音も聞こえるから、チェア君で遊んでいるのだろう。
チェア君というのは、頭から背中にかけて、ちょうど座り心地がいい形に装甲を発達させた亜竜の名前である。
基本的に、サマラ専属の亜竜であり、彼女とアンブロシアが、よく移動に使用している。
アイとマルマルは、サマラお付きの侍女みたいなものだ。
二人ともまだ幼女なので、日が高いうちしか仕事をさせないようにしている。
「あっ、灰王さま! こんにちは!」
「灰王サマ、こんにちハ」
「はいこんにちは。チェア君で遊んでたの?」
「うん! チェア君、ひなたぼっこをすると、ここの乗るとこがポカポカになるんだよ!」
「あたたかイ。とっても、ゆっくりできル」
「そうかそうか。だけど、これからチェア君に荷物を積み込むからな。降りてくれ」
「降ろしてー!」
「しテー」
「ほう」
幼女たちがチェア君の上でバンザーイのポーズを取ったので、俺もまた手を広げた。
「よし、来るがいい」
「とりゃー!」
「りャー」
「ぐうわあーっ」
いかに小さい女の子二人とは言え、ある程度の高度からの突撃はなかなかの破壊力である。
「あっ、灰王さまつぶれた!」
「大変、サマラ様、呼んでこなくチャ」
「マルマル、あたしもいくー」
二人はぶっ倒れた俺の上からササッと立ち上がると、家の中へ突っ走っていった。
元気すぎる。
起き上がると、チェア君が顔を近づけてザラザラの舌で舐めてくる。
「うおっ、君の舌あっついなあ」
仮にも火の属性を宿す亜竜である。
チェア君、体温が高いようだ。竜で爬虫類っぽいが、恒温動物なのだな。
「では、色々積み込むので大人しくしておるように」
俺はチェア君に言い聞かせ、彼の上によじ登った。
さて、どう荷物を配置して行こう。
ゲイルはゆっくり飛ばせないと、チェア君を置いていってしまうことになる。
かといって、ゲイルはあまり荷物は運べない。
乗せる人員の割合をどうしようかとか、考える事は色々あるな。
適当に荷物を載せたり降ろしたりして、配置を研究していると。
「ユーマ様が倒れた!? ……って、元気じゃないですか。なーんだ」
駆け出してきたサマラが、あからさまにガッカリした。
後ろからは、軽装のアンブロシアである。
最近仲のいい二人が、作業用に二の腕むき出しの格好でやってきた。
後ろに、アイとマルマルが隠れてこっそりこちらを伺っている。
「怒ってない。全然怒ってないよ」
「ほんと?」
「ほんト?」
「灰王嘘つかない」
「よかったー」
「安心しター」
ということで作業再開である。
「やっぱり、地上班はチェア君に手馴れてるサマラとアンブロシアがいいと思うんだが」
「ええっ、アタシ、ユーマ様と一緒に乗りたいです! ユーマ様も一緒に地上行きましょうよ!」
「ゲイルがむずかるからなあ……」
「サマラ、あたしらはうちら嫁たちの中でも体が大きい二人なんだから、ここは小さい連中の方がゲイルも楽ってもんさ」
「むむう、そ、それはそうだけど」
「おい待て。今何つった」
アンブロシアの言葉に聞き捨てならぬ単語を聞き取った俺である。
「小さい連中の方がゲイルも楽?」
「もうちょっと前」
「あたしとサマラの体が大きいって事? なんだいユーマ、もしかして体だけじゃなく体の一部も大きいとか、そういうエッチなこと考えてるんじゃないだろうね? いや、あたしだってその覚悟はある、あ、あ、あるけどさ、心の準備とか……」
「あっこいつ一人で盛り上がりだした。アンブロシア、お前だけは信じてたのにっ」
「ユーマ様、アンってこう見えて結構むっつりですよ?」
そうか、サマラはアンブロシアをアンと呼んでるのか。
いやいや、そうじゃない。
「その前だよ。嫁とか言ってたろうが」
「えっ? 違うのかい? あんた、あたしらの事を責任持つって言ってたろ? それに散々、リュカも第何夫人とかさ」
「ユーマ様、覚悟を決めましょう」
「う、うむぅ……」
押し切られてしまった。
いや、まあ、分かっちゃいるんだけどな。
昼までかけて、旅に使う下着やら消耗材を梱包して、積み込みの配置を検討した。
その後、仕事に出かけていくローザを見送ると、入れ違いでリュカとアリエルが帰ってきた。
アリエルが溜め息をついているではないか。
「おかえり。どうしたどうした」
「聞いてユーマ。エルフの長老さんってデリカシーがないのよ」
「ほうほう」
「アリエルに、『いつ子供を作るんだ』ーって食べてる時に聞くんだよ?」
「もうですね、食べてる食事の味が分からなくなるくらいで。あー、私なんでエルフなのにエルフの中にいるとアウェー感を感じてるんでしょうかねえ……」
不憫な奴である。
あっ、子供を作るって話になると、相手は誰だ。
俺じゃないか。
思わず意識してしまい、まじまじとアリエルを見る。
すると彼女もこちらを見ていて、視線がかち合う。
「なっ、なっ、なんですかっ」
「な、な、なんでもないぞ」
「そっ、そうですかっ」
