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王国の反逆者編
熟練度カンストの解放者4
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押し寄せるのはエルフェンバインの騎士たちでは無い。
どこかで見覚えのある、黒服と甲冑の連中。
ラグナ教の執行者と聖堂騎士である。
聖堂騎士、また増えたなあ。あいつらクローン培養でもされているんじゃなかろうか。
「王様、気をつけろ! あの鎧物凄く強いぞ!!」
「おう、知ってるぞ。だから俺が出てきた」
真横にいたゴブリンの言葉に、力強く答える。
すると、回りの軍勢の士気が何やら上がったようである。
「我らの王がこう言っているのだ!」
「押セ! 押セー!」
「王に続くぞ!」
えっ、俺が突っ切る流れ?
いや、そのつもりなんだけど。
それじゃあやりますか。
俺は片手剣にしたバルゴーンを腰だめに構える。
そして走り出した。
疾走の踏み込みに合わせた、連続抜刀。
「灰色の剣ッ」
叫びかけた聖堂騎士を、振り上げたハルバートごと叩き切る。
「ここから先はッ」
立ち塞がろうとした聖堂騎士を、真っ向から断ち割る。正面に道が出来る。
寄り付こうとする兵士たちは、リュカが巻き起こした風が薙ぎ払った。
俺たちの後ろに道が出来ていく。
「突っ切るぞ、ついて来い……!!」
俺の言葉を、リュカが余すこと無く軍勢に伝える。
おおおおおおっ、と俺に従う連中が声を上げ、士気を上げる。
ぐっと、うちの軍勢の圧力が増した。
エルフェンバイン軍が王都へと押し込まれていく。
「な、な、何だというのだこの勢いは!!」
「必勝の策なのでは無かったのか!! どうして包囲陣が通用せんのだ!」
「いけません、奴ら、動きが速すぎます! 一切の躊躇なくこちらだけを切り崩しに来ています!」
「ザクサーンの援軍はまだなのか……!」
「まだ、昼にもなっておりません……! これ程の早さで戦場が移ろうなど、誰が予想を……!」
声が聞こえてくる。
連中の見積もりが甘かったと言う事であろう。
相手が人間の軍勢であれば、あるいは右翼、左翼で押し包む陣形は成功したかもしれない。
だが、こちらは怪物の軍勢である。
今、突っ込んでいった亜竜の体を駆け上がり、複数の獣人が敵陣の後方へと飛び込んでいく。
構えていた弓兵たちが強襲されて悲鳴をあげる。
身軽な獣人たちにとって、人の肩や頭すらも足場に変わる。
エルフェンバインの兵士を踏み台にしながら、後方の支援部隊を叩くのだ。
「王よ、先に!」
「おう、行かせてもらう」
切り開かれた道を、俺が疾走する。
眼前では、閉まり始めた城門がある。
俺たちが入ってくる前に、王都への扉を閉ざしてしまおうという考えなのだろう。
至極最もな戦法である。
だが問題はない。
俺は走りながら、バルゴーンを重剣へと変化させた。
肩に担ぎつつ前傾姿勢になり、閉まりかけの城門目掛けて体ごと剣を叩きつける。
「っらぁっ!!」
声が出る。
それだけ、全身を使った一撃だ。
叩き込んだ一撃に、門がひしゃげ、半ばまで砕ける。
一人破城槌戦法である。
「ば、馬鹿なー!! たった一人で鉄の門を!?」
「なんだ、なんなのだこいつらは! 古代から培われた戦術のセオリーが通用しない……!」
「ユーマ、隙間を広げるね!」
「おう、頼む」
着地した俺の横にリュカが進み出て、
「ガルーダさん、お願い!!」
門に密着しながら、風の大精霊を呼び出した。
圧縮され、王城方向への強烈な指向性を持たされた風が渦巻く。
門を繋ぎ止める蝶番が悲鳴をあげ、すぐに壊れて飛び散った。
結果、王都を守るはずの鉄の扉が、街の中へと飛び込んでいく事になる。
凄まじい轟音と砂煙。
これと共に、俺たちは王都への侵入を果たした。