「そうなのだ」
いかん。
つかの間の平和とは言え、突如訪れた平穏な生活で、俺のペースは大変乱れているぞ。
俺はどうやら、乱世では生き生きと活動できるが、平時には凡人未満の残念な人になってしまうタイプらしい。
治世の凡人、乱世の英雄だっけ。もっと違う言葉だった気がする。
むむむ、こんな事ならばもっと学んでおくべきだった。
俺の脳内はボキャブラリーが圧倒的に足りない。
「ほらほら、ふたりとも! 用意しちゃおう!」
そんな俺の尻を、リュカがぺちんと叩いた。
痛くは無いが、ハッと目が醒める。
うむ、こんな事をしている場合では無いのだった。
別にぼーっとしていても、みんなが着々と旅立ちの準備を進めていってくれているのだが、俺がボーっとしていたら格好がつかないではないか。
「よーし、俺も頑張っちゃうぞ」
腕まくりをする仕草をしながら、半そで姿の俺は作業に取り掛かった。
向こうでは、アリエルもポケーッとしてたらしく、リュカに発破をかけられている。
そんな訳で、荷造りに旅の行程の確認、持って行く食料の確保と加工。
あっという間に一日が終わっていく。
日が暮れてきた頃に、ローザが戻ってきた。
「腹が減った。今日の食事は何か」
帰ってきてすぐにこんな事を言う。
外見は清楚な美少女なのに、中身はまるでおっさんだ。
「ご飯はねー、今サマラとアイちゃんとマルマルちゃんが作ってると思うよ。ローザさんはゆっくりしててね」
「ふむ。いや、私も準備を手伝おうじゃないか。机上で議論して書類を作成するばかりの毎日に少々嫌気がさしていたのだ」
ローザは長袖のシャツを腕まくりして、作業に加わった。
そしてすぐに、
「ローザ、荷物を投げるよ!」
「よし、来るがいい」
「そおれ!」
「ぬうっ! うわーっ」
アンブロシアが投げて寄越した荷物に押しつぶされた。
荷物が衣類でよかった。
「うわっ!? ローザ大丈夫かい!?」
「ローザさんしっかりしてー!」
「ありゃー、これ、目を回してますねえ……」
「何たる非力であろうか」
助け起こしても、ローザは頭がクラクラしているようで視点が定まらない。
さてはこれは危ないかと思ったら、アリエルが彼女の耳に囁いた。
「ユーマさんがキスしたら目が醒めますかね」
途端にローザの目の焦点が合う。
「は、ははは! 大丈夫だ! 私は大丈夫だぞ。全く問題ない。さあ、作業再開と行こう」
作業再開も何も、最初の一手で目を回したではないか。
「ローザさんは向こうで荷物より分けててねー」
「むう……。私にだって荷運びくらいは出来ると思うのだが」
リュカも、ローザを戦力外と判断したようだ。
彼女の背中を押して、先ほどまでアイとマルマルがやっていた、荷物の仕分け作業に押しやる。
和気藹々とした時間である。
日がとっぷりと暮れていく。
家の外には灯りがあり、炎を使うのではなく、光を発する昆虫を集める事で明るさを保っている。
そのために、灯りの部分は特殊な昆虫を集める樹液を分泌するようになっているのだそうだ。
「ふいーっ、こんなもんかねえ」
いつの間にか、ねじり鉢巻にシャツも捲り上げてへそだし、ズボンの裾もまくって、大変肉体労働者っぽくなっていたアンブロシア。
滴る汗を拭うと作業の終わりを告げた。
素晴らしい作業進捗であった。
海賊業の経験があり、船上へ荷物を効率的に積み込むノウハウを持ったアンブロシアは、優秀な現場監督である。
彼女の指揮により、荷物のほとんどは片付いていた。
後は出発の朝、梱包が終わった荷物をチェア君に積み込むばかりである。
重い荷物なども幾つかあるが、俺たちにはリュカがいるから大丈夫であろう。
今回の作業、アンブロシアが二割、サマラが一割、リュカが六割、俺が0,5割、アリエルが0,5割くらいの作業をした。
リュカが大量の荷物を担いであちこち駆け回る姿は壮観だったなあ……。
「みんな、ご飯だよー!」
サマラの声が響いた。
アイとマルマルが家から駆け出してきて、今日のメニューを告げている。
俺の隣に、ローザがやって来た。
「おおよそ作業は終わったようだな。こちらも、予想外に進捗が順調だ。明日には決着がつく」
「ということは」
「早ければ明後日には旅立てると言う事だ。まあ、最後に貴様は、精霊界を巡って挨拶をしたほうが良かろう」
「では、明日は挨拶回りだな。俺一人で行くの?」
「貴様一人ではまともに会話になるまい。それぞれの巫女が手を貸す事になるだろう。食後にでも、予定を詰めねばな。さあ、食事に行くぞ。腹が空いて叶わん!」
ローザが俺の背中をぺちんと叩いた。
元辺境伯も、随分野生的になったものである。
夕食の香り漂う家の中に、みんなが吸い込まれていく。
俺はちょっと感慨深くその光景を見つめた後、
「よし、食うぞ」
後に続いたのである。
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