さて……このタイミングで、連中も行動を起こすはずである。
俺が視線を巡らせると、街中へ水を引き込む運河がある。
そこからゴボゴボと巨大な泡が幾つも浮き上がった。
水路から侵入していた、マーマンとマーメイドである。
彼らに守られるように、水中からは小舟が何艘も浮上してくる。
「おおー! お早いお着きですなユーマ殿! これは戦略史上に残る迅速な戦いですぞ!」
「学者殿、今はそんなメモをしている暇では……」
「おおいユーマ殿! 我らヴァイデンフェラー辺境騎士団、準備万端にござるぞーっ!!」
エドヴィン、オーベルト、ダミアン。
そして辺境伯領の生き残りの騎士、従者、兵士たち。
「よし、じゃあ一気に片付けるとするか」
俺は唇に笑みが浮かんでくるのを感じつつ、歩みを進める。
慌てて駆け寄ってくる街中の兵士達は、マーマンやマーメイドが水の魔法で吹き飛ばしている。
「これで全員?」
「いえ、別働隊が王城のお堀に向かっています。こちらが事を起こしたら、すぐに動き出すと……ほら」
マーメイドの長プリムの言葉の途中で、王城方面でとんでもなく大きな水しぶきが上がった。
あれは……。
おいおい。
王城の堀からクラーケンが飛び出してきたじゃないか。
「あんなん、どうやって中に入れたんだ……」
「昨夜からずっと水中を探っていたのですけれど、この国の地下には、地下水が豊富に流れているようで……」
地下水脈と堀を繋げたか。
うちの軍勢、本当になんでもありである。
「それで、地下からはちょっと変わった部分がありまして。王城の地下がかなり深いところまで続いていて、強い土の精霊力を感じる部分を見つけました」
「おっ、多分そこにいるぞ。でかした」
俺はプリムの肩をぽんぽんした。
ネトネトする。
イカのマーメイドだもんな。
「ユーマ! マーメイドさんは裸なんだからペタペタ触ったらだめ!」
「痛い! リュカさんお尻を叩くのはいかがなものか!」
「既にユーマ殿はリュカ殿の尻に敷かれていますなあ」
わっはっは、と騎士たちが盛り上がった。
そんな事をしながらの、王城へ向けてのランニングである。
王都の住民は皆家に閉じこもっている。
窓の隙間から、こちらを見る視線がある。
いやあ、ご迷惑をお掛けしているね。だがこれからもっと迷惑が掛かるぞ。
「もがーっ」
クラーケンが咆哮と共に、王城の壁を突き崩す。
基本、ここまで入り込まれることを考えていないのか、エルフェンバインの城は優美な作りをしている。
城壁の中に更に城壁を作る事はしない。
ということで、装飾が見事な門がどーんと構えられており、何本もの尖塔が幾何学的なデザインを描いて聳え立っている。
その横にどーんと立つクラーケンのイカ頭。
うーむ。
「ぶ、武器を持てー!」
「駄目です! 外にあらかた持ち出してしまって……!」
「ひいーっ、ま、まさか城まであんな怪物がやって来るなんてー!」
城はパニック状態。
俺に先行した辺境騎士団が、戦意を失い戸惑うエルフェンバインの兵士を排除していく。
殺す必要は無い。
手足の一本でも折れば、それで戦闘不能なのだ。
おっ、あれは俺が教えた戦い方では無いか。
ちゃんと生きているものだなあ。
「ユーマ、逃げてる! 偉そうな人!」
「おう、確保する。リュカ!」
「……シルフさん……!」
リュカが、吐き出す息から風の精霊を召喚する。
俺目掛けて集中して吹き付ける風を受け、跳躍。
背中にバルゴーンを背負い、その形を大剣に。
「ひ、ひぃぃーっ!」
逃げ惑っていた、でっぷり太った男を真上から押しつぶした。
「確保だ。おい、あんたは偉い人だろ?」
「ひいい、や、やめろー! わしを誰だと思っているのだあ」
「単刀直入に言う。地下に土の巫女がいるか?」
「な、なんの……ぎゃあ!」
しらばっくれようとした気がしたので、ナイフにしたバルゴーンで奴の手のひらを串刺しにする。
「地下に土の巫女がいるか? いるならば、どうやって地下へ行く?」
「い、い、いる! いるから! だから抜いて! 手が、わしの手があああ」
「よしよし。じゃあ道を教えてくれ」
「そ、それは……」
「……!」
俺はそこで飛び退いた。
ナイフにしていたバルゴーンを、咄嗟に片手剣にしながら振るう。
太った男と俺を巻き込むように、その場所へと極太のビームが叩きつけられる。
「あじゃぱーっ」
あっ、太った男が灰になった。
俺はバルゴーンでビームを反射している。
だが、これは何者かが受け止めたようだ。
「灰色の剣士、直々に攻めて入ってくるとはな……。恐れ入った。これは確かに、私の落ち度であった」
ビームは、何階もある城の階層を突き抜けて叩きつけられたようだ。
城を貫くように空いた穴は、石であるというのに熱気で赤く溶けており、そこから声が聞こえてくる。
誰なのか。
おおよそ見当はつく。
「二度目か。俺は地下へ行くのだ。邪魔をするな」
「二度目だが……煮え湯を飲まされたのは二度ばかりではない。貴様の好きにはさせんぞ、灰色の剣士……!」
途端に、天井が抜けた。
崩落する……というのではない。
天井を構成する石が、一瞬でバラバラに分解された。
光が生まれる。
輝きに包まれながら、男が降りてくる。
肩口で金色の髪を切り揃えた、豪奢な黒いローブの男。
立体映像で、俺と見えたことがある男だ。
これが、アブラヒムの言っていた、ラグナ教の長フランチェスコであろう。
「ラグナ教の執行者か! ええい、食らえ!」
何人かの辺境騎士団が向かっていく。
おいバカ、それはフラグだ。
分体が姿を表していない事から、油断したのかも知れん。
だが、俺はあのラグナ教のノッポと戦ったから知っている。分体を使いこなす奴らの中で、上位の連中は体に分体を憑依させたりして戦うぞ。
「背教者めが……!」
フランチェスコは目線もくれずに、騎士たちに向かって掌を向けた。
一瞬である。
輝いたと思ったら、先程天井を貫いてきたビームが放たれていた。
「うおわあああ!?」
「な、生身で分体の光線を……!!」
だろお?
絶対そうなると思ったんだ。
俺は既に、そこに駆け込んでいる。
バルゴーンを一閃しつつ、ビームを切り払う。
そのまま壁面を駆け上がりながら、滞空するフランチェスコ目掛けての跳躍抜刀。
「なっ……!? なんとぉっ!!」
フランチェスコが両手を合わせて、光を生み出した。
分厚く束ねられたビームが生まれる。
これが、俺のバルゴーンとぶつかり……うおっ、ふっ飛ばされた!
背後へと吹き飛ぶ俺を、
「シルフさん! ユーマを受け止めて!」
リュカがカバーする。
対するフランチェスコも、俺の剣撃を殺しきれずに大地に叩き落された。
膝を突いて着地している。
ノーダメージだ。
おお、こいつ。
多分、あのノッポよりもずっと強いな。
「このままお前を生かしておいては、時の流れが逆行してしまう……! 人の時代が幻想の時代へと変わるなど、あってはならないのだ……!!」
「ほう、正義の味方みたいな事を言いやがる」
俺も着地した。
「では、さながら俺は魔王ってところだな」
向かい合う俺とフランチェスコ。
俺と奴の間には、誰も入り込む事が出来ないでいる。
さて……こいつを片付けるのは、かなり骨が折れそうだぞ……。
どこかで見覚えのある、黒服と甲冑の連中。
ラグナ教の執行者と聖堂騎士である。
聖堂騎士、また増えたなあ。あいつらクローン培養でもされているんじゃなかろうか。
「王様、気をつけろ! あの鎧物凄く強いぞ!!」
「おう、知ってるぞ。だから俺が出てきた」
真横にいたゴブリンの言葉に、力強く答える。
すると、回りの軍勢の士気が何やら上がったようである。
「我らの王がこう言っているのだ!」
「押セ! 押セー!」
「王に続くぞ!」
えっ、俺が突っ切る流れ?
いや、そのつもりなんだけど。
それじゃあやりますか。
俺は片手剣にしたバルゴーンを腰だめに構える。
そして走り出した。
疾走の踏み込みに合わせた、連続抜刀。
「灰色の剣ッ」
叫びかけた聖堂騎士を、振り上げたハルバートごと叩き切る。
「ここから先はッ」
立ち塞がろうとした聖堂騎士を、真っ向から断ち割る。正面に道が出来る。
寄り付こうとする兵士たちは、リュカが巻き起こした風が薙ぎ払った。
俺たちの後ろに道が出来ていく。
「突っ切るぞ、ついて来い……!!」
俺の言葉を、リュカが余すこと無く軍勢に伝える。
おおおおおおっ、と俺に従う連中が声を上げ、士気を上げる。
ぐっと、うちの軍勢の圧力が増した。
エルフェンバイン軍が王都へと押し込まれていく。
「な、な、何だというのだこの勢いは!!」
「必勝の策なのでは無かったのか!! どうして包囲陣が通用せんのだ!」
「いけません、奴ら、動きが速すぎます! 一切の躊躇なくこちらだけを切り崩しに来ています!」
「ザクサーンの援軍はまだなのか……!」
「まだ、昼にもなっておりません……! これ程の早さで戦場が移ろうなど、誰が予想を……!」
声が聞こえてくる。
連中の見積もりが甘かったと言う事であろう。
相手が人間の軍勢であれば、あるいは右翼、左翼で押し包む陣形は成功したかもしれない。
だが、こちらは怪物の軍勢である。
今、突っ込んでいった亜竜の体を駆け上がり、複数の獣人が敵陣の後方へと飛び込んでいく。
構えていた弓兵たちが強襲されて悲鳴をあげる。
身軽な獣人たちにとって、人の肩や頭すらも足場に変わる。
エルフェンバインの兵士を踏み台にしながら、後方の支援部隊を叩くのだ。
「王よ、先に!」
「おう、行かせてもらう」
切り開かれた道を、俺が疾走する。
眼前では、閉まり始めた城門がある。
俺たちが入ってくる前に、王都への扉を閉ざしてしまおうという考えなのだろう。
至極最もな戦法である。
だが問題はない。
俺は走りながら、バルゴーンを重剣へと変化させた。
肩に担ぎつつ前傾姿勢になり、閉まりかけの城門目掛けて体ごと剣を叩きつける。
「っらぁっ!!」
声が出る。
それだけ、全身を使った一撃だ。
叩き込んだ一撃に、門がひしゃげ、半ばまで砕ける。
一人破城槌戦法である。
「ば、馬鹿なー!! たった一人で鉄の門を!?」
「なんだ、なんなのだこいつらは! 古代から培われた戦術のセオリーが通用しない……!」
「ユーマ、隙間を広げるね!」
「おう、頼む」
着地した俺の横にリュカが進み出て、
「ガルーダさん、お願い!!」
門に密着しながら、風の大精霊を呼び出した。
圧縮され、王城方向への強烈な指向性を持たされた風が渦巻く。
門を繋ぎ止める蝶番が悲鳴をあげ、すぐに壊れて飛び散った。
結果、王都を守るはずの鉄の扉が、街の中へと飛び込んでいく事になる。
凄まじい轟音と砂煙。
これと共に、俺たちは王都への侵入を果たした。
さて……このタイミングで、連中も行動を起こすはずである。
俺が視線を巡らせると、街中へ水を引き込む運河がある。
そこからゴボゴボと巨大な泡が幾つも浮き上がった。
水路から侵入していた、マーマンとマーメイドである。
彼らに守られるように、水中からは小舟が何艘も浮上してくる。
「おおー! お早いお着きですなユーマ殿! これは戦略史上に残る迅速な戦いですぞ!」
「学者殿、今はそんなメモをしている暇では……」
「おおいユーマ殿! 我らヴァイデンフェラー辺境騎士団、準備万端にござるぞーっ!!」
エドヴィン、オーベルト、ダミアン。
そして辺境伯領の生き残りの騎士、従者、兵士たち。
「よし、じゃあ一気に片付けるとするか」
俺は唇に笑みが浮かんでくるのを感じつつ、歩みを進める。
慌てて駆け寄ってくる街中の兵士達は、マーマンやマーメイドが水の魔法で吹き飛ばしている。
「これで全員?」
「いえ、別働隊が王城のお堀に向かっています。こちらが事を起こしたら、すぐに動き出すと……ほら」
マーメイドの長プリムの言葉の途中で、王城方面でとんでもなく大きな水しぶきが上がった。
あれは……。
おいおい。
王城の堀からクラーケンが飛び出してきたじゃないか。
「あんなん、どうやって中に入れたんだ……」
「昨夜からずっと水中を探っていたのですけれど、この国の地下には、地下水が豊富に流れているようで……」
地下水脈と堀を繋げたか。
うちの軍勢、本当になんでもありである。
「それで、地下からはちょっと変わった部分がありまして。王城の地下がかなり深いところまで続いていて、強い土の精霊力を感じる部分を見つけました」
「おっ、多分そこにいるぞ。でかした」
俺はプリムの肩をぽんぽんした。
ネトネトする。
イカのマーメイドだもんな。
「ユーマ! マーメイドさんは裸なんだからペタペタ触ったらだめ!」
「痛い! リュカさんお尻を叩くのはいかがなものか!」
「既にユーマ殿はリュカ殿の尻に敷かれていますなあ」
わっはっは、と騎士たちが盛り上がった。
そんな事をしながらの、王城へ向けてのランニングである。
王都の住民は皆家に閉じこもっている。
窓の隙間から、こちらを見る視線がある。
いやあ、ご迷惑をお掛けしているね。だがこれからもっと迷惑が掛かるぞ。
「もがーっ」
クラーケンが咆哮と共に、王城の壁を突き崩す。
基本、ここまで入り込まれることを考えていないのか、エルフェンバインの城は優美な作りをしている。
城壁の中に更に城壁を作る事はしない。
ということで、装飾が見事な門がどーんと構えられており、何本もの尖塔が幾何学的なデザインを描いて聳え立っている。
その横にどーんと立つクラーケンのイカ頭。
うーむ。
「ぶ、武器を持てー!」
「駄目です! 外にあらかた持ち出してしまって……!」
「ひいーっ、ま、まさか城まであんな怪物がやって来るなんてー!」
城はパニック状態。
俺に先行した辺境騎士団が、戦意を失い戸惑うエルフェンバインの兵士を排除していく。
殺す必要は無い。
手足の一本でも折れば、それで戦闘不能なのだ。
おっ、あれは俺が教えた戦い方では無いか。
ちゃんと生きているものだなあ。
「ユーマ、逃げてる! 偉そうな人!」
「おう、確保する。リュカ!」
「……シルフさん……!」
リュカが、吐き出す息から風の精霊を召喚する。
俺目掛けて集中して吹き付ける風を受け、跳躍。
背中にバルゴーンを背負い、その形を大剣に。
「ひ、ひぃぃーっ!」
逃げ惑っていた、でっぷり太った男を真上から押しつぶした。
「確保だ。おい、あんたは偉い人だろ?」
「ひいい、や、やめろー! わしを誰だと思っているのだあ」
「単刀直入に言う。地下に土の巫女がいるか?」
「な、なんの……ぎゃあ!」
しらばっくれようとした気がしたので、ナイフにしたバルゴーンで奴の手のひらを串刺しにする。
「地下に土の巫女がいるか? いるならば、どうやって地下へ行く?」
「い、い、いる! いるから! だから抜いて! 手が、わしの手があああ」
「よしよし。じゃあ道を教えてくれ」
「そ、それは……」
「……!」
俺はそこで飛び退いた。
ナイフにしていたバルゴーンを、咄嗟に片手剣にしながら振るう。
太った男と俺を巻き込むように、その場所へと極太のビームが叩きつけられる。
「あじゃぱーっ」
あっ、太った男が灰になった。
俺はバルゴーンでビームを反射している。
だが、これは何者かが受け止めたようだ。
「灰色の剣士、直々に攻めて入ってくるとはな……。恐れ入った。これは確かに、私の落ち度であった」
ビームは、何階もある城の階層を突き抜けて叩きつけられたようだ。
城を貫くように空いた穴は、石であるというのに熱気で赤く溶けており、そこから声が聞こえてくる。
誰なのか。
おおよそ見当はつく。
「二度目か。俺は地下へ行くのだ。邪魔をするな」
「二度目だが……煮え湯を飲まされたのは二度ばかりではない。貴様の好きにはさせんぞ、灰色の剣士……!」
途端に、天井が抜けた。
崩落する……というのではない。
天井を構成する石が、一瞬でバラバラに分解された。
光が生まれる。
輝きに包まれながら、男が降りてくる。
肩口で金色の髪を切り揃えた、豪奢な黒いローブの男。
立体映像で、俺と見えたことがある男だ。
これが、アブラヒムの言っていた、ラグナ教の長フランチェスコであろう。
「ラグナ教の執行者か! ええい、食らえ!」
何人かの辺境騎士団が向かっていく。
おいバカ、それはフラグだ。
分体が姿を表していない事から、油断したのかも知れん。
だが、俺はあのラグナ教のノッポと戦ったから知っている。分体を使いこなす奴らの中で、上位の連中は体に分体を憑依させたりして戦うぞ。
「背教者めが……!」
フランチェスコは目線もくれずに、騎士たちに向かって掌を向けた。
一瞬である。
輝いたと思ったら、先程天井を貫いてきたビームが放たれていた。
「うおわあああ!?」
「な、生身で分体の光線を……!!」
だろお?
絶対そうなると思ったんだ。
俺は既に、そこに駆け込んでいる。
バルゴーンを一閃しつつ、ビームを切り払う。
そのまま壁面を駆け上がりながら、滞空するフランチェスコ目掛けての跳躍抜刀。
「なっ……!? なんとぉっ!!」
フランチェスコが両手を合わせて、光を生み出した。
分厚く束ねられたビームが生まれる。
これが、俺のバルゴーンとぶつかり……うおっ、ふっ飛ばされた!
背後へと吹き飛ぶ俺を、
「シルフさん! ユーマを受け止めて!」
リュカがカバーする。
対するフランチェスコも、俺の剣撃を殺しきれずに大地に叩き落された。
膝を突いて着地している。
ノーダメージだ。
おお、こいつ。
多分、あのノッポよりもずっと強いな。
「このままお前を生かしておいては、時の流れが逆行してしまう……! 人の時代が幻想の時代へと変わるなど、あってはならないのだ……!!」
「ほう、正義の味方みたいな事を言いやがる」
俺も着地した。
「では、さながら俺は魔王ってところだな」
向かい合う俺とフランチェスコ。
俺と奴の間には、誰も入り込む事が出来ないでいる。
さて……こいつを片付けるのは、かなり骨が折れそうだぞ……。
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